資産価値とは会社が保有している資産の価値のことです。
M&Aなどの際に会社の価格を算定する重要な項目として資産価値は認識されます。
会社の資産価値の求め方について説明します。
1.資産価値における資産とは
企業が保有している資産を貸借対照表における勘定科目で見てみましょう。
【貸借対照表における資産】
(資産の部)
Ⅰ流動資産 現金 預金 受取手形 売掛金 貸倒引当金 棚卸資産 有価証券 貸付金 前払費用 未収収益 Ⅱ固定資産 有形固定資産 無形固定資産 Ⅲ繰延資産 |
(負債の部) |
負債合計(B) | |
(純資産の部) | |
資本合計(C) | |
資産合計 | 負債・資本合計 |
それではこれらの資産の価値はどのように評価されるのでしょうか。
企業価値の評価には大きく分けて3つの方法があります。
ひとつの「もの」なのにいくつも評価方法があるのはおかしいかもしれませんが、何に注目してその「もの」を評価するかで結果が異なってしまうのです。
つまり貸借対照表に記載されている資産の金額は、その資産の会計上の(貸借対照表上の)価値であり、他の利用目的では異なる価値が導き出される可能性がある、ということなのです。
例えば土地の価格にしても、相続税路線価、公示価格、固定資産税評価額、時価、の4種類もの価格が利用目的に応じて存在しています。
(1)アセットアプローチ(簿価純資産法、時価純資産価額法、など)
会社の保有している資産に注目して企業を評価する方法です。
成熟している企業や衰退産業の企業の評価に適していると言われています。
(2)インカム・アプローチ(配当還元法、DCF法、など)
会社の収益やキャッシュフローに注目して企業を評価する方法です。
成長企業の評価に適している言われています。
(3)マーケット・アプローチ(市場株価法、類似会社比準法、など)
市場価値に注目して企業を評価する方法です。
株式公開を目指している企業や比較できる同業他社が存在しているような場合の評価に適していると言われています。
ここでは「資産価値」に最も関連が深いと考えられるアセットアプローチについて説明します。
アセットアプローチで最も代表的な方法と言われる「時価純資産価額法」は、会社が保有している資産を時価評価する方法です。
M&Aの場合には、資産・負債の各項目を再評価(精査して時価ベースに置き直す)します。
貸借対照表の勘定科目別に時価で再評価する時のポイントを記載します。
勘定科目 | 再評価するためのポイント |
---|---|
現金、預金 | 通常は帳簿価額を時価とみなしています。 |
受取手形 | 不渡りになっている手形やジャンプされた手形(手形支払先への支払いを延ばした手形のこと)はないか。 |
売掛金、貸付金 | 回収することができない(回収不能な)売掛金や貸付金はないか。 |
棚卸資産 | 棚卸資産の中に、滞留品(売れ残っている商品)や販売中止予定品、赤字販売見込品、などが計上されていないか。 |
固定資産 | 会社が保有している固定資産に含み損益が存在していないか、遊休資産や減損対象の固定資産はないか。
なお、有形固定資産のうち、土地・建物については不動産鑑定士による正式な鑑定評価証明書を入手するのが望ましいでしょう。 しかし、鑑定評価証明書の入手には費用と時間がかかるので、路線価や、固定資産税評価額を0.8や0.7で割り戻した額、などを簡便的に評価額とする場合もあります。 |
投資有価証券、子会社株式 | 時価が存在しているものについては時価で評価されているか、時価の株式などについては出資先企業の財政状態はどのような常態なのか。 |
ゴルフ会員権 | 含み損益は存在していないか。 |
買掛金・未払金 | 全て計上されているか(計上漏れはないか)。 |
未払法人税等 | 計上されている金額は十分か、税務リスクは残っていないか。 |
引当金 | 引当金の計上額は十分か(引当不足はないか)、退職年金制度の積立額は十分か。 |
偶発債務 | 訴訟リスクは勘案されているか(訴訟リスクはないか) |
無形固定資産 | 知的財産権(特許権、商標権、実用新案権、など)は、貸借対照表に計上していてもいなくても、適正な評価額を利用して企業評価を行うことが望ましいと考えられます。
この場合は、将来的に得ることが予想される収益やコストカット額を勘案したDCF法により知的財産権等を評価する方法が適していると思われます。 また、会社が保有している知的財産権に超過収益力がある場合には、貸借対照表に計上されていない場合でも、、営業権として資産価値を算定する必要があります。 |
時価純資産価額法でM&Aの会社の価値を見積もる場合には、上記のように時価評価した資産全体の額から同じく時価評価した負債全体の額を差し引いたものを会社の評価額とします。
2.資産価値の評価による企業価値評価のメリットとデメリット
アセットアプローチによる企業価値方法のメリットとは会社の「現在」の情報をもとに企業評価することができる点です。
一定時点における評価となるので、評価結果がぶれることなく、客観性の点で他の評価方法に比べて有利であると考えられます。
また、DCF法による企業評価の場合には、詳細な事業計画が必要になります。
しかし、中小企業では詳細かつ正確な事業計画を作成することが難しい場合が考えられます。
したがって、ある一定の時点ではありますが、業価値評価のベースとなる帳簿が適正で、かつ、時価などの情報が取得しやすければ、客観性に優れている手法であると思われます。
つまり、コストアプローチによる評価方法は、精度の高い事業計画を作成することが困難な場合には有益な評価方法の一つと言えるのです。
一方で、アセットアプローチのデメリットは、会社は常に成長しているのに一定のある時点での評価をすることで将来的な成長などを評価に加味することができない点です。
また、企業が保有している資産価値とはその資産そのものの価値だけでなく、将来的にその資産が生む価値まで含めて評価することでM&Aをしようとする人は価値を見出していると考えられます。
したがって、資産価値には将来的に収益を生む力が内包されていると考える人にとっては、アセットアプローチの考え方には納得でないでしょう。
また、前述したように、DCFなどの収益やキャッシュフローに着目した評価手法を利用する際には詳細かつ精度の高い事業計画の作成が必要になりますが、会社の経営にとってはこれらの事業計画作成は非常に重要なものでもあります。
作成が大変だからそのような事業計画を作成しなくても良い、とするのであれば、アセットアプローチを消極的に採用せざるを得ないことになりますので、企業評価というより経営的に経営的に会社のデメリットを放置するということにつながりかねないことになります。
アセットアプローチのもうひとつのデメリットは「のれん」の取り扱いです。
アセットアプローチの時価純資産価額法では計上されていない「のれん」を評価することはできません。
そこで修正時価純資産価額法として、上手にも記載(無形固定資産の評価ポイント)しましたが、「のれん」については減損テストを実施して十分に評価減を行うことが必要です。
また、計上されていない「のれん」については、無形資産の評価を行ってオンバランスさせるようにます。
資産価値まとめ
資産価値を求める評価方法には様々な考え方があります。
資産価値の利用方法に応じて、最も適した評価方法を選択するようにしましょう。
これまで築き上げてきた会社の資産ですから、少しでも多くの資産価値があるように評価方法には留意しましょう。