生産性向上設備とはどのような設備のことを言うのでしょうか。多額の資金が必要となる設備投資は中小企業にとって負担になる場合がありますが、生産性向上設備税制として税金面での優遇措置が2017年3月末まで講じられていました。
生産性向上設備税制の概要について説明をして、その後を継いで生まれ変わった中小企業経営強化税制についても解説します。
1.生産性向上設備税制とは
生産性向上設備投資とは、言葉の通り、向上の生産性を向上させるような設備への投資のことを言います。基本的には生産性をダウンさせるような設備投資というものは考えにくいのですが、中小企業にとっては大きな設備投資には資金的な観点から二の足を踏んでしまう場合も多いと考えられます。
そこで内需拡大を目的とした政策の一環として、2014年1月に定められた産業競争力強化法を背景にして、「2014年1月20日から2016年3月31日まで」と「2016年4月1日から2017年3月31日まで」を生産性向上設備への投資に対する税制の優遇期間として定めていました。
上記の期間の差は優遇割合の差となっており、前者(2014年1月20日から2016年3月31日まで)は「固定資産取得価格の5%、建物および構築物の場合は3%の税額控除、または即時償却」ですが後者(2016年4月1日から2017年3月31日まで)では「固定資産取得価格の4%、建物および構築物の場合は2%の税額控除、または特別償却50%」となっていました。
2.生産性向上設備税制の対象や条件
生産性向上設備税制の対象となるのは、青色申告をしている法人、又は、個人であることが条件となっています。また、どのような設備投資でも対象になるわけではなく、前述した通り、明らかに生産性の向上に貢献するような設備投資でなければなりません。
他にも、「内需拡大に資する」という観点から、国内に導入する設備であること、や、中古設備でないこと、などの条件が必要となっていました。上記の点をクリアしている場合には生産性向上設備税制の対象となりますが、対象設備は性能や目的によってA類型とB類型に分類されていました。
A類型とは先端設備と言われているもので、認定の条件は、①最新モデルである、②年間で1%以上の生産性向上を見込めるもの、の2点です。またB類型とは生産ラインやオペレーションの改善に資する設備のことで、認定の条件は、投資利益率が年間で15%以上(中小企業は5%以上)である、となっていました。
他には、最低取得価格の制限があり、原則として基本的に取得価額120万円以上の設備が対象となっていました。ただし、機械装置は160万円以上、ソフトウェアは70万円以上という例外も設けられていました。
3.生産性向上設備税制のメリット
生産性向上設備投資促進税制には、減価償却や税額控除を有効に活用できるというメリットがありました。具体的には、前述したように、2014年1月20日から2016年3月31日までの期間は、「固定資産取得価格の5%、建物および構築物の場合は3%の税額控除、または即時償却」、2016年4月1日から2017年3月31日までの期間では「固定資産取得価格の4%、建物および構築物の場合は2%の税額控除、または特別償却50%」というものです。
通常は、設備投資を行った場合はその設備の法定償却年数に応じて毎年少しづつ費用化されるのですが、生産性向上設備投資促進税制を利用した場合には、一気に即時償却することも可能になります。したがって、その分、法人税の負担が軽減されるのです。ただし、即時償却した翌年以降は減価償却ができなくなってしまうことには注意が必要です。
また、税額控除とは、通常納付すべき法人税から経費を差し引くことができるというものです。例えば、2,000万円の設備投資を行って、その年度の課税対象額が2,000万円だった場合には、本来であれば、2,000万円×40%=800万円の法人税を納付する必要があります。
しかしながら、5%税額控除が適用される場合には、2,000万円×5%=100万円分を法人税の800万円から控除することが可能となるのです。したがって、法人税は800万円-100万円=700万円」となるのです。便利な制度ではありますが、1年間に税額控除可能な額は法人税の2割までという制限もありました。
4.中小企業経営強化税制の概要と類型
生産性向上設備税制は2017年3月末で廃止されて、中小企業経営強化税制という制度に生まれ変わりました。この新しい税制の概要と類型します。
(1)中小企業経営強化税制の概要
中小起業経営強化税制とは、青色申告書を提出する中小企業者*などが、平成29年4月1日から平成31年3月31日までの間に、中小企業等経営強化法の認定を受けた経営力向上計画に基づいて、対象設備を取得し、その指定する事業に使用した場合に、即時償却又は7%税額控除(資本金3,000万円以下もしくは個人事業主は10%)を受けることができる制度のことです。
*ここで言う中小企業者とは、以下の法人を指します(出典:中小企業庁による定義https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/teigi.htmlより)。
①資本金もしくは出資金の額が1億円以下の法人
②常時使用する従業員数が1,000人以下の個人事業主
③資本金もしくは出資金を有しない法人のうち常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
④協同組合等(中小企業等経営強化法第2条第2項に規定する「中小企業者等」に該当するものに限る)
ただし、次の法人は、たとえ資本金が1億円以下でも中小企業者とはなりません。
(イ)同一の大規模法人(資本金もしくは出資金の額が1億円超の法人又は資本金もしくは出資金を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人超の法人)から2分の1以上の出資を受ける法人
(ロ)2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人
(2)中小企業経営強化税制の類型
中小企業経営強化税制でも、生産性向上設備税制と同様に、以下の通り設備対象を類型化しています。
類型 | 生産性向上設備(A類型) | 収益力強化設備(B類型) |
要件 | ①経営強化法の認定
②一定期間内に販売されたモデル(最新モデルである必要はない) ③生産性が旧モデルに比べて平均1%以上改善する設備 ※上記要件②、③については工業会等から証明書の取得が必要 |
①経営強化法の認定
②投資収益率が年平均5%以上の投資計画に係る設備 ※上記②の要件については経済産業局からの確認書の取得が必要 |
対象設備 | ・機械・装置(160万円以上/10年以内)
・測定工具及び検査工具(30万円以上/5年以内) ・器具・備品(30万円以上/6年以内) (試験・測定機器、冷凍陳列棚など) ・建物附属設備(60万円以上/14年以内) (ボイラー、LED照明、空調など) ・ソフトウエア(70万円以上/5年以内) (情報を収集・分析・指示する機能) |
・機械・装置(160万円以上)
・工具(30万円以上) ・器具備品(30万円以上) ・建物附属設備(60万円以上) ・ソフトウエア(70万円以上) |
確認主体 | 工業会等 | 経済産業局 |
指定事業 | 中小企業投資促進税制の対象事業及び商業・サービス業・農林水産業活性化税制の対象事業 | |
留意点 | ・中古資産や貸付資産でないこと、また、国内への投資であることも必要です。
・電気業、水道業、鉄道業、航空運輸業、銀行業、娯楽業(除く、映画業)等は対象外です。生産性向上設備投資促進税制の際には利用度が高かった太陽光発電の電気業は除外されていま。 |
中小企業経営強化税制になって、生産性向上設備投資促進税制よりも使い勝手が悪くなったという声も聞かれます。例えば、生産性向上設備投資促進税制のA類型は、工業会等の証明書の取得をすれば、即時償却等が可能でしたが、中小企業経営強化税制では、A類型も経営力向上計画の認定が必要になっている、という点などです。
一方で、中小企業等経営強化法に基づく税制措置には、他に固定資産税の特例もあります。 固定資産税が3年間半分になるという措置です。
まとめ
中小企業にとっては設備投資の必要を感じていても、簡単に多額の資金を投資することは難しい場合があります。上記のような税制のメリットを享受できるように、常に中小企業に対する税制変更などの情報を入手できるようにしておくことも経営者にとっては重要です。