地方創生とは、第2次安倍政権(2012年~)において、東京への一極集中を是正して地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を向上させることを目的とした一連の政策のことです。地方創生の背景、国や地方公共団体による具体的な施策、そしてそれらが中小企業に及ぼす影響、さらに中小企業は地方創生にどう取り組むべきか、などについて解説します。
加えて、地方創生への取組が進むことによって日本経済にはどのような波及効果があるのかについても説明します。
1.地方創生とは
「地方創生」の考えは、2014年9月3日の第2次安倍改造内閣発足時に総理大臣記者会見で発表されました。その中核をなしている「まち・ひと・しごと創生法」は2014年11月28日に公布されました。現在では、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」における第1期(2014~2019)の検証と第2期(2020~2024)の策定に関する会議が開催されています。
(1)地方創生政策の背景
地方創生は、人口の急激な減少と高齢化に関する将来の人口予想に基づいて、地方の関する総合的な戦略を策定して、地域における事業化を集中的に推し進めようとする政策です。地方の特定の場所では人口急減により、地域社会の維持が困難となってきており、地方の消滅が発生することも心配されています。
先ず戦後の産業構造変化と人口移動について概観しますが、終戦直後の日本における主な産業は第一次産業でした。朝鮮戦争特需を契機に重厚長大型の工業が復興・拡大し、国内の需要増加、円安を背景に輸出拡大の波にも乗りました。
当時の工業は労働集約型だったので、生産の拡大には多数の労働者確保が急務でした。そこで地方の一次産業に従事しているような人材から労働者を得ようと地方にも多くの工場が建てられることになりました。
重厚長大型産業の立地によって地方に多くの雇用を生むと同時に、「下請け」という多数の中小企業も急激に勃興しました。さらに、これらの工場に向けたサービスと、増加する工場労働者とその家族に向けたサービスも地域の産業として拡大していったのです。その結果として、地方の人口が増加、経済が拡大していくことになりました。
高度成長期には、オイルショックなどの社会問題も発生したものの、地方としては順調に成長していったのです。しかし、1980年代の大きな為替変動により構造変化が始まりました。1985年のG5おけるプラザ合意により、ドル安への誘導が先進国において容認されたのです。
この動きにより急速な円高が進むこととなったのです。当時の日本の産業は、高い生産能力・品質に加えて、円安でもあったことからコスト優位性が高く、輸出に強い体質でした。しかし、急激な円高によってコスト優位性が失われることになりました。企業はコスト優位性を失った国内各地の工場を集約して、海外に工場移転をするなど、収益確保のための対応策を取ることになったのです。
工場の集約や海外移転によって多くの地方で工場が縮小・閉鎖されることになりました。工場の存在により発展した地方から工場がなくなれば、下請けの中小企業も仕事がなくなり、従業員もいなくなり、サービス業の仕事もなくなりました。その結果、当然地方での雇用も減少しました。
一方で都市部には国内に残る営業、事務、管理、経営等の業務が集約されています。また、物流の効率性を考えると工場も都市部に集約されることが多くなり、都市部には雇用が集中、都市部の人口は維持、拡大されていきました。
地方では雇用減少、都市部には仕事と雇用の集中、が進む中で、多くの若年者は学校卒業後に都市部で就職し地方に戻らなくなりました。地方の人口は減少し高齢化が進み、地方消滅の危機が現実的になってきており、地方創生がクローズアップされるようになったのです。
(2)地方創生に不可欠な「しごと」創出
地方創生において「しごと」を増やすには大きく2つの方法が考えられます。一つは地方の既存の事業者の再生であり、もう一つは起業です。既存の事業者の再生には、従来の需要増加の市場環境で成長してきた事業者が、需要減少という新しく大きな環境の変化に対応する必要がある、という課題があります。
下請工場にとっては、これまで存在していた元請けの工場がなくなり、地域のサービス業においては、住民が減少・高齢化するという環境変化が、それぞれ問題になります。このような新たな経営環境の変化に適応するためには、これまで以上に高度な経営技術、マーケティング手法の導入、などが必要になり、事業再生というレベルでの経営改革が求められようになっているのです。
