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仕掛品ってどんなもの?意外と知らない原価計算の方法を徹底解説

仕掛品の原価計算のイメージ画像 起業家の基礎知識

仕掛品は製造・販売のプロセスにおいてどのような状態にあるものをさすのでしょうか。また、似たような言葉に「半製品」というものがありますが、仕掛品との違いはどこにあるのでしょう。また、仕掛品の価値を評価する方法にはどのような方法があるのでしょうか。それぞれについて詳しく説明します。

 

1.仕掛品とは

仕掛品とは英語でwork in processやin-process inventoryと言われているもので、文字通り、製造途中の工程にある製品のことで、工業簿記や企業会計で用いられている言葉です。つまり、原材料を少しでも加工している状態の製品のことをさします。

また、仕掛品とは棚卸資産の一つでもあります。棚卸資産とは、企業が将来販売や管理等を行うために保有している資産のことで、貸借対照表上では流動資産に含まれ、一般的には「在庫」と呼ばれているものです。

棚卸資産には、加工の状態等によって、原材料、仕掛品、半製品、商品・製品、貯蔵品、に分類されています。この中では、製品・商品を製造するために必要な原材料と完成した製品・商品については理解しやすいと思われます。

そして、貯蔵品とは原材料以外で未使用の資産のことで、例えば切手や文房具などを言います。これらは購入した時に費用に計上するのではなくいったん資産に計上して、使用の度に費用に振り替えるという経理処理を行うことになります。

次に仕掛品と半製品ですが、この両者にはどのような違いがあるのでしょうか。仕掛品は製造途中の過程にあるもので、そのままではまだ販売ができない状態の品物をさします。例えば、モニター画面が取り付けられていないノートパソコンなどが該当します。

これに対して、半製品とは販売可能な状態ではあるものの、販売できない状態の品物を言います。わかりにくいかもしれませんが、例えばラベルを貼っていないビンに詰められたジュースなどが半製品に相当します。

つまり、ジュースとして販売が可能な状態にはあるものの、まだラベルを貼っていないので工場から出荷はできない状態です。このようなものを半製品と呼ぶのです。これに対して、タンクの中に入っていてビン詰めされる前の状態のジュースは仕掛品ということになります。

別の観点から見ると、仕掛品は販売ができる状態にはないので売上が発生することはできません。売上が生じてない以上、仕掛品を費用として認識しても問題がないように思うかもしれません。

しかし、後の工程で製・商品となり、売上が発生するものです。将来的に売上が発生するものは資産として認識すべきなので、仕掛品として流動資産に計上すべきものと言えるのです。

もし仕掛品を費用として計上してしまうと、その分決算時の売上が減少してしまいます。つまり課税所得が減ることになり、税務調査等で指摘される可能性もあり、追徴課税を払わなければならなくなる場合も考えられます。

したがって、仕掛品の計上においては、正しく流動資産に計上する必要があるのです。

2.仕掛品の評価(原価計算)

上記のように仕掛品は流動資産に計上することが必要ですが、その評価、すなわち仕掛品の原価はどのように求めれば良いのでしょうか。

先ず、月初における仕掛品原価と月末における製造原価を「直接材料費」と「加工費」に分類することから始めます。そして原価の計算方法には、大きく分類して「先入先出法」「平均法」「後入先出法」の3種類があります。

上記の各計算方法で、「直接材料費」と「加工費」を算出して、それぞれの数字を足し合わせたものが仕掛品の原価となります。それでは上記の3つの原価の計算方法について説明します。

(1)先入先出法

先入先出法は、工場などの製造現場では一般的に利用されている原価計算方法で、月初に仕掛品にあるものから先に完成させて、次に当月分の仕掛品を投入する、という、文字通り「先に工程に入ってきたものから先に完成させる」という考え方です。

但し、実際のものの流れとは関係なく、あくまで「先入先出」とみなして考える方法です。先入先出法で直接材料費と加工費を算出する方法は以下のような算式になります。

直接材料費 当月分の直接材料費 /(完成品数量 – 月初仕掛品数量 + 月末仕掛品数量)× 月末仕掛品数量
加工費 当月の加工費 /(完成品数量 – 月初仕掛品完成品換算量 – 月末仕掛品完成品換算量)× 月末仕掛品完成品換算量

上記の「完成品換算量」とは、当月に使われた加工費を算出するためのもので、月初と月末それぞれの仕掛品に加工の進み具合(加工進捗度)をかけることで求められます。加工進捗度は、完成品に対してどのくらい完成しているのか、によって異なるものです。

この計算によって、どのくらいの加工費をそれまでの工程で投入したのかがわかるので、原価管理においては重要な数値となります。

(2)平均法

平均法は先入先出法とは異なり、月初に残っていた仕掛品も月中に投入された仕掛品も全て合計して、それから製・商品が完成するという考え方です。毎月の会計処理や原価の算出は簡単でわかりやすいのですが、月中での原価の把握は困難です。

直接材料費 (月初仕掛品原価* + 当月製造費用*)/(完成品数量 + 月末仕掛品数量)× 月末仕掛品数量

*双方ともに直接材料費

加工費 (月初仕掛品原価** + 当月製造費用**)/(完成品数量 + 月末仕掛品完成品換算量)× 月末仕掛品完成品換算量

**双方とも加工費

なお、平均法の弱点である月中などでの原価を把握するために移動平均法(仕掛品を取得する度に、前回の平均価額と在庫数量に加えて計算をし、都度平均取得価額を算出する方法)という考え方もありますが、会計処理が複雑になり計算が面倒になるというデメリットもあります。

(3)後入先出法

後入先出法とは、前述した先入先出法や平均法とは異なり、当月に投入した材料費や加工費を優先させて製・商品化して、次いで残った仕掛品を製・商品化するという考え方で、仕掛品の原価を計算する方法です。

後入先出法の場合は、生産の状況によって仕掛品の原価計算の方法が異なるので、上記のような数式でパターン化することが難しい方法でもあります。

また、後入先出法を用いて仕掛品の原価を算出する場合は、当月に投入した仕掛品の分が残ってしまうと計算が複雑になってしまい、月初の仕掛品まで計算対象になるのであれば計算式もわかりやすいものになります。

なお、原価計算の方法は、一度届け出を行うと原則として変更することはできませんが、概ね届け出から3年以上経過して合理的な理由があれば変更することは可能です。

 

まとめ

工場などの製造プロセスにおいて、仕掛品を流動資産(棚卸資産)に正しく計上して、会社の資産として認識することは、生産管理上も会計処理上も極めて重要なことです。

正しく計上(把握)できていない場合には、毎月の赤字が巨額になってしまったり、極端な黒字になってしまったり、する可能性があります(例えば、仕掛品を費用に計上した場合には、当月の費用が膨らむので赤字になる場合があるが、将来的に売上が計上された際にその売上に対応する費用や原価がないたにめ黒字になってしまう可能性が高い)。

上記のような状態は、工場の稼働や業績の状態が不安定であると金融機関や取引先から思われてしまうリスクがあります。したがって、ただしい仕掛品の会計処理を行って、正しい会社の状態を財務諸表などに示すことが非常に重要なのです。

棚卸資産のひとつである仕掛品は決算における粉飾で使われやすい科目のひとつです。経営者として正しい会計処理を心掛けることが、会社を守り成長させることに繋がるのです。