負債比率とは文字通り会社における負債の比率を表現した数値のことです。負債にはどのようなものが含まれるのか、負債比率は企業の何を表現しているのか、負債比率はどのように利用すればよいのか、などについて詳しく説明します。
1.負債とは
負債とは、簡単に言うとマイナスの財産のことで、借金などが該当します。資産、総資産とともに貸借対照表を構成する項目のひとつですが、いずれ支払わなくてはならないお金のことも負債と言います。
負債は流動負債と固定負債に分かれていますが、主な勘定科目は以下のようになっています。
<代表的な負債の勘定科目>
流動負債 |
支払手形
買掛金 短期借入金 未払金 未払費用 前受金 前受収益 割引手形 未払法人税等 繰延税金負債 賞与引当金 |
固定負債 |
社債
長期借入金 長期繰延税金負債 退職給付引当金 |
このように負債には様々な種類があるが、自己資本との対比で他人資本と呼ばれることもあります。このような負債が自己資本に対してどのくらいの割合を占めているのかを負債比率と呼んでいます。
2.負債比率の定義と意味
負債比率(%)とは、「負債 ÷ 自己資本 × 100」という数式で算出することができます。負債比率とは負債レバレッジとも言われており、会社の中長期的な安全性を表す指標のひとつとして考えられています。
一般的には、負債比率が高いほど返済余力に乏しく、反対に負債比率が高いほど返済余力があり財務の安定性が高いと考えられています。また、業種などにより異なりますが、一般的には負債比率が100%を下回っているような会社は返済能力が高いとされています。
<負債比率の水準について>
負債比率の水準 | 説明 |
100%以下 | 負債比率が100%以下の場合は優良水準にあると言えます。自己資本で全ての負債を返済することが可能なので返済余力には問題ないと考えられます。 |
101%~300% | 負債比率が101%~300%の範囲内の場合は標準的な水準であると言うことができます。返済計画に無理がないようであれば返済余力に問題ないと考えられます。 |
301%~600% | 負債比率が301%~600%の範囲内の場合は要改善の水準にあると言うことができます。すぐに返済に支障が生じることはないかもしれませんが、なるべく300%以下になるように負債額などを改善した方が良いでしょう。 |
601~900%以下 | 負債比率が601%~900%の範囲内の場合は早急に改善が必要だと考えられます。実際に返済に問題が発生する前に負債比率を600%以下になるように改善が求められます。 |
901%以上 | 負債比率が901%以上の場合は資本欠損の可能性があります。資本欠損とは会社の純資産額(資本総額−負債総額)が、資本金と法定準備金(資本準備金と利益準備金)との合計額を下回っている状態などを言います。返済義務がある負債(他人資本)に充当する自己資本(資金)が不足しそうな状況にあるので緊急で経営の改善を実施する必要があります。 |
負債>自己資本がマイナス | 自己資本がマイナスになっている状態は債務超過です。返済する義務がある負債(他人資本)に充てる資金(自己資本)がマイナスの状態なので、即座に経営改善を実行する必要があります。もしもこのまま放置した場合には近いうちに会社が倒産すると考えられます。 |
中小企業で負債比率を算出する際には、すべての負債を負債の金額に含めなくても良い場合があり得ます。それは返済義務のない負債は除く、ということです。例えば、形式的には融資(借入金)であっても、親戚などから借り入れた資金であって返済はいつでもいいよ、と言われているようなものは、実質的には自己資本のような性質を持つ資金です。
このような場合には、負債比率の対象となる負債に含まずに負債比率を算出する方が厳密な意味で負債比率を求めることができると考えられます。金融機関などに提出する資料では上記のような狭義の負債比率を計算した方が好印象となる可能性があります。
もちろん、前述したような資金も含めた負債比率の数値も算出しておくことは大切かもしれません。取引の状況や資金提供者(親戚など)との関係が変化(悪化)するようなリスクがないとは限らないので、保守的に算出した負債比率にも意味はあると考えられます。
また、上表の<負債比率の水準について>では、それぞれの水準に対して説明をしてはいるものの、一過性の理由などで負債比率の数値が悪化しているようなケースも考えられます。
例えば、会社で大規模な設備投資を行うために多額の借入金を融資されている状況を考えると、その時点では負債比率は大きく悪化している可能性が考えられます。しかし、逆に言えば、それだけの借入金を融資してもらえるほどに金融機関からはその設備投資が高く評価されている、と言うことも可能なのです。
また、業容を拡大しているような企業も負債比率が悪化するケースがあります。売上が伸びているような場合には、通常の運転資金も増加することが多いでしょう。つまり、負債比率の数値が高いか低いか、といった点だけでなく、なぜ負債比率が悪化しているのかといった要因分析をしっかりと行うことが重要なのです。
反対に負債比率が低いからといって必ずしも業況に問題がない企業とも言うことはできません。例えば、創業間もない企業の場合は金融機関などから資金を借り入れることが難しいケースが多いでしょう。
このような企業はどうしても他人資本ではなく自己資本での調達がメインになるので、負債比率は低いことが多いでしょうし、だからと言って会社の財務安定度が高いとも言えないことも多いと考えられます。
つまり、会社の置かれている現在のステージ、戦略的な資金調達(事業計画)、などの様々な観点からの分析を行うことが、財務安定度の評価には必要であると考えます。
3.負債比率の活用について
上述したように負債比率の数値(水準)以外にも財務安定度を考えるポイントがあるのは確かなのですが、それでも負債比率が代表的な財務安定度を図る指標であることには違いはありません。それでは、悪化した負債比率を改善するにはどのような方法があるのでしょうか。
(1)自己資本を増やす
負債比率の算式を考えれば、分母である自己資本の額を増やせば負債比率は改善します。自己資本とは、資本金と剰余金(内部留保)のことを言います。つまり、自己資本を増やすには増資をして資本金を増額すればよいのです。
しかし、考えている以上に増資をするのは大変かもしれません。融資(負債)と異なり、資本金は返済義務がないお金です。会社の将来性や現状の取引などを十分に勘案して出資されるお金なので、金融機関(融資者)への説明以上に出資者への説明は詳しく正確に行う必要があるでしょう。
(2)負債を減らす
もう一つの方法は、算式の分子にあたる負債の額を減らすことです。借金を返済すればいいだけのことではありますが、こちらも簡単にはいかないケースが考えられます。例えば、返済原資が確保できないような場合です。
会社の事業で利益(現金)が確保できていない状態であれば、取引の決済条件を変更する(例えば90日間の猶予がある手形決済から支払サイトを30日にした振込決済に変更する、など)といった早く資金化を図るようにすることが求められます。
他にも、基本的なことではありますが、無駄な経費を使わないようにする、不要な資産は売却して資金化する、などの方法で資金を確保して負債の返済を行うことが考えられます。
まとめ
一般的には、負債比率が低い企業は財務の安定性が高い、と言われていますが、単純に負債比率の高低の水準だけで会社の財務安定性を判断すると誤ってしまう危険性があります。負債の内容や会社の成長度合、なども含めて、総合的かつ最終的に判断することが重要です。