次に地方での起業は、競争優位の源泉として地域資源を活用したビジネスモデルを想定することが可能です。地域資源を活用した事業化は*6次産業化などが典型的な事例ですが、こうした事業には課題も多いと考えられます。
*6次産業化
6次産業化とは、1次・2次・3次の各産業を融合することにより、新しい産業を形成しようとする取組のことを言います。 簡単に言えば、生産者(1次産業者)が加工(2次産業)と流通・販売(3次産業)も行い、経営の多角化を図ることとも言うことができます。
魅力的な産品などがあったとしてもその地域内でしか流通していないとすれば、「調達できる量が少ない」、「時期が限られる」、「品質が安定しない」、「保存がきかない」、といった取り扱いが難しい特徴を有している場合が多いでしょう。そのような状況の中では、新商品を開発して、生産、販路開拓、PRを行って事業化して成長させる、ためには、高度な経営手腕やマーケティング手法の導入などが必要となるでしょう。
(3)「しごと」の創出における行政の役割と限界
地方で「しごと」を増やすためには、既存の事業者の再生においても起業においても、高度な経営・マーケティングが必要です。それを行政がサポートできるか、という点を考えると、実はかなりハードルが高いと思われます。
行政で取り組もうとしても、企画するのは行政の担当者で、経営やマーケティングに関する経験や知識が豊富だとは言えず、効果が限定的になってしまう可能性が考えられます。また行政の事業は年度単位となるので、短期的な成果を求められることになり、長期的な視点での取組が困難であることも限界のひとつになっているようです。
行政は地域の維持・持続が最大の目的になりますが、地方創生においては特に「しごと」を増やすことが重要な鍵になります。「しごと」を増やすために、既存事業者の再生・起業における高度な経営・マーケティングが必要となりますが、行政のサポートには多くの課題があるでしょう。
このような中で、行政が単独で上記のような問題を解決することは困難な状況にあります。そこで、商工会議所、商工会、などの産業支援機関との域内連携が必須となります。しかし、これらの多くの産業支援機関も、さまざまな行政に関連する事業に取り組んでいて、補助金などが削減されている中少ない職員で運営しているところも多いでしょう。
地方における行政、関係機関が厳しい状況であるからこそ、地方創生に対して貢献意欲があり、経営やマーケティングと地域での取り組みについて知見のある税理士やコンサルタントなどには、地方の「しごと」を増やしていくサポートが可能であり、良い機会でもあると考えられます。
地域の活性化などに関する事業を推進する母体は、地域住民が自発的に運営している町内会などの法人格を持たない任意団体、民間企業(その合同体(JV、SPCなど)を含む)、行政、行政が出資する第3セクター、などとなっています。
2.地方創生の具体的な施策と主に中小企業に対する影響
地方創生に関する具体的な取組・施策としては、新型交付金、政府関係機関の地方移転、特区(特別区域)の活用、などがあげられますが、具体的な施策の内容とその影響(主に中小企業に対する)について説明します。
(1)地方創生に関する新型の交付金
それぞれの地方自治体における地方版総合戦略に対して新たに設けられた交付金があります。具体的には、地方創生推進交付金、地方創生加速化交付金、などです。これらの交付金は、地方の自立性や官民連動を要件として、先駆けとなるような事業に対して交付されます。
例えば、人口流入策であれば、一定期間の流入数や増加率のような、自治体が設定した具体的な数値目標を、国が精査したうえで交付金額や対象事業を決定して、進捗具合を国や地域の住民と一緒に毎年検証し、状況に応じて見直しを求めることや交付の変更を可能としています
目標を達成するために、具体的な数値目標を立案して、その進捗状況を計測する「KPI(重要実績評価指標)」の設定や、「PDCAサイクル」を構築すると同時に、各事業において民間資金を誘導して、将来的には交付金に頼らない自立した事業構築を促進するもの、としています。
(2)政府関係機関の地方移転
東京への一極集中を是正する、という観点から、中央省庁や研究・研修機関などの地方移転を検討します。道府県からの提案を踏まえて、地方経済の活性化、人口流入の好循環、機関としての機能維持・向上、移転への全国レベルでの理解、不要な財政負担や組織・人員の焼け太りを防止、などの、地元の官民協力・受入体制の可能性の観点から検討されています。
