最近色々なところで話題になっている「SDGs」ですが、「SDGs」っていったい何なのでしょうか?本稿では「SDGs」の概要について説明して、そのメリットやデメリットなどについて解説します。また、中小企業における「SDGs」への対応についても説明します。
1.SDGsの概要
SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略称のことで、「持続可能な開発目標」という意味があります。SDGsは2015年9月に開催された国連サミットで採択されたもので、国連に加盟している193か国が2016年から2030年までの15年間で達成するために掲げた目標のこと(2030アジェンダ)を言います。
SDGsの発端は2000年から2001年に示された「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)」まで遡ることができます。2000年9月に開催された国連ミレニアム・サミットで採択された「国連ミレニアム宣言」をベースとしたMDGsは、「2015年までに、極度の貧困と飢餓の撲滅など8つの目標を解決しよう」とする国際的なアクションでした。
MDGsの考え方そのものは高く評価されるべきではありましたが、現実的には「やり残し」の部分が多く生じてしまったのです。理由のひとつとしては、主に発展途上国がアクションの中心であり、先進国は目標達成のサポート役に過ぎない、という風潮があったと考えられます。
そこで、MDGsの反省を踏まえて、「地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)」という合言葉を掲げて、全ての国、企業、個人、が達成に向けて一致協力して取り組もう、という強力な意志を示したものが、このSDGsであると言えるのです。
企業がSGDsに取り組む場合には、自社の事業環境などの中から「2030年までに世界で達成すべき17のゴールと169のターゲットのうち、どの項目が最も自社のビジネスに関わるものか」を見極めたうえで、設定した目標を達成するためのマイルストーンを策定し実践していく、というステップを経ることになるのです。
その際にここで重要になってくるのは、自社のビジネスで既に実施している活動やCSR活動などを提示して、当社はこの項目に対して貢献している、と考えるのではなく、自社のビジネスがSDGsの達成に対してどのような負担を生じさせる可能性がありそれをどのように解決していくか、といったことを具体的に考えることが必要です。また、それが達成できているかどうか、を検証することも求められます。
(1)2030年までに世界で達成すべき17のゴール
それでは「SGDsにおける17のゴール」とはどのようなものなのか下表の通り解説します。
2030年までに世界で達成すべき17のゴール |
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ゴール |
説明 |
視点 |
①貧困をなくそう |
あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる |
貧困や飢餓、水の衛生など。開発途上国の基礎的な目標が中心と考えられます。ただし、ゴール⑤のジェンダー平等に関しては先進国においても多くの課題があります。 |
②飢餓をゼロ |
飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する |
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③すべての人に健康と福祉を |
あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する |
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④質の高い教育をみんなに |
すべての人々への包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する |
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⑤ジェンダー平等を実現しよう |
ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う |
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⑥安全な水とトイレを世界中に |
すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する |
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⑦エネルギーをみんなに そしてクリーンに |
すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネ ルギーへのアクセスを確保する |
働きがい、経済成長、技術革新、クリーンエネルギーといった言葉が並んでいます。先進国や企業にとっても取り組むべき課題がたくさんあります。また、「つかう責任」では一人ひとりの消費者にとっても持続可能な世界のために責任があることが示されています。こういった部分がSDGsの特徴であり、大きな社会の流れとなっていることの要因だと考えられます。 |
⑧働きがいも経済成長も |
すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する |
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⑨産業と技術革新の基盤をつくろう |
強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る |
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⑩人や国の不平等をなくそう |
国内および国家間の格差を是正する |
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⑪住み続けられるまちづくりを |
都市と人間の居住地を包摂的、安全、強靭かつ持続可能にする |
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⑫つくる責任 つかう責任 |
持続可能な消費と生産のパターンを確保する |
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⑬気候変動に具体的な対策を |
気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る |
気候変動、海洋資源、生物の多様性、などグローバルな課題になっています。そしてゴール⑯では世界平和を、ゴール⑰では国や企業や人々の協力を、それぞれ呼びかけています。 |
⑭海の豊かさを守ろう |
海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する |
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⑮陸の豊かさも守ろう |
陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る |
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⑯平和と公正をすべての人に |
持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する |
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⑰パートナーシップで目標を達成しよう |
持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する |
また、SDGs17の目標にはそれぞれに細かいターゲットが設定されており、全部で169のターゲットがあります。また、ターゲットと指標の関係について総務省のホームページに仮訳された対応表が掲載されています(参考:「国連統計部の以下のURL[https://unstats.un.org/sdgs/indicators/indicators-list/]に掲載されている指標を総務省で仮訳たもの、URL:http://www.soumu.go.jp/main_content/000562264.pdf)
(2)世界におけるSDGsと達成状況について
SDGsの特徴的な部分は、SGDsの数値目標を定期的にモニタリングしていく点にあります。進捗状況をモニタリングしていくフレームワークして、「国連ハイレベル政策フォーラム(HLPF:High Level Political Forum)」というものが設定されています。
具体的には、SDGsの達成に向けて、各国が進捗状況を自ら報告する、いうものです。国連ハイレベル政策フォーラムのレビューは毎年7月頃に実施されています。実際のSGDsの進捗状況は、国連事務総長であるパンギム氏が立ち上げたNPO団体によってまとめられています(参考:「Sustainable Development Report 2019」、https://sdgindex.org/reports/sustainable-development-report-2019/)。
(3)日本におけるSDGへの取り組み
