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オンデマンド型製造業が国内回帰している理由とは

オンデマンド型製造業 業務改善

コロナ禍によって世界中のサプライチェーンが破綻してしまったことで、国内の製造業が見直されています。そこで鍵となるのが「オンデマンド型の製造業」というキーワードです。オンデマンド型の製造業とは、クライアントからの注文数に対応した少量生産を実施し得る製造業のことを指しており、より付加価値が高いモノ作りを目指す仕組のことです。

本稿では、オンデマンド型製造業の概要、オンデマンド型製造によるリスクの軽減とは、オンデマンド型の製造業の歴史(海外進出から国内回帰へ)、国内回帰の流れが顕著になっている要因とは、国内回帰における課題、国内回帰の具体的な事例、などについて詳しく解説します。

1.オンデマンド型製造業の概要

(1)オンデマンド型の製造業とは

オンデマンド型の生産とは、「on-demand」の英語表記の通り、取引先やお客様からの要求に対応して製品を生産すること、を意味しています。身近な具体例としてはオンデマンド印刷(必要なモノを必要な場合に必要な数量だけ印刷するシステムのこと)を挙げることができます。

一方で、私たちが従事している「ものづくり」においてオンデマンド型の生産を実現するためには、販売価格が高くなってしまったり、他社の製品と似通ったモデルになってしまったり、などの大きな障壁があります。しかしながら、現実的には、最近の日本のものづくりの現場においては、マーケットの個々のニーズに適合させるために、多品種少量清算をすることでマーケットにおけるオンリーワンを創出し、高い付加価値を持つ製品として生産する方向へとますます移行しています。こうした背景の中で実際に生産している工場などの現場では、必要な製品・部品は当然ながら、それらを生産する場合に必要となる工具や型といったツールなどについても、オンデマンド型の生産の準備をする必要がある、と考えられるのです。

(2)オンデマンド型の生産に必要な環境

前述したような難しい状況において必要なツールとなるのが、AMや3Dプリンターなどでダイレクトに製造する新しいな製造手法DDM(Direct Digital Manufacturing、ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリング)です。例えば、プレス加工は大量生産方式の代名詞ですが、これからは、逐次成形、仮の金型、といった新しいテクノロジーを取り入れて活用することでオンデマンド型の生産に対応することも必要になると思われます。

大量生産の時代が長期間続いた生産活動に昨今は大きな変化の動きが生じており、これまでの延長線上にはない全く新しい「ものづくり」の考え方が必要とされています。実際の製造現場においても、日常的に新たな視点を生産活動に持ち込むことが必用とされているのです。

 

2.オンデマンド型製造によるリスクの軽減とは

(1)サプライチェーンにおける戦略的な管理

サプライチェーンにおける戦略的な管理とは、製品の開発とライフサイクルのプランニングにとって必用不可欠であるだけではなく、リスクの軽減にも必要となる要素となります。最先端を走っている先駆的な企業では、もはやサプライチェーンを単に実務的な戦術的なコストセンターとは位置付けていません。彼らはサプライチェーンを、企業の成長とリスクをミニマイズさせる能力を向上させるという機能を横断する取組と捉えています。

サプライチェーンの管理においては、製品のライフサイクル上で新しく発生する機会や課題などに迅速に対応する必要があります。先駆的な企業では、生産・出荷の遅延におけるリスク、製品ライフサイクルにける様々なステップで生じる予測することが極めて困難な需要の変動に関するリスク、などを軽減することを目的に、高い即応性を有する委託製造業者とアライアンスを組むことで、製造サプライチェーンにおける防護・保護の体制を構築しつつあります。

コストの削減と生産性の向上はこれまでと同様に重要な課題でありますが、経営者にとっては成長も重要な課題です。国際的なマーケットとニッチなマーケットとの製品の区分に対応するような製品ラインを拡大すること、などの企業活動による成長への取組が最大の関心事であり、上級マネジメント職の77% がイノベーションと製品の開発を3つの大きな戦略の一つとしています(2013年にBCG Perspectivesが実施した調査)。