新たな政府関係機関の設立に関しては、本当に東京圏内での設置が必要なものを除いて、東京圏外での立地を原則とすることとなっています。文化庁の京都府への数年内の全面的な移転の他にも、研究・研修機関等のうち、23機関・50件の全面移転や一部移転などが盛り込まれた政府の基本方針が決定されています。2016年度に各関係者間で取組の年次プラン(下記参考)が作成されました。
(参考「研究機関・研修機関等の地方移転に関する年次プランと進捗状況」、URL:http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/about/chihouiten/kenkyuu-kenshuu_nenji-plan.html)
<全部移転>
移転機関 |
都道府県 |
説明 |
国立健康・栄養研究所 |
大阪府 |
国立健康・栄養研究所の大阪府への移転に関する方針 |
酒類総合研究所東京事務所 |
広島県 |
移転(2015年) |
<主な一部移転(研究機関等)>
移転機関 |
都道府県 |
説明 |
海洋研究開発機構 |
青森県・高知県 |
連携拠点の設置、地方拠点の拡充 |
国立がん研究センター |
山形県 |
がんのメタボローム研究分野の研究拠点の設置 |
水産研究・教育機構 |
宮城県・静岡県 |
水産研究の連携拠点の設置等 |
福井県 |
新日本海水産振興センターの設立協力 |
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山口県 |
山口連携室の設置(2017年) |
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医薬基盤・健康・栄養研究所 |
新潟県・佐賀県 |
研究連携に向けた協議会の設置等 |
産業技術総合研究所 |
石川県・福井県 |
中部センター石川サイト、福井サイトの設置(2016年) |
愛知県 |
産総研・名大窒化物半導体先進デバイスオープンイノベーションラボラトリの設置(2016年) |
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福岡県 |
産総研・九大水素材料強度ラボラトリの設置(2017年) |
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情報通信研究機構 |
石川県 |
北陸ICT連携拠点の設置(2016年) |
京都府 |
地方拠点の機能拡充、研究連携体制の構築 |
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理化学研究所 |
福井県 |
育種研究連携拠点の設置 |
兵庫県 |
科学技術ハブ推進本部関西拠点の設置(2016年) |
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京都府・広島県・福岡県 |
研究連携拠点の設置 等 |
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農業・食品産業技術総合研究機構 |
愛知県・島根県・香川県 |
連携拠点の設置、地方拠点の拡充 |
鳥取県 |
鳥取ナシ育種研究サイトの設置(2017年) |
<主な一部移転(研修機関等)>
移転機関 |
都道府県 |
説明 |
教職員支援機構 |
秋田県・富山県・福井県・三重県 |
研修の実施 |
国立美術館 |
石川県 |
東京国立近代美術館工芸館の移転 |
宇宙航空研究開発機構 |
岐阜県 |
宇宙教育活動における連携 |
森林技術総合研修所 |
山梨県 |
森林調査研修、森林立地研修の実施 |
岐阜県・岡山県 |
木材産業・木材利用研修の実施 |
|
国際協力機構 |
島根県 |
開発途上国の行政官等を対象とした青年研修等の研修機能の一部移転 |
国際交流基金 |
大分県 |
「日本語パートナーズ事業」に係る一部機能の移転による研修拠点の設置 |
<中央省庁の主な移転>
移転機関 |
都道府県 |
説明 |
文化庁・国立文化財機構・国立美術館・日本芸術文化振興会 |
京都府 |
地域文化創生本部の設置(2017年) |
消費者庁・内閣府消費者委員会・国民生活センター |
徳島県 |
消費者行政新未来創造オフィスの設置(2017年) |
総務省統計局・統計センター |
和歌山県 |
統計データ利活用センターの設置(2018年) |
特許庁・工業所有権情報・研修館 |
大阪府 |
工業所有権情報・研修館の近畿統括拠点の設置(2017年 |
中小企業庁 |
大阪府 |
