特別償却が可能なケースとは?仕組みと会計処理を理解して節税を

特別償却の仕組みをイメージする画像 起業家の基礎知識

設備投資を行うと償却年数に応じて取得費用を経費として計上できますが、特別償却とは、それとは別に、「特別に」減価償却することができる制度のことを言います。どのような場合に特別償却を行うことができるのか、会計処理なども併せて詳しく説明します。

 

1.特別償却とは

特別償却とは、序文で述べたように、通常の減価償却費とは別に、経費を追加計することができる制度のことです。課税対象となる利益から特別償却費を差し引くことができるので、結果として法人税を減税することが可能になります。

最初に基本的な「減価償却」について説明します。ある会社が1,000万円の販売システムを導入したとします。この場合には会社の無形固定資産として「ソフトウェア」という勘定科目に1,000万円が計上されることになります。

仮に初年度からこの販売システムを使い始めたとすると、この販売システムの法定耐用年数が5年なので(参考:国税庁ホームページ「No.5461 ソフトウエアの取得価額と耐用年数」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5461.htm)、1,000万円÷5=200万円となり、毎年200万円の減価償却費の計上が可能となります。

通常はここまでで減価償却の計上は完了してしまうのですが、例えば、中小企業投資促進税制の対象となった会社では、30%の特別償却が認められています。つまり、上記の販売システムの例では、200万円に加えて、1,000万円×30%=300万円の特別償却が認められるので、初年度は200万円+300万円の500万円を減価償却費の計上が可能になります。

特別償却を実施するメリットは、設備投資を実施した翌年の税金を抑制することが可能になる点にあります。特別償却で節税を行うことで生じた余裕資金を、別の投資に振り向けることで、会社の資金を効率よく運用することが可能になります。

また、即時償却(設備などを購入して、即座に全額費用計上することが可能な償却方法)にはないメリットとして、特別償却は1年間の繰り越しをすることが可能な点があります。例えば、設備投資を実施したけれども初年度に特別償却をすると会社がと赤字になってしまうような場合には、特別償却(による減価償却費の計上)を翌年に繰り越すことができるようになっています。

即時償却の場合には、設備投資を実施するタイミングを多額の利益が見込める年に合わせなければなりませんでしたが、特別償却の場合は利益の多い年に実施する必要がありませんので、設備投資を行うタイミングの自由度は高いと言うことができるでしょう。

一方で、特別償却には以下のようなデメリットもあります。繰り越しをすることが可能な特別償却ではありますが、繰り越しを実施する場合には、税金の申告処理が少し複雑になります。特別償却費を翌年に繰り越した場合は、繰り越した金額は「特別償却不足額」という扱いになります。

この「特別償却不足額」は、法人税の申請を行う際に「別表」という用紙に記載する必要があるのですが、この手続きがやや煩雑であることには注意が必要です。

 

2.中小企業投資促進税制における特別償却

中小企業投資促進税制を例に特別償却の仕組みを説明します(出典:国税庁ホームページ「No.5433 中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5433.htmより)

 

中小企業投資促進税制

対象者

青色申告書を提出する中小企業者等*(資本金額1億円以下の法人、農業協同組合など)

対象事業

製造業や建設業が主な対象事業

下記の事業などは対象外

・採石業、砂利採取業

・金融業、保険業(除く、損害保険代理店業)

・不動産業、物品賃貸業(除く、駐車場業を)

・娯楽業(除く、映画業)

・電気業

・性風俗関連特殊営業

適用要件

一定の対象設備の取得等をし、指定事業の用に供すること

対象設備

機械及び装置:1台160万円以上

ソフトウェア:1台70万円以上

工具:1台30万円以上 かつ合計120万円以上

普通貨物自動車:車両総重量3.5t以上

内航船舶:取得価額の75%が対象

措置内容

・特別償却率:30%

・税額控除:特定中小企業者等は7%、特定中小企業者*等以外は不可

適用期限

平成32年度(2020年度)末まで

*中小企業庁によると特定中小企業者とは、以下の(1)~(3)のいずれかを満たしている中小企業者をいいます。

(出典:中小企業庁HP https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/gijut/tebiki/tebiki004.html