価格競争力も重要な要因となります。例えば、価格競争力がある射出成形によって費用対効果に優る短期的な生産が可能になるので、製品の開発チームもリードタイムを短縮するための対応に労力と時間を傾けることが可能になります。この調査においては、企業の健全性のみならず、成長にとって脅威となるリスクも数多くレポートされています。主なリスクは以下の通りです。

  • 製品のライフサイクルを短縮化
  • サプライチェーンの混乱(オフショアリングを要因とする)とコスト構造の変化
  • 急激なテクノロジーとイノベーションの発展
  • 競合するサービス間における差別化
  • 予期していなかった競合の登場
  • グローバリゼーション(国際化)

上記のようなリスクを軽減させながら、どのようにして成長を目指すのか、ということが課題の中心になっていることは明白です。2014年のPWC の調査 によると、米国内の多くのCEOたちは、「コストとリスクを同時並行的に統制しながらチャンスに対していち早く対応可能な能力の構築」を企業戦略としています。

必要なことのは、成長の機会に素早く対応すると共にそれに伴うリスクを軽減することが可能な即応性なのです。こうした問題意識に対して適切なツールが追加されれば、競争の最先端をきって進むようなアグレッシブさと、成長へのリスクに迅速に対応する即応性の両方をを兼ね備えることが可能になります。つまり、企業は適切なツールを採用することで売上と利益の両面において成長を果たすことがができるようになるでしょう。

(2)サプライチェーンのセーフガードとなるオンプレミス型生産の戦略的重要性

サプライチェーン管理は大きな進化を遂げており、現在では、成長と収益性の戦略的なツールであると共に、リスクの軽減とっても不可欠な要素になっています。したがって、機会を最大限に活用しながら、混乱回避や問題解決などを目的として、製造におけるサプライチェーンの防護・保護体制を築き上げることが必要になります。

前述したような取組によって、製品化までの工程の期間を短縮させて、終わらない変化、脅威、機会、などに素早く対応することが可能になります。攻撃的な製品化スケジュールにおいては、信頼できる商品・サービスが間違いなく提供されることが必要です。これまでのアプローチにおける「通常」のリードタイムを数日、あるいは数週間、という単位で短縮してしまうと、クリティカルパスに伴っていた緩衝期間がなくなってしまうので、当該プロセス前の段階で遅延が生じてしまうと、その遅延が次のステップにダイレクトに影響してしまいます。

そのような場合には、必然的に遅延と問題が生じてしまうので、遅延の予測も必要となります。積極的かつ戦略的なアプローチにおいては、遅延が生じた場合の緩衝装置として機能するような、いわゆるセーフガードをサプライチェーン内に組み込みむことになります。このサプライチェーンのセーフガードには、遅延の影響を吸収することで下流プロセスへの影響の連鎖を防止したり、下流プロセスのための緩衝期間を設定したりする機能を持つことになります。具体的には、オンプレミス型の生産プロセスをサプライチェーンに組み込むことによって、生産の遅延に即応することが可能になりますし、無駄なコストを抑制することも可能になるでしょう。

また、オンデマンド型製造は、製造スケジュールの遵守あるいは短縮を実現させると共に製品とプロセスの品質を向上させる機会をも作り出すことが可能です。このようなオンデマンド型製造のプロセスを戦略的に活用することで、目標として設定している納期に安定的に製品を供給することが可能になります。そして、サプライチェーンにおけるセーフガード実施を成功させるためには、優秀な技術とプロセスによって素早い対応と納品を実行することが可能な供給者(サプライヤー)との提携が必用不可欠となります。

