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社会的インパクト投資とは? 動向について徹底解説します

社会インパクト投資をイメージする画像 起業家の基礎知識

昨今の資本市場では「社会全体の持続可能性を考慮した投資」のサイズが拡大しています。このような中において、規模はまだ小さいながら、金銭的(経済的)なリターンの獲得と同時並行的に社会や環境に対して良好(ポジティブ)なインパクトをもたらすことを目的とした「社会的インパクト投資」というものが注目を浴びています。

社会的インパクト投資の概要や背景、動向や展望、などについて説明します。そして、投資家や経営者の立場から見た社会的インパクト投資のメリット・デメリット、中小企業の社会的インパクト投資への関わり方、などについても解説します。

1.社会的インパクト投資とは

社会的インパクト投資とは、社会的事業を展開している企業、組織、ファンド、などに投資することで社会的成果と財務的リターンの両方を獲得すること目指すものです。新興国や発展途上国においてもインパクト投資は可能であると言われており、そのリターン率(成果)はそれぞれの国や組織の状況によって異なっています。

社会的インパクト投資では、事業から創出された社会的成果・便益を一定の指標を用いて計測することになります。社会的インパクト投資である事業効果が数値化され可視化される、ということが社会的ンパクト投資の特徴の一つであると言えるでしょう。

ただし、*G8インパクト投資タスクフォース会合においも、社会的インパクト投資の定義に関する議論は収束しておらず、何が「社会的インパクト投資」を指すのか、は国や組織によって異なっているのが現状です。

G8インパクト投資タスクフォース会合

G8インパクト投資タスクフォース会合とは、2013年のG8サミット議長国だった英国・キャメロン首相の呼びかけのもと、インパクト投資をグローバルに推進することを目的として創設されました。G8諸国の政府・金融・ビジネス及び慈善事業などの各界のリーダーが集結して、インパクト投資市場の発展を目標としています。

英国の休眠預金活用基金やビッグ・ソサエティ・キャピタル(英国の休眠口座基金)の創設者であるロナルド・コーエン氏が議長に就任し、G8各国から政府代表1名、民間代表1名が参加して、約2ヶ月ごとに世界各地で会合が行われてきました。

タスクフォースの下部組織として、インパクト投資に関連する項目別の「作業部会」と、各国ごとにインパクト投資の状況を議論・促進する「国内諮問委員会」が設置されています。作業部会は社会性評価測定、運用構成、国際開発と社会的投資、そして法人格の4つから成っています。それぞれが各国の課題と取り組みの共有・協議を通して、インパクト投資における基本的なガイドラインを策定することを目標としています。

日本からは、「外務省」が政府代表として、そして「日本財団」が民間代表として、G8インパクト投資タスクフォース第4回のパリ会合から参加しています。

(1)社会的インパクト投資の背景

社会的インパクト投資が注目を集めている背景の一つには、2015年に国連において採択されたSDGs(持続可能な開発目標)で、グローバルな課題解決には公的部門のみならず民間部門の資金力活用が必要である、と掲げられている点が挙げられます。

また、英国においては、逼迫する国家財政のもとで、貧困層への支援など社会福祉事業をいかに効率的に、そしていかに社会的成果を失うことなく実施するか、という課題へのひとつの解として社会的インパクト投資を推し進めています。

(2)社会的インパクト投資の動向や展望

社会的インパクト投資が拡大するにつれて、*インパクト・ウォッシュのリスクを回避し、社会的インパクト投資の要件を厳密化しようとする動きが見られるようになりました。このような環境下において、投資プロジェクトによって獲得された社会・環境面における効果を測定する、「インパクト評価」をすることを実施要件の一つとして組み込むことが提案されています。

*インパクト・ウォッシュ

最近のインパクト投資成長の背景には、大手ファンド運営会社によるインパクト投資への参入が挙げられます。しかし、インパクト投資経験が浅い企業が増加するに連れて、社会的インパクト投資の定義、評価手法の問題、などが曖昧になってしまうのではないか、という懸念も発生しており、このようなリスクのことを、ブレーン・ウォッシュ(英語で「洗脳」の意味)から派生した造語として「インパクト・ウォッシュ(impact-wash)」と呼んでいます。

