小規模共済とはどのような制度なのでしょうか。そのメリットやデメリットについて説明します。また、小規模共済への加入方法や退会する方法についても詳しく解説します。
1.小規模共済とは
小規模共済とは、小規模企業共済とも呼ばれており、その名の通り小規模な企業の役員や個人事業主などが退職した際に、掛金に応じた共済金を受け取ることができる制度のことです。
小規模共済は独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)が提供している共済制度で、経営者にも退職金を給付しよう、というコンセプトで創設されました。個人事業主や草創期のベンチャー企業などでは退職金制度を保有することが難しい場合が多いので、本制度を上手に活用することも重要です。
2.小規模共済のメリット
メリット |
備考 |
①経営者の退職金 |
将来退職した場合には(加入期間が20年(240ヶ月)以上あれば)最大掛金の120%相当の金額が戻ってくる可能性があります。
しかし納付期間が短期の場合には元本割れ(支払った掛金額よりも受け取る共済金額の方が少なくなること)のリスクがあることには注意してください。 |
②節税の効果 |
小規模共済の場合は掛金が全て経費として損金算入可能なので法人税額を減少させることが可能です(個人事業主の場合は所得控除対象となります)。
つまり、貯蓄(退職金)目的の掛金支払が節税効果にも繋がる、ということになるのです。 |
③税負担の軽減 |
小規模共済は積み立てる際には上記②にように節税になりますが、解約時には税金を支払うことになります。
しかし一方で解約手当金(共済金)は個人事業主であれば退職所得になるので、事業所得と比較すれば税負担はかなり軽くなります。* |
④自由な積立金額の設定 |
小規模共済は1000~7,000円の範囲(500円刻み)で積立額を自由に設定できるので、無理のない範囲で小規模共済を始めることが可能です。
会社のスタートアップ時には掛金を抑えておいて、会社の成長に合わせて掛金を増額する、といった運用も可能です。 |
⑤資金調達の手段 |
小規模共済には契約者貸付制度があります。これは小規模共済の加入者に対して積み立てている金額の範囲内で、資金を無担保・無保証で貸し付ける制度です。
突然資金繰りに窮した場合には活用することができます。 |
*退職所得の税負担が軽くなる仕組み
課税対象となる事業所得と退職所得のそれぞれの算出方法は以下の通りです。
事業所得:収益-費用=事業所得
退職所得:(退職金-控除額)×1/2=退職所得
退職所得の場合には、「控除額」や「×1/2」という項目があるので、課税対象となる退職所得の金額が小さくなり、税負担が軽くなる仕組みになっています。小規模共済の共済金は退職所得となりますので、事業所得の一部を掛金として小規模共済に積み立てておいて、共済金を退職所得として受け取ることで節税が可能になるメリットを享受できることになります。
3.小規模共済のデメリット
前述したように、小規模共済に関しては20年(240ヶ月)以上加入してれば掛金の100%以上の共済金の受け取りを見込めることができます。加入者自身の現在の年齢から退職するまでの期間を試算しておくことが大切です。
デメリット |
備考 |
①掛け捨て |
小規模共済に加入しても1年(12ヶ月)未満で解約をしてしまった場合には、その間に支払った掛金は掛け捨てとなってしまいます。 |
②元本割れ |
加入期間が20年(240ヶ月)未満の場合は元本割れしてしまうリスクがあります。納付月数と支給割合の関係は以下の表**のとおりです。 |
**納付月数と支給割合
納付月数 |
支給割合 |
12ヶ月以上84ヶ月未満 |
80.00% |
84ヶ月以上90ヶ月未満 |
80.50% |
90ヶ月以上96ヶ月未満 |
81.25% |
以下、6ヶ月ごとに0.75%ずつ増加 |
|
240ヶ月以上246ヶ月未満 |
100.00% |
246ヶ月以上252ヶ月未満 |
100.25% |
252ヶ月以上258ヶ月未満 |
100.50% |
以下、6ヶ月ごとに0.25%ずつ増加 |
|
468ヶ月以上474ヶ月未満 |
109.50% |
474ヶ月以上480ヶ月未満 |
109.75% |
480ヶ月以上 |
110.00% |
以下、6ヶ月ごとに0.25%ずつ増加し、上限は120%となります |
個人事業を続けている状態のままで小規模共済を20年未満で解約すると、前述したように元本割れのリスクがあります。ただし、廃業した場合などには元本が100%戻ってくるような仕組みになっています。具体的には以下のような各ケースが相当します。
・個人事業を廃業したケース
・個人事業を他の人に譲渡したケース
・老齢給付(180ヶ月以上の期間掛金を払い込んだ65歳以上の人)を受給するケース
・契約者が死亡したケース
・個人事業を法人化したが、その法人の役員に就任しなかったケース
例えば、現在50歳の人が小規模企業共済に加入すると、180ヶ月経過した65歳の時点で老齢給付として受給する、あるいは、退職(廃業や事業譲渡)をした場合は100%以上戻ってくる、ことになるので、実質的に元本割れのデメリットはないと言うことができるのです。
4.小規模共済への加入
小規模共済への加入にあたっては加入資格が以下のように設定されています。(出典:中小機構HPより、小規模企業共済の加入資格より、
http://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/entry/eligibility/index.html)
<加入資格>
小規模企業共済制度には、次のいずれかに該当する場合にご加入いただけます。
・建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社等の役員
・商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社等の役員
・事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
・常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
・常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
・上記「1」と「2」に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)
<補足事項>
・2つ以上の事業を行っている事業主または共同経営者の方は、主たる事業の業種で加入していただきます。
・「常時使用する従業員」には、家族従業員、共同経営者(2人まで)を含みません。
・「会社等の役員」とは、株式会社・有限会社の取締役または監査役の方、合名会社・合資会社・合同会社の業務執行社員の方を指します(ただし外国法人の役員は除く)。
上記の加入要件のポイントは会社の事業規模が大きくなる前に中小共済への加入を検討する必要があるということです。業種にもよる違いはあるものの、従業員数が一定数以上を超えると小規模企業とみなされなくなってしまうため、中小共済の制度を利用することができなくなってしまう可能性があるのです。
さらに、加入要件を満たしている時に一度小規模共済に加入しておきさえすれば共済を続けることは問題なくできるのですが、会社の事業規模が加入要件を超えてしまった場合には加入すること自体が不可能になります。
したがって、ベンチャー企業などは創業したらすぐに(会社の規模が拡大する前に)、小規模共済への加入を検討する必要があるでしょう。
5.小規模共済の解約
小規模共済の解約についてですが、解約手当金を受け取るためには「共済金等請求書」などの下記の【中小機構の書類】に必要事項を記入し、中小機構へ送付する必要があります。また、同時に下記の【添付書類】が必要になります。
【中小機構の書類】
・共済金等請求書
・退職所得申告書
・預金口座振替解約申出書兼委託団体払解約申出書
上記の請求書などは、「中小機構の業務を取り扱っている委託機関の窓口」「自動発送サービス」「資料送付請求票(FAX)」「資料請求フォームを利用する」「共済相談室に電話する」などの方法で入手することが可能です。
【添付書類】
・共済契約締結証書、なくしてしまった場合は印鑑証明書(印鑑証明書の場合は発行後3ヶ月以内の原本)
・マイナンバー(個人番号)を確認することができる書類
まとめ
これまでの説明のように小規模の会社などでは退職金を準備するために小規模共済を活用することもひとつの方法です。ただし、加入時期や条件などをしっかり確認・検討したうえで加入することが重要だと言えます。