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労働安全衛生マネジメントシステムの概要と活用の効果

OSHMS【労働安全マネジメントシステム】 業務改善

OSHMSとは、Occupational Safety and Health Management Systemの頭文字を繋げたもので「労働安全衛生マネジメントシステム」を指しています。OSHMS(労働安全衛生マネジメントシステム)は、事業運営者が労働者の協力下において、PDCAサイクル(計画(Plan)→実施(Do)→ 評価(Check)→ 改善(Act)の一連のプロセスを定めて、継続して自主的に安全衛生管理を進めることで、労働災害防止と労働者の健康の増進、そして快適な職場環境を整備して、労働現場におけるの安全衛生のレベル・アップを図ることを目的にしている安全衛生管理における仕組みのことです。

本稿では、OSHMSの概要、OSHMSの特長と実施方法、OSHMSの構築方法や整備手段、などについて詳しく解説します。

1.OSHMSの概要

OSHMSとは「労働安全衛生マネジメントシステム」のことで、わが国においては「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針(OSHMS指針)というものが厚生労働省によって定められています(1999年厚生労働省告示第113号、2006年改正、2019年改正)。さらに、グローバルスタンダード(国際的な基準)として国際労働機関(ILO)においてOSHMSに関するガイドラインが、国際標準化機構(ISO)においてISO45001が、それぞれ策定されていて、上述した厚生労働省の指針は国際労働機関のガイドラインを踏襲しています。

実際にOSHMSを構築する場合には、こららのガイドラインやルールなどは基本的な原則を整理したりまとめたりしたものなので、細かい部分に関しては、特段こうでなければならないという決まりや手順などが定めれているものはありません。自社の現場における安全衛生管理活動の現状をしっかりと確認して、その現状にマッチするように取り組まなければならない項目を定めて、無理がないように対応可能なところから手を着けて、丁寧に構築していくことが重要になります。

OSHMS導入の背景としては、グローバルな流れと日本国内の動き、に2点を挙げることができます。最初のグローバルな流れとは、国際標準化機構の、ISO9001品質マネジメントシステム、そしてISO14001環境マネジメントシステム、とISO基準の普及が進んでおり、労働安全衛生においてもISO基準が必要と考えることは自然だと思われたからです。そして2つめの日本国内の動きとは、厚生労働省(当時は労働省)が、労働災害の発生件数が下げ止まった要因を、ベテラン労働者が退職することにより、勘と度胸だけを頼りにした、あるいは、いつまでも決着がつかないもぐら叩き的な対応にある、と指摘したことに端を発します。労働における危険や有害な要因を明確に特定して、リスクを評価してそのリスクを極力抑制するという対策を組織的・体系的に実行して、労働安全衛生のレベルを段階的に向上させる仕組み、つまりOSHMSを導入することを推進するようになったのです。

(1)OSHMSの特長

  1. 全社的な推進体制
  2. リスクアセスメント(危険性あるいは有害性の調査)とその結果に基づいた措置
  3. 自律的なPDCAサイクル構造システム
  4. 手順化、明文化、記録化

①全社的な推進体制

OSHMSにおいては、経営者による労働安全衛生に対する方針の表明、OSHMS運用のための役割・責任・権限を定めて適正にOSHMSを実施、運用する体制の整備、が必要としています。また、経営者は定期的にOSHMSの見直しを実施しなければならず、経営と労働安全衛生とを一体として運営するシステムを組みこむとともに経営者の指揮下で全社的に労働安全衛生管理を推進しなければなならない、とされています。

②リスクアセスメント(危険性あるいは有害性などの調査)とその結果に基づいた措置

OSHMSにおいては、リスクアセスメント(危険性あるいは有害性などの調査)を実施して、その評価の結果に基づいて労働者に対する危険や健康被害などを防ぐために必要となる置を採用することとしています。これは、リスク評価の実施と実施結果を受けた対応措置の実施、をOSHMSの中核として定めているものです。