近畿経済産業局中小企業政策調査課の設置(2017年) |
上記のように政府関係機関の地方移転は着実に進んでいますが、地元への定着化などはまだこれから時間をかけて推進しなければならない面もあります。政府関係機関のコスト圧縮や人員確保にとっては即効性があるのかもしれませんが、中小企業にとっては地元に移転してきた政府関係機関とどのような協力をして、どのような成果を生み出すのか、引き続き検討が必要かと思われます。
また、政府関係機関の地方移転については、東京への一極集中を是正するという観点から、まずは国が率先して移転を行って、次いで民間企業にも本社機能の地方分散などを促す目的があるとされているが、実際には、中央省庁では文化庁の全面的な移転が決定されただけで、消費者庁など他の省庁の移転は難航していて、現状では迫力に乏しいという見方もあります。
(3)特区
特区とは特別区域のことで、地域活性化のために、国による規制を緩和するなどの特例を、特定の地域に適用する制度のことです。特区には、➀国家戦略特区、②総合特区、③構造改革特区、があります。
①国家戦略特区
国家戦略特区とは、産業の国際競争力を強化して、国際的な経済活動拠点を形成するため、経済社会の構造改革や規制改革といった施策を推進する特区のことです。また、国家戦略特区の制度を利用した特区の中には、地方創生を目的とした「地方創生特区」というものがあります。
更にその一つの形として、リモート(遠隔)医療、リモート(遠隔)教育、自動飛行、自動走行、などの新たな技術を実証するカテゴリーを確保して、新しい商品やサービスに関するイノベーションの喚起を目的とした「近未来技術実証特区」があります。主な規制改革の事例は以下の通りです。
対象 |
説明 |
起業・開業・雇用 |
起業や年金・社会保険などの各種手続きを一箇所で申請可能な窓口を設置など、公証人役場外での職務を可能に(公証人法の特例) |
NPO法人設立の手続迅速化(特定非営利活動促進法の特例) |
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シルバー人材センターに登録している高齢者の労働時間の延長など、高齢者雇用の規制緩和(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の特例、現在は全国展開へ) |
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医療 |
高度先進医療を実現するための病床増設(医療法の特例) |
医療法人の理事長に、医師でない人でも就任可能に(医療法の特例) |
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臨床修練制度における、外国人医師の受け入れの規制を緩和(外国医師等が行う臨床修練等に係る医師法第十七条等の特例等に関する法律の特例) |
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農林水産業 |
企業などの農業への参入要件の緩和(農地法等の特例、現在は全国展開へ) |
国有林の貸付や使用の対象者や面積の規制を緩和(国有林野の管理経営に関する法律の特例) |
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漁業生産組合の設立や維持の要件人数の緩和(水産業協同組合法の特例) |
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保育・教育・社会福祉 |
地域限定保育士の導入(児童福祉法等の特例) |
公立学校の管理運営を民間に委託する、公設民営学校の設置(学校教育法等の特例) |
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都市公園に保育所や社会福祉施設の設置認可(都市公園法の特例) |
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まちづくり |
建築に関する容積率や用途地域の規制の緩和(建築基準法の特例) |
路上イベントなどの、道路占用の規制の緩和(道路法の特例) |
|
宿泊施設に個人所有のマンションなどを利用できる民泊や歴史的建築物を宿泊施設として活用する場合の要件緩和など、旅館業法の適用の除外(旅館業法の特例) |
②総合特区
