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労働保険の概要と経営者が理解すべき4つのポイント

起業家の基礎知識

 

従業員を雇うときには労働保険(労災保険・雇用保険)に必ず加入しなければならないものです。一体どのような内容なのか経営者が知っておくべき内容について説明していきます。

 

1.労働保険とはどのような制度?

労働保険とは労災保険と雇用保険の総称で、業務上の死傷病に対する給付などを行うことで被災労働者やその遺族を保護し、労働者の雇用の安定を図ることを目的とした社会保険制度です。

労働保険は国が厚生労働省管轄のもとで管理運営を行い、実務上の窓口はそれぞれ、労災保険が労働基準監督署、雇用保険が公共職業安定所(ハローワーク)となっていて保険給付等の事業は別々に行われています。

労働保険では、労災保険と雇用保険をあわせて一つの事業に関する社会保険として保険料の申告や納付を行うことが原則となっていて、これを「一元適用事業」といいます。(例外としての労災保険と雇用保険を区分して適用する「二元適用事業」もあるがここでは省略)

 

2.事業主が行わなければならない加入手続き

労働保険では、基本的に業種や規模に関わらず一人でも労働者(パートタイマー、アルバイト含む)を雇っていれば適用事業となります。一部の個人経営の農林水産業で労働者が5人未満などの事業以外は基本的にはほとんどの場合が強制適用事業です。この強制適用事業に該当する新たな事業を開始した場合、事業主は以下のような加入手続きを行なければなりません。

  1. 「労働保険 保険関係成立届」を保険関係が成立した日から10日以内に所轄の労働基準監督署へ提出
  2. 「雇用保険適用事業所設置届」を設置の日から10日以内に所轄の公共職業安定所へ提出
  3. 「労働保険概算保険料申告書」を保険関係が成立した日から50日以内に所轄の労働基準監督署または所轄の都道府県労働局、日本銀行(歳入代理店の全国の銀行や信用金庫の本支店も可)へ提出するとともに概算保険料を納付。
  4. 「雇用保険被保険者資格取得届」を、労働者が雇用保険の資格を取得した事実があった日の翌月10日までに提出。

 

3.労働保険料の申告・納付

事業主は手続を添って、労働保険料を申告・納付しなければなりません。労働保険では、毎年4月1日から翌年3月31日までを一事業年度として申告・納付します。保険料は、その年度における概算保険料を申告・納付し、翌年度に確定申告によってその差額を精算します。つまり、継続して行っている事業では前年度の精算に関わる確定申告と当年度の概算申告を同時に行い、前年度の精算差額と当年度の概算保険料の合計額を納付することとなります。これを「労働保険の年度更新」といい、所轄の労働基準監督署または労働局、日本銀行(歳入代理店の全国の銀行や信用金庫の本支店も可)で手続きを行うことが可能です。

納付手続きは、前年度から引き続き労働保険の保険関係が成立している事業は6月1日から7月10日までの間に継続事業用の「労働保険概算・増加概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書」と「納付書」を作成し納付まで完了させなければなりません。

労働保険料の納付は、概算保険料額が40万円以上の場合または労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合は「労働保険料の延納(3回に分けて保険料を分割納付)」をすることが可能です。

 

4.労働保険料の計算方法(概要)

労働保険料は労働者に支払う賃金総額に保険料率を乗じて計算しますが、保険料率は労災保険と雇用保険でそれぞれ定められています。

① 労災保険の保険料

労災保険では1000分の2.5から1000分の88の割合で業種ごとに保険料率が定められています。保険料率の詳細は厚生労働省ホームページで確認できます。

賃金総額に各業種で定められた保険料率を乗じて労災保険料の計算を行い、労災保険料は全額事業主が負担することとなっています。

② 雇用保険の保険料

雇用保険は労災保険と異なり、保険料を事業主と労働者でそれぞれ負担して納付します。それぞれの負担する雇用保険料は、賃金総額に以下の表の事業種類ごとの保険料率を乗じて計算します。尚、事業主の負担する雇用保険料率が労働者の負担する保険料率に比べて高くなっていますが、これは事業主を支援するための「雇用保険二事業」分の保険料率が加算されていることが原因です。あくまでも事業主を支援するための雇用保険事業なので、保険料は全額事業主が負担することとなっているので、事業主の雇用保険料率が労働者の保険料率よりも高くなっています。

