事業をするうえで、経営者の皆様は様々な悩みを抱えていらっしゃるかと思いますが、その中で最も大きな割合を占めるのが資金調達や資金繰りの問題だと思います。
創業期であれば開業資金、成長期や成熟期であっても増加運転資金や設備投資資金など、事業を継続していくうえで事業資金に関する悩みは尽きることがありません。
資金調達先、調達手段には様々な方法がありますが、本記事では数ある中から最もおススメな金融機関である日本政策金融公庫(沖縄振興開発金融公庫)からの資金調達について、なぜおススメなのか、その理由についてご説明したいと思います。
【銀行と公庫の違いは?】
事業に資金が必要となったとき、調達先としてまず思い浮かべるのはどこでしょうか。
- 商業銀行(メガバンク、地方銀行)
- 信用金庫
- 信用組合
- 協同組合(JAバンクなど)
- ローン会社(ノンバンク)
- 行政(都道府県、市町村独自の制度融資)
- フィンテックなどの直接調達
金融に関する法令などの社会インフラが充実した日本においては、他にも様々な資金調達方法がありますが、私が一番にお勧めするのが政府系金融機関である日本政策金融公庫(沖縄だけは沖縄振興開発金融公庫)からの資金調達です。
銀行などの民間金融機関は、預金を集めたり、株式や債券の発行などにより資金を集めて(一般企業でいう仕入)、一定の利益を乗せたうえで、個人や法人に融資をする(一般企業でいう売上)ことで利益(利ざや)を得るというのが、一般的な銀行のビジネスモデルです。
ところが、低金利競争時代の現代では利ざやだけで必要な利益をあげることが難しくなっていて、投資信託や保険など様々な金融商品を合わせて販売することで、収益源の多様化を図っています。
一方で、政府系金融機関である公庫の融資は、「利益をあげる」ことが目的ではなく、「融資によって政策の実現を後押しする」ことが目的なので、そもそも民間金融機関とは目的が異なります。この違いが、以下のとおり事業者にとって有利な特徴となって現れます。
【公庫で借りる直接的なメリット】
低金利かつ固定金利
資金繰りの心配をせずに事業の発展に集中してもらうことを目的に、民間金融機関に比べて「低利率」かつ全ての融資メニューにおいて「固定金利」に設定されています。
大型の設備投資をする場合、10年~20年と長期の返済期間を設定するのが一般的ですが、変動金利で調達してしまうと、投資した事業の見通しだけでなく、金利相場の見通しという、自社の努力ではどうにもならない外部要因まで考慮したうえで投資を決断しなければなりません。「変動」というと、一般的に情勢に応じて金利が自動で上下すると思い込みがちですが、実際には「金利引き上げ」はほぼ自動で行なわれますが、「金利引き下げ」の場合はこちらから申し出たうえでの個別の交渉となることがほとんどです。そのため、金利引き下げを申し出るタイミングや、交渉時における民間金融機関との力関係が最も大事な要素となります。
ちなみに、利率が1%違った場合における1年間の支払利息は、1千万円だと10万円、1億円だと100万円の差になり、これが借入期間10年、20年の長期間にわたって続くとなると、事業に与える影響は甚大です。
無担保無保証融資が受けられる
金額の多寡や事業の内容等にもよりますが、「担保・保証人に依存しない金融慣行の確立」という政策目的の推進のため、原則として2,000万円くらいまでであれば無担保での借入が可能です。
また、基本的に連帯保証人となる必要があるのは法人代表者(いわゆる雇われ社長は除く)、実質経営者、共同経営者など、経営の決定に大きな影響力を行使できる重要な利害関係人を除き、第三者の連帯保証人は不要です。というよりも、経営に関係のない第三者の連帯保証人をとることは原則として禁止されています。
例えば、夫婦であっても片方が事業にまったく関与していない場合は連帯保証人になる必要はありませんし、赤字だから資力のある別の連帯保証人を立てることが融資の条件に付されるなどのようなことも一切ありません。
なお、担保があれば金利が下がったり、借入できる金額が大きくなるなどの直接的な効果があるほか、事業への意気込みを見せるなどの副次的な効果もありますが、実際には融資の可否判断にほとんど影響しません。提出する事業計画の内容や、ビジネスモデル、これまでの実績などが審査判断の90%以上を占めます。
保証協会や保証会社による保証が不要
前項と関連するのですが、国の機関である政府系金融機関では各都道府県に設置されている信用保証協会や、銀行の子会社となっているが多い保証会社は利用しないため、一般的に0.5%~1%前後が相場といわれている保証料が不要です。
保証料は実質的に金利と同じであり、また借入時に融資実行額から一括して天引きされることが一般的であるため、1億円を借入しても実際には9,900万円しか振り込まれないにも関わらず、利息は1億円に対して計算されることから、借入者にとっては非常に不利な条件です。
