会社で新しい製品を開発、製造、販売したり、新しい市場へ参入したりするためには、ただ闇雲に頑張れば大丈夫、というものではありません。あらかじめ、新規参入市場に関する調査を実施したり、どういった方法でマーケットシェアを獲得したり、収支予想をしたり、といった明確なプランが必要となります。
本稿では、上記のような会社の戦略を立てるために必要なプラン、つまり事業計画はなぜ必要なのか、どういった内容か、どのように策定するのか、等について詳しく説明します。
(1)事業計画とは
新しいビジネスを立ち上げる際に、その事業の目標数値や経営方針、事業継続のための金銭管理の方策などを明確にしておくことで、社内の従業員のみならず、取引先や金融機関などに、新規事業に対する理解を深めてもらう手助けとなります。
事業計画は、上記のように融資を受ける場合に必要になる、という面は否めませんが、事業計画とは極論すると経営者のために最も必要なものである、とも言えます。事業を進めていくにあたって、どの方向に会社を進めていけば良いのか、という点に関しては、事業計画は羅針盤の役を果たしてくれます。
事業計画策定時に想定の範囲内の事象が生じた場合には、事業計画に沿って対応をすることで乗り切ることが可能でしょう。また、仮に想定していなかったような事態が起きた場合でも、事業計画を策定した時の事業を推進するための考え方に基づいて、そのような事態にも対応することができる可能性が高いでしょう。
ただし、事業計画に固執し過ぎることにも問題があります。事業計画は、会社の基本方針ではあるものの、自社を取り巻く環境の変化や法制度の変更などにより、変更を余儀なくされる場合があります。
ほんの小さな出来事が発生する度に事業計画を大きく変更することに意味はありませんが、会社の進むべき進路を変更すべきである、と経営者が判断し、その理由も明快であれば、例え期の途中であっても事業計画の変更が必要となるでしょう。
2.事業計画策定の目的
前述したように事業計画の重要性はわかったものの、具体的にどのような内容を事業計画には落とし込めばよいのでしょうか。事業計画には、下記のような要素をわかりやすく盛り込むことが重要です。
事業計画の要素 |
内容 |
テーマ |
これから開始する事業の内容を、テーマとして簡潔に表します。一言で事業の内容がイメージできるようなものが良いでしょう。 |
プロフィール |
会社のプロフィール(商号、所在地、役員、株主構成、電話番号、ホームページアドレス、メールアドレス、主要取引先、主力商品、代表者経歴、など)を記載します。創業時は特に代表者の経歴は重視されます。 |
コンセプト |
自社の使命(ミッション)、自社らしさ(コアエッセンス)、自社の強み(コアコンピタンス)、顧客のメリット、など、なぜこの事業を当社がやるのかを説明します。 |
バックグラウンド (PEST分析) |
・政治情勢:法改正や政府の動向、規制など(新聞、ニュース、業界紙などを参考)
・経済環境:人口動向、円安円高、原油高原油安、インフレデフレなど(経済産業省や財務省などのホームページなどを参照) ・社会的な情勢:世間の関心事、社会全体のムードなど(国民生活白書等を参考) ・技術革新の状況:工場などの生産性が画期的に向上するような技術上の革新的な発明の登場など |
マーケット |
その事業の市場規模や参入している企業規模などを統計的に推計します。市場規模に関する情報を集める手段としては、経済産業省、財務省、総務省、業界団体、民間のシンクタンクやマーケティングリサーチ会社などを利用することが考えられます。 |
優位性 |
その事業に参入するにあたって、他の競合企業に比べて自社がまさっているポイントをまとめます。競合他社の分析は、以下の4つのポイントが重要となります。
・Product(商品):売っているものは何か ・Price(価格):販売価格はいくらか ・Place(流通):どういう流通経路で売っているのか、販路の確認 ・Promotion(販売戦略):どうやって(PR戦略、ブランド戦略など)販売しているのか また、自社の強みを認識しておくことも重要です。具体的には、自社の技術、スキル、ノウハウ、資格、組織力、企業風土などのポイントを押さえておきましょう。 |
実現可能性 |
客観的な視点から、この事業を実現させることが可能であるポイントを提示します。 |
将来性 |
将来的にこのサービスをどうやって拡大、展開させてくのかを説明します。 |
収益見込み |
サービス開始後に見込まれる売上、経費、収益などを説明します。具体的には、
・売上計画(各商品や各サービス単位などに分けて予測。売上を予測する方法としては、見込まれる顧客数などを活用して、保守的に実現可能な計画にすることが重要です。) ・売上原価計画(売上計画と同様に、各商品や各サービス単位などに分けて予測します。) ・人員計画(人件費(給料だけでなく、社会保険料や通勤費、研修費、退職金積立、等も含む)や採用にかかる費用なども予測する) ・設備計画(投資に見合う回収が可能かどうか、どのくらの期間でで回収可能かなどを見積もります) ・利益計画(最も重要視される指標となり、売上→売上原価→人件費→減価償却費→販売費→管理費→借入利息→法人税等の順に予見積もることが重要です。その結果として売上総利益→営業利益→経常利益→税引後利益の予測も可能になります) ・資金計画(利益計画で利益が出ていたとしても、資金繰りが大丈夫かどうかも予測する必要があります。「勘定合って、銭足らず」と言う状況を避けるためにも、現金が十分に足りているのかどうかを見込んでおく必要があります。金融機関は常に返済可能な資金を保有しているかどうかを注視しています。したがって、資金計画は収益見込みの中でも非常に重要な項目と考えられます) |
事業計画とは、始めようとする事業におけるサクセス・ストーリーのことです。どうやって事業を成功に導くのか、第三者にもわかりやすい内容にすることが重要と考えられます。
3.事業計画の策定手順
事業計画を策定するためには以下のような手順が重要であると考えられます。
詳細については、前述した「2.事業計画策定の目的」も参考にしてください。
手順 |
①事業のアイデアを明文化する |
②新たに開始する事業の方向性を示す |
③事業環境を分析する |
④経営資源を分析する |
⑤コンセプトを明確化する |
⑥事業計画書の作成 |
事業計画の策定は、まず新規事業の方向性を確認することからスタートします。次いで、市場調査などにより新規事業を巡る環境について分析します。そして、自社における、人、物、金といった経営資源の状態を確認します。
この時点で新規事業のコンセプトを明確化します。そして、新規事業の課題も明らかになるので、課題解決の方針を示して、実行計画として事業計画を作り上げるのです。
まとめ
事業計画には、決まった様式があるわけではなく(金融機関などによっては所定の様式が定まっているものもあります)、自由に事業計画を策定することが可能です。しかし、取引先や金融機関が知りたい情報は上記のような内容ですし、会社の羅針盤として活用する場合にも上記のような情報は必要だと考えられます。
今後、自社の従業員や取引先、取引金融機関に協力をお願いするのであれば、経営者は客観的かつ保守的な(好調な状態ばかりを前提とせず、例えばワーストシナリオの場合等も想定)事業計画を策定することが望ましいと考えられます。