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事業承継を円滑にするための立案方法とポイント

事業継承の立案方法とポイントを説明するイメージ画像 起業家の基礎知識

事業承継をスムーズに行うためには、あらかじめ計画を立てておくことと、その計画に沿った施策の実施が重要です。本稿では事業承継の計画立案方法や計画策定・実施に関する留意点などについて解説します。

 

1.事業承継の計画とは

 

事業承継を、その時になってから行き当たりばったりで実施しよう、と考えている経営者は少ないと思われますが、円滑に事業を次代の経営者に受け継ぐためには、確りとした事業承継計画の立案は欠かせません。

事業承継の計画には、今後の経営計画の内容・方向性や事業承継のタイミングなど、円滑な事業承継のために必要な具体的な施策、等を盛り込む必要があります。事業承継の計画案を確認するだけで、事業計画や会社の株主・現在の経営陣・後継者などの状況が把握できるようにすることが大切です。

なお、中小企業用は「事業承継計画作成のための整理」をホームページに掲載していますので、参考にしてください。(URL:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei20/download/q18.pdf

ある程度の時間をかけて(数年から10年程度)事業承継をすることを目標にして、各年度の売上高や営業利益、株式の保有状況、役員など重要な役職者の配置、株式や財産の配分、後継者に対する育成教育、といった項目に目標を分類して詳細に記載します。

重要なことは、円滑に事業を承継するための施策計画です。事業承継において経営者が変更された場合には、取引先や従業員から理解を得られない可能性も考えられます。そのためには、誰が後継者になるのか、どうやって新経営者としての経験を積ませるのか、といった具体的な計画を立案する必要があるのです。

また、後継者に承継する株式を、一部生前贈与するようなことが考えられる場合には、具体的にいつまでにどのくらいの割合を相続(贈与)させるのか、といったことまで詳細に決めておくことが重要となります。

 

2.事業承継計画を立案する際のポイント

 

事業承継の計画立案には、会社の状況把握、適切なタイミング・会社が成長するための目標・事業承継の方法、などの決定が必要となります。

(1)会社の状況把握

最初に、現在の会社を取り巻く状況を正しく認識・把握することが必要です。具体的には、以下のような点について状況を認識・把握します。

認識・把握すべき具体的な「会社の状況」の項目と内容

経営資源 売上高、営業利益、従業員数、従業員の年齢構成から想定される人数の変動、資産額、現状のキャッシュフローと今後の見込み、などを把握します。もし、従業員が不足するようであれば、事業承継を実施した後に問題なく経営を実施するために新たな採用が必要になるかもしれません。

上記のような会社の現状を正しく把握していなければ、事業承継のタイミングで従業員数や資産などが減少してしまうなど、次の経営者(後継者)には負担が重くなってしまうリスクも考えられます。

経営リスク 会社の負債(借金)、同業他社に対する競争力、競合他社との営業利益の比較、などが必要になります。会社に多額の負債がある場合には、事業承継の実施までに、どのくらい負債を減少させなければならないのか、検討しなければなりません。

また、現在は他社との競争に勝っていたとしても、今後の動向によっては、営業利益が減少することも考えられます。最も適したタイミングで事業を承継するためには、現状の競争力と今後の見通しの把握は必要です。

経営者の状態

(健康、資産・負債、など)

経営者の健康状態次第では、早期の事業承継が必要となる可能性も考えられます。主治医などとも相談の上、事業を承継する時期を決定しましょう。

また、経営者が保有している、自社株式、個人名義の土地、建物、負債・個人保証、など、事業承継の際に次の経営者(後継者)に承継する資産や負債などの把握も重要です。

後継者候補者の状況 会社の状況によっては、後継者候補が複数人いる場合も考えられます。後継者争いのリスクを確認するためにも、極力早めに後継者候補をリストアップしておくことが重要です。

また、必ずしも後継者が親族内にいるとは限りません。親族以外の社内の従業員や取引先などの社外の人の中にも後継者候補として考えられる人がいるかどうかを調べておくことも大切です。さらに、その後継者候補の能力、適性、年齢、キャリア、意欲、などに関しても把握しておくことが必要です。

