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AIと労働について中小企業が考えておくべきことを徹底解説

AIと労働をイメージする画像 起業家の基礎知識

AIとは、Artificial Intelligenceの略称のことで「人工知能」のことを指します。AIの進展により、これまで人間が行ってきた仕事がAIにとって代わられるのではないか、という議論が盛んに行われていますが、AIの進展は人々の働き方にどのような影響を与えることになるのでしょうか。

また、AIの進展に対して中小企業はどのような取組をするべきなのでしょうか。本稿では、AIの進展が開くであろう、労働や中小企業における未来像について説明します。

1.AI(人工知能)とは

AIとは、前述したように「Artificial Intelligence(人工知能)」のことで、「計算(computation)、という概念とコンピューター(computer)」というツール(道具)を利用して、知能を研究する計算機科学(computer science)の一分野」を指す言葉のことです。

「言葉の理解や推論、課題の解決、といった知的行動を人間にとって代わってコンピューターに行わせる技術のこと」、あるいは、「コンピューターが行う知的情報処理システムの設計・実現に関する研究分野」であるとも言われています。

実際にコンピューターの急激な進化により、多くの仕事が人の手からロボットなどによる労働へと移り替わっているのが現状です。英オックスフォード大学でAI(人工知能)などの研究を行うマイケル・A・オズボーン准教授によると、「人間が行う仕事の約半分が機械に奪われる」とされています。

オズボーン准教授は、米国労働省のデータに基づいて、現在仕事として行われている702の職種が今後どれくらいがコンピューター技術によって自動化されるかを分析しました。その結果、今後1020年程度で、米国の総雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高い、という驚くべき結論に至ったそうです。

このままでは否応なく多くの仕事がAIにとって代わられてしまいそうですが、AI導入やAI進展によるメリットやデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。

(1)AIのメリット

AIのメリット

説明

労働力不足の解消

少子高齢化の進展により、多くの企業では労働力不足が深刻な問題になっています。AIはこのような労働力不足を解消するために役立つものと考えられています。具体的には、以下のような取組が行われています。

・商品管理の事例ですが、商品の需要をAIが予測することにより、倉庫の在庫を最適に管理・発送することが可能になります。

・ソフト会社(ブレイン㈱)が新たに開発したレジ装置では、一つ一つのバーコードを読み込むことなく、商品の種類や個数を判別して購入金額を計算することが可能になっています。

クリエイティブな仕事の重要性が増す

AIによって新たな労働の形が創出されることになり、これまで以上にクリエイティブな仕事で収益を稼ぐことが可能になります。

例えば、これまでは存在していなかった、ブロガーやユーチューバー、インスタグラマー、などはその代表例と言えるでしょう。ルーチンワークはAIが仕事をしてくれるので、われわれは新たな仕事を作り出すという世の中に変遷していくでしょう。

プライベートな時間の創出

AIが仕事を代わってくれるので、残業する必要がなくなるでしょう。家族と一緒に過ごす時間を作ることが可能になるので、これまでのように仕事が忙しくて子どもと遊んであげられなくなるような、親子共に辛い思いをすることもなくなるかもしれません。

また、当然ながら、仕事以外に趣味を持っている人であれば、趣味に時間を費やすことができるようになります。

つまり、AIは働き方改革にも貢献するというメリットがあるのです。

必要な仕事への集中

AIに仕事を手伝ってもらえることになるので、さらに仕事に集中できることが可能になります。

例えば、医師であれば、診断を下すのはAIで、患者のケアや手術は医師が、という作業分担が可能になります。また、介護の分野であれば、事務的な作業はAIに任せて、介護士はゆっくりと高齢者コミニュケーションを行う時間を使うことができるようになります。

仕事をしなくてよくなる

仕事をAIがしてくれるということは、極論かもしれませんが、仕事をほとんどしなくてもいい時代へと変わっていくと言えるのかもしれません。そうなると、国が国民の生活を保障する仕組み(ベーシックインカム)の導入、が本格的に検討される必要があります。

(2)AIによるデメリット

AIによるデメリット

説明

AIに仕事を奪われてしまう

例えば、現在自動運転で走る自動車が開発されていますが、自動運転が普及すると、トラック運転手、タクシー運転手、といった仕事はなくなっていく可能性が高いと考えられます。また、自動運転により、事故の発生もなくなるので、自動車保険(企業)も不要になるかもしれません。

工場などは自動化が進むので、工場の作業員などの人の手で行われていた仕事も不要になっていくでしょう。

さらには、専門性が高いと考えられている、弁護士の主な仕事である裁判などの訴訟案件に関しても、AIが代替え可能なことがわかっています。実際、既に弁護士の知識を持ったAIに法律の助言をしてもらう法律事務所が出現しています。

他にも、以下のような状況が生じると考えられます。

・会計士は弁護士以上に定型化されているの、人工知能(AI)に代替えされる可能性が高いと思われます。

・コールセンターや受付、銀行の窓口などの仕事もAIが代替えすることが可能で、既にAIを利用している企業もあります。

・秘書の主要な仕事である、メール返信、スケジュール管理、資料作成、などのオフィスワークはAIによる代替えがスタートしています。

 

2.AIが労働に与える影響

前述したように、AIのメリットとデメリットについて説明しましたが、それではAIの進展により全ての仕事は人の手から離れてしまうことになるのでしょうか。確かにAIが人間に代わって行うことができる仕事は今後ますます増えていくのかもしれません。

しかし、どんなにAIが進化したとしても、人間が行わなければならない仕事というものも必ずあります。それは、AIを含めて「マネジメントをすること」、「ホスピタリティを必要とすること」、そして「クリエイティビティを発揮すること」の3つです。

