企業を評価する指標の1つに「自己資本比率」というものがあります。
自己資本比率とは企業の財務の安定性を示す指標のことです。
それでは、自己資本比率が何%程度であれば良いという目安はあるのでしょうか?
今回は中小企業にとって自己資本比率の目安やその適正水準とそれに近づいていくための方法などについてご紹介していきたいと思います。
資本金額の設定については、「資本金を2,000万円にするケースとは?増資・減資の具体的手法も紹介」の記事で詳細に解説しています。
1. 自己資本比率とは
自己資本比率とは、会社の資本力や安定経営の度合を示す経営指標のことです。
自己資本比率の算定対象は、「自己資本(純資産=自分のお金)」と「他人資本(負債=他人のお金)」です。
自己資本とは、自身で調達した資金(資本)のことです。自身で調達した資金(資本)ですので返済義務がありません。
一方、他人から調達した資金(資本)のことを、他人資本といいます。他人から調達した資金(資本)ですので、返済義務があります。
つまり、返済義務のない自己資本が多いほど、中小企業の安定経営の実現が容易になります。
自己資本比率は、会社の総資本(負債の部+資本の部の合計)に占める自己資本の構成比率で求めます。主に、会社の資本力や安定経営の度合を示す経営指標として活用されています。
2. 自己資本比率の計算方法
自己資本比率の計算式は下記の通りです。
自己資本比率=〔自己資本(純資産)÷総資本(負債の部+資本の部の合計)〕×100
例えば、自己資金(資本)100万円で設立した会社があったとします。
会社設立の場合の仕訳は以下のようになります。
現金ではなく、別段預金(指定口座)や普通預金に払い込まれた出資・株式払込金を資本金とする場合もあります。
この時点の自己資本比率は、(100万円÷100万円)×100=100%、となります。
次に、工場の機械設備(1,000万円)を銀行から借り入れて購入した場合の仕訳を考えます。
この時点での自己資本比率は、(100万円÷1,1000万円)×100=≒9.1%、となります。
自己資本比率が低下することで会社の安定性が悪化したと見るのか、それとも資本金を大きく上回る他人資本の調達が可能なほど会社の成長性を高く評価されていると見るのか、自己資本比率の大小だけでこの会社の業況を判断することは難しいでしょう。
もし銀行から借入を行わずに増資をして株主から新たに資金調達をすれば、自己資本で機械設備の購入を行うことができるので自己資本比率は100%のままとなります。
上記のように新たに増資を行えば手っ取り早く資本金を厚くすることは可能ですが、会社活動を通じて資本を大きくすることも可能です。
その方法の一つとして「利益の資本組み入れ」があります。
これは、会社が過去に蓄積した利益である利益剰余金を資本金に振り替えることにより、新株を発行せずに増資(無償増資)することができるものです。
この仕組みは、投じた資本が経済活動を通して新たな価値を生み出し更に資本が大きくなる「資本主義」の原理ということができます。
3. 自己資本比率の適正水準
中小企業の自己資本比率の適正水準は下記の通りです。
自己資本比率 50%以上
自己資本比率が50%以上であれば、優良企業です。更に、70%を超えると殆ど無借金経営となり、超優良企業となります。
自己資本比率 20%~49%
自己資本比率が20~49%の範囲に収まっていれば、一般的な水準の会社です。40%以上であれば、倒産のリスクは殆どありません。
自己資本比率 10%~19%
自己資本比率が10~19%の範囲であれば、資本力に乏しい状態です。直ちに経営が悪化する恐れはありませんが、20%以上の水準を目指して、利益体質を改善した方が良いでしょう。
自己資本比率 9%以下
自己資本比率が9%以下であれば、資本欠損の恐れがあります。
既に赤字経営に陥っているような場合は、早急に利益体質を改善し会社の黒字化を優先した方が良いでしょう。
自己資本比率がマイナス
自己資本比率がマイナスの場合は、債務超過です。
つまり、総資本よりも、返済義務のある他人資本の金額が上回っているということです。
