「債務超過」という言葉から、借金が多くて会社が潰れてしまうような印象がありますが、正しくはどのような状態を債務超過と言うのでしょうか。
また、債務超過になった場合には会社にとってどのような影響が生じてしまうのか、債務超過を防ぐためにはどのようなポイントに注意する必要があるのか、詳しく解説します。
1.債務超過とは
債務超過とは言葉の通り負債の金額が資産の金額を上回っている状態のことを言います。
つまり全ての資産を売り払っても借金(負債)を返すことができない状態にあることを債務超過と呼ぶのです。
債務超過の状態で会社を精算すると残余財産はゼロなので、株主の取り分(株式の価値)ないとも言えます。
この状態を清算価値、あるいは理論株価がゼロとも言います。
債務超過に似た言葉としては、「赤字」や「資金ショート」というものもありますが、それぞれの違いはどこにあるのでしょうか。
まず、債務超過とは貸借対照表から判別できるものですので、ある一定時点での会社の財産の状態を示している言葉であるということになります。
これに対して赤字とは、売上よりも費用の方が多くかかってしまい、利益を出すことができない状態のことを言います。
つまり、赤字は、一定の期間において費用を上回る収益を獲得することができない状態のことであり、損益計算書において判明するものです。
一方で資金ショートとは、支払うべきお金が足りない状態のことを言います。
債務超過、赤字、資金ショートのどの状態も会社にとっては決して良くない状態ですが、この中で最も深刻なのは資金ショートだと考えられます。
一時的な債務超過や赤字であれば、その状況を抜け出すための対策をしっかりと実施すれば、解消する可能性もあり得ます。
もちろん一時的な資金ショートに対応することは可能ではありますが、支払期限が間近に迫っているような場合は、緊急に対応しなければ資金繰り倒産に陥ってしまう危険性もあります。
資金繰り倒産、別名黒字倒産とも言われることがありますが、会計上は利益を確保しているにもかかわらず、支払資金(キャッシュ)の確保ができずに会社が倒産してしまうことです。
しかし、債務超過でしかも赤字の場合には、遅かれ早かれ資金がショートして倒産してしまう危険性があることも疑いのない事実なのです。
2.債務超過になると会社は倒産するの?
① 債務超過に陥った場合の貸借対照表
資産 | 負債 | ||
---|---|---|---|
流動資産
現金預金 売掛金 ・・・ 固定資産 土地 建物 備品 ・・・ |
800,000 | 流動負債
支払手形 買掛金 ・・・ 固定負債 長期借入金 社債 ・・・ |
1,000,000 |
純資産 | |||
資本金
利益剰余金 ・・・ |
– 200,000 | ||
合計 | 800,000 | 合計 | 800.000 |
上記のように純資産がマイナスに陥った状態が債務超過であり、資産を全て売却しても負債をカバーすることができない財政状態にあると言えます。
② 債務超過になった場合に発生するリスク
債務超過の状態になると会社は以下のような3つのリスクに晒されることになります。
(1) | 金融機関から融資を受けることができなくなる |
---|---|
(2) | 上場廃止になる |
(3) | 倒産の可能性がある |
(1)融資拒絶の可能性
金融機関からすれば資金を融資しても返済されない可能性が高いので、融資を断る可能性が高くなります。
しかし、一方では債務超過でも会社が倒産しないケースにあたるのですが、銀行などから融資を実行される可能性もあります。
これは、会社の将来性が見通せて、事業成功の確実性が高いことから、今のこの状態さえ乗り切れば大丈夫であるとの見込みから、融資が実行される可能性はあります。
確かに金融機関としては、特に今まで融資取引をしていた場合に、取引金融機関として倒産の引き金を引きたくないという消去的な理由の場合もあり得ます。
しかし、事業継続性を慎重に判断したうえで、債務超過が一過性の問題であると判断されれば融資を受けられる場合があるのです。
(2)上場廃止
上場している場合には、上場規則で債務超過の状態が一定期間続くと上場廃止になってしまう可能性があります。
上場廃止になってしまった場合には、多くの株主に迷惑をかけることになりますし、会社の評判も大きく下がってしまうことが考えられます。
また、業種によっては公的な取引条件などに債務超過になっていないことという項目が含まれている場合があります。
このような場合には今後その取引に参加することができなくなってしまう可能性もあります。
(3)倒産の可能性
上記(1)でも触れましたが、債務超過だからといって必ず倒産するわけではなく、金融機関が資金を融通してくれる可能性もあります。
しかし、一般的に考えて、債務超過の会社と取引をする企業は決して多くはありませんし、仮に取引ができるとしても厳しい支払い条件が付されることになるでしょう。
例えば、支払いサイトを極端に短く設定されたり、現金払い以外は不可とされたり、事業継続にとっては決して好ましい条件ではないでしょう。
3.債務超過を防ぐためには
上記のように債務超過となると事業活動にとっては多くの支障が発生する可能性があります。
したがって、債務超過に陥らない、債務超過になったとしても極力早くその状態を解消する必要があります。
債務超過を防ぐためには、以下のような対策が有効と考えられます。
(1) | 資本金を増やす |
---|---|
(2) | 純利益を増やす |
(3) | 負債を減らす |
(1)資本の増加(増資)
増資には次の2種類があり、①純資産が増加する新株発行のような実質的増資と、②純資産が増加しない資本準備金の資本組み入れのような形式的増資、があります。
増資は資本金を増やす手っ取り早い手段ではありますが、利益余剰金のマイナス状態が止まらない限りは、永遠に増資を続けなければいけないことになります。
債務超過が一時的なものであれば増資での対応にも意味はありますが、継続的な赤字状態に対しては根本的な赤字の原因を特定して改善する必要があります。
(2)純利益の増加
純利益を増やすことで負債の返済を進めて債務額を減少させることで債務超過を防ぐことができます。
純利益を増やすことで会社の健全性も増加することになるのです。
(3)負債の減少
債務と株式の交換(Debt Equity Swap、DES)を実施して、債務を圧縮する方法もあります。
DESは、金融機関などが経営不振に陥った取引先企業を支援する目的で利用される場合が増えています。
金融機関は融資金額(貸出金)の一部を失うことにはなりますが、取引先企業の株式を取得できるので、株主として企業経営に影響を与えることが可能になる、あるいは、将来的に配当や株式の売却益を獲得できる可能性がある、というメリットもあります。
しかし、DESを利用した場合であっても将来的に会社が再建される見込みがなければ何の意味もありません。
なぜならば、「1.債務超過とは」で説明したように、株式は会社が債務超過で倒産した場合には価値がゼロになってしまうからです。
「債務超過」についてもっと詳しく知りたい方は、「繰越利益剰余金がマイナスだと会社が倒産?どんな勘定科目なのか徹底解説」の記事もおすすめです。
債務超過まとめ
債務超過とは、会社がかなり危険な状態にあることを意味しています。
本来であれば債務超過になりそうな兆候が見られる場合には、極力早めに取引銀行などに相談をして対策を練ることが重要かつ必要でしょう。
もし実際に債務超過に陥ってしまった場合には、手元資金の確保を最優先に実施して、売却できる資産は現金化すると同時に未回収の売掛金の回収を実施することなどを実行するようにしましょう。
債務超過に陥る原因については、「債務超過とは?陥る原因と具体的な解消方法を大解剖」の記事で詳しく解説しています。