総合特区とは、我が国の経済社会の活性化と持続発展のために、産業構造や国際的な競争条件の変化、少子高齢化の進展などの経済社会情勢の変化に対して、産業の国際競争力強化と地域活性化に関する施策を推進する特区のことです。産業の国際競争力強化を目的とした「国際戦略総合特区」と地域活性化を目的とした「地域活性化総合特区」の2つがあります。
<国際戦略総合特区と地域活性化総合特区の両方の主な特例>
・住居・商業・工業の用途に大まかに分けられている、用途地域の規制の緩和(建築基準法の特例)
・法人税の優遇措置などの課税の特例の適用(租税特別措置法の適用)
・特区に関する事業を営む企業に融資を実施した指定金融機関への利子補給金の支給
・補助金などの処分制限に係る承認の手続きの特例
・中小企業基盤整備機構による市町村への資金貸付
<国際戦略総合特区の主な特例>
・国有の建物と敷地の無償譲渡(国有財産法の特例)
・MICE(国際会議など)の参加者を載せた客船の寄港が可能に(海上運送法の特例)
・農業用の自動車の車検の有効期間を一年伸長(道路運送車両法の特例)
③構造改革特区
構造改革特区とは、官民の事業・経済活動が、旧来の規制によって妨げられていることに対して、特区を設置することにより構造改革を進めて、地域の特性を活かした地域活性化実現を目指して創設された特区のことです。主な構造改革特区の規制緩和は以下の通りです。
分類 |
説明 |
教育関連 |
学校の設置や運営を学校法人に限定せずに弾力的に運用したり、従来は区分けされていた保育園と幼稚園の仕切りを緩和したり、育児に関連した多様性を提供して子どもを育てやすい環境を実現させます。 |
物流関連 |
従来は受け入れ時間が限定されていた関税業務を24時間営業とする事で、国際的な物流をノンストップで受け入れ可能にします。また施設面での硬直した画一的な法規制を緩和して、効率の良い経済活動が行えるように便宜を図り、物流拠点としての地位を構築します。 |
都市農村交流関連 |
これまでは酒税法で厳しく規制されていたどぶろく等の酒作りと販売の規制や農家民宿に関わる法律(旅館業法など)の規制を緩和して、観光事業の活性化を図ります。同時に、地域産品の目玉とする事で観光事業活性化と産業従事者の生活安定や後継者の流入を目指します。また、市民農園の開設も促進します。 |
まちづくり関連 |
建設許可の緩和や違法広告の取り締まり強化など、都市化における不快な要素を減らしながら快適な街を作ります。加えて、建設規制を独自に設定して、調和した美しい町並みを作り出し、観光資源としても活用します。また、都市部ではこれまで利用が禁止されていた河川流域の遊休地をイベント等で積極的に利用して、住みやすい美しい街として、人口拡大を目指します。 |
エコロジー関連 |
風力発電や太陽光発電などの新エネルギーの利用や、リサイクルの効率化を実施して、快適な街作りと同時にエコロジーな生活を送りやすい地域性を高めて、住人を集めます。また原付バイクの二人乗り規制緩和による自家用車の利用削減や電動スクーター(立ち乗りスクーターやセグウェイ)などの導入による排気ガス排出量削減(と同時に渋滞の緩和・解消)を目指す地域も現れています。 |
上記のような特区がありますが、具体的な特区の活用例は以下の通りです。
地域 |
活用例 |
宮城県仙台市 |
地域限定保育士試験の実施や都市公園内でも保育所が設置可能な特例を利用して、待機児童ゼロを目指しています。 |
秋田県仙北市 |
市内の国有林野利用の規制緩和を受けることで、ドローンで本を輸送する実証実験や国内外から企業や研究者、一般人が参加して性能や操作技術を競う「ドローンレース」を開催しています。 また、完全自動運転(「レベル4」と言われる運転手がいない状態)のバスによる公道での実証実験が行われています。 さらには、外国人医師の地方での診療解禁の特例を利用して、外国人観光客を対象にした診療と、地元の温泉療養を組み合わせた、医療ツーリズムの拡充を目指しています。 |
新潟県新潟市 |
農業生産法人の設立要件を緩和して、大手コンビニなどの事業者が農業に参入しています。 |
千葉県千葉市(幕張新都心) |
東京湾臨海の物流拠点に近く高層マンションが多い、という特徴を利用して、マンション各戸のベランダにドローンでの直接配送を目指しています。他にも、特区内の薬局から各住居へ処方箋を届けるサービスも実施予定する予定で、2016年4月に実証実験が行われました。 |
神奈川県 |
外国人による家事代行サービスを解禁予定。 |
愛知県 |
公設民営学校の設置や企業の農業への参入の特例活用を検討中。 |
京都府京都市 |
