常に利益を確保し続けることを会社経営の目標としている経営者は多いのではないでしょうか。
しかし残念ながら様々な要因で収益を確保することができなくなってしまう場合があり得ます。
そこで、当期に欠損金を発生させてしまった場合に、前年度に納付した法人税を還付してもらえる仕組みがあります。
これを「欠損金の繰戻還付」と言いますが、具体的にどのような仕組みになっているのでしょうか。
1.「欠損金の繰戻還付」の概要
欠損金の繰戻還付とは、「欠損金額が生じた場合に、その欠損金額を事業年度開始前1年以内に開始した事業年度に繰り戻して、納付した法人税額の還付請求をする事が出来る」(法人税法第80条)という制度のことです。
欠損金とは法人税において使用される用語で、会社の事業年度の損金合計額が益金合計額を上回っている状態のことです。
わかりやすく言うと「赤字」(所得金額がマイナス)のことを欠損金と言います。
この制度は、確定申告書(青色申告書)を提出する事業年度に欠損金額が発生した際に、その欠損金額をその事業年度開始の日前1年以内に開始したいずれかの事業年度に繰り戻して法人税額の還付を請求することができる、という仕組みになっています。
しかし、「租税特別措置法第66条の13」により、この制度は以下の条件に該当する欠損金額を除き、平成4年4月1日〜平成30年3月31日までの間に終了する各事業年度において生じた欠損金額については適用を停止しています
- 解散等の事実が生じた場合の欠損金額
- 中小企業者等の平成21年2月1日以後に終了する各事業年度において生じた欠損金額
つまり、中小企業、あるいは解散等をした大企業のみが繰戻還付を受けることができる、ということになっています。
ここで言う「中小企業者等」とは、
- 普通法人のうち、その事業年度終了の時において資本金(出資金)の額が1億円以下又は資本若しくは出資を有しないもの(除く、投資法人や特定目的会社、相互会社、外国相互会社)
- 公益法人等又は協同組合等
- 法人税法以外の法律によって公益法人等とみなされる法人(認可地縁団体、管理組合法人、団地管理組合法人、法人である政党等、防災街区整備事業組合、特定非営利活動法人、マンション建替組合及びマンション敷地売却組合)
- 人格のない社団等
のような法人を言います。
また「解散等の事実」とは、解散、事業の全部の譲渡、会社更生法等による更生手続の開始など一定の事実のことを言います。
解散等の事実が生じた日前1年以内に終了した事業年度、あるいは解散等の事実が生じた日の属する事業年度において生じた欠損金額に対しては、「欠損金の繰戻還付」制度の適用が認められています。
なお、適格合併による解散は対象外となっています。
繰越欠損金については、「繰越欠損金ってなんですか?繰越欠損金の活用方法を紹介します」の記事でも詳しく解説しています。
2.「欠損金の繰戻還付」制度を利用できる法人の条件
欠損金の繰戻還付を申請できるのは以下の2点を満たす法人です。
- 欠損金が発生した事業年度に青色申告による確定申告書を提出している
- その後の各事業年度について連続して確定申告書を提出している
欠損金が発生した年度に青色申告をしていればよいので、欠損金を利用する年度が白色申告であっても問題はありません。
また、欠損金の繰戻還付を利用するために連続して確定申告書を提出している必要があります。
例えば事業を一時的に休止しているような場合(損益が0であっても)でも、将来、欠損金の繰戻還付を利用する可能性があるのであれば、毎年確定申告書は提出しておいた方がよいでしょう。
3.欠損金の繰戻還付を利用できる期間
欠損金の繰戻還付の利用が可能な期間は、欠損金が生じた年度によって異なっています。
下表のように、欠損金の発生時期によって繰越し可能な年数が決まっています。
欠損金が生じた事業年度 |
繰越可能年数 |
---|---|
平成13年4月1日前に開始した事業年度 |
5年 |
平成13年4月1日以降開始した事業年度から平成20年4月1日前に終了した事業年度まで |
7年 |
平成20年4月1日以後終了した事業年度から平成30年4月1日前に開始する事業年度まで |
9年 |
平成30年4月1日以降に開始する事業年度 |
