自己資本に似ている言葉に、純資産や株主資本などがありますが、それぞれの言葉の定義と違いはどのようなものなのでしょうか。また、自己資本を活用した会社の財務分析方法についても詳しく説明します。
1.自己資本とは
自己資本とは、他人資本と対をなす言葉で、自力で出資から調達した資本金とは内部留保(剰余金)から成ります。金融機関などからの借入金や社債と異なり、基本的には返済の義務がないお金でもあります。
ただし、資本金も外部からの調達であるという観点から、内部留保(剰余金)のみを自己資本とする考え方(狭義の自己資本)もあるものの、本稿では、資本金+内部留保(剰余金)を自己資本とすることとします。
前述したように、他人資本は返済しなければいけないお金なので、他人資本が大きい会社は自己資本が大きな会社に比べると経営の安定性は高くないと考えることができます。つまり自己資本が水準以上にあることで、その会社は安定的に事業を営むことができるだろう、という見方ができるのです。
世間では外部調達を全くしない、いわゆる「無借金会社」であることを喧伝する会社もあるようですが、無借金であること、つまり他人資本を活用せずに自己資本のみを利用する会社というのは本当に素晴らしい会社なのでしょうか。
返済する必要がないということは、利息を払う必要もないということですし、会社の財務としては費用を抑えることもできるので、素晴らしいことのように感じるかもしれません。しかし、反対に、会社で多額の設備投資を行う場合にも全額自己資金で負担しなければならないですし、急な仕入れの拡大にも対応できない可能性もあります。
このように無借金経営を貫き通すことは、ビジネスのチャンスを逃してしまう可能性もありますし、借金をすることができない(金融機関から借入をしたり、社債を発行することができないような)会社なのだろうと思われてしまうかもしれません。
一般的には、他人資本の調達(例えば、銀行からの借入)によって、設備投資を行い売上規模を拡大するようなことを、レバレッジの活用と呼びます。自己資本だけでは、このようなレバレッジを利用することは困難です。
したがって、無借金経営の利点もあるものの、運転資金や設備投資資金として多額の他人資本を活用して企業規模を拡大するという目的にも大きなメリットがあるとされているのです。
2.自己資本と純資産、株主資本との相違点
自己資本に似ている言葉として、純資産、株主資本、がありますが、どの言葉も「会社の正味の財産」という意味があります。それぞれの言葉の定義を説明します。
語句 | 定義 |
純資産 |
純資産は、株主資本、その他の包括利益累計額、新株予約権、非支配株主持分(連結財務諸表のみ)、の4つから成っています。つまり、株主資本は純資産の一部なのです。
なお、その他の包括利益累計額とは、「その他有価証券評価差額金+繰延ヘッジ損益+退職給付に係る調整累計額+為替換算調整勘定(連結財務諸表のみ)等」となります。これは、大まかに言うと、会社の含み損益のことです。 |
株主資本 |
株主資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金、の合計から自己株式を差し引くことで求められます。
大まかな理解としては、株主からの出資(資本金+資本剰余金)と会社がこれまでに稼いだ利益の累計額*の合計から会社が保有する自己株式を差し引いた金額となります。 *配当などを支払った残りのことで内部留保とも言われています。 |
自己資本 |
自己資本とは、前述したように、株主資本+その他の包括利益累計額のことです。
貸借対照表上では、自己資本という項目はありません。 |
3.自己資本比率の算出方法と活用
自己資本を利用した財務指標としては自己資本比率が挙げられます。自己資本比率とは、会社の総資本における自己資本の比率のことです。自己資本率を計算することで、会社の資本力や経営の安定性を図ることが可能になります。
(1)自己資本比率の算出方法
自己資本比率の算出式は、
「自己資本比率=〔自己資本(純資産)÷総資本(負債の部+資本の部の合計)〕×100」