インパクト評価は資金の提供者に対するアカウンタビリティ(説明責任)を果たすために非常に重要であり、インパクト評価の実施を求める動きは強まっていくと考えられます。

我が国における社会的インパクト投資は、2000年代からスタートした言うことができます。具体例としては、

  • 市民からの出資による市民バンク(NPOバンク)の活動
  • パナソニック株式会社のNPOサポートファンド
  • オンラインのインパクト投資プラットフォーム
  • ミュージックセキュリティーズ
  • 一口10万円の出資によるメンバーシップによるNPO支援を行うNPO法人ソーシャルベンチャー・パートナーズ東京
  • 途上国の社会的企業への融資を行うARUN合同会社

などを挙げることができます。

同様の時期に、発展途上国における貧困層に対してビジネスを通じて支援するBOPビジネス(主に開発途上国のBOP層を対象とした持続可能なビジネスのこと、BOPとはBase of the Economic Pyramidのことで、年間所得が購買力平価(PPP)ベースで、3,000ドル以下の低所得層のこと)が関心を集め、国際協力機構がBOPビジネスとの連携促進を推進しています。

また、2011年の東日本大震災をきっかけに、三菱商事復興支援財団や東北共益投資基金のような被災地支援を行うものに限らず、日本国内で様々な複数の社会的インパクト投資を行う基金が創設されました。

例えば、

  • 社会的企業に対して中長期的支援を行うジャパン・ベンチャーフィランソロピーファンド
  • 途上国における社会的企業への投資を行うベネッセ・ソーシャル・インベストメント・ファシリティーズ
  • アフリカにおける社会貢献型ベンチャー育成を目的とする豊田通商アフリカファンド

などがあります。

また、日本におけるインパクト投資を巡る動きとしては、2016年に成立した「公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(いわゆる、休眠預金活用法)を挙げることができます。

*休眠預金が社会的インパクト投資を通じた、より大規模な民間資金を流入させるための呼び水としての役割を果たすことなどが期待されています。また、加えて、インパクト投資によるエコシステムを作り上げて、自律的に資金が循環していく仕組を形成することが必要だと考えられています。

*休眠預金

休眠預金とは、長期間引き出しや預け入れといった取引が行われていない「眠っている」銀行預金のことです。最後の取引日や定期預金の最後の満期日から、銀行では10年、ゆうちょ銀行では5年以上経ったもののうち、預金者本人と連絡のつかないものを指しています。

日本全体では、休眠口座の総計金額は毎年800億円以上とも言われており、3040%が返金されています。いつでも払い戻しをすることが可能ですが、その手間と費用のために取引が行われない口座が誕生して、休眠口座となっています。現在では銀行の収入として計上されています。

ちなみに、韓国や英国においては、休眠口座を発見しやすくするためのシステムを構築し、払い戻しの手続を簡素化しています。また、保有者の不明なお金を、社会の未来投資の資金として活用しようという考えに基づいて、ファンド(基金)を通じてその残金を社会に還元しています。

韓国の休眠口座基金では、高齢者への無料看護事業、低所得者層の子ども達への教育事業、社会起業へのサポート事業、などを実施しています。また、英国の休眠口座基金であるビッグ・ソサエティ・キャピタルでは、教育・雇用・社会起業の3つのテーマに注力し、「インパクト投資」の手法を活用して、これらの事業に投資を行っています。

 

2.社会的インパクト投資のメリット・デメリット

(1)メリット

➀投資と同時に社会貢献も可能

社会的インパクト投資の一番のメリットは、やはり金銭的なリターンのみならず、社会貢献もできるという点にあります。投資家の中には、金銭的なリターンだけを得るという投資に対して何かしら疑問を感じている人も多いかもしれません。

どんな投資であれ多かれ少なかれ何らかの社会貢献をしていることにはなっているはずなのですが、社会的インパクト投資の場合は自分のお金で直接誰かを助けることも可能であり、投資効果をダイレクトに感じられる方法かもしれません。