日本においては、2016年5月20日に安倍総理大臣が本部長に、そして全ての国務大臣がメンバーになり、第1回の「持続可能な開発目標(SDGs)推進本部会合」が開催されました。また、第1回目以降も毎年2回同様のメンバーで開催されており、その会合の中で日本のSDGsに関することが決定されています。
例えば、平成28年12月22日に開催された持続可能な開発目標(SDGs)推進本部会合(第2回)においては、日本としてSDGsの実施に率先して取り組むべく、SDGsの実施のための指針(SDGs実施指針)を決定しています。
その際の首相官邸からの発表は「「持続可能な開発目標(SDGs)の実施指針を本日決定しました。日本は、これまで、持続可能な経済・社会づくりのため、国際社会のモデルとなるような優れた実績を積み重ねてきています。
今回決定した指針には、経済、社会、環境の分野における8つの優先課題と140の施策を盛り込みました。この指針で、世界に範を示し、持続可能な世界に向けて、国内実施と国際協力の両面で国際社会をリードしようとしています。具体的には以下の3点に注力する、としています。
一点目は、国際保健の推進で、国際保健機関に対して総額約4億ドルの支援を行う予定です。二点目は、難民問題への対応で、新たに5億ドル規模の支援を行います。三点目は、「女性の輝く社会」の実現で、2018年までに総額約30億ドル以上の取組を行います。
来年7月には、国連で我が国の取組の報告も行う予定です。関係する閣僚においては、「今後も本実施指針の下、緊密に連携し、政府一丸で取り組むようお願いします。」というものでした(出典:http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/actions/201612/22sdgs.html)
上記のように、日本はSDGs関連に9億ドルの支援、30億ドルの取り組み、つまり日本円で合計約4,000億円を投資すると発表しています。当然ながら、これまでの取組も含めて、あらためてSDGsの枠組として表現し直している数字ではありますが、総理大臣自身がこのような宣言をすることには大きな意味があることで、日本のSDGsに対するスタンスを示しているものと言えるでしょう。
2.SDGsアクションプラン2019とは
SDGsを一層推進することを目的に、全ての国務大臣で構成される持続可能な開発目標(SDGs)推進本部は、アクションプランを策定しました。このアクションプランは、2018年に初めて策定されたものですが、その後、2018年に一度改定された後、2019年には再度改定されています。
SDGsアクションプランは、今後も引き続き改定されていく予定ではありますが、基本的な方向性については変わっておらず、より時流に沿ったアクション(行動)を実施することを目標にしています。SDGsアクションプランは、日本版「SDGsモデル」を全世界に向けて発信することを目指しており、その方向性や主な取組を内容に盛り込んでいます。
具体的には、以下の3点を重要なポイントとして位置付けており、政府による取組が打ち出されています。
- SDGsと連動した、官民挙げての「Society 5.0」の推進
- SDGsを原動力とした地方創生
- SDGsの担い手である次世代・女性のエンパワーメント
上記のような取組や発信により、日本全国におけるSDGsの認知度を向上させる同時に、SDGsを具体的な行動に移す企業や地方公共団体などを、政府の各種ツールを活用してバックアップします。
さらに、官民双方におけるベストプラクティスを通じて習得されるSDGs推進の理念・手法・技術などを、国内外に積極的に展開することを目標としています。このような取組や発信により、SDGsが創出するマーケットや雇用における需要など取り込みつつ、内外のSDGsを同時に達成して、日本経済の持続的な成長にも繋げる点に狙いがあるのです。
それでは、「SDGsアクションプラン2019」とはどのような内容なのでしょうか。以下に詳しく解説します。
①SDGsと連動する「Society 5.0」の推進
「Society5.0」とはサイバー空間と現実社会とが高度に融合した「超スマート社会」の実現に向けた取組のことを指しています。つまり、デジタル技術を活用した価値創出社会を実現する、ということです。
Society5.0よりも前の社会においては、知識や情報などが共有されていないので分野を横断するような連携が十分ではない、という問題が生じていました。また、人間の能力には(年齢や障がいなどにより)限界があるので、大量の情報から必要十分な情報だけを抽出して分析することにも困難な点がありました。
また、少子高齢化や地方における過疎化などの問題に対しても多種多様な制約が存在しており、それらの問題に十分に対応することが難しかったのが実情です。そこで、このような「困難さ」を乗り越えることが可能な社会として考えられているものが「Society5.0」なのです。
