中小企業にとっては取引先が突然倒産してしまうことによる影響には計り知れないものがあります。
例えば、売掛金の回収ができなくなってしまう可能性があること、売上のウェイトが高い取引が倒産した場合には自社の事業継続に赤信号が点ってしまうこと、最悪の場合は連鎖倒産のリスクに晒されること、などが考えられます。
そこで、取引先の倒産による自社の連鎖倒産を防ぐために倒産防止共済(正式名は「中小企業倒産防止共済」(経営セーフティ共済)と言います)が中小企業基盤整備機構(中小機構)によって、中小企業などの規模の小さい企業向けに提供されています。
1. 倒産防止共済とは
倒産防止共済とは、取引先が倒産した影響で連鎖倒産しないようにし備えるための共済制度です。
この共済制度は、担保なし、保証人なし、で掛金の最高10倍(上限8,000万円)までの借入れをすることができます。
また、共済の掛金は損金(もしくは必要経費)に算入することができますので税制の優遇措置を受けることもできます。
この共済の概要は以下の通りです。
(1)無担保・無保証人ながら、掛金の10倍までの借入れが可能
共済金の借入れは、無担保・無保証人で受けることができます。
「回収が困難となっている売掛金などの債権額」、あるいは「納付された掛金総額の10倍(最高8,000万円)」の、どちらか少ないほうの金額が共済金による貸付の上限額となっています。
(2)取引先が倒産した場合、すぐに借入れをすることができる
取引先が倒産して、売掛金などの債権回収が難しくなった場合には、その取引先との取引内容の確認が完了次第すぐに借入れをすることが可能です。
(3)共済の掛金に対する税制の優遇措置と高い節税効果
共済の掛金月額は5,000円~20万円の間で自由に選ぶことができます。
また、掛金の増額や減額も自由にすることができます。
確定申告の際もは、掛金の全てを損金(法人)、あるいは必要経費(個人)に算入することが可能なので、節税効果を享受することもできます。
(4)解約手当金を受け取ることが可能
この共済を解約した場合には解約手当金を受け取ることができます。
自己都合による解約の場合でも、掛金を1年(12か月)以上納付していれば掛金総額の8割以上が戻ります。
また、40か月以上納めている場合には、掛金の全額が戻ります。
ただし、納付期間が12か月未満の場合には掛け捨てとなってしまいます。
(5)共済金の借入れが受けられる取引先の倒産と借入れが受けられない取引先の倒産
取引先が、取引停止処分、私的整理、破産手続開始の申立て、災害による不渡り、特定非常災害による支払い不能、に陥った場合には共済金の借入を受けることが可能ですが、夜逃げの場合には借入を受けることはできません。
2. 倒産防止共済の加入資格
倒産防止共済は、継続して1年以上事業を行っている中小企業者で、以下のような加入要件にあてはまる場合に加入することができます。
(1)会社または個人の事業者
業種 | 資本金(出資総額) | 常時使用する従業員数 |
---|---|---|
製造業、建設業、運輸業その他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
ゴム製品製造業 | 3億円以下 | 900人以下 |
ソフトウェア業または情報処理サービス業 | 3億円以下 | 300人以下 |
旅館業 | 5,000万円以下 | 200人以下 |
(2)組合
企業組合、協業組合、共同生産・共同販売などの共同事業を行っている事業協同組合、事業協同小組合、商工組合、は倒産防止共済に加入することができます。
ただし、医療法人、農事組合法人、NPO法人、森林組合、農業協同組合、外国法人、などは加入対象になっていません。
(3)加入できない場合
上記のような加入条件を満たしたとしても、以下のような事項に当て嵌まる場合には加入することができません。
- 度重なる住所や事業の変更のより継続的な取引の状況の把握が難しい場合
- 事業における経理の内容が不明な場合
- これまでに借入れた共済金や一時貸付金の返済をしていない場合
- 中小機構から返還を求められている共済金や一時貸付金などの返還をしていない場合
- 所得税や法人税を納めていない場合
- 1年以上の共済金納付の遅滞、または不正などの行為により、共済契約を解除され、解除された日から1年を経過していない場合
- 不正行為により共済金や一時貸付金の借入れなどの支給を受け、または受けようとした日から1年を経過していない場合
- すでに共済の契約者となっている場合(重複加入は不可)
3. 掛金と共済金
(1)掛金
倒産防止共済の月額掛金は、5,000円~20万円までの範囲で(5,000 円単位)で自由に選択することができます。
また、掛金は掛金の総額が800万円になるまで積み立てることが可能です。
毎月の掛金の納付方法は、預金口座からの振替による払込み(振替日は毎月27日)となっています。
(2)共済金
共済金の借入条件は以下のようになっています。
① 限度額
共済金の借入額限度額は、被害額と掛金総額の10倍に相当する金額のどちらか少ない額となっています。
原則として、借入額は50万円~8,000万円(5万円単位)となっています。
② 返済期間
共済における全ての借入れには6か月間の据置期間が設定されています。
また、返済期間は借入額に応じて設定されています。
借入額 | 返済期間(含む、6か月の据置期間) |
---|---|
5,000万円未満 | 5年 |
5,000万円以上6,500万円未満 | 6年 |
6,500万円以上8,000万円以下 | 7年 |
③ 返済方法
6か月の据置期間終了後、返済期間が5年の場合であれば54か月、6年の場合であれば66か月、7年の場合であれば78か月、の均等分割で毎月返済することになります。
なお、返済期日までに返済が行われない場合には、年14.6%の違約金が課せられることになります。
④ 利子
共済金の借入れには利子がありません。
ただし、借入れをした場合には、共済金の借入額の10分の1に相当する額を払い込んだ掛金から控除することになります。
4. 倒産防止共済のメリット
倒産防止共済には以下のようなメリットがあります。
- 数多くの中小企業が加入することができる
- 取引先が倒産して売掛金が焦げ付いた場合に共済金の貸付を受けることができる
- 急いで資金が必要になった場合に無担保・低利率で貸付を受けることができる
- 掛金の全額を損金(あるいは経費)に算入することができ、決算対策に効果あり
- 掛金額を設定する自由度が高い
- 40ヶ月以上加入していれば解約した時に掛金が全て戻ってくる
- 倒産防止共済は解約してもまた再加入することが可能
5. 倒産防止共済を利用する場合の注意点
- 倒産防止共済の掛金は無理することなく払い続けることができる金額を設定
- 法人保険(死亡保険あり)との使い分けには利用目的と掛金・保険金のバランスを考慮
- 解約のタイミングに留意する(雑収入として益金参入)
- 取引先が倒産した場合に共済金を借りるのは最後の手段とする
(共済から借入をした場合には掛金総額の1/10が取り崩されてしまうので、最大限の自助努力を優先して行うことが求められます)
倒産防止共済まとめ
このように倒産防止共済は万が一の時に中小企業を連鎖倒産から守る大きな手段であるということができます。
無利子で無担保・無保証人で借入をすることができるのでいざと言う時の命綱のような共済です。
しかし、借入を行うことでこれまで支払ってきた共済金を取り崩されることになりますので、安易な利用は避けるべきだと考えます。
連鎖倒産にならないように自社で対応策を考えて実行することが一義的は重要です。
そのうえでどうしても倒産防止共済を利用する必要がある場合のみの活用をおススメします。