②投資テーマが充実

インパクト投資は投資テーマが充実してきていて、前述したように、衣食住・生活向上・環境、などが対象になっています。衣食住においては、健康促進や綺麗な水、公衆衛生、などの環境整備や、安心して生活を送ることができる住居などの確保、などが投資対象として挙げられます。

生活向上においては、教育や手に職をつけるための職業訓練などが、環境問題では太陽光や水力などの代替エネルギー、を挙げることができます。これらに悩まされている国は非常に多く存在します。以前にと比べると、投資テーマは格段に増えたので、自分や自社の興味ある分野を選んで投資をすることが可能です。

投資家、あるいは経営者として、社会貢献のために社会的インパクト投資を行うことは、社会貢献の面からの評価が高まり、投資やビジネス機会の拡大に有形無形な良い影響を与えるものと考えられます。

その他のインパクト投資のメリットは、現地社会とWin-Winの関係を構築することで社会的リスクを緩和できる、情報が少ない途上国市場の情報を早期に入手できる、一件あたりの案件規模が小さい、上場市場が整備されていない途上国における成長機会を取り込むことが可能、なども挙げることができます。

世界の大規模な機関投資家がインパクト投資を行っているのも、上記のようなメリットがあるからです。例えば、2014年に、ある社会的インパクト投資ファンドが、*マイクロインシュランスを対象としたファンドを立ち上げて、グローバル保険企業を含む大手機関投資家から、150億円にも上る資金調達を実施しました。

*マイクロインシュランス

マイクロインシュランスとは、一般的に、開発途上国の低所得者層向けに設計された、低価格・低コ ストで提供される保険を指します。

グローバルな保険企業から見た場合には、新興国や途上国の伸びしろが大きい中間層は魅力的なマーケットですが、一つ一つの事業が小さすぎて、直接、事業を行うには非常にコストがかかりすぎます。しかしながら、そのまま何もしないでいると、ライバル企業にマーケットを抑えられてしまいます。

そこで、社会的インパクト投資ファンドを通じて、早期にマーケットに参入しようとしているのです。加え得て、投資対象が社会的にマイナスになるようなビジネスを行っていては、せっかくのマーケットが成長した頃には、投資先の事業は既に消滅している可能性もあります。長期的な投資を行う場合には、社会的なリターンを重要視する必要があるので単なるファンド投資ではなく、社会的インパクト投資が有効とされているのです。

(2)デメリット

➀利益が出るとは限らない

インパクト投資は、あくまで投資です。したがって、運用が上手くいかなかった場合には損失が発生する可能性もあります。しかしながら、社会的インパクト投資は金銭的にマイナスになった場合であっても社会貢献をしたことには間違いがありません。

金銭的なリターンのみを目的とした株式投資のデイトレードなどと比較すれば、たとえ損失が発生したとしても精神的なダメージは少ないと思われますし、儲からなくても社会貢献をしているという投資家や経営者のイメージは決して悪いものではないでしょう。

②海外案件の場合は為替リスクに注意

国内ではなく、海外の案件に投資する場合は注意が必要となります。海外の案件に対して社会的インパクト投資を行う場合は為替リスクが伴う場合が多いと考えられます。たとえ運用そのものが上手くいった場合であっても、投資の際と元本償還の際に大きく為替相場が変動していた場合には、為替差損が生じてしまうケースがあり得ます。

ただし、社会的インパクト投資案件の中には為替ヘッジをかけた案件もありますので、為替リスクを負いたくなければこのようなファンドを選択するようにしましょう。

 

3.社会的インパクト投資と中小企業の関わり方

社会的インパクト投資のひとつの対象として「中小企業」というカテゴリーが存在しています。中小企業であっても投資家として社会的インパクト投資を行うことが不可能ではありませんが、社会的インパクト投資の趣旨からも主に「投資される側」として中小企業は位置付けられています。

そこで、平成30年に内閣府が委託調査を実施した結果が「社会的事業に対する資金提供実態に関する調査概要」として発表されています(参考URLhttps://www5.cao.go.jp/kyumin_yokin/shingikai/20180516/shiryou_4-1.pdf)ので、中小企業と社会的インパクト投資の関わり方について確認してみます。