iPS細胞を開発した京大と、その周辺にiPS関連の企業や研究施設が集積しているため、iPS細胞から作製した試験用細胞の製造・販売の特例を利用して、関連産業の発展を促進しています。 |
兵庫県養父市 |
農業における多様な担い手を増やすために、農業に関わる特例を利用して、新規事業者による耕作放棄地再生や農家レストランの運営を行っています。 また、大手企業の農業への参入推進を推進しているほかに、古民家を宿泊施設として活用しています |
広島県・愛媛県今治市 |
一体で特区に指定されており、共通の取組として、民間主導の道の駅やドローンによる橋梁の点検などの推進を行っています。 個別の政策については、広島県は外国人による家事支援・起業・診療などを、今治市では獣医大学の誘致や地元の地場産業や観光による外国人人材の受け入れを目指しています。 |
北九州市 |
歩行を支援するロボットや介護者がベッドから車いすに乗り移る際の移乗を補助する装置など、介護ロボットの実用化推進を行っています。 また、首都圏の高齢者が北九州へUターンして働き続けたい場合などに対して、「シニア・ハローワーク」を設置して、高齢者雇用の拡大や人材・ノウハウ集積を進めています。 また、民泊や古民家などの歴史的建造物を宿泊可能にして、観光の目玉にする案もあります。 |
3.中小企業が取り組むべき対応方法
これまで説明してきたように様々な地方再生の施策が進められていますが、これらの施策に関して中小企業はどのように取り組むべきなのでしょうか。地域における経済や社会構造の変化に対応して地域経済の活性化を図るためには、地域経済を担う中小企業による地域の強みを活用した取組が必要です。
そのためには、地域の強みであり差別化の強力な武器ともなる「地域資源」を積極的に利用することが極めて重要と考えられます。これまで、地域経済の担い手である中小企業が地域資源を活用した特産品等の開発で成功していると考えられる事例には、(1)地域において多様な主体による面的な取組が行われている、(2)広く市場を意識した取組が行われている、という特徴が見られます。
(1)地域において多様な主体による面的な取組
市町村、商工会・商工会議所などは、地域内外に幅広いネットワークを有しているので、それらのネットワークを有効に活用することによって、地域に不足しがちな取組に長けた人物を巻き込んでいくことも重要な役割の一つだと言えます。
これらの取組を、市町村や商工会・商工会議所が中心となって、地域内外の様々な主体とも連携して、地域資源を活用した取組によって、地域経済の活性化が図られるものと考えます。
(2)広く市場を意識した取組
それぞれの地域で異なる食べ物や景色などの地域資源は、地域にとっては普段から食べている肉・魚・野菜、あるいは見慣れた景色であるが故に、たとえそれらの地域資源が、他地域との差別化を図ることのできる可能性を持っている地域資源だとしても、その地域資源の持つ本当の価値に気付いていない可能性があります。
地域資源の可能性を最大限に引き出すためには、地域で当然のように存在している資源であっても、他地域の資源と比べることにより、自分の地域にある資源の持つ個性的・特徴的な点に気付いて、地域資源の本当の価値を再認識して、商品差別化のためのマーケティングや商品開発を行っていくということが可能である、と言えます。
4.想定される日本経済への影響
地方再生により東京一極集中を是正して少子高齢化が進む日本経済を立て直そう、という目標に向かって様々な施策が実行されています。確かに「働く場所」や「働く機会」が増えた地域はあるのでしょう。しかし、実態としては、前述した中央官庁移転の例のように、掛け声倒れに終わってしまっているものも散見されます。
地方再生は、地方のみが潤うような目的で行われるようなものではありません。日本経済そのものをより強靭な体質へと作り変えるためには、先ず地方が元気になることの重要性を十分に踏まえて、地方再生による良い波及効果を日本全国へ拡大するようなマクロ的な視点に基づく施策の実施が求められています。国内だけにとどまらず、SGDsに関する取り組みの観点も必要になるでしょう。
SGDsに関しては、SDGsとは? 概要や中小企業における対応について解説の記事もご覧ください。
<まとめ>
このままでは日本の地方経済は疲弊するのみで地方都市の消滅危機が実際に生じてしまう可能性が懸念されています。国や地方公共団体が主体となって地方創生に関する取組が進められていますが、そこには日本経済の屋台骨を支えている中小企業の協力が必要不可欠なのです。
中小企業の財務改善にに役立つこちらの中小企業の財務改善に効果あり!社会保険料削減のための7つのテクニックもご覧ください。