中小企業や小規模事業者の信用を保証してくれる保証協会。
信用保証協会法(昭和28年8月10日法律第196号)に基づいて設立されている公的機関です。
この保証協会を実際に利用すると、いったいどのようなメリットがあるのでしょうか。
また、具体的にはどのように利用できるのでしょうか。
本記事では保証協会が存在する意味や、利用した場合に起こることをご紹介していきます。
留意点も併せて知ることで、保証協会の制度を賢く利用しましょう。
信用保証協会とは
信用保証協会は中小企業や小規模事業者が円滑に資金調達できるよう、保証業務を行う公的機関です。
借入を行いたい事業者が金融機関から資金を調達する際の手助けを行います。
保証協会が保証するのは、事業者が借入れた融資を返済できない際の金融機関に対する代位弁済です。
47都道府県と4市にあり、地域密着で地元の中小企業や小規模事業者が金融機関から融資を受ける際に保証しています。
信用保証協会の仕組みと役割
信用保証制度では借入をしたい中小企業や小規模事業者と、金融機関、保証協会の3者が登場します。
保証協会の役割は、借入をしたい中小企業や小規模事業者と金融機関の間を取り持つことです。
信用保証協会を利用した場合
保証協会を利用すると、中小企業や小規模事業者は金融機関から信用保証付き融資を受けられます。
まず行うのが中小企業や小規模事業者と保証協会が保証契約を結び、借入者から保証協会へ保証料の支払いです。
その後、保証協会が金融機関に対して、中小企業や小規模事業者が返済不可能になった時に、融資残高を保証協会が立替えて支払うことを保証。
金融機関にとっては、資金を回収できないリスクを減らせます。
この仕組みを使って金融機関が中小企業や小規模事業者へ資金を貸し付けるのが、信用保証付き融資です。
信用保証協会を利用しなかった場合
保証協会を利用せず中小企業や小規模事業者が金融機関から受ける融資を、プロパー融資といいます。
事業内容や業績などが高く評価されれば、その中小企業や小規模事業者は金融機関にとって優良な貸付先です。
金融機関の方から依頼して融資を行うケースや、中小企業や小規模事業者にとって嬉しい、低金利での融資となることもあるでしょう。
逆に信用度が極端に低い中小企業や小規模事業者が無理にプロパー融資を受けようとすると、審査に通過できない場合が発生します。も
しも審査に通ったとしても、担保や保証人を必要とし、通常よりも高い金利での融資となってしまうかもしれません。
信用度の低い借入者に対しては、金融機関が信用保証協会付きを融資条件として提案する場合もあります。
金融機関が保証協会付き融資を推進する理由
金融機関にとって信用保証付き融資は、貸し倒れのリスクが少ない状態で利益を得られる制度です。
融資をすれば利子収入が発生するため、基本的にはできるだけ長期で融資を行いたいという心理が働きます。
一方、中小企業や小規模事業者が返済不可能となり貸したお金が戻ってこなければ、大きな損失です。
そこで保証協会付き融資が出てきます。
中小企業や小規模事業者が返済できなくても、保証協会が8~10割を立て替えて返済してくれるので、金融機関にとっては低リスクで融資を行える手段と言えるでしょう。
信用保証協会を利用するメリット
保証協会を利用すれば、借入を行いたい中小企業や小規模事業者にとって多くのメリットがあります。
代表的な4つのメリットは以下のとおりです。
融資枠を拡大できる
金融機関から直接融資を受けるプロパー融資と、信用保証付き融資を併用すれば、全体の融資額を拡大できるでしょう。
より多くの資金を集めたい場合に便利です。
2020年度上期末におけるプロパー融資と信用保証付き融資の利用状況によれば、融資を受けている中小企業のうち26.3%がプロパー融資と信用保証付き融資を併用。
2018年度よりも2.5%伸びており、併用を始める企業が増えてきていることが分かります。
参照:日本政策金融公庫 信用保証に関する金融機関アンケート調査結果の概要