本調査では「社会的インパクト投資」という言葉は使われていませんが、資金提供団体に対してアンケート調査を実施し、社会的事業に対し資金提供を実施していると回答の得られた内容を取りまとめたものになっています。

留意点としては、社会的事業または社会的課題に関する資金提供団体には様々な解釈がある、という点です例えば、地域中小企業への資金提供は地域課題の解決と繋がるので、全て社会的事業に対する資金提供と解釈した団体があります。

一方で、同じような種類の資金提供であっても、厳密には社会的事業に対する資金提供であるとは断定・判断できないとして、回答を控えた団体もあります。調査票の記入内容などに基づいて内容の精査を行ったものの、資金提供団体の回答を軸にした広義の社会的事業に対する資金提供であると認識しておく必要がある、と考えます。

(1)社会的事業に対する資金提供金額

  • 社会的事業に対する年間資金提供金額(フロー)の単純合計は、平成26年度が1,268億円、平成27年度が1,419億円、平成28年度が1,793億円、と順調に増加傾向で推移しています。
  • 増減について手法別に確認すると、助成は平成28年度に増加、貸付は前年度比1020%程度の増加、出資等は前年度比2030%程度の増加、で推移しています。
  • なお、「社会性をより評価する仕組みを有する」資金提供金額(単純合計)を確認すると、平成26年度が149億円、平成27年度が207億円(前年度比38.8%増)、平成28年度が216億円(前年度比4.3%増)と徐々に増加しています。

(2)社会的事業に対する資金提供の特徴

本調査で得られた618事業(617団体)の結果を用いて、資金提供手法別に、社会的事業に

対する資金提供の傾向をまとめると下表のようになります。

助成

貸付

出資

対象ステージ

全体的に、「創業期」「成長期」が高いが「特に想定していない」も高く、「特に想定していない」は全ステージを対象としていると考えられます。

準備期 24

成熟期 41

創業期 51

資金提供先

任意団体

特定非営利活動法人

財団・社団

特定非営利活動法人

非上場企業

個人事業主

非上場企業

対象分野

全体的に「地域の活性化・まちづくり、安全・安心な生活の実現」が高い、と考えられます。

教育・保育

医療・介護・保健衛生・福祉

文化・芸術・スポーツ

医療・介護・保健衛生・福祉

環境の保全

地域の活性化・まちづくり等

地域の活性化・まちづくり等

産業・商業の育成

環境の保全

資金提供時の工夫

・資金提供時に何らかの工夫を行っている割合は79%です。

・具体的には、「審査時に社会性の評価を実施」が最も高く、次いで、「複数年度にわたり資金を提供」、「社会的成果の評価(社会的インパクト評価)を実施」となっています。

・「社会的成果の評価(社会的インパクト評価)を実施」と回答した団体には、社会的インパクト評価を実施している団体以外にも、何らかの社会的成果を測定しようと試みている団体も含まれています。

「コンテスト形式による決定」

「複数年度助成」

「審査時社会性評価」

「協調融資積極実施」

「融資条件優遇」

「協調融資積極実施」

IPOでなく事業継続を重視の出口戦略」

非資金的支援の実施状況

・非資金的支援の実施率は59%です。

・非資金的支援の内容は、財務面での支援である「資金調達支援」「事業計画策定」が30%前後と高く、次いで、一般的業務支援の「事業戦略支援」が25%で続きます。

・助成では財務面に関する支援がやや低く、出資等では組織体制に対する支援や財務面に対する支援が高い傾向があります。

・助成や貸付けに共通して、組織体制や社会的インパクトに関する支援の実施率は低い傾向にあります。

実施率53

「その他 (ネットワーク支援等)

