中小企業の設備投資などをサポートするために様々な制度が実行されています。その中のひとつである「中小企業投資促進税制」とはどのような制度で、他の制度とはどのような点が異なっているのでしょうか。中小企業投資促進税制の内容とその手続きについて詳しく説明します。
(1)中小企業投資促進税制とは
中小企業投資促進税制とは、中小企業の設備投資をサポートするために税金面での支援を行う制度です。また中小企業投資促進税制は、確定申告の際に書類を添付することで申請できる、比較的簡単な手続の制度でもあります。
似ている制度には、中小企業経営強化税制というものがありますが、こちらは事前に事業計画を提出して認定を受ける必要があります。
中小企業投資促進税制の活用により、30%の特別償却と7%の税額控除という2種類の税制の恩恵を受けることが可能となります。特別償却とは、通常の減価償却費に特別に加算することができる減価償却のことを言います。
また、特別償却は課税対象額である利益から特別償却費を差し引くことで、法人税を減税することが可能となります。
中小企業投資促進税制及び中小企業経営強化税制の概要は以下の通りです。なお、両制度とも2年間の適用延長となっており、下記は平成31年度の税制改正によるものです。
中小企業投資促進税制 | 中小企業経営強化税制 | |
対象者 | 青色申告書を提出する中小企業者等(資本金額1億円以下の法人、農業協同組合など) | |
対象事業 | 製造業や建設業が主な対象事業る
下記の事業などは対象外 ・採石業、砂利採取業 ・金融業、保険業(除く、損害保険代理店業) ・不動産業、物品賃貸業(除く、駐車場業を) ・娯楽業(除く、映画業) ・電気業 ・性風俗関連特殊営業 |
中小企業投資促進税制、又は商業・
サービス業・農林水産業活性化税 制の対象となる事業 |
適用要件 | 一定の対象設備の取得等をし、 指定事業の用に供すること | 特定経営力向上設備等の取得等を し、指定事業の用に供すること |
対象設備 | 機械及び装置:1台160万円以上 | |
ソフトウェア:1台70万円以上 | ソフトウェア:合計70万円以上 | |
器具備品:1台30万円以上 | ||
建物附属設備:1台60万円以上 | ||
工具:1台30万円以上 かつ合計120万円以上 | 工具:1台30万円以上 | |
普通貨物自動車:車両総重量3.5t以上 | ||
内航船舶:取得価額の75%が対象 | ||
措置内容 | ・特別償却率:30%
・税額控除:特定中小企業者等は7%、特定中小企業者*等以外は不可 |
・特別償却率:即時償却(100%)
・税額控除:特定中小企業者等は10%、特定中小企業者*等以外は7% |
適用期限 | 平成32年度(2020年度)末まで |
*中小企業庁によると特定中小企業者とは、以下の(1)~(3)のいずれかを満たしている中小企業者をいいます。
(出典:中小企業庁HP https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/gijut/tebiki/tebiki004.html)
(1)創業後5年を経過していない法人(一部の組合を除く)又は事業開始後5年を経過していない個人事業者であって、現在、製造業、印刷業、ソフトウェア業又は情報処理サービス業に属する事業を営んでいる方
(2)前事業年度又は前年において試験研究費(※1-1)の額の売上高(※2)に対する割合が3%を超える方
(3)以下のa)~c)のいずれかを満たしている中小企業者
a)創業後5年を経過していない法人(一部の組合を除く)又は事業開始後5年を経過していない個人事業者であって、前事業年度又は前年において試験研究費等(※1-2)の合計額の売上高に対する割合が3%を超える方
b)創業後10年を経過していない法人(一部の組合を除く。)又は事業開始後10年を経過していない個人事業者であって、前事業年度又は前年において試験研究費等の合計額の売上高に対する割合が5%を超える方
c)創業後1年を経過していない法人(一部の組合を除く)又は事業開始後1年を経過していない個人事業者であって、常勤の研究者の数が2人以上であり、かつ、「当該研究者の数」の「常勤の役員(個人事業者にあっては、事業主)及び従業員の数の合計」に対する割合が10分の1以上である方
(※1-1)「試験研究費」とは、試験研究を行うために要する原材料費、人件費、委託費、設備等に係る減価償却費等をいいます。
(※1-2)「試験研究費等」とは、試験研究費、新たな技術若しくは新たな経営組織の採用、市場の開拓又は新たな事業の開始のために特別に支出される費用をいいます。