(1)創業後5年を経過していない法人(一部の組合を除く)又は事業開始後5年を経過していない個人事業者であって、現在、製造業、印刷業、ソフトウェア業又は情報処理サービス業に属する事業を営んでいる方

(2)前事業年度又は前年において試験研究費(※1-1)の額の売上高(※2)に対する割合が3%を超える方

(3)以下のa)~c)のいずれかを満たしている中小企業者

a)創業後5年を経過していない法人(一部の組合を除く)又は事業開始後5年を経過していない個人事業者であって、前事業年度又は前年において試験研究費等(※1-2)の合計額の売上高に対する割合が3%を超える方

b)創業後10年を経過していない法人(一部の組合を除く。)又は事業開始後10年を経過していない個人事業者であって、前事業年度又は前年において試験研究費等の合計額の売上高に対する割合が5%を超える方

c)創業後1年を経過していない法人(一部の組合を除く)又は事業開始後1年を経過していない個人事業者であって、常勤の研究者の数が2人以上であり、かつ、「当該研究者の数」の「常勤の役員(個人事業者にあっては、事業主)及び従業員の数の合計」に対する割合が10分の1以上である方

(※1-1)「試験研究費」とは、試験研究を行うために要する原材料費、人件費、委託費、設備等に係る減価償却費等をいいます。

(※1-2)「試験研究費等」とは、試験研究費、新たな技術若しくは新たな経営組織の採用、市場の開拓又は新たな事業の開始のために特別に支出される費用をいいます。

(※2) 売上高とは、法人の場合は総収入金額から固定資産及び有価証券の譲渡による収入金額を控除した金額のことをいいます。また、個人の場合には、事業所得に係る総収入金額のことをいいます。

 

3.特別償却に関する会計処理

特別償却を実施した場合には、通常の減価償却費に含めて、会計処理を行うことも可能です。しかし、特別償却の場合は、金額が巨額になってしまう可能性があるので、特別償却を適用した年度の減価償却費が他の年度と比べると多額となり、その年度の利益額が小さくなってしまうという状況が発生してしまいます。

その結果として、特別償却を実施した年度の自己資本比率(ROE)や総資産利益率(ROA)などの各種利益率等指標が低下してしまうという弊害が生じてしまいます。そのため、このような利益が少なくなってしまうという弊害が生じない方法として、準備金積立方式、という方法で会計処理することが可能になっています。

  • 特別償却計上年度の決算時の会計処理(税効果会計は考慮せず)

借方

貸方

勘定科目

金額

勘定科目

金額

繰越損益

減価償却費

500,000

1,000,000

特別償却準備金

減価償却累計額

500,000

1,000,000

特別償却準備金とは、資本の部の科目で、株主総会の承認がなくても積み立てが可能です。ただし、株主資本等変動計算書への記載が必要になります。

 

  • 特別償却計上年度以降の会計処理

特別償却計上年度に計上した「特別償却準備金」を取り崩します。取り崩す期間は、耐用年数によって異なりますが、均等額を取り崩しすことになります。原則として、特別償却を行った設備の耐用年数が5年から9年の場合の取り崩し期間は5年、特別償却を行った設備の耐用年数が10年以上の場合の取り崩し期間は7年、となっています。

上記の会計処理の特別償却の対象資産の耐用年数を7年とすると、「5年から9年に」に該当するので、5年で取り崩すことになり、会計処理は以下のようになります。

借方

貸方

勘定科目

金額

勘定科目

金額

特別償却準備金

100,000

繰越利益

100,000

 

まとめ

特別償却は節税手段としては有用な方法の一つではありますが、若干税金上の手続きが煩雑になります。しかし、手元資金の有用な使い道を検討することができるようになりますので、会社としてのメリットも大きな制度だと考えられます。