実施率66

「事業計画策定」「財務管理支援」などの財務面

実施率78

「資金調達支援」「事業戦略

支援」などの全般

最近の動向や特徴

増加傾向

提供先の成長を促すプログラムや金額規模の大きな助成も登場

増加傾向

環境や介護・福祉分野中心。

中間支援組織との連携や協調融資を志向

増加傾向

社会的成果を志向する出資、SIB等新しいスキームにより拡大傾向

SIB

SIBとは、ソーシャルインパクトボンド(Social Impact Bond)のことで、官民連携の仕組みの一つです。行政や民間事業者及び資金提供者等が連携して、社会問題の解決を目指す成果志向の取組です。

(3)資金提供手法別の実態

➀助成

  • 案件を形成する前のニーズ調査に活用可能な助成や条件を満たせば複数年助成するものなど、資金提供先の段階的発展を促す工夫が見られます((公財)トヨタ財団、中央労働金庫、など)。
  • 1件当たりの助成額が突出して大きな案件として、社会変革を目的とした年間5,000万円から1億円を提供すると同時に非資金的支援も行う事業が登場しています((公財)日本財団)。
  • プロジェクト助成が主流の中において、組織基盤強化へ資金提供をする団体があり、外部の専門家組織による別プログラムの研修と連携させた経営支援があるほか(パナソニック㈱)、専門家の派遣を通じて経営支援等を行う団体もあります(SIP)。このほかにも、ロジックモデル作成やKPI設定等による社会的成果を目的としたサポートや社会的インパクト評価による成果の可視化を図る団体も存在しています((公財)トヨタ財団、SIP)。

SIP

ソーシャル・インベストメント・パートナーズのことで、社会的事業に対する資金面・経営面での支援を通じて、社会の課題を解決し、社会的なインパクトの最大化を目指している一般社団法人。

  • 行政、企業、他のNPO、などとの連携が必要との認識を持つ団体も多く、地域の様々なプレイヤーと連携したプロジェクトを組成している例も見られます((公財)京都地域創造基金)。

②貸付

  • 社会的課題解決の担い手として、特定非営利活動法人、ソーシャルビジネス、コミュニティビジネス、を切り出して、これらを対象に特化した融資制度を有しています。
  • 社会的事業の社会性については、各資金提供団体が独自の基準で評価しています。一方で資金提供先の事業の課題解決に対する社会的インパクト評価を要求するような資金提供団体は、ごく一部に留まっています。
  • 非資金的支援では、地域の産業支援等で培ったネットワークを活用した外部専門家の派遣や、ソーシャルビジネスの担い手が抱えている経営課題の解決を支援するために、専門性の異なる複数の機関によるネットワーク構築を推進している例が見られます(西武信用金庫、㈱日本政策金融公庫)。
  • 社会的事業の準備期に対応した助成制度をCSRの一環として設けてきましたが、今後は、本業として融資につながる助成や融資による支援を目指す方針の団体もあります(中央労働金庫)。

③出資等

  • 自己資金からの投資(MAKOTOKIBOW、新生企業投資㈱、第一生命㈱)や匿名組合出資((公財)三菱商事復興財団、㈱デジサーチアンドアドバタイジング、プラスソーシャルインベストメント㈱)等、様々な形態での資金提供が進んでいます。
  • ベンチャーキャピタルにおいては、準備期(シード期)のスタートアップに特化して、比較的短い期間でM&AIPOによる経済的リターンを狙うものもありますが、IPO等の出口戦略を前提としない出資もあります(フューチャーベンチャーキャピタル㈱、㈱デジサーチアンドアドバタイジング、(一社)MAKOTO)。
  • 信託機能を活用することにより、優先劣後構造を有するファイナンススキームを設計することで社会的インパクト投資に関心ある個人投資家の呼び込みに成功した団体もあります(㈱三井住友銀行)。
  • 非資金的支援では、社会的課題の解決に向け、徹底して必要な経営・技術支援を行う団体もありまする(SIP、(一社)MAKOTO、(一財)KIBOW)。
  • 社会的インパクト投資を始める団体が増えつつあり(新生企業投資㈱、第一生命保険㈱)、社会的成果を明確に志向し、資金提供を通じて社会的課題の解決を加速しようとする動きが広がっています。

