高齢化していく経営者に対して、なかなか後継者がみつからない中小企業も増加しています。主に中小企業における事業承継に関する問題点を具体的に示して、その解決手段などを解説します。
1.事業承継における問題
(1)事業承継とは
事業承継とは、会社の経営を後継者に引き継ぐことです。 中堅中小企業では、会社の所有者(オーナー)でもある社長自身の経営に対する取り組みそのものが、その会社の強みそのものの場合も多いので、誰が会社の後継者になって会社の事業を継承するのかは非常に重要な経営上の課題と言えます。
経済産業省と中小企業庁の試算によると、現状をこのまま放置した場合、中小企業が廃業する件数が急増することにより、2025年頃までの10年間で累計約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性がある、とされています。
このような現状に対して政府も対策を進めています。例えば、政府の成長戦略において、2018年から今後10年くらいの期間を「集中実施期間」と位置付けて、取組みを強化する方針です。具体的には、平成30年度の税制改正において、事業承継の際に贈与税や相続税の納税を猶予する事業承継税制に関して、「今後5年以内に特例承継計画を提出して、10年以内に実際に承継を行う者」を対象として、抜本的に拡充しています。
その他にも、2018年7月に「中小企業等経営強化法」、及び「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」の一部改正が施行されて、M&Aなどの再編による事業承継措置や、親族外承継時の資金ニーズへの対応も追加されています。
まだ後継者が定まっていない会社も多い中で、上記の政府による支援策や、M&A仲介ファームや地方銀行などの民間による支援で、事業承継に問題にがどのように対応できるのか、が注目されています。
(2)事業承継における具体的な問題
前述したように、中小企業の経営者の平均年齢は上昇しています。にも関わらず、実際には後継者が育っていないことや、事業継承をするための方法などの情報を知らないことも問題がなかなか解決できない一因になっていると思われます。事業承継における主な問題点を以下に例示します。
【事業承継における主な課題】
(1)親族への事業継承の問題点 |
中小企業の場合には、自分の子供(息子や娘など)などの親族に事業継承することが、これまでは最も一般的であり、最も多いパターンでした。しかしながら、最近では、息子などの親族が事業を継ぐ意思がなかったり、事業を継承する能力が不足していたり、という状況などのために事業継承が難しくなっていることも増えています。 |
(2)役員または社員への継承の問題点 |
中小企業の場合においても親族ではなく、優秀な役員や社員に次期経営者を任せよう、と考えるケースもあります。
このような場合には、 ・その社員に事業を継承する意思があるか ・会社の業績に問題はないか ・会社の借入金が多すぎないか ・会社を譲渡する金額に折り合いが着くか 、といった課題が生じる可能性があります。 現実的には、業績が良ければ良い程(譲渡価格が高ければ高いほど)、その会社の株式を買い取る資金を持っている社員は少ないことが想定されます。反対に、業績が悪い会社や借入金が多い会社の場合は、会社を引き継ごうとする社員は少ないでしょう。 つまり、業績の良し悪しが極端に偏っておらず、経営状況が安定していて、自社の株式を買い取ることも可能な状態にあることが、事業を円滑に継承できる状態にある、と言うことができます。 |
(3)第三者への事業継承の問題点 |
第三者に事業を継承する場合の問題点は、その事業を欲しいと考えている人がいるのかどうか、という点にあります。魅力的な会社であればこそ、その事業を継承したいと考えてくれる人がいるもののです。したがって、当然ながら、悪い業績の中小企業ならば、その会社を欲しがる人はいないでしょう。 |
2.事業承継における問題の対応方法
前述したような、事業承継を行ううえで、後継者がいない、あるいは能力不足、などの課題に対しては、以下のような解決方法が考えられます。
(1)後継者を育成する計画を立案する
後継者をい億精することは簡単ではありませんし、時間もかかります。一般に、後継者を育てるにはおおよそ10年くらいはかかると言われています。この「育成期間10年」を目安にして、事業承継を実施する時期から逆算して、前もって育成計画を立てて、後継者を育てることは経営者にとって極めて重要な仕事であると言うことができます。
後継者を明確に決定しておいて、後継者の特性を十分に把握したうえで、得手不得手に合わせて、立案するようにしましょう。
(2)事業の立て直し
もし後継者がいたとしても、会社の事業の将来性に不安があるような場合には、このような状態で会社を継承することには問題あります。このような場合には、会社を継承することよりも、採算割れの事業から撤退したり、新業の買収を実施したり、などの会社が収益を確保できるように事業の柱を立て直すことが先決です。
なお、事業を立て直す手段としては、M&Aの活用による事業や会社の買収も考えられます。
(3)事業承継補助金や事業承継税制を活用する
事業承継税制は、事業承継の円滑な実施を税の金面から支援する目的で設けられた制度で、贈与税や相続税を猶予、または免除する制度のことです。事業承継税制の適用には、様々な要件が設けられています。
具体的には、中小企業庁のホームページ「納税猶予を受けるための手続」(https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2018/180425shoukeizeiseitetuduki.pdf)を参照してください。
(4)MBOによる承継
会社の事業内容を詳しく理解していて、他の社員からの反発もされにくいような、優秀な役員(社員)に会社を承継してもらう、という選択も考えられます。会社の役員などの幹部社員が会社を承継する場合には、マネジメント・バイアウト(MBO、Managing Buy Out)と言う手段が考えられます。
MBOとは、オーナー経営者や会社の経営陣、従業員などが参加する自分の会社の株式の買収のことで、銀行や投資ファンドからの融資や出資により資金調達を行って、自社の事業部門、もしくは会社の全て買収して、独立した経営権を入手する方法です。
自社株を経営陣が買収することにより、経営権の強化を図り、社外株主を意識した短期的な収益戦略から抜け出して、中長期的な成長戦略(例えば、「最適な経営資源の分配」など)を実行できるようになることが大きな利点です。
さらに、株式公開によるメリットの低下や経営権争奪を巡る敵対的買収(TOB)に対する防衛手段、事業部門の子会社化(分社化)、中小企業の事業承継や事業譲渡、などに広く活用されています。
MBOを用いた事業承継の場合は、短期間でのスムーズな承継が可能である、という利点があるものの、短期間での買収における資金調達が困難である、というデメリットも考えられます。
(5)M&Aによる外部承継
M&Aを利用して、会社を外部に売却することも一つの解決方法として考えられます。M&Aで会社の売却ができた場合には、経営者には売却益を得ることが可能であり、社員が安定する、といったメリットが考えられます。
ただし、M&Aの成功率はわずか3〜5割程度しかないので、満足できる売却のためには、経験値が高く、実績があって、信頼できるM&A仲介会社などに依頼することが重要です。
(6)清算・廃業
事業継承することができない場合には、廃業や事業の清算も選択肢になってしまうかもしれません。清算や廃業における問題点は、資産を全て売却しても負債が残ってしまうことが多い、という点です。また、全従業員を解雇する必要があることも問題です。
また、会社の資産を現金化しても、実際には簿価の通りにはいかないものです。例えば、不動産や工場設備等の会社資産に関しては、その時の時価で売却するため、簿価より低くなる場合も考えられます。
<まとめ>
事業承継は、多くの中小企業にとって大きな問題となっている喫緊の経営課題と言ってもよいでしょう。本来は、事業を承継することを計画的に準備して対応しておくべきなのでしょうが、その時間さえ許されない状況の中小企業も多いのではないでしょうか。
しかしながら、取引金融機関や経営コンサルタントなどの外部専門家に対して、事業承継の相談を早めに行っておくことで納得性の高い施策が見つかるかもしれません。大切なのは適切な相談相手と準備期間です。