手形裏書にはどのような効果があるのでしょうか?手形の仕組みや手形裏書のメリット・デメリットなどについて説明します
一般的には、手形は約束されている支払期日まで保有しておいて、支払期日が到来したら代金を受領するものです(約束手形の場合)。ただし、支払期日の前でも、手形裏書などの方法で手形を活用することが可能です。本稿では、手形裏書などの手形活用方法や手形裏書のメリット・デメリットなどについて解説します。
1.手形とは
手形とは、将来の決まった日(期日)に手形に記載された金額を支払うことを約束する証券のことで、2者間で利用される「約束手形」と3者間でや利用される「為替手形」の2種類があります。
(1)約束手形
約束手形とは、手形を振り出した人(振出人)が、手形を受け取った人(受取人)に対して、「○月○日XXX円支払います」と約束するものです。以下に約束手形の流れを示します。
<A社がB社に約束手形を振り出す場合>
- A社がB社に約束手形を振り出します
- B社が約束手形を受け取ります
- A社が支払期日にB社に手形代金を支払います
(2)為替手形
為替手形とは、約束手形と同様に「○月○日にXXX円支払います」と約束する証書ですが、振出人と受取人の他に支払いを引き受けた人(支払人)がいます。約束手形は「振出人=支払人」であるのに対して、為替手形は「振出人≠支払人」となります。以下に為替手形の流れについて説明します。
<A社がB社に為替手形を振り出し、C社が支払いを引き受けた場合>
振出人:A社(B社に買掛金があり、C社に売掛金がある)
受取人:B社(A社に売掛金がある)
支払人:C社(A社に買掛金がある)
- A社がC社に対して、「A社のB社への買掛金を替わって支払って下さい」という為替手形の引受依頼をします
- C社が上記依頼を承諾します
- A社がB社に「代金はC社から受け取って下さい」という為替手形を振り出します
- B社が③の為替手形を受け取ります
- C社が支払期日にB社へ手形代金を支払います
上記のように、為替手形を振り出す場合は、受取人B社と支払人C社の間に取引関係がないような場合であっても、各社が振出人A社との間に取引関係(買掛金や売掛金の存在)があるケースが多いのです。
このような場合には、例えばB社とC社がそれぞれA社と約束手形の振り出しや受け取りを行うよりも、為替手形を利用することでA社がより迅速かつ効率的に各社に対応が可能になるのです。
2.手形裏書とは
手形の譲渡は手続がとても簡単です。裏面に記名(自社名のゴム印を押印)、または署名して、届出印を捺印するだけで、別の人へ譲渡することが可能です。この手続を手形の「裏書譲渡(手形裏書)」と言います。
具体的には、A社がB社から商品10,000円を購入した場合に、A社の手元にあるC社が振り出した10,000円の約束手形をB社に渡すことで、A社の支払いは完了となります。しかし、売掛金ではこのような支払方法をすることは難しいと言わざるを得ません。
通常の単なる債権においては、債権を譲渡する人と譲受される人との間で譲渡契約を締結したうえで、債務者に対して内容証明郵便で通知を行う必要があるのです。手形裏書(手形の譲渡)は、このような手続に比べれば極めて簡単であると言えるでしょう。
手形はその書面自体に権利があるとされています。したがって、手形が別の人の手に渡ってしまうと、お金を支払ってもらえる権利は手形を所有している人が保有していることになるのです。
ただし、手形の裏書人には、譲渡した相手方、及びそれ以後の取得者に対して、手形の支払いを担保する責任が生じます。一義的に支払いをする義務を負っているのは手形の振出人ですが、振出人が支払わない場合には裏書人が支払いをしなければなりません。これは、裏書の担保的効力と、呼ばれています。
また、上記のような裏書人の支払義務のことを「遡求義務」と言います。ちなみに、裏書人は振出人が支払わなかった場合には代わって支払わなければならないのですが、もし支払わない場合でもも取引停止処分*になることはありません。
*取引停止処分