(※2) 売上高とは、法人の場合は総収入金額から固定資産及び有価証券の譲渡による収入金額を控除した金額のことをいいます。また、個人の場合には、事業所得に係る総収入金額のことをいいます。
2.中小企業投資促進税制の手続き
法人が中小企業投資促進税制の特別償却を行うためには、法人税の確定申告書に特別償却の付表と適用額明細書を添付する必要があります。特別償却の付表とは、正式には「中小企業者等又は中小連結法人が取得した機械等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表」というものです。
また、税額控除については、「中小事業者が機械等を取得した場合の所得税額の特別控除に関する明細書」という書類を確定申告書に添付する必要があります。
したがって、中小企業投資促進税制を利用するために必要となる特別な書類は税額控除の場合の明細書だけであり、特別償却の場合は青色申告決算書の指定事項を記載するだけで手続は完了します。なお、上記の明細書は法人の「別表」とほぼ同じ内容となっています。
つまり、特別償却の場合は「付表」が、税額控除の場合は「別表」が、それぞれ必要になるということです。
「付表」(中小企業者等又は中小連結法人が取得した機械等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表)は、国税庁のHPからダウンロードすることが可能です。
(参考:国税庁HPより「中小企業者等又は中小連結法人が取得した機械等の特別償却の償却限度額の計算に関する付表」https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/shinkoku/pdf/h19/toku02.pdf)
付表については2枚目に詳しい記載方法(「特別償却の付表(二)の記載の仕方」)が掲載されているので、その記載方法に従って記載してください。
また「別表」(中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書)についても、国税庁のHPからダウンロードすることが可能です。
(参考:国税庁HPより「中小企業者等が機械等を取得した場合の法人税
額の特別控除に関する明細書」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/shinkoku/itiran2016/pdf/06_10.pdf)
こちらの「別表も」2枚目の「別表六(十)の記載の仕方」に記載方法が掲載されているので、その方法に沿って記載してください。
別表に記載する際に留意すべき点等について説明します。最初に、一番上の欄に会社の事業年度と法人名を記載します。次いで、「措法第42条の6第1項各号の該当号及び特定生産性向上設備等の該当区分」欄に、該当する数字を記入してください。
この区分欄は設備投資の対象を意味していて、例えば、機械設備や工具等の場合であれば第1号、ソフトウェアの場合は第2号となります。その他には、取得年月日や機械装置等の名称、指定事業の用に供した年月日、などの欄があります。
ここで重要なのが、法人税額の特別控除額の計算の欄です。ここでは取得した際にかかった設備投資の費用を記載し、税額控除限度額(×7%)などの計算を行います。計算式は既に表中に記載されていので、その計算式に則って計算を行い算出することができます。
税額控除の場合には、法人税の20%までしか控除できないというルールがありますが、仮に20%を超えたような場合には翌年度に繰り越すことが可能となっています。したがって、前年度への繰り越し控除がある場合や翌年度に繰り越すをする場合などに記載する欄も設定されています。
また、別表の2枚目には「中小企業者の判定」という欄があるので、こちらの記載を忘れないように注意してください。ここでは、従業員数や株式数、株式の保有割合などを記載します。この記載内容から、税額控除の対象者である「中小企業者等」かどうかを判断するのです。
まとめ
中小企業にとっては設備投資を税制面で後押ししてくれる中小企業投資促進税制ですが、きちんと活用することでメリットを享受することができる制度です。そのためにも中小企業投資促進税制の仕組みと手続きを理解して手続きを行うことが重要です。
現在の中小企業投資促進税制は平成32年度(2020年度)末までと期限が決まっていることから、また延長される可能性もありますが、手続きをする場合には、制度の期限や中小企業庁や国税庁などの当局からのお知らせにも留意してください。