相続の問題 相続が発生すると遺産相続の問題が生じる場合があります。法定相続人の間における人間関係や株式の保有状況などを把握しておきましょう。

どの資産を誰がどのくらい相続することになるのか、相続した場合に相続税は発生するのか、納税の方法は、などを把握しておくことも重要です。

(2)計画開始のタイミング

事業承継の計画を立案して、実行する最も適したタイミングは、自社株式の評価を実施する決算が完了した後です。事業承継の計画立案のためには、株式評価が必要となるため、決算後が最適と言えるからです。

また、決算の後には、通常は事業計画の見直しを実施するタイミングでもあるので、会社の現状を踏まえたうえで事業承継計画を立てることが可能です。毎年、決算後に事業承継計画の見直しや進捗確認も行える体制を整備することをおすすめします。

(3)計画開始の適齢期

事業承継計画をスタートするのに最適な年齢は、会社や経営者・後継者の状況などによって、それぞれ異なっています。目安としては、経営者が60歳(還暦)に達したタイミングで事業承継の計画立案・実施をスタートさせることが考えられます。

経営者が60代になると健康問題が顕在化して、突然亡くなってしまうことも考えられ、残された従業員などが混乱し、あっという間に会社の業績が悪化して、倒産してしまうリスクもあり得ます。

したがって、例えば、60歳から事業承継の計画をスタートさせて、遅くとも70歳までには事業承継を完了させるように進めること、が重要になります。

また、次の経営者(後継者候補)の年齢が高いような場合には、もっと早くから事業承継の計画を立案するべきでしょう。事業承継計画に、経営者と後継者の年齢を記入しておくと、いつまでに事業承継を完了させるべきか、といったイメージを持ちやすいのではないでしょうか。

(4)計画立案の前に会社を見直す

事業承継の計画を立案する前に、会社の現状を見直すことが必要です。会社の内部統制が整備・実行されていなかったり、資金繰りに窮していたり、する場合には、後継者の会社を引き継ぐモチベーションは下がってしまうでしょう。

借入金を圧縮すること最優先の経営課題に位置付けて、後継者の負担を軽減する必要があります。場合によっては、経営コンサルタントなどの支援を受けながら、*「経営改善計画策定支援事業」などの利用も考えられます。また、売上高や借入金などには問題がなくても、小さな問題が起きている可能性もあるので、詳しく調べましょう。

*経営改善計画策定支援事業

借入金の返済負担など、財務経理上の問題があり、金融支援が必要な多くの中小企業・小規模事業者は、自社で経営改善計画等を策定することが困難な場合が考えられます。

経営改善計画策定支援事業とは、このような中小企業・小規模事業者が、金融機関からの金融支援を受けるために金融機関が必要とする経営改善計画を、中小企業経営力強化支援法に基づき認定された「経営革新等支援機関」に策定支援を依頼して、その費用の一部を国が負担することによって、中小企業・小規模事業者の経営改善を促進する制度、のことです。

小さな問題は、場合によっては放置してしまうと大きな問題になってしまう可能性があります。もし、事業を承継すのタイミングで大きな問題になってしまうと、後継者に過大な負担が生じてしまいます。したがって、小さな問題のうちに早めに対応しておく必要があるのです。

(4)事業承継の方法を検討

事業承継の方法と言うと親族への承継というイメージを持っているかもしれませんが、主な事業承継方法には、親族内承継、従業員への承継、M&A、3つがあります。それぞれの方法のメリットやデメリットを良く検討して選択することが大切です。

承継方法 説明 メリット デメリット
親族内承継 親族内承継とは、自分の息子・妻などの親族に承継する方法 取引先や従業員から受け入れられやすい、後継者教育などの準備期間を十分に確保しやすい 親族内に、経営者としての資質と意欲の両方を保有している継者にふさわしい人物がいるとは限らない
従業員への承継 会社や取引先の従業員から後継者を選定する方法 多くの候補者を挙げられるので適任者が見つかる可能性が高い 会社の従業員や取引先から受け入れられない可能性がある
M&A M&Aとは、事業を第三者に譲渡する方法 好条件であれば、多くの希望者が現れることが期待できる 会社の状況によっては、買い手が見つからない可能性がある

 

<まとめ>

事業承継の計画を立案する場合には、会社の現状況のみならず、現経営者や後継者候補の状況も把握しておくことが必要です。また、後継者の育成方法や育成完了までの期間などについても、事業承継計画には詳細に記載しておくも重要なポイントです。