③自律的なPDCAサイクル構造システム

OSHMSとは、PDCAサイクルを回しながら労働安全衛生計画に基づいた、自主的・継続的な労働安全衛生管理を実行するシステム(仕組み)のことです。また、これまでのわが国における労働安全衛生管理においてはあまりポピュラーではなかったシステム監査を実施することによって相互牽制機能(チェック機能)が効果を発揮することになるのです。よって、効果的にOSHMSが運用されることにより、労働安全衛生の目標達成を通じて、現場全体の労働安全衛生レベルがスパイラル的にアップすることを期待することが可能な自律的なシステムといえるのです。

④手順化、明文化、記録化

OSHMSにおいては、適正にシステムを運用することを目的として、関係者の役割、責任、権限、などを明文化(明確に設定して文書化)することが求められています。さまざまな手順などの明文化によって、労働安全衛生管理のナレッジやノウハウが正しく組織内で引き継がれていくことに資するものになります。また、OSHMSに沿って実施された措置に関しては、そうした記録を保存しておくことも重要になります。

(2)OSHMSの規格

現時点ではOSHMSの規格として、

  1. ILO指針
  2. 厚生労働省指針(平成18年厚生労働省告示第113号)
  3. 中央労働災害防止協会JISHA方式適格OSHMS基準
  4. OHSAS18001:2007年版

が定められています。

①ILO指針

ILO指針の正式な名称は、「労働安全衛生マネジメントシステムに係るILOガイドライン」であり、ILO(国際労働機関)に加盟しているそれぞれの国が労働安全衛生に関するマネジメントシステムのフレームワークや基準を策定する際の手引になる文書である、と位置付けることができるもの、とされています。

また、ILO指針は、『序文、1.目的、2.国のマネジメントシステムのフレームワーク(枠組み)、3.現場のマネジメントシステム、用語集と参考書目録』、という項目で構成されています。ILO指針では、2.3 業種別・規模別ガイドラインのように、業種や企業サイズなどを考えて労働現場やグループ企業などの実態やニーズなどを踏まえて(特にグループ企業などではガイドラインを任意に)策定することが可能になっている、ということを定めています。

②厚生労働省指針(1999年厚生労働省告示第113号、2006年改正、2019年改正)

わが国における厚生労働省指針とは、正式名称を「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」とする厚生労働省(策定当時は労働省)によって定められたガイドラインのことです。この指針の目的は、労働者の協力下で事業者が一定のプロセスを定めて自主的に労働安全衛生活動を促すことで労働災害を防ぐとともに、労働者の健康増進と職場の快適な環境形成も促して、全社的な労働安全衛生のレベルアップに貢献すること、となっています。

③中央労働災害防止協会(中災防)JISHA方式適格OSHMS基準

中央労働災害防止協会JISHA方式適格OSHMS基準とは、労働現場でOSHMSが前述した厚生労働省指針(1999年厚生労働省告示第113号、2006年改正、2019年改正)に則って適切に導入されていて、労働安全衛生レベルの段階的な向上を目的に適切に実施・運用されているか、を判断するための基準です。この基準は中央労働災害防止協会(中災防)が策定しており公表しています。なお、中央労働災害防止協会(中災防)とは、経営者による自主的な労働災害の防止活を促して、労働安全衛生のレベルアップを図り、労働災害をなくすことを目的として、労働災害防止団体法に基づいて1964年(昭和39年)8月1日に労働大臣(当時、現在の厚生労働大臣)からの認可で設立された公益を目的とする法人です。

④OHSAS18001(2007年版)

OHSAS 18001(2007年版)とは、労働安全衛生マネジメントにおけるベストプラクティスの基準を定めているものです。OHSAS 18001に沿った労働安全衛生のマネジメントシステムを策定・導入することによって、取引先や従業員などからの信頼を得られるのみならず自社の組織やビジネスに関するバリュー(価値)の向上を図ることも可能になります。

また、OHSAS 18001は労働者の健康を(含む精神面)を守るための戦略的なリスク管理のためのツールでもあります。OHSMは、企業組織と従業員たちの安全衛生健康面のマネジメントを、体系立てて会社経営の重要なツールとして導入するためのの戦略的なツールである、とも言うことができます。OHSMSを導入することによって、事件や事故、組織を取り巻いている脅威、といったリスクを特定・管理して自社組織の健全でスムーズな運営をすることが可能になります。