Society 5.0で実現する社会では、IoT(Internet of Things)の推進により全ての人とモノが連携することで、様々な知識や情報が共有することが可能になります。今までにない新たなValue(価値)を創出して、これまでの課題や困難を克服することが期待されています。
そして、このSociety5.0の実現が、我々の生活や産業の姿を大きく変えることになり、SDGs(持続可能な開発目標)に貢献することになるのです。経済や技術が進化していく中で、私たちの生活は便利で豊かになり、エネルギーや食料の需要が増加するとともに、寿命も長くなり高齢化も予想以上に早いペースで進んでいます。
また、経済のグローバル化も進んでおり、国際的な競争も激化しています。それに伴い、富の集中・偏在や地域間の不平等化の促進などの問題も生じています。経済発展に相反するように、解決しなければいけない社会的な課題はより一層複雑になってきており、温室効果ガス(GHG)の排出削減、食料の増産や廃棄ロスの削減、高齢化などによる社会コストの抑制、などの対策が必要になっています。
しかし、現状の社会システムにおいては経済発展と社会的課題の解決を両立させることは極めて難しい状況にあると考えられます。
②SDGsを原動力とした地方創生、強靭かつ環境に優しい魅力的な「まちづくり」
日本政府は、地方のニーズや強みを活用しながらSDGsを進めることにより、地方創生や強靱で環境に優しい魅力ある「なまちづくり」の実現を目標に掲げています。SDGsアクションプランでは、SDGsを原動力とした地方創生を目指し、 G20サミットや閣僚会合の開催地からSDGsの取組を発信したり、 29の自治体を「SDGs未来都市」に選定したり、 2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を「SDGs五輪」にしたり、といった取組が実施されています。
③SDGsの担い手として次世代や女性のエンパワーメントを
日本政府は、外交の主要な柱として位置付けている「人間の安全保障」を踏まえて、「誰一人取り残さない持続可能で包摂性と多様性のある社会の実現」、を目指しています。国際女性会議(WAW!)などの機会を利用して、日本を含む国際社会が抱える課題についての議論を率先して推進しながら、女子に対する教育を含めて、国内外における女性のエンパワーメントの取組を推し進めています。
実際に、2019年には日本がG20議長国を務めることから、国際協力における女子教育の推進を目指して、「国際女性会議WAW!」と「W20(G20エンゲージメント会合)」を同時に開催しています。また、WAW!・W20では、安倍総理大臣から途上国の女性に対する教育支援(3年間で400万人)も表明されています。
さらには、途上国における女性起業家をサポートするために、女性起業家資金イニシアティブ(We-Fi)に対して支援が実施されています。他にも、国内の女性活躍を推進するために、「男女共同参画基本計画」を5年毎に策定して、官民が一体となった取り組みを総合的・計画的に推進したり、政府が重点的に取り組むべき政策について、各省庁省の概算要求に反映すべく、「重点方針」に取り纏めています。また、働き方改革を着実に実行できるように、テレワークの推進なども実施されています。
(参考:「第5回国際女性会議WAW!/W20」外務省HPより、https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_003059.html)
④SDGsアクションプラン2018との変更点
アクションプラン2019は、2019年6月に開催された「G20大阪サミット首脳会議」、また同年8月に横浜で開催された「第7回アフリカ開発会議(TICAD7)」などに向けて、具体的な取り組みを推進・強化しました。アクションプラン2018および「拡大版SDGsアクションプラン2018」からさらに踏み込んだ内容となっています。
また、2019年の「G20サミット」、「TICAD7」、初のSDGs首脳級会合などに向けて、以下の日本の「SDGsモデル」を特色づける3つのポイントについて、「SDGs実施指針」*に掲げる国内の8つの優先課題への取り組みの実施、国際協力、とそれぞれにおいてGDsを推進するとしています。
- 国際社会の優先課題
- 日本の経験・強み
- 国内主要政策との連動
*SGDs実施指針
SGDs実施指針とは、SDGsに関する取り組みを総合的かつ効果的に推進することを目的として、2016年5月20日にSDGs実施指針が策定されたものです。この実施指針は、日本が2030アジェンダの実施にかかる重要な挑戦に取り組むための国家戦略として位置付けられています。日本政府はSGDs実施指針において以下の8つの優先課題を定めています。
1)あらゆる人々の活躍の推進
2)健康・長寿の達成
3)成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