より長期の借入れができる
保証協会には長期の借入れに対応した制度も。
経営力強化保証制度では、運転資金なら5年以内、設備資金であれば7年以内の保証期間が設けられています。
既に保証を受けており、借り換えを行う場合は10年以内です。
小口零細企業保証制度では、多くの協会が保証期間を10年以内と定めています。
具体的には各地域の保証協会によって異なるため、対象の信用機関に問い合わせをしてみましょう。
法人代表者以外の連帯保証人は原則不要
信用保証融資では、金融機関に連帯保証人を提出する必要が原則なくなります。
なぜならば、代わりに保証協会が中小企業や小規模事業者の立場を保証してくれるからです。
ただし企業名義の申込の場合のみ、その企業の代表者が連帯保証人となる必要が発生します。
担保がなくても融資を受けられる場合がある
信用保証制度は原則、借入を行う中小企業や小規模事業者に担保がなくても利用できる制度です。
金融庁によって金融機関は必要以上に担保・保証に依存せず融資を行うよう促されており、金融機関のリスクを守るために信用保証制度が推進されています。
また担保がある場合は、流動資産担保融資保証制度(ABL保証)や経営力強化保証制度が利用可能です。
より条件の良い保証制度を活用して多くの資金を集められるでしょう。
参考:金融庁
利用における留意点
保証協会には多くのメリットがあることがわかりました。
しかし気を付けなければいけない点も存在します。
無条件に信用保証付き融資を申し込んでしまうと、実際にはプロパー融資の方が良い条件だったり、必要な期間に融資が間に合わなくなってしまったりする可能性が出てくるでしょう。
保証協会を利用する際の留意点として、以下のようなものが挙げられます。
保証料が発生する
プロパー融資の利息は1~3%程度です。
保証協会を利用すると、利息に加えて0.45~1.9%の信用保証料が発生します。
トータルで支払う費用が1.5倍以上になってしまうのです。
また保証料は融資残高に対して前払いで引かれるので、融資額の全額を使うことはできません。
例えば、1,000万円を保証協会付き融資で借入れた場合で考えてみましょう。
保証料が1.3%だったとすると、1,000万円が振り込まれると同時に保証料の13万円が引き落とされます。
実際に資金として利用できるのは987万円です。
保証審査を通らなければならない
プロパー融資でも信用保証付き融資でも、融資を受けるには審査に通らなければなりません。
融資を受けたい中小企業や小規模事業者が提出した決算書や試算表を基に融資を行うかどうかを判断し、融資を行う場合は金利や保証料を決定するのです。
保証協会付き融資では、まず保証協会が保証審査を行います。
その後プロパー融資と同様に金融機関による審査が行われますが、基本的に保証協会の審査を通過していれば通過できることがほとんどです。
ただし、実質的な審査を行っているのは保証協会でも、100%通過する訳ではないことを覚えておかなければなりません。
審査にかかる時間や手間も懸念点です。
保証協会と金融機関の2段構えとなるため、書面のやり取りや手続きは倍増します。
作成しなければならない書類も増え、予想以上に時間が掛かるかもしれません。
信用保証付き融資は申し込みから融資実行までに、2~3カ月の期間が掛かるでしょう。
保証付き融資を返済できなくなった場合
信用保証は万が一の際に支払い責任を担ってくれる制度ではありません。
保証協会は借入者が借入金を期限までに返済できなくなってしまった場合に、金融機関へ8~10割の金額を代位弁済します。
代位弁済とは、返済者の債権を持ち肩代わりして金融機関に債務額を支払うこと。
この制度があるため金融機関は貸し倒れのリスク少なく融資を行えるのです。
代位返済が発生した場合、返済者は金融機関に代わって保証協会から返済を請求されます。
信用を失うので以降の保証協会利用は難しくなり、新規のプロパー融資を受ける際も非常に厳しい審査となるはずです。