また、雇用保険料では高年齢者保険料免除の制度があり、その保険年度の4月1日時点で満64歳以上の労働者は雇用保険に相当する保険料が免除されます。ただし、任意加入による高年齢継続被保険者や短期雇用特例被保険者、日雇労働被保険者はその免除対象から除かれます。

 

5.労働保険のポイント

ここまで労働保険の申告や納付について確認してみましたが、それ以外にも労働保険では、理解していなければ損をする、または、知っていて得をするというポイントが複数存在します。ここでは以下の4点について紹介していきます。

① 労災保険のメリット制について

労災保険では、業務災害で支払われた保険給付に応じて保険料が変わるメリット制が一部の事業で適用されます。これは、同業種の事業であっても作業工程や機械設備の良し悪し、事業主の労働災害防止への取り組みによって災害の発生率が変わることが理由です。労災事故防止に努める事業主がそのような取り組みを行わない事業主と同等の労災保険料を納付することは不公平だという観点から導入されました。

メリット制が適用される事業では労災事故を減らす取り組みが直接労災保険料の減額にもつながります。

② 労災保険の費用徴収制度

労災保険には費用徴収制度があり、事業主が故意や重大な過失により労災保険の手続きを怠っていた場合には労災保険給付に関する費用が事業主へ請求される可能性があります。

また、労働保険の加入手続きを行った後でも、事業主が労働保険料を滞納している期間中に業務災害や通勤災害が発生した場合や、事業主の故意や重過失により業務災害が発生した場合は保険給付額の一部が事業主に請求されることがありますので注意が必要です。

雇用保険では、手続きもれ等があって雇用保険の資格取得手続きを行っていない場合には過去に遡って被保険者となったことを確認することとなります。しかし、雇用関係が成立した後、資格取得手続きが遅れた場合には被保険者であったはずの期間が確認できないこともあり、失業等給付の支給内容に影響が出ることも考えられますので注意が必要です。事業主の方は、雇用している労働者のためにも労働保険の加入手続きは必ず適正に行うよう心がけてください。

③ 労働保険事務の委託について

労働保険は加入手続きや保険料の申告納付等、事業主の手間がかかることが多くなっています。そのような労働保険に関する事務手続きを労働保険事務組合へ委託することが可能です。

労働保険事務組合とは、厚生労働大臣の認可を受けた主に社会保険労務士等が運営している中小事業主等の団体で、事業主に代わって労働保険に関する事務や保険料の計算などを行います。常時使用する労働者が、金融業、保険業、不動産業、小売業では50人以下、卸売業、サービス業では100人以下、その他の事業では300人以下の事業主が労働保険事務組合に委託することができます。

もちろん事務委託になりますので、委託する労働保険事務組合へ費用を支払わなければなりませんが、労働保険に関する事務を大幅に省力化することができ、労働保険料を保険料の金額に関わらず延納と同様に3回に分割して納付できる等のメリットがあります。

④ 労働保険料の口座振替納付

労働保険は金融機関の口座振替でも納付することができます。前もって口座振替の手続きを行わなければなりませんが、口座振替を利用することで労働保険料の納付期限を遅らせることが可能です。例えば、平成28年度は7月11日が納付期限となっていますが、口座振替では9月6日に口座から引き落とされます。労働保険料の延納が認められる場合も同様で、第2期では10月31日納期限のものが11月14日引き落としとなり、第3期が1月31日から2月14日となります。

ただし、年度更新手続の期間中に(平成28年度は6月1日から7月11日)年度更新に関する申告書を提出しなければ口座振替が行われませんので注意が必要です。また、口座振替の申し込み手続き完了後は日本銀行をはじめとする収納代行金融機関では年度更新に関する申告書の提出ができなくなるので、所轄の労働基準監督署または労働局で手続きをすることとなります。

 

6.労働保険まとめ

労働保険について確認してみましたが、いかがでしょうか?今回は労災保険と雇用保険を一括りにした労働保険をテーマに取り上げたので、どちらかというと事業主の方に向けた解説という流れになりました。しかし、労働者の方にも密接に関わってくる社会保険制度なので、興味を持って理解に努めていただけたら幸いです。