銀行からの貸付を上手に利用することで自社の成長を促すことができます。
銀行からの貸付を利用する際に気をつけなければいけないポイントはどのような点なのか、銀行および企業の視点から説明します。
1.銀行が貸付をする目的
銀行にとって貸付はメインの商品と言ってよいでしょう。
貸付には多くの種類がありますが、そもそも銀行が貸付を行う目的はどこにあるのでしょうか。
銀行は多くの預金者から資金を集めています。
今は金利が非常に低い状態ですが、それでも預金者には預金利息を払わなければいけません。
集まった預金をそのままにしておいては1銭の利息も生み出すことはできません。
そのため銀行は集まった預金を原資に資金運用をする必要があります。
資金運用の手段としては、リスクの少ない国債での運用や企業への貸付などがあります。
日本国債は返済されない(デフォルトが発生する)リスクは非常に低いですがその分利率も低く抑えられています。
反対に貸付については企業の信用状態に合わせて利率を設定することができますので、銀行の目利きの力が試されることになります。
本来銀行はこのように世間で余剰となっているお金(資金)を、お金が必要な人に融通すること(間接的に資金をつなげること)を生業としています。
この間接金融の担い手として銀行は大きな存在感を示してきたのです。
(現実には預金者からの資金だけでなく、金融市場から資金を調達することもあります。)
また銀行は長い間貸付業務を行ってきていますので、どういう人であれば貸し付けた資金がきちんと返済されるのか、反対にどういう人に貸すと返ってこないのか、という膨大なデータを持っています。
それらのデータは貸付の可否を決定するための審査というプロセスにおいて「審査基準」として体系化されています。
銀行によって審査基準は若干異なっていると思われますが、注意すべきポイントは大きくは変わらないと考えられます。
適正な貸付の金利を設定して、企業がその資金を活用して業績を伸ばし、さらに大きな事業投資を行う、という成功サイクルを確実にまわして経済を成長させることが銀行の使命だと言えるでしょう。
2.企業が貸付を受けたい理由
企業にとっても銀行からの貸付は非常に重要な意味があります。
企業が儲かってそのお金をもとに事業投資をすれば利益の範囲内での投資になるので企業はさほど大きなリスクを負うことはないでしょう。
現実に内部留保の範囲内での新規投資しか認めていない企業もあります。
しかし、大きな成長が期待できる分野へ進出するには内部留保された資金では限りがあることが多分に予想されます。
そのため企業は銀行からの貸付を利用して成長分野への投資を行うことで、次のステージに向けた事業計画を実践することができるのです。
もし銀行からの貸付がなかったら多くの企業では新商品開発や生産工程の見直しなどの企業を発展させる施策を打つことができず、日本経済は停滞したままになってしまったでしょう。
また企業が銀行から貸付を受けたい理由には「評価」という視点もあります。
銀行から大きな金額の資金貸付をうけた企業は、例えば取引先から「○○工業さんはメガバンクのA銀行から△△億円の貸付をうけて新しい工場を建設するらしい」「これからはもっと取引を増やしてパイプを太くしたほうがいい」といった評判が立ちますので、今後の商売にもプラスになります。
銀行からの貸付は資金を確保するという実質的利益に加えて、世間からの評価が上がるという目に見えない利益も享受することになるのです。
加えて企業の立場からすると銀行からの貸付は返済しなければいけない資金なので会社の業績をしっかりと計画通りに進めていく必要があります。
銀行からも、業績報告などの際に、適切な助言をもらえることがあるかもしれません。
銀行も貸付の効果を見守っているからです。
つまり銀行からの貸付には、企業経営に対する銀行からのアドバイスやコンサルティングという副次的な効果も期待できると言えるでしょう。
3.貸付を受けたいときに注意すべき点とは
それでは企業が銀行から貸付を受けたいときにどのような点に注意をすればよいのでしょうか。