上述した各規格はどれもPDCAサイクルが基本になっているので、どの規格であっても大きな差異は存在しません。上記のうちで、認証用規格は③中央労働災害防止協会JISHA方式適格OSHMS基準と④OHSAS18001:2007年版の2つとなりますが、③中央労働災害防止協会JISHA方式適格OSHMS基準では認証取得費用は日本国内のみで通用します。また④OHSAS18001:2007年版は、今のところ、唯一の世界的なOHSMS認証用規格となっています。こららの認証を受けるのかどうか、輸出などの海外取引濃霧なども考慮しなければならないでしょう。また、OHSAS18001はISO14001とだいたい同じような内容です。したがって、環境マネジメントシステムと統合することの要否なども考慮したうえで、どの規格を採用するか、ということを決めることが重要になります。

 

2.OSHMSの導入ステップ

実際にOSHMSを自社内に導入するためには以下のようなステップを踏むことが必要になります。

(1)基本的な仕組みの導入

  1. 労働安全衛生に関する方針表明
  2. リスクアセスメントと実施事項を決定
  3. 労働安全衛生目標を設定
  4. 労働安全衛生計画を作成
  5. 安全衛生計画の実施など
  6. 日常的な点検と改善など

(2)基本的な仕組みを効果的に実施

  1. 労働安全衛生に関する方針表明
  2. 体制整備
  3. 労働者の意見反映
  4. 明文化
  5. 記録
  6. 緊急事態への対応
  7. 労働災害の発生原因の調査など

(3)仕組みの見直しを実施

  1. システム監査を実施
  2. 労働安全衛生マネジメントシステムの見直し

(1)基本的な仕組みの導入

OSHMSの導入ステップとしては最初に基本的なOSHMSの仕組みを導入することから始めます。

①労働安全衛生に関する方針表明

基本的な仕組みを導入するためには、最初に労働安全衛生に関する方針を表明することからスタートします。労働安全衛生の方針は会社(現場)として労働安全衛生に対する取組スタンスを会社の内外に公表するものになります。会社の経営トップが、自身の労働安全衛生に対する考え方、重点的な課題への取り組み姿勢、などについて表明します。また、この方針はOSHMSの運用上、派遣社員、パート、アルバイト、などを含む全ての従業員が依拠する判断基準になるので、OSHMSへの取組にいける基本的な考え方を表しているものでもあります。

労働安全衛生の方針表明では以下のような点に注意しましょう。

  • OSHMSに則って、健康、安全、快適、に働くことができる職場を従業員全員で作り上げるために、これまでの現場における労働安全衛生活動の実際の状態をよく考えてこれから進むべき方向を示しようにします。
  • 会社の経営トップが文書化された方針に署名します。
  • 派遣社員、パート、アルバイト、などを含む全ての従業員は当然ながら、関係請負人などのその他の関係者にも労働安全衛生方針を周知・理解してもらうために、なるべくわかりやすい表現を心がけましょう。
  • 労働安全衛生は、生産性、品質保持、を実施してから考えれば十分である、労働安全衛生においては重点的に労働者の不注意をなくすように努める、などの労働安全衛生を軽く見做しているような方針は不適切でしょう。

労働安全衛生方針を作成するためには、以下のような具体的なチェックを実施します。

  • 現場が属している会社の経営方針や経営理念をチェックします。
  • あるべき現場の姿を描くとともに実際の状態と比べて改善が必要な課題を抽出します。
  • 上記の2点を踏まえて、これから事業場が進むべき方向や到達すべき水準を経営トップが判断して取り組むべき重要な課題を決めます。

