平成29年12月14日に公表された「平成30年度税制改正大綱(与党大綱)」で、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入特例」(少額減価償却資産の特例)に関して、適用期限の2年延長が決定しました。
少額減価償却資産の特例について詳しく説明します。
1. 「少額減価償却資産の特例」制度の概要
「少額減価償却資産の特例」とは、青色申告法人である中小企業者等が30万円未満の減価償却資産を取得した際に、取得価額に相当する額を当該事業年度の損金に算入することが可能な制度のことです。
通常の減価償却の場合は、取得資産の耐用年数に対応した償却率で按分した金額を当期の減価償却費として損金に算入することになりますが、本制度では取得事業年度での即時償却が認められています。
青色申告とは、原則として、日々の取引を複式簿記で記帳し、その帳簿に基づいて所得申告をする制度のことです。
青色申告用の申請書類を提出して、税務署の承認を受けなければ青色申告事業差者とは認められません。
また、中小企業者とは、
- 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
- 資本又は出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人
とされています。
この制度が適用される対象の資産とは、取得価額が30万円未満の減価償却資産(少額減価償却資産)です。
ただし、適用を受ける事業年度の少額減価償却資産の取得価額の累計額が300万円を超えるときは、その取得価額の累計額のうち300万円に達するまでの少額減価償却資産の取得価額の合計額を限度とします。
つまり、1件あたり30万円未満の減価償却資産を合計300万円まで、と覚えておくとよいでしょう。
この特例を適用するためには、当該小額減価償却資産を事業の用に供した事業年度において、
- 少額減価償却資産の取得価額に相当する金額について損金処理
- 確定申告書に少額減価償却資産の取得価額に関する明細書を添付して申告
しなければいけません。
2.「少額減価償却資産の特例」制度の経緯
この制度は中小企業に対する法人税の軽減措置として、昭和22年に「少額の減価償却資産の特例」が制度化されてから、現在まで続くものとなっています。
これまでの制度の経緯について下表にまとめました。
(1)小額の減価償却資産(1年未満、10万円未満)
時期 | 取得価額 |
---|---|
昭和22年4月1日から | 1,000円 |
昭和26年4月1日から | 10,000円 |
昭和39年4月1日から | 30,000円 |
昭和45年4月1日から | 50,000円 |
昭和49年4月1日から | 100,000円 |
平成元年4月1日から | 200,000円 |
平成10年4月1日から | 100,000円 |
(2) 一括償却資産
時期 | 取得価額 |
---|---|
平成10年4月1日から | 200,000円 |
(3)少額減価償却資産
時期 | 取得価額 |
---|---|
平成15年4月1日から | 300,000円(累計額300万円未満の上限なし) |
平成18年4月1日から | 300,000円(累計額300万円未満の上限あり) |
このように減価償却資産の取得価額は徐々に増えてきており、中小企業にとっては有効な節税制度として認知されてきた経緯があります。
3. 「小額減価償却資産の特例」を利用する場合の仕訳処理
(1)30万円以下の小額減価償却資産を取得した場合
20万円のパソコンを購入した時の仕訳は以下の通りです。
(摘要欄に「パソコン」と記載)
貸方勘定科目 | 金額 | 借方勘定科目 | 金額 |
---|---|---|---|
工具器具備品 | 200,000 | 現金 | 200,000 |
(2)決算日の仕訳について
(摘要欄に「パソコン、少額減価償却資産の特例により減価償却」と記載)
貸方勘定科目 | 金額 | 借方勘定科目 | 金額 |
---|---|---|---|
減価償却費 | 200,000 | 工具器具備品 | 200,000 |
この場合、購入したパソコンを事業の用に供していることが必要です。
購入しただけでは、「少額減価償却資産の特例」の対象にならないことに注意してください。
4.「小額減価償却資産の特例」に関する留意点
(1)「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」と「適用額明細書」の添付
本制度は租税特別措置法という特別な法律に基づいて運用されている制度なので、確定申告書に本制度の適用を受けるという申請と「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」と「適用額明細書」という明細の提出が必須となっています。
国税庁が発行している「適用額明細書の記載の手引」には以下のように記載されています。
『「適用額明細書」の添付がなかった場合又は添付があっても虚偽の記載があった場合には、法人税関係特別措置の適用が受けられないこととされています。
そのため、「適用額明細書」の添付漏れ又は適用額の記載誤り等があった場合には、できるだけ速やかに、「適用額明細書」の提出又は誤りのない「適用額明細書」の再提出をお願いします。』
この文書を見る限りでは、もし提出を忘れても後で提出すれば問題ないように感じるかもしれませんが、そうではありません。
この規定は宥恕規定であって、やむを得ない事業があったと税務署長が認めた場合に限り考慮する可能性がある、というものです。
したがって、上記の明細書は必ず提出するようにしましょう。
また、個人事業主などの場合には「適用額明細書」の提出義務はありませんが、確定申告の際には確定申告書に「少額減価償却資産の取得価額に関する明細書」を添付することは必要とされています。
ただし、青色申告決算書の「減価償却費の計算」の欄に以下のような事項を記載して確定申告書に添付して提出し、かつ、当該少額減価償却資産の取得価額の明細を別途保管することにより適用を受けることが可能となっています。
- 少額減価償却資産の取得価額の合計額
- 少額減価償却資産について租税特別措置法第28条の2を適用する旨
- 少額減価償却資産の取得価額の明細を別途保管している旨
少額減価償却資産について、詳しくは「少額減価償却資産とはどんなもの?少額減価償却資産の活用方法について」の記事でわかりやすくまとめています。
(2)重複適用の禁止
少額減価償却資産の特例は、研究開発税制を除き、租税特別措置法上の特別償却、税額控除、圧縮記帳との重複適用をすることはできません。
また、取得価額が10万円未満のもの、あるいは一括償却資産の損金算入制度の適用を受けるものについても、少額減価償却資産の特例の適用をすることはできません。
(3)無形減価償却資産も対象
少額減価償却資産の特例は、取得価額が30万円未満である減価償却資産について適用があるので、器具・備品、機械・装置などの有形減価償却資産だけでなく、ソフトウェア、特許権、商標権などの無形減価償却資産も対象になります。
また、所有権移転外リース取引に係る賃借人が取得したとされる資産や、中古資産もであっても少額減価償却資産の特例の対象となります。
無形減価償却資産とは、無形固定資産であっても減価償却対象となる資産のことです。
例えばソフトウェア資産などは、利用することで価値が変わるような資産ではないような気もしますが、価値が不変であることが減価償却対象となる根拠になっています。
つまり、他により性能の良いソフトウェアが登場すれば相対的に既存のソフトウェアの価値は減じてしまうということです。
したがって会計上は最長5年の範囲内での償却対応資産としています。
また、のれん(ブランド)についても、ソフトウェアほど陳腐化はしないとしても最長20年以内での償却が認められています。
つまり、無形減価償却資産も少額減価償却資産の特例の対象となりますので、中小企業の場合は忘れずにこの特例を活用することをおすすめします。
少額減価償却資産の特例まとめ
少額減価償却資産の特例は、中小企業における税金の軽減策として、例年延長が図られてきた制度です。
年間累計で300万円の損金算入が可能なことは、中小企業の(特に資金繰り)の財務的な効果は大きいと考えられます。
本制度を上手に利用して節税に役立ててみましょう。
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