減価償却のルールは細かく複雑なため、利用する難易度は低くはないと言わざるを得ませんが、少額の減価償却資産については簡単なルールで費用に計上することが認められています。
少額減価償却資産とはどのようなものなのか、上手な活用方法と合わせて説明します。
1.少額減価償却資産とは
減価償却資産とは、建物や機械設備などの資産のように時間の経過とともに資産価値が減少していくもののことを言います。
一方で、土地のように時間が経過しても価値が変わらない資産もあり、そのような資産は減価償却資産とは認められません。
減価償却資産の取得価額は、使用期間に応じて少しずつ費用として計上されることになります。
経費によっては取得した会計期間内で一気に全額を費用計上することが可能なものもありますが、減価償却資産についてはどのような処理は認められていません。
少額減価償却資産とは、減価償却資産のうち、簡単なルールに沿って、支出の際に全額を費用として計上することや3年間の均等償却が認められているような資産のことを言います。
中小企業や個人事業主にとっては利用価値の高い制度ではありますが、具体的には少額減価償却資産にはどのような種類があるのでしょうか。
2.少額減価償却資産の種類
少額減価償却資産には以下の3種類があります。
① 少額の減価償却資産(10万円未満、あるいは1年未満)
取得した資産が以下のどちらかに該当する場合には、利用した事業年度において全額を費用に計上することが可能です。
- 使用可能期間が1年未満
- 取得価格が10万円未満
取得価格10万円未満とは1単位ごとの金額を指しますので、応接間の家具について、テーブルが8万円、椅子が7万円、で各々が10万円以下の場合であっても、応接セットとして家具一式をセットで使用する場合には合計額が15万円となり、少額減価償却資産の対象とすることはできません。
② 一括償却資産(20万円未満)
一括償却資産の合計額は一括して3年間で費用に計上することが可能です。これは、取得価格が10万円以上20万円未満の資産に対して適用されます。
多くの資産の耐用年数は3年以上となっているため、一括償却資産にすることで迅速に費用計上することが可能になります。
また、一括償却資産は決算月に取得して使用した日数が1ヶ月だった場合であっても、1年分を費用に計上することが可能です。
ただし、通常の減価償却資産は、廃棄した場合には未償却分を全額費用に計上することができるのですが、一括償却資産の場合には除却とは無関係に、均等償却(3年間)を継続する必要があります。
③ 中小企業者等における少額減価償却資産(30万円未満)
中小企業が30万円未満の資産を取得した場合には、その全ての金額を費用に計上することが可能です。
これは、資本金の額が1億円以下の法人(中小企業)に適用され(除く、大企業の子会社)、事業年度を通じて300万円の限度額以内での適用となっています。
また、このルールの適用を受けるためには、法人税申告書には別途明細書を添付する必要があるなど、定められた手続要件を満たす必要があるので手続きには注意が必要となります。
3.少額減価償却資産を取得した場合の仕訳
青色申告の場合には、30万円未満の資産を取得した場合であれば、一括してその事業年度の経費にすることが可能である、という特例があります。
これは「少額減価償却資産の特例」と呼ばれているもので、平成30年4月の法改正により、適用期限がさらに延長されています。
2020年(平成32年)3月31日までの間に取得した資産が対象となりますが、30万円未満の少額減価償却資産を取得した場合の仕訳は、下記のようになります。
① パソコンを現金25万円で購入した場合の仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
工具器具備品 | 250,000 | 現金 | 250,000 | パソコン |
② 決算日(即時償却)の仕訳
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
減価償却費 | 250,000 | 工具器具備品 | 250,000 | パソコン
少額減価償却資産の特例により減価償却 |
もし30万円未満の減価償却資産を購入したとしても、買っただけで利用せずにそのまま放置していた資産は当該事業年度の減価償却費として計上することはできません。
また、この特例の事業年度内の合計限度額は300万円となっているので注意が必要です。
取得金額が30万円未満のものであれば、いくらでも一括して経費に計上できるというものではないのです。
例えば、新規に事業を開始した年度で、事業年度が1年に満たないような場合には、300万円を12で割って月数をかけた(月割りの)金額が本特例の限度額となるのです。
また、少額減価償却資産の特例によって計上した資産であっても、通常の減価償却で処理する場合と同様に、固定資産税の対象となることには留意してください。
4.少額減価償却資産を上手に活用するには
少額減価償却資産は節税に利用できる方法ですが、利用する際には以下のような点に注意して上手に活用することが重要です。
① 金額の判定について(税込みか税抜きか)
会社内の会計処理が税込経理を行っているような場合であれば、税込金額、つまり実際の支払金額で判断することとなります。
また、会社内の会計処理が税抜経理を行っているような場合には、消費税を含めない税抜価格に基づいて少額減価償却資産の対象可否を判断することになります。
例えば、税抜価格298,000円の商品の場合は、税込価格では30万円以上になります。
税抜経理を行っていた場合であれば、税抜価格が30万円未満となるので全額を費用に計上するすることができます。
しかし、税込経理を行っていたような場合には、原則的には法定耐用年数にしたがって費用処理することとなります。
② 償却方法の選択について
一括償却資産は償却資産税の対象外なので、一括償却を選択せずにあえて3年間の均等償却を選ぶこともできます。
通常であれば、法人税を節税するというメリットから、30万円未満の少額資産を取得した場合であれば、中小企業等の少額減価償却資産の特例を利用して取得金額を全て経費にすることが実務上多いと考えられます。
しかし、10万円以上20万円未満の資産を取得した場合に、上記の30万円未満の特例を選択(適用)しないで、3年の償却を選択(適用)するということも可能です。
30万円未満の特例を選択して取得金額を全額経費として計上した場合には、その資産は償却資産税の対象となるので、課税標準に対して1.4%の税額が除却するまではずっとかかり続けることになります。
つまり、法人税抑制の観点から、3年間の均等償却を適用することで、償却資産税を節税することが可能となるのです。
具体的には、取得価額が15万円、耐用年数5年の資産の場合であれば、1つの資産に対して累計で約5,000円の償却資産税が課せられることになります。
もし、300万円の年間上限金額まで毎年20個の資産に特例を適用すると、10年間で100万円もの償却資産税が課せられることになるのです。
会社にとって特例を適用するかどうかは慎重な検討が必要だと考えられます。
③「事業の用に供する」必要
少額減価償却資産を適用するためには、資産を取得するだけではだめで、資産を実際に使わなければなりません。
つまり、少額減価償却資産を「事業の用に供する」必要があるのです。
「事業の用に供する」とは会社の事業活動において実際に使用することで、資産を買うために支出を行ったという行為だけでは少額減価償却資産を経費に計上することはできません。
少額減価償却資産まとめ
少額減価償却資産は、節税対策として決算前に少額減価償却資産はよく利用されていますが、決算日までに事業で実際に利用する必要があることには注意してください。