②リスクアセスメントと実施事項を決定

リスクアセスメントと実施事項を決定、はOSHMSのコア(中核)となるべき要素で、OSHMSに関する活動の成否を決定付けるとても重要なステップになります。例えば、災害発生ゼロ(無災害)を続けているような事業場であってもリスク(危険の芽)は日常的に潜在しているもので、ある時点で複数のファクター(要因)重なってしまうと突然想定外の災害が発生し得る、ということを念頭に置いて職場の全体を対象としてリスクの洗い出しを実施します。

そうしたリスクが顕現化した場合の影響の大きさを事前に見積もっておいてリスクの優先順位を決めておきます。具体的には、より重大な影響を与えるものと考えられるリスクから優先的に対策を検討・実施して未然に災害を防ぐようにします。災害が発生してから対応するような後追いタイプのリスク対応策では大きな経済損失を発生させてしまう可能性が高いといえますが、先取り対応タイプのリスク対応策では余計なコストの削減も図ることが可能です。また、労働安全配慮義務を実際に履行をしていることにもなるのでソーシャル・リスポンシビリティ(社会的責任)の観点からも要請されているアカウンタビリティ(説明責任)も果たすこととなるでしょう。

③労働安全衛生目標を設定

次いで、労働安全衛生目標を設定するステップへ進みます。経営トップが表明することになる労働安全衛生方針は、ある程度長めの期間(中長期間)を意識したものになりますので、当該方針に基づいて最終的な目的に到達するためには一定の期間毎にステップ・バイ・ステップ(段階的)で具体的に達成目標を設定して、目標達成のために必要な具体的なアクションプラン(行動計画)を一定の期間毎の事業計画の中に活動計画に織り込むようにします。一定期間を終えたら目標の達成状況をレビュー(評価)して、これまでの活動の実績を振り返って改善すべき事項を次の期間におけるアクションプランに反映させます。方針策定→目標設定→計画立案、が一連のサイクルとなります。

このステップでは、

  • 目標設定においては、その達成手段が明確であり、達成度合いが評価可能な定量的な数値で設定することが重要になります。
  • これまでの活動状況を踏まえて現実離れをしていないことが必要となります。
  • 高い目標設定をするというスタンスは重要ではあるものの、実現するための経営リソース(人、モノ、金)の有無や利用可能度合いなども考える必要があります。
  • 活動環境に変化が生じて実態との乖離がおおきくなってきたような場合には、一定の手続きを経たうえで見直すことも重要です。
  • 災害発生ゼロの達成、安全・健康で快適に労働することができる職場の実現、といったローガンのようなものは不適切な例として挙げることができます。具体的かつ定量的に数値化して設定することが必要です。

④労働安全衛生計画を作成

次のステップは労働安全衛生計画の作成です。経営者は、事業場における労働安全衛生をレベルアップさせるために、自社の事業に関連している様々な法規の規定を守りながら、会社のリスクアセスメントの実施結果などに基づいて、一定の期間を定めて、目標達成スケジュールを含んだ労働安全衛生計画を作成します。労働安全衛生目標を達成するために必要な労働安全衛生に関する自主的な活動も盛り込まれて、かつ適切に実施することが可能な計画内容にします。

また、以下のような点には留意しましょう。

  • 既に過ぎた年度における、労働安全衛生計画の実施状況、労働安全衛生目標の達成状況、(なお、関連法規の規定は既に実施されている、ということが前提になりますが未実施であれば目標に加えすぐに実施状態にすることが必要になります)、OSHMS指針の第 15 条にある「日常的な点検の結果」、事業所で実施済みのリスクアセスメント結果、OSHMS指針の第 16 条にある「労災・事故等の原因の調査結果」、労働安全衛生教育の内容と実施時期、下請事業者における関係請負人に対する措置内容と実施時期、OSHMS指針の第 17 条にある「システム監査結果」などを踏まえて労働安全衛生計画を作成します。
  • 重点項目を区分したうえで、加えて具体的な実施事項に関する計画を労働安全衛生計画に記載します。
  • 翌年度以降においても引き続いてスパイラルアップした目標や計画を作成することを認識しておくことが重要です。
  • 労働安全衛生計画の作成メンバーは、管理職(マネージャークラス)のみならず、作業担当者などにも参画してもらって、そういた意見も反映するようにします。また、この計画作成メンバーには進捗管理の機能も担ってもらうようにします。
  • 労働安全衛生目標毎に担当する部署とバジェット(予算額)を記載することが必要です。
  • 具体的な実施事項を細分化したうえで、事業所における最小単位の職場別の目標を明確に設定します。
  • 労働安全衛生計画は管理職だけでなく各職場の従業員全員に対して自分の役割を周知徹底させることが重要です。