(3)オンデマンド製造によるリスクの軽減

様々な購買の担当者が抱えている課題を解決する場合に、有用で役立つツールを可能な限り多く縦鼻しておくことは重要かつ必要なことになります。適切な購買価格差異(PPV、Purchase Price Variance)低い在庫水準と回転の速度さ高い品質の製品在庫を適切な時期に確保しているか、などが重要なポイントとなります。また、これらの全ての課題に対してどのように対応するかもより重要な施策として位置付けられるものと考えられます。選択肢のひとつとして、サプライチェーン上の様々なリスクの軽減に有用で、素早く高い品質を有する小ロットの生産をアグレッシブに受託しているようなオンデマンド型の製造会社の利用を検討することが考えられます。

例えば、あるオンデマンド型受託製造会社では、サービスを利用するために必要なものは、委託企業の3D CADファイルだけ、としています。その企業のWebサイトに当該ファイルをアップロードすれば、だいたい平均3時間で見積が送られてきます。この企業では、小ロットで素早く部品を製造することが可能で、CNC切削加工、射出成形、などの製造サービスを樹脂部品と金属部品の2種類の生産を短期間の納期で対応可能、としています。

こうした小ロット生産のような俊敏性を活用できる場面としては、生産の終了が予定されている製品、新たに製品として導入されるような場合(NPI、New Product Introduction)、先行的に量産するようなケース、などを挙げることができます。最終的な設計を決めたNPI部門に対しては、新たな製品に対する需要に対応するために数日の内に供給量を増やすことが可能だと保証できれば、先行量産を利用すれば、製品の設計段階から次の段階へと迅速に進むことが可能になるのみならず、量産用のための金型を作って検証する時間を持つことも可能になります。また、他の部署から「来週初の催事までに部品が〇個必要だ」と言われたとしても、即座に製作に取り掛かることもできるでしょう。

 

3.オンデマンド型の製造業の歴史(海外進出から国内回帰へ)

わが国の国内には、1980年代の高度経済成長期にはおおよそ42万件もの製造工場がありましたが、現在ではおおよそ19万件へと減っています。こうした衰退の原因としては、主に自動車業界やアパレル業界などを中心に国際化(グローバル化)の波が押し寄せてきたことによって、生産拠点を海外へとシフトしたことが挙げられます。

それに伴って、製造業で働いていた労働者も30年前は1,500万人だったものが、現在で1,000万人にまで減少。しかしその一方で、産業全体においては製造業に従事している労働者の割合は、現在でも全体の約15%を占める主力の産業であることには変わりはないとも言えます。

<製造業就業者の推移(出典:労働政策研究・研修機構)>

就業者数 割合
1970年 1,377万人 27.0%
1980年 1,367万人 24.0%
1990年 1,505万人 24.0%
2000年 1,345万人 20.5%
2010年 1,060万人 16.8%
2019年 1,063万人 15.8%

独立して起業している人たちの中でも、製造業の人気はけして高くはないのが実情だと考えられる状態ですが、製造業の経営者の平均年齢は65歳を超えてきていることを勘案すると、後継者がいない中小企業の後継者候補として転職するような形式で事業を承継するような動きも増えており、新たな製造業再生の手法として注目をされています。このような動きの背景としては、近年になってからローカル製造業の価値が見直されていることを挙げることができます。

コロナ禍において、世界中のサプライチェーンが破綻してしまったことの反省をうけて、海外に建設した生産拠点をここにきて国内へと戻すような動きも検討されるようになってきており、近年では取引先やクライアントのニーズの多様化が進んでおり、多品種少量生産へと生産スタイルがシフトしてきていることや、製造現場の急激なデジタル化の促進によって少人数であっても高い付加価値を有する製品を作れるようになってきたことなども、国内ローカルの製造業が見直される理由となっています。

そこでのポイントが、前述した「オンデマンド製造業」という言葉で、大量生産によって大量の在庫リスクを持つことなく、デジタル技術を活用した工作機械を活用することによって、注文数に対応した少量生産を実行することで、高い付加価値を持つモノ作りを進めておく仕組を意味しています。