この場合は、待ったなしで会社再建の手を講じる必要があります。不採算部門の閉鎖、人員整理、返済計画のリスケジュール、等々、会社の足を引っ張る部分を早急に取り除かないと、会社全体が蝕まれてしまいます。
債務超過については、「債務超過とは?陥る原因と具体的な解消方法を大解剖」の記事も参考にしてみてください。
4. 自己資本比率を会社経営に活かすポイント
自己資本比率は会社の安全性を示す重要な経営指標です。
しかしながら、標準よりも劣っているからといって全ての会社の経営状態が悪いと断定することはできません。
例えば、銀行借入を中心に資金調達を行い、グングン成長している中小企業の自己資本比率は標準を下回っているケースが多いです。
この場合、成長が糧となって、現金水準と利益水準が標準を上回っていれば、会社の安全性は問題ありません。
逆に、想定の収益が得られず、現金水準と利益水準が標準を下回ってしまうと、会社の安全性は問題ありとなります。
このように自己資本比率の適正水準は、会社の経営環境によって良否の判断が異なる場合があります。
中小企業経営者が数字に振り回されないためには、自己資本比率をはじめとする様々な経営指標の仕組みと構造を理解することが大切なのです。
5. 自己資本比率まとめ
⑴ 自己資本比率とは?
企業の自己資本比率は下記の式で導かれます。
自己資本比率(%) = 純資産 ÷ 総資本 × 100
式から分かるように、自己資本比率が低いということは返済の必要のある負債に依存して経営をしているということになります。
極端な例で言えば、自己資本比率が0%ということは会社の資産の全てが他社からの借り物で、返済してしまったら手元には何も残らないということです。
⑵ 自己資本比率は60〜70%以上が理想
では、何%の自己資本比率があれば良いのでしょう?
40%以上であれば比較的健全な財務体質であり、60~70%以上であれば理想的であると一般的には言われています。
ただし、上記の数字は上場企業の平均等から言われているものです。
業界によって平均的な数値には開きがあり、建設業・製造業・卸売業等に比べると小売業は自己資本比率が低い傾向があります。
非上場企業は上場企業より自己資本比率が低い傾向にあります。
また、上場企業等であれば金融機関からの借入以外に、株式や社債の発行による資金調達の選択肢がありますが、中小企業の場合は金融機関からの借入に頼らざるを得ないケースが多いのが現状です。
そのため、上場企業の平均に比較すると中小企業の自己資本比率は低くなる傾向にあります。
⑶ 自己資本比率を高めるには
企業の財務の安定性を示す指標である自己資本比率を高めれば対外的な信用を得られることができます。
そのための方法として、以下のような方法が考えられます。
イ,利益を上げて、利益を内部留保する
これが本質的な自己資本比率の高め方であり、企業の価値を評価する指標として自己資本比率を参考にする所以です。
ロ,増資をする
上場企業や個人資産に余裕のあるオーナー経営者の居る中小企業で取れる選択肢だと思います。
ただし、会社の経営についての発言権を持つ「株主」という存在を増やすことになります。
今回は、自己資本比率の目安についてご紹介してきました。
自己資本比率の理想は60〜70%です。
この数字まで高めていくためには、地道に成果を上げていく以外方法はないと思われます。
小手先のテクニックで見栄えを調整できないからこそ、企業経営の健全性の指標になるのです。
その一方で、中小企業の経営者が「自己資本比率100%」や「無借金経営」を目指す必要もありません。
中小企業のオーナー創業者の蓄えと会社の利益の一部だけを元手にするだけでは事業の拡大にも限界があります。
適切な範囲での融資を受けて事業規模にレバレッジを利かせる一方で、身の丈に合った負債の範囲を把握するということが、会社の資本政策において重要なポイントであると思われます。
自己資本比率把握のために必要不可欠な知識として、「これで解決!バランスシート(貸借対照表)の基本的な見方・ポイントまとめ」の記事も読んでおきましょう。