手形や小切手の不渡り(指定期日に決済できないこと)を、同一手形交換所管内で6カ月以内に2回起こした場合に、その手形交換所で下される制裁処分のこと。 取引停止処分を受けると、手形交換所の加盟金融機関から2年間にわたり当座取引や貸出取引が不可能になるので、実質的に倒産となります。 中小・零細規模の会社においては倒産形態の中心であり、倒産統計の重要な指標にもなっています。
(1)手形裏書の方法
受け取った手形は支払いの手段として利用したり、手形を担保に銀行から借入金を得たり、銀行に手形を買い取ってもらったり、と様々な活用方法があります。これらの場合には手形の譲渡が必要になりますが、手形の譲渡は手形裏書という方法を利用します(銀行に手形の取立の依頼をする場合にも手形裏書が必要です)。
手形裏書は手形の裏面に自社の住所、署名、捺印、などを記入、押印すれば完了します(法律上は、住所は不要とされていますが記入しておいた方がよいでしょう)。手形裏書のサンプルは以下を参照してください。
裏書欄には「被裏書人」という欄があります。ここには裏書譲渡する相手の名前を記入します。この欄に記入しているものを「記名式裏書」、空欄のままのものを「白地式裏書」と言います。
被裏書人と次の裏書人の名前が一致していない場合には、手形の所持人だとしても、手形の権利者としては取り扱われません。裏書が途切れることなく続いていることを「裏書の連続」と呼びます。被裏書人の欄が空白の場合は、次の裏書人であると看做されます。
裏書を抹消するためには決まった方法はありません。どのような方法でも問題はありませんが、一般的には、斜線や横線を引いて抹消します。また、その上に捺印する必要はありませんし、鉛筆で抹消しても有効となっています。
捺印部分だけを抹消しても、裏書人の署名が残っている場合には裏書を抹消したことにならないので、注意が必要です。手形の裏書欄が全ていっぱいになってしまった場合には、手形の下部に紙を貼付して、それに裏書をします。一般的には、手形の裏面をコピーして、それを貼付します。
(2)手形裏書の仕訳
前述したように、手形の裏書譲渡とは、換言すると「満期日に所定の金額を受け取る権利」を譲渡するということです。手形裏書で譲渡する場合の仕訳は以下の通りです。
①手形の裏書で譲渡するときの仕訳
(A社から受領した10,000円の約束手形を、B社への仕入の支払いとして裏書譲渡する場合)
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
仕入 |
10,000 |
受取手形 |
10,000 |
裏書譲渡をした場合には、資産が減少すると考えるので、貸方に受取手形勘定を記入します。
②手形の裏書で受け取ったときの仕訳
(販売した商品代金を、裏書譲渡による約束手形で支払われた場合)
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
受取手形 |
10,000 |
売上 |
10,000 |
別の手形所持者から手形を受領するということは、「満期日に所定の金額を受け取る権利」を譲り受けるということです。すたがって、裏書譲渡を受けた場合には、資産が増加すると考えられるので、貸方に受取手形勘定を記入します。
③自己振出約束手形の仕訳
商品を販売した際に受け取った手形が、以前に自社で振り出した手形だった、いうことが稀に発生します。これを「自己振出約束手形」と言います。例えば、10,000円の商品を仕入れて、約束手形を振り出して支払ったが、その後、その手形を売上代金の支払いとして自己振出約束手形を受け取ったような場合です。
約束手形を振り出した場合の仕訳
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
仕入 |
10,000 |
支払手形 |
10,000 |
自己振出約束手形を受け取った場合の仕訳
借方 |
貸方 |
||
勘定科目 |
金額 |
勘定科目 |
金額 |
支払手形 |
10,000 |
売上 |
10,000 |
支払期日までに支払義務がなくなり、手形を振り出した際に増えた手形債務(負債)が減少するので、貸方に支払手形勘定を記入します。
<まとめ>
手形裏書について説明しましたが、多くの場合では、得意先から受け取った手形を、別の得意先との決済に利用しています。ごく稀に自社が振り出した支払手形が、再度手元に戻ってくるケースもあることには注意しましょう。