4)持続可能で強靱な国土と質の高いインフラの整備
5)省・再生可能エネルギー、気候変動対策、循環型社会
6)生物多様性、森林、海洋等の環境の保全
7)平和と安全・安心社会の実現
8) SDGs実施推進の体制と手段
そして、SDGsアクションプラン2019においては、新たに「強靭かつ環境に優しい循環型社会の構築」が盛り込まれて、海洋プラスチックごみ対策や気候変動対策、そして防災および質の高いインフラ、などの推進も明記されています。
このように、日本政府は様々な施策をかつようすることにより、2030年にSDGsを達成できるように取組んでいます。SDGs実施指針には、「(消費者)生産と消費は密接不可分であり、持続可能な生産と消費を共に推進していく必要があるとの認識の下で、消費活動において大きな役割を担う消費者や市民の主体的取り組みを推進していく。」と明記されています。私たち日本国民も、SDGsを意識した生活スタイルへの変化が必要とされていると思われます。
3.SGDsと企業活動
(1)企業活動におけるSGDsへの取組のメリットとデメリット
SDGsに本業で取り組むことで、企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。最初に、SDGsの目標達成につながる製品やサービスの開発により、新規マーケットの開拓や事業機会の創出に繋げられる可能性が考えられます。
また、投資家からの評価が高くなるとともに、顧客に対してもこ好印象というブランディング活動(含む、PR・IR活動)をすることが可能になるでしょう。さらに、そのような企業で働いている従業員の意識やモチベーションも間違いなく向上すると思われます。
一方で、SDGsの課題が企業活動に与える影響を洗い出して、会社の将来を見据えて発生する可能性が高いリスクの抽出と回避策の立案も可能になります。具体的には、SDGsに取り組まないと社会的な評価が下がってしまい、取引先から取引を打ち切られてしまう可能性があるかもしれません。
また、投資家からの資金が集まりにくくなってしまう可能性があります。人材の採用活動にも影響が出るかもしれません。今後は、優秀な人材ほど、企業のSDGsへの取組度合いを確認することになるでしょう。
我々の生活に身近な企業のみならず、金融機関においてもSDGsを重視する取組は拡大しています。なぜならば、金融業界は投融資を通して企業の経済活動を推進する役割もあるので、責任が極めて大きいという理由のためです。
このような考え方は、2006年に国連事務総長であったコフィー・A・アナン氏が提言した*国連責任投資原則(PRI)により、現在では多くの投資家の行動規範となっています。
*国連責任投資原則(PRI)
責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)とは、2006年当時の国際連合事務総長であるコフィー・アナン氏が金融業界に対して提唱したイニシアティブのことです。機関投資家の意思決定プロセスに*ESG投資を受託者責任の範囲内で反映させるべきとした世界共通のガイドライン的な性格を持っています。
*ESG投資
ESGのEはEnviroment(環境)、SはSocial(社会)、GはGovernance(統治)、を表しており、ESG投資とは、環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行なう投資のことを言います。ESG評価が高い企業は、事業の高い社会的意義、成長の持続性、などの優れた企業特性を保有している、と言うことができます。
投資家、顧客、従業員をはじめとする、取引先や地域社会なども含めたありとあらゆるステークホルダーから信頼を得ることができれば、企業の価値向上と持続的成長の両方を実現することが可能です。SDGsは企業のスタンスを図る一種の「アイコン」になりつつあるのです。
(2)SGDsと企業経営
これまで説明してきたように、SGDsは企業経営における新しい軸となりうる考え方であると思われます。しかしながら、現在のところ、SGDsを戦略的に経営に取り込めている企業はまだ少ないと言わざるを得ません。なぜ企業にとってSGDsへの取組が必要なのか、という理由と戦略的なSGDsの活用方法について説明します。
①企業経営にSGDsの取組が必要な理由
理由の1つ目は「新しい市場の開拓」です。SDGsは長期的な世界共通の目標として設けられているので、企業の取組スタンスが、投資家からの評価や顧客の購買行動に影響を与えることになります。つまり、SGDsへの取組は事業活動そのものへ大きな影響を与えま始めていると言っても過言ではないのです。SDGsに対する企業の姿勢が投資を促し、新たな市場を創出するチャンスになり始めているのです。
②経営リスクの管理