⑤労働安全衛生計画の実施、など

労働安全衛生計画を作成した次は計画実施のステップへと進みます。適切にそして継続的に実施する必要があるので、労働安全衛生計画の進捗管理や必要事項を従業員などに周知させる「方法」などを決めることになります。労働安全衛生計画を継続的に実施していく中で最も重要なポイントは、経営者による熱意に満ちたリーダーシップの発揮(旗振り)、になります。職場での経営者との会話は従業員に対して強いインパクトを与えることになります。一番この点に留意すべきです。そして、「方法」に定める事項としては労働安全衛生計画に基づいた活動などを実施する際の具体的な内容の決め方、費用の執行方法、などが必要です。

具体的には、労働安全衛生計画を実施するための方法(手順)を作ること、方法(手順)に基づいて労働安全衛生計画を実施すること、労働安全衛生計画を実施するために必要となる事項を従業員たその他の関係者に周知する手順を決めること、その手順に則って必要となる事項を周知すること、を実行します。

⑥日常的な点検と改善など

次は日常的な点検と改善、というステップになります。経営者は、労働安全衛生計画が実施されている状況、といった日常的な点検と改善を実施するための手順を決めて、その手順に基づいて労働安全衛生計画の実施状況などの日常的な点検と改善を実施します。また、次の期間における労働安全衛生計画を作成する場合に、日常的な点検と改善の結果を踏まえたうえで、システム監査の結果を反映してスパイラル的に向上させた計画を作成するようにします。こうしたステップをしっかりと実施することでシステムの有効性が担保されることになるのです。

安全衛生計画実施状況などの日常的な点検、とは目標達成のために着実に進捗していることを点検するものになりますが、同時に、前提となっている法令の遵守に関してもしっかりと実施していることもチェックすることが必要ですこれらを点検、監視、評価、することが点検と改善における留意点になります。もし異常な状態を見つけたような場合には、原因を調べて改善することを実施することが必要です。計画進捗の状況確認は、単年度におけるそれぞれの節目で実施することで問題ありません。

 

(2)基本的な仕組みを効果的に実施

OSHMSの導入ステップとしては、次に基本的なOSHMSの仕組みを効果的に実施することが必要になります。

①体制整備

OSHMSの仕組みを効果的に実施するためには、最初に体制整備を実施します。会社の組織体系を固めることを目的に、経営者は、OSHMS導入をスムーズに進行させるためには、従来の職制や労働安全管理の体制との関係を明確に整理して従業員に周知徹底することが重要になります。

つまり、きちんと社内を組織化することがOSHMS導入の成否の大きな鍵になっていると言えるのです。つまり、リーガル的に問題がない労働安全衛生管理体制とOSHMS体制とは、それぞれを適切に構築・運用することが必要になります。そのためには、以下の3点が重要になります。第1に「労働安全衛生法(安衛法)に基づいた管理体制の整備」、第2に 「会社(事業場)における組織体制の明確化」、そして第3に「OSHMSにおける組織体制の位置付け明確化」、です。

第1と第2に関しては、既に組織体制が完成しているとは思われますが、OSHMSを導入する際に見直しを実施して既存体制の良かった部分は活かしたままで問題点を整理することが重要になります。そのためにはOSHMS推進事務局の設置が有効だと考えられます。そこで、どのように第3のポイントとの関係を位付けるのか、が重要です。