保証料の計算方法
信用保証料の計算式は原則以下の通りです。
信用保証料率は借入を行う中小企業・小規模事業者の経営状況に応じて決められます。
保証協会によって9段階の金額が設定されており、事前の審査によってどの金額を適用するかが変わる仕組みです。金額や審査の詳細は、保証協会のHPなどで確認してみてください。
分割係数は、保証料を何回に分けて支払うかによって決まります。
6回以下であれば0.70、7回〜12回は0.65、13回〜24回は0.60、25回以上の場合は0.55です。
例えば、1,000万円を5年間で返済する予定で信用保証を利用すると仮定します。保証料率が1.35%だった場合の計算式は以下になります。
2年半で返済できる場合はこのように変わります。
返済期間が短くなると分割係数が上がりますが、全体の保証料は下がる仕組みです。
参考:東京信用保証協会
信用保証協会の利用をおすすめするケース
保証協会はどんな立場やシーンに適しているのでしょうか。
中小企業や小規模事業者が融資を受けやすくなり、一定期間自由に使える資金を獲得できるので、以下のような場合におすすめです。
創業資金を調達したい
新規事業や企業の創業時にはまとまった資金が必要です。
自己資金の範囲内でこれから始める事業の規模を制限するのではなく、金融機関からの融資を受けて資金調達を行えば、スタートアップからライバル企業よりもスピード感を持って事業を展開していけます。
事業計画を作成して報告することで、より良い条件の融資を受けられるかもしれません。
プロパー融資との併用で必要最大限の創業資金を獲得しましょう。
金融機関直接の審査に通らない
プロパー融資の審査に何度も落ちている場合でも、信用保証付き融資ならば審査を通過できるかもしれません。
信用保証付き融資を受けて獲得した資金で事業を改良し、しっかりと期限内に返済すれば金融機関からの評価も上がります。
次回以降にまとまった資金が必要な際に、プロパー融資を受けられる可能性が増えるかもしれません。
保証人を立てるのが難しい
保証人を立てるのが難しい場合も保証協会の利用がおすすめです。
信用保証付き融資では、金融機関に連帯保証人を提出する必要が原則ありません。
の回りの人に無理に連帯保証人になってもらうよりも、保証料を支払って、融資を受ける方がよい場合は信用保証付き融資を利用するべきです。
会社の資金繰りが厳しく、まとまった資金調達が必要
会社の資金繰りに苦戦している場合にこそ、保証協会の利用がおすすめです。
プロパー融資では借りられなくても、信用保証付き融資であれば審査が降りるケースが多数あります。
またプロパー融資の審査結果が芳しくなく、利用条件が厳しい場合にも信用保証付き融資を検討すべきです。
保証協会を利用した方が良い条件で融資を受けられる場合があります。
返済期間も長く設定している制度が多くあるので、企業の根本的な立て直しに着手できるようになるでしょう。
実際に利用する際の流れ
最初に、借入をしたい中小企業や小規模事業者が保証協会、または金融機関へ保証を申し込みます。
次は保証協会と金融機関からの審査です。
審査は申し込みの内容と事業内容や業績などから判断します。審査に通った場合はこの段階で保証料率が決定するはずです。
その後、金融機関が融資を実行。融資額から保証料率が差し引かれた金額が振り込まれます。
借入をした中小企業や小規模事業者が期限内に借入金の返済と金利を支払えば、一連の流れは終了です。
メリットが多い場合は保証協会を利用しましょう
資金調達を行うにあたってプロパー融資でも問題ない場合、わざわざ保証協会を利用する必要はありません。
良い条件で融資を受けられ、金額も十分であれば、保証料のかからないプロパー融資を選択してください。
保証協会を利用すれば、プロパー融資では難しい資金調達を補うことができます。
メリットや留意点をよく理解して賢く使うのがおすすめです。