これまでに取引がある銀行であったらお互いに貸主、借主としてよく知っていることが多いでしょうが、銀行であれば情勢によって貸付のスタンスは変化しますし、企業側もその時々で事業に臨む姿勢が異なることは想定されます。
しかし基本的には貸付を望む企業としては、誠実に真摯な態度で貸付を希望していることを銀行に伝えることが重要です。
自社の現状が悪化しているにもかかわらずその状況を隠して、実態よりも良い姿を銀行に示そうとする気持ちはわからなくもないですが、それは虚偽の情報を伝えることに他なりません。
場合によっては財務諸表などを改ざんする場合も考えられますが、それは詐欺行為にあたる可能性もあります。
自社の課題と考えている部分は正直に銀行に伝えるとともに、その課題に対して今後どのような対策を行っていくのか、を丁寧に報告することが肝要です。
問題点を報告するだけでは、事業展開に対する経営者としての資質に疑問を持たれてしまいますし、貸付を行った後の会社の成長にも不安を与えてしまいます。
会社として今後の対策案を提示するとともに、銀行にも課題解消の手立てを考えることへの協力や対策案の実行に対するサポートを申し出ることで、銀行との協調体制を構築していく態度を理解してもらえることになるでしょう。
しかしながら、誠実な態度は重要ではあるものの、銀行を必要以上に信用することについては注意が必要です。
銀行も営利企業ですので「儲けるため」という部分は皆無ではありません。
長い取引期間の間でお互いの信頼が醸成されるという面は否定はしませんが、バブル崩壊以降の貸し剥がしなどのニュースを聞くと環境によっては銀行もスタンスを変えざるを得ないことが起こります。
銀行に嘘をつくことは決してしてはいけませんが、過剰な担保提供や保証人の用意などは場合によっては大変な目にあう可能性があります。
必要以上にドラスティックな取引交渉をする必要はありませんが、経済的には貸付の利息を支払うことで銀行とはイーブンの関係ですので、第三者的な視点で公平な貸付が行われるような条件かどうかを確認する必要があります。
4.貸付を実行するときに銀行は何を見ているのか
銀行が貸付の可否を決めるためには審査を行います。
資金使途に問題はないか、返済は滞りなく実行される見込みか、万が一貸付の返済が困難になった時の保全は問題ないか、といった点を見極めるのです。
資金使途については、過剰貸付にならないかといった貸付金額だけでなく、設備投資などの目的に応じた適切な貸付かどうかといった点を審査します。
目的以外に貸付金を利用したことが判明した場合には、銀行からペナルティを課されることがありますし、最悪の場合は全額返済を求められる可能性があります。
次いで貸し付けた資金でビジネスを拡大するようなケースでは事業計画の確実性を審査されることになります。
生産計画や販売予想などの提出資料と経営陣や事業の担当責任者からの説明をもとに銀行が判断を下すことになります。
貸し付けた資金を有効に利用して会社の成長に寄与できる貸付になるかどうかを確認します。
しかしあくまで計画上の話なので、最悪の場合、銀行が貸し付けたお金を回収する手立てがあるのかどうかも審査されます。
物的保証としては担保を差し入れること(不動産に抵当権を設定する、保険証券に質権を設定する、など)、人的保証としては保証人を用意すること、が考えられます。
金融機関によっては十分な担保やしっかりした保証人さえあれば安易に貸付を行うケースもあるようですが、金融機関としての目利き能力=審査能力がないことを示しているとも言えます。
また、他の会社や経営者の保証人となる場合には、自分の返済可能性を十分に考えて引き受けることが重要です。
銀行貸付まとめ
銀行からの貸付は昨今ますますハードルが上がっているようです。
企業にとっては多様な資金調達手段が増えてきている状況ではあるものの、中小企業にとって銀行からの貸付は極めて重要な資金調達の方法です。
ただし、銀行との信頼関係構築とビジネスパートナーとしての節度あるスタンスの確保を両立させることが大切です。