となっています。
例えば、総資本が10億円で自己資本が1億円の場合、自己資本比率は「(1億円÷10億円)×100」=10%となります。また、総資本が10億円で自己資本が△1億円の場合は、自己資本比率は「(△1億円÷10億円)×100」=△10%になります。
このように、自己資本比率の値がマイナスになる場合は、「債務超過」と言って、総資本よりも他人資本(負債)が多い状態であること示します。
(2)自己資本比率の適正水準
中小企業における自己資本比率の適正な水準は以下の通りとされています。
自己資本比率の水準 | 説明 |
自己資本比率が50%以上 |
自己資本比率が50%以上の場合は優良企業であると言えます。70%を超えるような場合は、ほぼ無借金経営と言うことができるため、超優良企業とみなされる可能性が高いでしょう。 |
自己資本比率が20%~49% |
自己資本比率が20~49%の範囲内に収まっているようであれば、一般的な水準の企業であると言えます。40%以上の場合は、倒産のリスクはほぼないと言ってもよいでしょう。 |
自己資本比率が10%~19% |
自己資本比率が10~19%の範囲内の場合は、資本力が乏しい状態にある、と言うことができます。今すぐに経営が悪化する危険性はないものの、自己資本比率20%以上の水準を目標に、収益力を強化するように会社の体質を改善することをすすめます。 |
自己資本比率が9%以下 |
自己資本比率が9%以下の場合は、資本欠損*の可能性があります。
(*資本欠損とは、資本金が損失で欠ける状態のことで、倒産の危険性を知らせる予兆であると言えます。) 既に赤字経営のような状態に陥っている場合は、可及的速やかに経営体質を改善して、最優先で会社の黒字化を図らなければいけないでしょう。 |
自己資本比率がマイナス |
自己資本比率がマイナスということは、債務超過*の状態であることを示しています。
(*債務超過とは、総資本の金額よりも、返済義務がある他人資本の金額の方が多い状態のことです。) 債務超過の場合は、今すぐに会社を再建するための方策を実行する必要があります。 例えば、不採算部門のクローズ、従業員に対する人員整理、金融機関などへの返済計画のリスケジュールの依頼・実行、など、即効性のある対策を実施することが求められます。 |
(3)自己資本比率の活用
一般的には、自己資本比率の高い企業の特徴には、
・買掛金や借金などの他人資本が少ない
・自己資本の代表である現預金と純資産が多い
・現金化のスピードが速く、キャッシュフローを重視している
・資本効率の高い経営が実践されている
・利益水準が高い
・在庫が少ない
・設備の減価償却が速い
・不良債権や不良資産が少ない
などが挙げられます。
一方で、自己資本比率が低い企業は、
・買掛金や借金などの他人資本が多い
・自己資本の代表である現預金と純資産が少ない
・現金化のスピードが遅く、キャッシュフロー重視の経営が定着していない
・資本効率の悪い経営になってしまっている可能性が高い
・利益水準が低い
・在庫が多い
・設備の減価償却が遅い
・不良債権や不良資産が多い
といった特徴が考えられます。
自己資本比率は、会社の資本力と経営の安全性を示す非常に重要な経営指標ですが、自己資本比率が標準水準よりも劣っているからといって、即座に会社の経営状態が悪いと断定することは早計かもしれません。
例えば、会社が急成長中であり、金融機関からの借入を増やしているような場合には、自己資本比率は低下、あるいは標準を下回っているような場合が多いことが考えられます。
つまり、自己資本比率の適正水準は、会社の経営環境や成長ステージによって判断が異なる場合もあります。したがって、自己資本比率の水準に加えて、他の財務指標も併せて総合的な観点から会社を評価することが大切です。
まとめ
自己資本は会社の安定性などを示す大切な数値ではありますが、他人資本の活用も踏まえて会社経営に臨むことが必要な場面も考えられます。また。自己資本比率も重要な指標ですが、他の指標も含めて、会社を見極めることと状況に応じた対策の検討と実施を行うことがより大切です。