10年 |
なお、欠損金は、発生が古い事業年度のものから利用することが一般的です。
新しい事業年度の欠損金から利用していると、古い事業年度の欠損金を利用することができなってしまう可能性があるからです。
4.欠損金の繰戻還付を利用できる金額
繰越控除される欠損金は、各事業年度が開始する日前の9年以内に開始した事業年度で生じた金額となっています。
ただし、過去から繰り越された欠損金がたくさんあったとしても、その事業年度の所得金額を上回るような欠損金を使うことはできません。
また、繰越欠損金として利用可能な金額は、中小法人等に該当するかどうか、で異なっていますが、中小法人等に該当する場合は、繰り越された欠損金額の全額が適用対象となります。
なお、中小法人等以外の場合は、繰越控除前の所得金額に以下の率((国税庁「タックスアンサー 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」より)を乗じた金額が控除限度額となります。
事業年度 |
割合 |
---|---|
平成24年4月1日〜平成27年3月31日の間に開始する事業年度 |
80% |
平成27年4月1日〜平成28年3月31日の間に開始する事業年度 |
65% |
平成28年4月1日〜平成29年3月31日の間に開始する事業年度 |
60% |
平成29年4月1日〜平成30年3月31日の間に開始する事業年度 |
55% |
平成30年4月1日以降に開始する事業年度 |
50% |
5.欠損金の繰戻還付の還付額の計算方法
欠損金の繰戻還付における還付金額の計算は以下のとおりです。
還付金額の計算式=還付所得事業年度の法人税額×欠損事業年度の欠損金額÷還付所得事業年度の所得金額
例えば、前事業年度の所得が1,200万円、法人税額が180万円、当事業年度の欠損金額が600万円だった場合、還付請求出来る法人税の金額は180万円×600万円÷1,200万円=90万円、となります。
なお、還付所得事業年度の所得金額(分母の金額)、及び、会社が還付金額の計算の基礎として還付請求書に記載した金額、が還付金額の限度となります。
6.欠損金の繰戻還付に関する仕訳
(1)還付請求をした事業年度の仕訳
貸方勘定科目 |
金額 |
借方勘定科目 |
金額 |
---|---|---|---|
未収還付法人税等 |
XXX |
雑収入 |
XXX |
なお、還付される金額は税金のため、消費税の課税対象外(不課税)となります。
(2)中間申告で中間納付額が有る場合の仕訳
① 仮払法人税等の金額を取り崩し、差額を雑収入等として計上
貸方勘定科目 |
金額 |
借方勘定科目 |
金額 |
---|---|---|---|
未収還付法人税等 |
XXX |
仮払法人税等 雑収入 |
XXX XXX |
差額は雑収入として計上されます。
② 翌事業年度に法人税が還付された時の仕訳
貸方勘定科目 |
金額 |
借方勘定科目 |
金額 |
---|---|---|---|
現預金 |
XXX |
未収還付法人税等 |
XXX |
6. 地方法人税の還付
欠損金の繰戻還付は法人税法を対象とした制度です。
通常は還付請求をしても、地方税である法人住民税や法人事業税の還付を受けることはできません。
しかし、法人住民税については「控除対象還付法人税額」として、「地方税法第53条12項・第321条の8第12項」により、欠損金が発生した翌事業年度以降に「繰越控除」を受けることが可能になっています。
失念せずに、申告書(法人都道府県民税の場合は「第6号様式別表2の3」、法人市町村民税の場合は「第20号様式別表2の3」)に記載しましょう。
一方で、法人事業税には、上記の法人住民税のような「控除対象還付法人税額」の制度が存在していませんので、注意が必要です。
欠損金の繰戻還付まとめ
欠損金の繰戻還付は、過去の欠損金を有効に活用できる制度です。
活用のためにはいくつかの条件がありますが、予想外に会社の業績が悪化してしまった場合には、会社の経営を維持するためにも是非利用したい制度です。
中小企業に役立つ税制度に関しては、「中小企業投資促進税制とは?中小企業投資促進税制のメリットを解説」の記事でも紹介しています。