また、「申込した金融機関は融資決定しているのに、保証協会がなかなか保証承諾しない」ということで借入申込から融資実行までに時間がかかるというケースがよくありますが、公庫の場合は融資審査が公庫内部ですべて完結するため、スピーディーに審査が行なわれます。
担保設定時の登録免許税が非課税
借入に際して担保を設定する場合、「登録免許税」という税金を法務局に納めることは個存知でしょうか?民間金融機関からの借入により抵当権(または根抵当権)を設定する場合、設定額に対して0.4%が登録免許税として課税されますが、登録免許税法第4条第2項により公庫から借入する場合に設定される(根)抵当権については非課税となります。
一般的に大口融資の場合に担保設定が行なわれることが多いため、非課税のメリットはとても大きいです。例えば、1億円を借り入れた場合は40万円の節税となります。優良な中小企業でも経常利益率は5%前後が平均なので、40万円の純利益を稼ぎ出すためには単純計算で800万円もの売上高が必要ですので、何もしなくてもこれだけの節税効果が見込めるのは非常に大きなメリットです。
万人に対して平等である
民間金融機関では、顧客ごとに自由に利率を設定できます。ところが、政府系機関である公庫では、融資制度(融資商品)によって細かく利率が設定されており、これはすべて監督官庁である財務省の許認可を受けて設定されており、公庫の裁量で貸出金利を調整することが一切できない仕組みになっています。大企業であっても、零細企業であっても、黒字企業であっても、赤字企業であっても、適用される利率は平等に一律です。
なお、担保の有無、「雇用の増加」、「地方創生」などの特定の政策目的に沿った事業を遂行する場合に限って、特別に金利が引き下げられます。なお、その場合も制度要件に合致していれば、誰でも、同じ割引率の適用が受けられます。
【公庫で借りる間接的なメリット】
審査担当者は融資審査のプロフェッショナル
冒頭でも述べたとおり、民間金融機関では審査業務のほかに、預金口座や定期預金の獲得、クレジットカードの発行、投資信託や保険商品の販売、手形や為替などの決済業務など、行員に求められる業務は多岐にわたります。そのため、常に何かしらのノルマに追われながら仕事をしており、審査業務に専念できる環境が整っているとは言いがたい状況です。
一方で、公庫には預金業務や金融商品販売などの業務が一切ありません。審査業務が唯一にして最大の業務です。審査担当者は融資審査に専念することができるため、1人で多くの企業を担当することができ、担当者は多くのノウハウを蓄積することができます。これは、審査スピードのアップという直接的な効果に加えて、蓄積された豊富なノウハウや経験に基づき、経営に対する深いアドバイスが受けられるなどの副次的なメリットもあります。
(実際には担当者によりますが。。。)
また、「公庫はハードルが高い」という噂がまことしやかに流れていますが、事実と異なります。民間金融機関は預金口座があるため、日々の資金繰りや取引先の状況がよく見えていますが、公庫は決算書や事業計画書だけで審査判断をするため、どうしても提出する資料が増えてしまいます。民間金融機関とのお付き合いを恋愛に例えると、公庫とのお付き合いはお見合いといったところでしょうか。大量の審査案件を処理するため、かなりポイントを絞って画一的な審査が行なわれており、また一般的に担当者のスキルも高いことが多いので、よほど特殊なビジネスモデルでなければ、詳細な説明や計画書の提出を求められるということは非常に稀なケースです。
融資商品以外の勧誘がない
裏を返せば「資産運用に関する情報提供が受けられない」というデメリットにもつながりますが、借入にあたって「取引先との決済口座や給与振込口座を当行に変更すること」などの条件を付される場合や、ただでさえ忙しい年末や年度末の多忙な時期に「キャンペーンやノルマに協力して欲しい」などの営業で時間を取られることが、多かれ少なかれご経験があるかと思います。
自社にメリットがあれば構いませんが、中には金融機関との関係を維持するための「お付き合い」で止む無く協力要請に応じることがあるようで、これでは本末転倒です。公庫では預金や金融商品の取り扱いがないため、こういった不必要なサービスのセールスなどはありません。その代わり、金融商品のサービスが必要な場合はワンストップで受けられない、自分で探す必要があるなどのデメリットがあります。
以上、資金調達先に公庫を選ぶメリットについて解説してきましたが、公庫はあくまでも「政策の遂行支援」と「民業補完」が存在目的なので、株などの投資資金などの投機資金、ボーナス資金や税金資金、工事見返り資金などの短期資金は基本的に融資の対象外であること等、若干の制約があることも事実です。
そのため、公庫がメイン行となることはありません。身近な民間金融機関をメイン行として大切にお付き合いをしながら、条件によってうまく公庫を使い分けるなど、資金調達の幅を広げてみてはいかがでしょうか。