具体的には、アパレル業界においてもオンデマンド製造への変革的なトレンドが生じています。従来は、人気が高くてメインストリームの中心だったファストファッションは、ほんの数ヶ月先のトレンドを予想した新たな商品の製造を、人件費が安い海外の工場に大量に注文することで、安い価格を実現させてきましたが、販路の主役がリアルなショップからネットへと移っていく中で、生産~在庫保有・販売までのリードタイムを減少させることが必要になっています。

アパレル業界における平均的なリードタイムは、4年前には90日から120日くらいだったのですが、現在では約60日と短縮されており、それをさらに2週間くらいにまで短縮させることがアパレルブランドとして生き残るための鍵と言われています。

 

4.国内回帰の流れが顕著になっている要因とは

これまでにも簡単に触れてきた通り、製造業が国内に回帰しているのには複数の理由がありますが、最大の理由は、グローバル最適地生産というものが重要視されるようになってきたことが挙げられます。グローバル最適地生産とは、グローバルな需要と立地している環境とをマッチさせて世界の各地に工場などの生産の拠点を設置すること、を言います。

単純に目の前の生産コストを引き下げることを目的に生産単価が低い国で生産を実施することを中止して、全体最適の観点から海外で実施していた生産を国内(あるいは別の国)に移管するようになってきました。

(1)国内回帰の具体的な要因

製造業が国内回帰している具体的な要因については以下の通りです。

  1. 製品のライフサイクルを短縮化
  2. サプライチェーンの混乱(オフショアリングを要因とする)とコスト構造の変化
  3. 急激なテクノロジーとイノベーションの発展
  4. 競合するサービス間における差別化
  5. 予期していなかった競合の登場
  6. グローバリゼーション(国際化)
①新興国における所得の上昇

これまで製造業が主に新興国へと生産拠点をシフトしていた理由としては、新興国における安い賃金、という点を挙げることができます。しかし、最近ではそうした状況も大きく変化していて、アジアを中心とする新興国の賃金がアップしています。こうした動きによって、新興国の消費者にも「Made in Japan」の高品質な高価格帯の製品を求める人々が増加しています。

換言すると、以前は生産拠点として認識していたアジアなどの新興国が、国民の所得向上をうけて、むしろ販売先マーケットへと変化しているのです。また、技術移転なども含めて、海外生産におけるコスト面での利点が薄くなっているので、国内で生産を実施した方が対費用効果やコスト効率が良好になると考えている企業が増加しています。

②インバウンドの需要アップ

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを控えて(実際には新型コロナ感染症の影響により2021年へと開催が延期されました)、2014年頃から日本製に対するインバウンドの需要が増えていると言われています。インバウンド需要と言えば、主要なものは、旅行会社や観光地で営業している飲食店などに対する訪日する外国人の需要の増大を考えがちになるのですが、そうした恩恵は製造業にも窮しています。

特に中国の消費者にとっては、高い信頼や安心感がある日本製の商品は、価格が多少高くても、日本製であるということが購入における最大の決定要因となっています。低価格な製商品に対する需要が強かったということもコストを抑制した海外の生産拠点へのシフトの背景だったのですが、こうした前提が大きく変化しているのです。

③日本と中国の間での単位労働コストの逆転

生産拠点首都の主因としてはシンプルな賃金コストの問題もありますが、単位労働コスト、つまり生産性に関しても日本と海外での関係が変わっています。単位労働コストとは、同じ分量の生産量を増やすために必要となる労働コストのことを言います。具体的には、これまでは日本と中国との間では、本来は中国の方が単位労働コストは低かったものが、現在では日本の方が低くなっているのです。したがって、生産性の視点からも、国内の生産拠点に回帰した方が合理的なのではないか、という判断が増加していると言えます。