もう1点の理由は、「経営リスクの管理」です。SDGsは、2030年までは、地球と人類の持続可能性の観点から、企業活動を評価する指標として利用されることになっています。SDGsは、投資家、顧客、一般市民、などの様々なステークホルダーにおいて、理解しやすく、そして使いやすい共通の言語として、色々なシーンで企業に情報開示が要求されることになるでしょう。
また、気候の変動による大規模な天候不順や災害の増加などのように、地球環境が劣化することによるビジネスにおける直接的な被害が表面化しつつある中で、気候変動に対する企業の対応を「企業の生死を掛けた経営課題」として把握して、対策を講じ始めている企業も増加しています。
世界保健機関(WHO)の報告書によると、2016年に発生した異常気象を原因とする経済損失額は、14兆円にものぼると言われています。このように、様々なステークホルダーがSDGsを共通限度として企業評価を行うようになることで、気候変動を始めとするSDGsの対応を経営課題と認識して取組を推進する企業が増えていくということになるでしょう。
③SDGsを戦略・戦術として具体的に落とし込む方法
これまで各企業は各社ともに独自の方法を用いて、必要不可欠な法令遵守から、レピュテーションなどを含む企業価値を高める社会貢献に至るまで、多種多様な環境活動を実施してきました。ところが、今後はSDGsを始めとする、ESG投資など、新しいグローバル・スタンダード(世界標準)が整備されて、それらを指針としながら、全ての団体(国、地方公共団体、企業、など)が活動するようになります。
企業が、SDGsを成長戦略の入口として把握して、成長に向けた流れを前向きに捉え、自社の競争力の向上に資することが大切です。しかし、SDGsの目標は非常に多岐に渡っているため、全ての項目に取組むことは極めて難しいでしょう。
そこで、先ずはSDGsの根底に流れている社会や環境における課題の本質を理解したうえで、将来自社のサプライチェーンにどのような影響を与えるのか、などを把握・検討してから、「自社のあるべき姿」や「顧客に提供すべき価値」を明確にすると共に、取組のプライオリティを決めていくことが重要です。
(3)中小企業におけるSDGsへの対応
SDGsへの取組は大企業だけに求められているものではなく、当然ながら中小企業にも対応が求められていると言えます。しかし、会社の規模や従業員数などで大企業には見劣りがしている中小企業に対して、大企業と同じ対応を求めのは非常識であるとも言えます。それでは、中小企業はどのようにSDGsに対応をすればよいのでしょうか。
大手企業においては、積極的に製品やサービスをSDGsの要求に沿った形になるよう変化をすることで、SDGsへの取組を強化しています。しかし、その一方で、プラスチック製品を削減するような場合には、二酸化炭素の排出量を削減すると同時に安定的に電力を供給しなければならないため、実際に実現可能な代替案を見つけ出す必要があります。
大企業では、サプライチェーン上にある調達先に対して、仕様の変更を求めたり、新たな開発を依頼したり、という動きを活発に進めているようです。このような動きが進むことにより、大企業の要求に対応できないような調達先は見直さざるを得ない、という動きになっていく可能性も考えられます。
具体的には、製造の際に発生する二酸化炭素の排出量について常時モニタリングできるようになることで、企業がサプライチェーン全体の中で、製造ラインのスペック改良や新しい設備投資を検討することが必要な場合が発生することは簡単に想像できます。
このように、大企業からの依頼を受けて事業活動をしている中小企業においても、大企業と同様に、技術革新が求められるようになる、と言えるでしょう。さらに、特に外資系企業では、労働者の安全や対する施策、反児童労働、反労働搾取、などに非常に熱心なので、労働契約書の見直しと再締結を依頼してくる可能性も考えられます。
それに同時に、労働環境の改善などを遂行するように命じられる(或いは、依頼される)可能性もあります。この可能性の背景には、イギリスにおける「現代奴隷法」のような法律の存在や、サプライチェーンにおける人権侵害の防止にコミットする動き、などがあります。
前述したように、大企業の動きに歩調を合わせるように、事業内容や提供する製品・サービスを変更させたり、新しい取引を始めたり、するような可能性が中小企業には生じるのです。
<まとめ>
SDGsへの取組は、大企業や政府だけが頑張ることで達成できるようなものではありません。社会が持続可能な環境として存在し続けるために必要な取組は、社会を構成する全ての人に関係していることだからです。
一方で、中小企業の経営者としての観点からは、自社が何を目標として定めて、どのように改善・変化し、実行・完遂できるのか、ということを検討することは、新しいビジネスチャンスを発見したり、持続可能な経営のきっかけを育成する機会になる可能性もあるでしょう。。
SGDsへの取組は、難易度が高く、挑戦的なものではありますが、このチャンスを活用する価値は極めて大きいと言えます。