②労働者の意見反映

経営者は、企業経営や企業活動を効果的に展開するために会社組織のトップとして、あらゆる面において意思決定を下して下位職に指示・命令したり、下位職からのさまざまな意見を吸収して、会社全体として最終的にまとめられ意思決定を実施して指示を行っています。その意思決定に至るまでの方法は、ビジネスの経営規模や経営者の経営哲学や経営理念などによって、様々な方式があると考えられます。どんな方式であれ経営者の意思決定に自身の考えをふくめて様々な考え方を反映させることが重要であることには間違いはありません。労働安全衛生活動のケースでも同様で、OSHMSの仕組みを実施するためには、トップダウンとボトムアップ(従業員の参画と協力を得る方式)の双方を推進する必要があります。そういったことを勘案すると、労働安全衛生マネジメントシステムではトップダウンとボトムアップの融合を特徴として挙げることができるでしょう。

③明文化

次のステップは、明文化、になります。まず、明文化の意義を十分に考えることが必要になります。OSHMSを社内組織に円滑に展開するためには、様々な関係者に労働安全衛生管理のシステムを理解してもらって、このシステムへの参画と協力を得ることを目的に重要事項に関して明確に文章か(明文化)する必要があるのです。また、明文化によって、システムに則った措置を組織的・継続的に実施することが可能になるのです。そしてOHSMSに対する取り組みが標準化されることになり、職位別や部門別の実施すべき事項が明らかになって適切にシステムが運用されることになるのです。

④記録

次は、記録、のステップになります。経営者は、労働安全衛生マネネジメントシステムに則って実行する施策に関して、生じてしまった必要事項をきちんと記録して管理することが必要になります。内容に関しては、現場の実際の状態に応じて無理が生じないように取り組むことが肝心です。また、記録には、労働安全衛生法において定められている記録とOSHMS運用のために必要な記録、の2種類があることには注意が必要です。運用において管理が必要な記録はOSHMSの措置の履行におけるエビデンス(証拠)となる、という重要性を有するものになります。

⑤緊急事態への対応

次いで、緊急事態への対応、のステップになります。あらかじめどういった労働安全衛生上の緊急事態が発生する可能性があるのか、を想定しておいて、必要となる準備をしておくと同時に、もしも緊急事態が生じてしまった場合における部署ごとの役割分担と指揮命令系統を設定しておくこと、そして避難訓練の実施などを行っておくことで、発生する被害を最小限に抑え込んで、拡大防止の措置が着実に実施可能なように用意しておきます。

⑥労働災害の発生原因の調査など

労働災害や労働事故などが生じてしまったような場合にはは、そうした災害などの要因をきちんと調査したうえで問題点を把握・認識して、要因を除去するような取り組みを実施することで再発防止に努めるとともに、類似した災害なども未然に防止するための予防的な措置の必要の有無を検討することが重要になります。

(3)仕組みの見直しを実施

OSHMSの導入の最後にステップは、次に基本的なOSHMSの仕組みの見直しを実施すること、になります。

①システム監査を実施

ここでは最初にシステム監査を実施します。システムに沿って行われることになっている措置が、実際に適切に実行されているかどうか、を監査します。具体的には、、文書、記録、ばどの調査、各階層のシステム管理者との面談、事業場などへの視察などで評価すると同時に、システム上で問題になるようなことがあれば指摘事項として改善へと繋げることになります。

②労働安全衛生マネジメントシステムの全体的な見直し

最後のステップとなる、労働安全衛生マネジメントシステムの全体的な見直し、は会社の労働安全衛生のレベルアップ状況、会社を取り巻く社会情勢などの変化、を勘案して、経営者自身がシステムの妥当性や有効性のアセスメント(評価)を実施して、その評価結果を受けて必要となる改善を実行することをいいます。

 

まとめ

2004年に厚生労働省が発表した「大規模事業場における安全管理体制等に係る自主点検結果によると、OSHMSを運用中、あるいは構築中、といった会社においては、こうした取り組みを行っていない会社と比較すると、3割上も災害発生率(単位:年千人率)が低いという結果が出ています。つまり、OSHMSの導入・検討は労働安全衛生のレベルアップに貢献するものであるということができそうです。自社の規模や事業特性などを踏まえて自社にマッチした方法でOSHMSを導入することをおすすめします。

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