④薄利多売な日本の製造業

製造業における生産拠点(工場)の国内への回帰そのものは、シンプルに考えると国内の雇用が増加するので、そうした点での利点は大きいと思われます。しかし、海外へ生産の拠点をシフトした理由や最近の国内への回帰に共通しているのは、生産コストの抑制・低減、という点です。

付加価値が高い製品を販売し続けることが可能であれば、そもそも論として、生産にかかるコストをカットする必要はありませんが、依然として日本の製造業は薄利多売の事業をを継続していること、が生産コストの抑制・低減をしなければならない要因になっているのです。

つまり、大量にモノを生産して販売をしなければ利益を増やすことができません。薄利多売を通して利益率が低くなっている以上は、販売単価や売上総額を増加させることではなくて、費用面での削減が最優先の順位になってくるのです。海外の場合には、例えば、ヨーロッパ・エリアの製造業の大国でもあるドイツにおいてはGDPに占めている輸出の割合は約4割スウェーデンの場合は約3割であるのに対して、日本では約15%程度と相当低い割合になっています。

一般的には、生産性が高い場合には輸出額が大きくなる、と言われている製造業でのGDPに占める日本の輸出比率の低さは、依然として日本の製造業が薄利多売であることの証左でもあると言えるのではないでしょうか。

(2)国内回帰のメリットとは

製造業が国内回帰をする主なメリットには以下の2点を挙げることができます。

  1. ワンストップでの管理体制
  2. リードタイムを短縮可能
①ワンストップでの管理体制

海外から国内に生産の拠点をシフトすることによって、国内に設置している研究開発部門など連動して、研究→開発→生産までのフローをワンストップで管理することが可能になります。加えて、本社とも円滑に連携することができるので、本社と生産現場(工場)とが一体となるので品質や生産効率などの向上を図ることが可能になると期待をされています。

②リードタイムを短縮可能

複数の工場において多くの製品の部品を製造されています。製品を製造する場合には、関連する企業や工場との物理的な距離が近ければ、原材料の入手などにかかる時間を短縮することが可能になります。結果として、受注から生産までにかかるリードタイムを短縮させることができて、ライバル企業に対しても優位なポジションに立つことが可能となります。

 

5.国内回帰における課題、国内回帰の具体的な事例

大手製造業を含めて、増えている製造拠点の国内回帰ではありますが、新たに国内で工場稼働させるするうえでの課題への対応も重要です。人的資源と工場用地の確保の2点に関して説明します。

①深刻な労働力の不足(足りない人的資源)

急激な少子高齢化の進展などによって、これからの日本の人口は間違いなく減少に向かうものと考えられています。戦後に日本では人口が右肩上がりに増えたので、その状況に対応するように生産拠点(工場)の生産能力を増強すればよかったような時代から、昨今では減少していく労働力というものを前提に生産体制を築き上げることが重要になっています。

つまり、生産拠点(工場)ばかりを増強しても、それらを十分に活用することができる労働力を確保しなければコストばかりが増えて生産や売上には繋がりません。中小企業は当然ながら、大企業であっても、人口の減少を主因とする深刻な労働力の不足に悩まされており、製造拠点の国内回帰に関する大きな問題点となっているのです。

そうは言いながらも、人口の減少という社会的な環境変化を留めるということは現実的には困難であり、そうした環境下であっても国内に新たに工場を作るような場合には、人的リソースに依拠することなく、人間と一緒に働くことができる協働ロボットなどの活用を通じて省力化された生産体制を築き上げるようなことが奨励されるようになるでしょう。こうしたロボットを単に人手の代替としてではなく、人間とロボットとが協働して生産性を向上させるような取組を進めることがより重要になるでしょう。

②難しい工場用地の確保(足りない工場用地)

製造拠点の国内回帰を推進したくても、実はそんなに簡単に実行できるというわけにはいきません。世界的に考えても、日本は小さな面積の国であり、その狭い国土の中で新しく工場用地を取得・獲得することは簡単ではないのです。製造工場用の産業用地を開発するような場合には、概ね「開発計画を策定 → 各種の法制度を調整 → 工場用地の確保 → 工場用地の造成」というフローとなりますので、全体では数年ほどの時間がかかります。

