1.利益改善とは
利益改善とは文字通り「利益」を「改善」することです。この場合の「利益」には、粗利益、営業利益、経常利益、当期純利益、など様々な利益が考えられますが、詳細な定義は別にして、「会社が儲けることができた金額」として問題はないでしょう。
「会計上の利益」とは、収益から費用を差し引いたものを指します。反対に、収益よりも費用のほうが多い場合には「損失」となります。利益とキャッシュフロー(主に、企業活動や財務活動により実際に獲得した収入から、外部への支出を差し引いて手元に残る資金の流れのこと)とは異なります。
利益とキャッシュ・フローを区別する理由は以下の主な2つです。
・掛けによる取引に関しては債権・債務の発生時点で損益を認識する必要があること。
・設備投資に関しては、減価償却を行う必要があること。
前述したようにコストの削減もある種の「利益改善」には貢献するのですが、本稿での利益とは会計上の利益である「収益から費用を控除したもの」とすることにして、利益改善について説明をしたいと思います。
2.利益改善のポイント
利益改善の具体的施策としては上表の3点が挙げられますが、参考までにコスト削減の施策も下表にまとめておきます。
<参考>
A.変動費の削減
具体的な施策 |
①直接材料費の削減 |
②外注費・外注単価引き下げ |
③仕入れの適正化 |
④値引き・返品の抑制 |
⑤製品構成・市場編成の見直し |
B.固定費の削減
具体的な施策 |
①人件費の削減 |
②その他固定費の削減 |
③支払利息の削減 |
それでは上表「利益改善のポイント」に記載した利益改善の具体的な施策について説明します。
(1)営業力の強化
利益改善のためには、商品やサービスを販売する営業活動をする営業マンの存在が不可欠となります。そのため、営業力を強化することは利益改善にとって最優先となるべき施策なのです。利益改善を図る際には、「量」と「質」の両面から営業力の強化に取り組むことが重要です。
まず「量」(販売数量の増加など)については、営業マンの増員やノルマの増加といった施策が効果的な方法として考えられます。しかしながら、過大にノルマの負担を増加させてしまったような場合には営業マンのモチベーションを落としてしまう可能性があり、反対に不効率な営業運営に陥ってしまう可能性があります。つまり、ノルマを増やす際には、営業マンの増加にも取り組むことが必要でしょう。
「質」(営業スキルの向上など)については、営業研修や報酬制度の充実などにより、営業マン一人ひとりの能力向上に取り組むことが効果的かつ重要です。各営業マンの営業力が強化されれば、全社的に利益が改善することに繋がるでしょう。
(2)収益力の高い商品やサービスの開発・拡販
上記のように営業力を強化できたとしても、利益の薄い「薄利多売」の取引ばかりでは十分に利益改善を図ることができないかもしれません。収益力(商品単価)が高い商品やサービスを保有していないような場合には、収益力が高い商品やサービスを開発、あるいは導入する必要があります。
もし販売数量が変わらないような場合でも、商品やサービスの販売単価が2倍になるだけで収益も2倍になるのです。既に収益力の高い商品やサービスが自社内にあるような場合であれば、その商品やサービスの拡販に力を注ぎましょう。つまり、商品やサービスの販売単価が高い商品を拡販することにより、比較的簡単に利益改善が可能となるのです。
(3)競合他社との差別化
上記のように収益力が高い商品やサービスの拡販に成功したとしても、市場での販売競争が激しい場合には、十分な利益を獲得できない可能性があります。競合他社と差別化を図ることは、利益改善の施策としては極めて難しい方法と言えます。
ライバル企業との差別化には正解がないので難易度は高いものの、もし成功すれば、持続的に利益改善、収益向上を図ることが可能になります。自社の経営資源における強みを活用することが可能であり、かつ十分な利益を得られる事業ドメインにおいて差別化を図ることが大切です。
差別化は短期間に実現できる施策ではありませんので、実際には試行錯誤を繰り返しながら利益改善を図る必要があります。
以上の3点が利益改善の主な施策です。どれか一つの実践であっても効果が出る場合もあれば、全く効果が発生しない場合もあるかもしれません。利益改善を確実に実行したければ、複数の施策を同時並行的に進めることも効果的だと考えられます。
また、近年はM&Aを活用して利益改善を図る事例も増加しています。M&Aで既存の会社を吸収・合併することにより、新規事業の立ち上げや販路拡大など、利益改善に直結するようなシナジー効果が得られる可能性があるからです。
3.利益改善に不可欠な経営分析
利益改善の施策を効果的に進めるためには、経営分析の活用も必要となります。経営分析とは、財務諸表上の指標を用いて、会社の状態を分析することを言います。経営分析は、主に「収益性分析」「効率性分析」「生産性分析」「安全性分析」の4つに分類され、それぞれ分析の目的や役立ち方が異なっています。本稿では、この内、利益改善の施策に関係が深いと考えられる「収益性分析」と「効率性分析」について説明します。
(1)収益性分析
収益性分析とは、企業がどのくらいの収益を獲得しているかを分析するもので、分析結果は企業の収益獲得能力を意味しています。
なお、「収益」性分析とは言われていますが、この分析で意味する収益は収益から費用を差し引いた「利益」を表しています。今回は以下の2つの収益性分析手法を説明します。
①総資本事業利益率(ROA)
総資本事業利益率(ROA)とは、企業が保有する全ての資本を利用して、どのくらい事業による利益を獲得できたかを表す指標のことです。この分析方法では、以下の計算式で総資本事業利益率(ROA)を算出します。
総資本事業利益率(ROA)=(事業利益÷総資本)×100
総資本事業利益率(ROA)の数値が高いほど、収益力が高い企業であるということを表しています。
②自己資本利益率(ROE)
自己資本利益率 (ROE)とは、経営者などが出資した資本を活用して、どのくらいの利益を獲得したかを表す指標のことです。自己資本利益率 (ROE)の計算では、利益には当期純利益を使用するケースが一般的です。この分析方法では、以下の計算式で自己資本利益率 (ROE)を算出します。
自己資本利益率 (ROE)=(事業利益÷総資本)×100
自己資本利益率 (ROE)の数値が高いほど、収益力が高い企業であるということを表しています。
(2)効率性分析
効率性分析とは、資産や負債などの資本を利用して、どのくらいの利益(売上高)を生み出すことができたかを分析するもので、企業の収益獲得における効率性を意味しています。効率性分析は、パーセンテージではなく、「回数」で表す点に特徴があります。
今回は下記の2つ分析方法について紹介します。
①総資本回転率
総資本回転率とは、全ての資本を利用してどのくらい効率的に売上高を獲得することができたかを表しています。
この分析方法では以下の計算式により総資本回転率を算出します。
総資本回転率=売上高(収益)÷総資本
総資本回転率の数値が高いほど、効率的に収益を獲得していることを意味しています。
②棚卸資産回転率
棚卸資産回転率とは、販売商品や原材料などを利用してどのくらい効率的に売上高を獲得できたかを表している指標です。この分析方法では、以下の計算式で棚卸資本回転率を算出します。
棚卸資本回転率=売上高(収益)÷棚卸資産
棚卸資本回転率の数値が高いほど、効率的に収益を獲得していることを表しています。
<まとめ>
利益改善の施策は一朝一夕には効果の実現が難しいものもありますが、長期的な視点で取り組むことにより、会社に大きな効果をもたらすと考えられます。利益改善のためには、販売単価や購買頻度の向上や新規顧客の獲得に取り組むことも効果的です。また、競合他社との差別化や収益力の高い商品やサービスの開発・拡販も重要です。