仮払消費税という勘定科目は、会社が消費税に関して「税抜方式」を採用している場合に、仕入を行った際などに支払った消費税額(含む、地方消費税額分)を計上するための勘定科目で、流動資産に区分されています。
消費税を納税するプロセスにおいて、「仮払消費税」はどのように利用されているのか、会計処理とともに説明します。
1.仮払消費税とは
仮払消費税とは、消費税の会計処理の際に「税抜処理方式」を採用している場合に、期中に支払った消費税を処理するための資産勘定です。なお、「税込処理方式」を採用している場合には使用されません。
「税抜処理方式」とは、仕入れの際に業者に支払った金額、あるいは商品を販売した際に消費者から受領した金額を、消費税分とそうでない分とに分けて処理する方法のことを言います。反対に、「税込処理方式」とは、仕入れの際に業者に支払った金額、あるいは商品を販売した際に消費者から受領した金額を、消費税分を含んだ形でまとめて処理をしておいて、決算時に消費税を「租税公課」と「未払消費税」に区分して清算する方法のことです。
税込処理方式の方が計算や記載が煩雑にならずに済むという利点があるので、中小企業では税込処理方式の採用の方が多いのではないでしょうか。一方で、手続きは複雑になりますが、税抜処理方式の場合は細かく消費税分を別に記載することになるので、納税予定額の推移を把握しやすいというメリットがあります。
2.消費税を納めるまでのプロセス
それでは消費税を納めるまでの工程において、仮払消費税はどのような場面で登場するのか確認してみましょう。
消費者が1,100,000円(内、消費税額は100,000円)の商品を購入したケースを例とします。商品を販売した販売業者は、消費者が負支払った(負担した)消費税を100,000円受領しました。この場合、販売業者は100,000円を納税することになるのでしょうか?
制度によって詳細は異なりますが、原則として、販売業者が納めなければならない消費税額は100,000円とはなりません。なぜならば、販売業者は販売した商品を仕入れているので、その仕入の際に支払った消費税を差し引いて納税することになるからです。
具体的には、販売業者が販売した商品を770,000円(内、消費税額 70,000円)で仕入れているとした場合には、この販売業者が納めるべき消費税額は、消費者から預かった消費税(100,000円)から仕入先に支払った消費税(70,000円)を差し引いた30,000円が、この販売事業が納めなければならない消費税となるのです。
上記の例で示した「預かった消費税」は「仮受消費税」という勘定科目で、支払った消費税は「仮払消費税」という勘定科目で処理することになります。つまり、前述した30,000円は「仮受消費税 - 仮払消費税」という算式で計算されるのです。
この場合、消費者が支払った消費税100,000円のうち、30,000円は納税されることになるのですが、残りの金額はどこで納税されるのでしょうか。販売業者は仕入先から商品を仕入れて、仕入先の業者は商品の製造をしている業者から、そしてさらに商品を製造している業者は、原材料を供給している業者から原材料を仕入れてています。
したがって、それぞれの事業者がそれぞれに「仮受消費税 - 仮払消費税」という算式で消費税を計算して、消費者が支払った税金を分担して納付する、ということになるのです。
(1)事業者と納税義務者が同一の場合の申告と納付
事業者は、上述した計算式(仮受消費税 - 仮払消費税)を用いて、課税期間の納税額を計算します。事業者の多くは、課税期間は1年(事業年度)となっており、また、個人事業主の場合は、毎年1月1日から12月31日までを課税期間として計算しています。
計算した消費税の申告と納付は、法人の場合には課税期間の末日の翌日から2ヶ月以内(通常の法人税などの申告・納付期限と同様)と定められています。一方、個人事業主の場合には翌年の3月31日までと定められています。
(2)消費税率の内訳
消費税はその全額を国税としているわけではありません。現行の消費税10%(2023年8月)のうち、7.8%を国税、残りの2.2%を地方消費税として計算します。
(3)全て事業者が納税義務者とはなるわけではない
小規模な事業者に対しては消費税の納税が免除されています。納税を免除されている事業者を免税事業者と言います。具体的には、基準となる対象期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者を免税義務者として申告納付を免除しています。
(4)簡易的な消費税の計算方法
小規模事業者には、さらに簡易的な消費税の計算方法(簡易課税制度)を選択することできます。免税事業者制度も簡易課税制度も、小規模な事業者の税金に関する事務負担を軽減するという目的で設定されているものです。
3.仮払消費税の仕訳
それでは仮払消費税に関する会計処理について説明します。前述したように、仕入の際には支払った消費税を仮払消費税として計上し、販売した際には預かった消費税を仮受消費税として計上します。そして、課税期間中に積み上げた仮払消費税と仮受消費税を相殺して、納税や還付請求を行うことになります。
(1)仕入の際の仮払消費税の計上
仕入の際には、本体価格とその10%の消費税(消費税7.8%と地方消費税2.2%)を支払っており、仕訳では消費税等に相当する金額は、「仮払消費税」の勘定科目に計上します。仮払消費税は、原則1年以内に回収可能な資産である流動資産に区分されています。仕入と同時に借方に記帳して、その分の現金を減少させます。
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
仕入
仮払消費税 |
1,000,000
100,000 |
現金 | 1,100,000 |
(2)売上の際の仮受消費税の計上
売上の際には、10%の消費税等に相当する金額を受領しています。仕訳では、消費税等に相当する金額は、「仮受消費税」の勘定科目に計上します。仮受消費税は、1年以内に支払いなどの期限が到来する流動負債に区分されています。売上と同時に貸方に記帳して、その分の現金を増加させます。
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
現金
|
1,100,000
|
売上
借受消費税 |
1,000,000
100,000 |
(3)納付税額の算出と差額の処理
税抜処理方式の決算時の仕訳では、課税期間中に積み上がった仮払消費税と仮受消費税を相殺します。相殺時に仮受消費税の残高の方が多い場合には消費税を納税し、仮払消費税の残高の方が多い場合には払いすぎた消費税を還付してもらうように請求手続きを行います。
しかしながら、実際の納付税額や還付税額は「消費税等の申告書」に基づいて計算されるので、相殺時の差額と一致するとは限りません。したがって、納付税額を「未払消費税」、還付税額を「未収消費税」として計上し、相殺時との差額を「雑収入」や「雑損失」として処理することになります。
①仮受消費税が多い場合
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
借受消費税 | 1,200,000
|
仮払消費税
未払消費税 雑収入 |
1,100,000
99,000 1,000 |
実際の納税時の仕訳は、未払消費税と現金を共に減少させます。
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
未払消費税 | 99,000 | 現金 | 99,000 |
一方で、還付金の受領時の仕訳は、未収消費税を減少させて現金を増加させます。
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
現金 | 99,000 | 未払消費税 | 99,000 |
②仮払消費税が多い場合
借方 | 貸方 | ||
勘定科目 | 金額 | 勘定科目 | 金額 |
仮受消費税
未払消費税 雑損失 |
1,100,000
99,000 1,000 |
仮払消費税 | 1,200,000 |
まとめ
「仮払消費税」とは、税抜方式を採用している会社が、消費税の計算をするために利用する勘定科目で、「借受消費税」という勘定科目と同様に、納めるべき消費税を計算するためにはとても重要な科目です。消費税率のアップまでにあまり日がない状況であり、しかも軽減税率など新しい制度も導入される見込みです。
特に、消費者としてではなく、納税事業者として対応する必要がある会社の経営者には、これまで以上に消費税に対する正しい知識と理解が必要です。
「仮受消費税」に関しては、「仮受消費税はどんな時に使われるの?消費税増税で会計処理は変わるのか」で詳細に解説しています。