したがって、実際に工場を稼働させたいと考えているタイミングから逆算してなるべく早い時期に準備を進めることが重要になります。加えて、日本国内の全体で工場用地に適している土地が限られているのみならず、地域のレベルで工場用地における需給のミスマッチが発生しています。企業の設備投資に対する意欲が強い地域においては、工場用地を取得・開発したいという企業が多数あるので工場用地がますます不足する一方で、あまり条件がよくない地域では工場用地が余っているという状態が起きているのです。

 

6.国内回帰の具体的な事例

これまで製造業における生産拠点が国内回帰している理由や背景などについて説明してきましたが、ここでは具体的な国内回帰の事例を紹介します。

(1)資生堂が新工場を福岡県久留米市に建設(着工時期:2020 年中、稼働時期:2021 年中)

資生堂は、中長期戦略「VISION2020」(2014-2020 年)で掲げている「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」の達成を目指して、全社一丸でさらなる成長の実現に取り組んでいました。生産戦略に関しては、全社的な観点からのマーケティング戦略と連動しつつ、グローバルな観点でサプライチェーン戦略の構築を推進しておおり、原価のみならず、リードタイム、在庫、原材料の調達、といった様々なファクターを勘案して、グローバルで展開している各地の工場でフレキシブルに対応することが可能な体制構築を進めています。そうした環境下において、国内外の化粧品の需要拡大に対応して、これからのますますの成長性を確保するために、中長期的に安定的な供給体制を確立させることが不可欠である、と判断したため、現在建設している那須工場、大阪新工場(仮称)に続いて、新しい工場の建設を決めました。現在建設中の工場、九州福岡工場建設、既存の工場の増強、を合計すると、約 1,700 億円超の投資になるとも見込まれています。

(2)マツダが生産の一部をタイから日本へとシフト

タイは日本の自動車製造業にとっては主要となる海外生産拠点であり、マツダのみならず、トヨタ、いすゞ、ホンダ、などの各社が現地に生産拠点(工場)を設置しています。マツダでは、タイ工場で生産した自動車をオーストラリアに輸出していたのですが、今後は一部を国内生産へと切り換えるそうです。

マツダがタイから日本国内へと生産を移行する背景としては、タイ・バーツの為替相場が上昇して、現地生産における採算が悪化したから、とされています。2012年の時点では1バーツは2.5円くらいだったのですが、その後、タイ経済が順調に拡大していく中でタイ・バーツも上昇を続けて、昨今では1バーツ=3.6円くらいまで為替相場が上昇しています。

しかし、マツダが国内生産へとシフトする理由は為替相場の問題だけではありません。タイ、中国、などのアジア圏の労働賃金が最近では急激に上昇していて、既にアジア圏というエリアは低賃金な場所ではなくなってしまっている、ということが大きく影響していると考えられます。現実的に、ここ数年の間に、中国などのアジア地域の製造拠点(工場)を日本国内へと回帰させる動きが顕著になっています。

 

まとめ

経済産業省によるアンケート調査においては、「海外生産していた製品・部材を国内生産に戻した事例はありますか?」という問いに対して「ある」と応えた企業は2016年調査では11.8%、2018年調査では14.3%、と若干その比率が上昇しています。国内回帰へとシフトするメリットには、前述したように、ワンストップの管理ができる、リードタイムを短縮可能、良質な労働力を確保できる、ことなどが挙げられます。加えて、国内に製造拠点を構えることで、地方の土地活用へと繋がり求人も増加する、など、我々も様々な恩恵を享受できる可能性が考えられます。製造拠点を日本国内に設置する国内回帰の動きは、日本の製造業がますます発展して地方経済が潤う可能性を秘めている、と言えるでしょう。

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