●はじめに
金融機関に借入依頼をする際の融資利率は、どのように決められているのかご存知でしょうか。融資依頼先へはいくつも資料を提出しなければならないから、さぞや難しく決められているに違いないと感じる方も多いでしょう。また最近では「マイナス融資利率」などの言葉もよく耳にし、お得に融資を受けられるようだと捉えている人も少なくないようです。 そもそも融資利率とはどのように決められるのか。大まかに言ってしまうと、実は融資利率は4つの視点から判断されているのです。今回は、その4つの視点について詳しく解説していきます。
●基礎知識:融資利率の構成
4つのポイントをご説明する前に、まずは融資利率の仕組みについてお伝えしておきます。まず、金融機関が利率を決める上で「プライムレート」と呼ばれるものがあります。プライムレートとは、最も信用性のある一流企業に対して提示する最優遇貸出金利のことです。このプライムレートは、それぞれの金融機関が個別に決めて、さらに公表をしています。企業への融資利率を決める際は、このプライムレートにその金融機関の取り分(スプレッドと呼ばれます)を加えたものを融資利率としているのです。このスプレッドが、融資を受ける企業の信用性や担保の有無によって上下するので、融資利率には幅が生まれるんですね。先に述べたようにプライムレートは公表されているので、最低の利率はどの程度かは事前に分かります。また、プライムレートは最優遇される企業への利率ですが、金融機関としても競合に勝つために特別な融資利率を用意している場合もあります。
●融資利率を決める4つのポイント
では、プライムレートに上乗せされるスプレッドをどう決めるのか、4つの視点をご紹介していきましょう。
① 過去の業績
融資利率を決める上で最も影響があるのは、決算書や試算表など過去の経営実績を示す資料です。金融機関は融資するにあたり、その会社の歴史や経営者のビジョン、事業の優位性などをヒアリングしてきます。しかし、将来の見通しや数値化できないものは不確定要素が強く信頼性に乏しいので、どうしても過去の実績に頼る傾向があります。そのため、融資依頼をする予定がある場合は、決算書を黒字にしておくなど事前準備が必要であると言えるでしょう。
ただし、決算書が黒字であれば他は関係ないというわけでもありません。企業が長年積み上げた利益として、自己資本がどのくらいあるかも重要視されます。金融機関は、決算書を表面的に見るだけでは判断しません。不良在庫や回収できない債権がないか、不審な貸し付けや不要な資産がないかなども確認しています。特に、ゴルフ会員権や過度な有価証券がないかをよく見るようです。そういった資産は、諸表上は自己資本であっても差し引いて考慮されるので注意しましょう。
② 企業や事業の将来性
基本的には過去の業績を参考にして融資利率を決めますが、将来の見通しも一部考慮される場合があります。例えば、他の会社には不可能な技術を用いた事業、誰が見ても成功すると思われる事業です。近年で言うと、初期の介護事業や売電事業がそれに当てはまります。金融機関の担当者は各事業や分野の専門家ではないので、世間一般の時流や業界動向を基に判断をしています。なので、今後需要があると見込む事業については融資も積極的に行い、融資利率も優遇する場合が多いようです。
ここで注意しなければならないのは、前提として具体的な数値を用いた精緻な計画があるということです。いくら壮大なビジョンがあっても、経営者の頭の中にあるだけでは周囲には理解されません。書面などで分かりやすく可視化することが必要です。書面は作り込むほど具体的になりやすく、融資の実現性を高めることができるでしょう。
③ 担保の有無
過去の実績や実現可能性の高い事業計画があっても、100%融資が返済される保証はありません。そのため、何かあった時に少しでも回収できるよう金融機関は担保の提供を依頼してきます。当然、担保を出せば出すほど金融機関のリスクは少なくなるので、融資利率は低下します。
ただし、事業を始めたばかりなど十分な担保がない場合もあります。事業実績がないまま融資利率の交渉をするのは非常に困難なので、この場合は信用保証協会の利用を条件に利率交渉するといいでしょう。信用保証協会への保証料を支払わなければなりませんが、金融機関としては貸し倒れリスクを大幅に少なくできるので、利率交渉しやすくなります。
④ 保証人の有無
現在は第三者からの連帯保証を要求しない金融機関が多いです。しかし、やはり財力のある連帯保証人の存在があると融資利率の判断には大きく影響してきます。財力のある知人や取引先などに保証をしてもらうと金融機関のリスクが低くなるので、融資利率も低下する傾向にあります。
●まとめ
いかがだったでしょうか。以上の4つを、全て満たすことができる企業は非常に少ないと思われます。しかし、以上の4つの視点があることを知っていれば、融資依頼の前に工夫しておくことができます。そうすることで、融資利率を低下させる方法がいくらでも生まれるのです。なるべく低い融資利率で資金調達することは、企業の負担を少なくし事業を円滑に進めることにつながります。また、円滑な事業で融資を計画通り返済していれば、次の融資依頼の際の利率交渉にもつながります。ぜひ、知っておいていただき、活用してくださいね。