上記のように、様々な手法を活用して中小企業を始めとする社会的意義のある投資が実際に行われていますが、やはり資金の出し手というよりは受け手として中小企業は位置付けられているようです。それでは、社会的インパクト投資として中小企業を投資対象とした具体的な案件について説明します。

(4)社会的インパクト投資として中小企業を投資対象としている案件

①「中小企業経営者さん応援ファンド2号」(個人向けインパクト投資)

社会的インパクト投資に特化したネクストシフトファンドを運営しているネクストシフト株式会社(本社:鳥取県八頭郡八頭町)によるファンドです。このファンドの特徴は、ジョージア、カンボジアの農家や中小企業経営者を応援するファンドである、という点です。

カンボジアのJC Finance PLC社およびジョージアのLLC MFI Credex社に対して融資を実行します。JC社は農機ローンをはじめとした農家向けの融資事業を展開しており、カンボジア国内の経済発展に貢献しています。

また、Credex社は主にマイクロビジネス向けの不動産担保融資を行っており、女性向け融資を強化するなどジョージア国内のビジネスの拡大に貢献しています。両社ともに過去に貸倒れ実績はなく、安定した高いリターンを期待することが可能です。

②西武信用金庫 ソーシャルビジネス応援融資「CHANGE」

西武信用金庫では、日本財団の「わがまち基金」と連携して、ソーシャルビジネスを応援する融資制度を設定しています。西武信用金庫の地区内で福祉、教育、環境、まちづくり、といった社会貢献性の高い取り組みを行う事業者を対象に、67年間にわたって設備資金や運転資金を低利で融資します。

日本財団も含めた有識者による事業評価委員会が社会性などを、西武信用金庫が財務面などを、それぞれ審査して融資先を決定します。 2013年から開始したこの融資制度は、20165月には第11期の募集を迎えました。

③新生企業投資株式会社による日本インパクト投資1号投資事業有限責任組合(子育て支援ファンド)

ファンド総額は5億円、投資対象は「保育、学童、教育、家庭支援、育児と介護の両立を支援するダブルケア、女性活躍支援、ワークライフバランス等の「子育て関連事業」を営む企業」としており、投資金額は1件当たり数千万円~1億円となっています。

④新生インパクト投資株式会社(新生企業投資が出資する連結子会社)および一般財団法人社会変革推進財団が運営する日本インパクト投資2号投資事業有限責任組合(「2号ファンド」)

ファンド総額は26億円(201912月末時点)で、投資対象は「子育てや介護等のさまざまなライフイベントを経ながらも、あらゆる人々が働き続けられる環境づくりに資する企業、次世代人材の育成に寄与する教育・保育サービスを提供する企業、育児と介護の両立支援事業を営む企業等の「子育て・介護・新しい働き方関連事業」としており、投資金額は1件当たり15億円となっています。

投資対象の選定や投資の実行において、従来のベンチャー投資は経済性の面からの合理性とリスクを評価・判断するという手法を採用するのに対して、社会的インパクト投資の場合は経済性に加えて社会性の面からも合理性とリスクを評価・判断することになります。

つまり投資対象となる中小企業の事業が社会的に意義のあることが、事業のリターンと同等、あるいはそれ以上の有用性や重要性を創出できることが極めて重要なのです。そのためには、中小企業といえども自社の事業やサービス・商品がどのように社会に貢献するのかを明確に説明できることが大切です。

そういう意味においては社会的インパクト投資対象として選ばれる中小企業となるためには、これまで以上に広報・宣伝活動には注力する必要があると思われます。

中小企業の支援について中小企業基盤整備機構(中小機構)は何をしてくれるの?中小機構の利用方法についての記事もご覧ください。

 

<まとめ>

社会的インパクト投資とは、「財務的リターンと並行して社会的および(もしくは)環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資である。」とされており、投資判断の評価にあたって財務的評価のみならず社会的インパクト評価を加味して判断することで、投資における社会性と経済性を両立させようとするものです。今後のSDGsの流れにも乗って社会的インパクト投資の重要性は増すものと考えられます。

SDGsについては、SDGsとは? 概要や中小企業における対応について解説で詳しく解説しています。