組織にビジョンを浸透させて、人間のモチベーションを向上させるような経営者によるマネジメントの仕事はAIには無理でしょう。人を惹きつける力も必要でしょうし、リーダーシップも必要になります。

また、医師・看護師や接客業、といったホスピタリティーを必要とする仕事も残るでしょう。形はもちろん変化するでしょう。AIに出来る労働は任せていくようになるでしょうが、人との関わりは非常に大切です。実際に顔を合わせて、お互いに笑い合うことだけでも癒やされます。また、1日中誰とも話してないような時にスーパーやコンビニの店員と何気ない会話をするだけでも安心したりするものです。

そして、芸術は当然ですが、新しい商品やアイデアを開発することができるのは人間だけです。現在のところAIでできることは「推測」までと言われています。具体的には、「世の中の流れ(トレンド)」、ある程度は推測が可能であっても、実際に流行するかどうかまでを確信を持って決定することはAIには難しいでしょう。

現実にトレンドに沿っているのかどうか、という最終決断は人間が行わなければなりません。AIにできることはAIに任せるとしても、新しいものを造り出す「思考力」は人だけが持っている力なのかもしれません。

AIにはメリットもデメリットもありますが、人の手による仕事が完全になくなることはないとも考えられているのです。つまり、前述したメリットとデメリットでも説明したように、AI活用は「人手不足」の解決策であり、その一方で今まで行っていた仕事がなくなる「AIによる失職」を生じさせるものでもある、ということになります。「人手不足」と「AIによる失職」について、本稿では深堀してみましょう。

(1)相反するAIの労働に対する影響

ロボットの進化(ロボティクス)などのAIの進展が目覚しい昨今ですが、労働市場に対するAI進展の影響について相反する意見が生じています。それは、AI進展によって世の中が便利になっていくというポジティブな意見と人間の仕事が奪われてしまうというネガティブな意見の対立とも言えます。

本来AIは、その言葉の通り、人工知能のことですので、人間がこれまで行っていた仕事をサポートしてくれるもの、あるいは仕事の一部を代替してくれるもの、になるという期待があったことは間違いありません。

例えば、転落の危険性がある高所や寒冷地などでの作業、長時間同じような単純な作業をしなければならない労働、などについては、人間の手ではなくロボットなどによる仕事に切り替えた方が安全で効率的です。

これまでは、上記のような、どちらかというと人間による単純作業の機械化・自動化、という文脈でAI(と呼ぶほどのものではありませんが)の導入が語られてきました。しかし、AIの進展は目覚しく、単純作業のみならず、人間が行っていたような専門的な分野でにまでAIは進出してきています(上記「AIのメリット」参照)。

従来からの日本の労働市場では、経済や産業構造の変化に対しては、柔軟性が低かったと言わざるを得ません。しかし、現実的として、日本の労働市場を巡る環境は着実に大きく変化を始めていて、労働の需給構造も大きく変わりつつあります。

最初に、人口減少や健康寿命の長期化を理由として労働力の供給構造が変化します。労働に対する需要という観点では、AIなどの進化による新しい技術が人間の仕事を代替していくという動きが拡大するとともに、新しい技術を活用した新しいビジネスを創出できる人材やAIなどでは代替できない創造的な仕事を担当するような人材の需要も高くなるでしょう。

あるシンクタンクの予想によると、2020年代半ばまでは極めてタイトな労働需給が続くが、2020年代後半以降は急速に需給が緩和され、2030年には解消に向かう、とされています(三菱総合研究所(「内外経済の中長期展望」201879日公表、URLhttps://www.mri.co.jp/news/press/20180709-01.html)。

その一方で、職種間のミスマッチは深刻な問題になると予想されています。職種別にみると、2020年代前半には事務職の、2020年代後半には生産職などの、雇用の余剰感が増す一方で、2020年代を通じて専門人材に関する不足幅が拡大することとなり、2030年には約170万人が不足すると予想されています。

つまり、中長期的に日本の労働需給を予測すると、本質的な課題は人手不足にあるのではなく、職種間の人材のミスマッチにあると言えるのです。なお、労働者に求められる能力と労働者が持つ能力の差のことは「人材ギャップ」と呼ばれています。

上記のシンクタンクの資料((三菱総合研究所(「内外経済の中長期展望」201879日公表、URLhttps://www.mri.co.jp/news/press/20180709-01.html)によると、日本では「定型的・手仕事的なタスク」のカテゴリーに属する人材の割合が44%と高い一方で、「創造的・分析的なタスク」のカテゴリーに属している人材の割合は16%と低い、という特徴があります。

同様の方法で、米国、英国、と比較してみた場合に、前者の「定型的・手仕事的なタスク」の割合は、米国39%、英国30%、と日本よりも低い水準に留まっている一方で、後者の「創造的・分析的なタスク」の割合は、米国24%、英国34%、と反対に日本よりも高い、という傾向が見てとれます。

このように、マクロベースでの労働需給ギャップの試算によると、AIなどの新しい技術を活用して新しいビジネスを創出できるような人材需要が増加することをを織り込んではいるものの、それに見合っているような専門的な人材が供給されない場合には、わが国においては画期的な技術革新を生み出すこともできず、日本経済は国際的な競争力を失ってしまう可能性があります。

それでは、どのようにすれば職種間の人材ミスマッチを解消することが可能なのでしょうか。ひとつの対応策として考えられるのは、労働市場への新規参入者も含めて、人材のポートフォリオを定型的な仕事内容のカテゴリーから、創造的な仕事内容のカテゴリーへとシフトさせていくことでしょう。具体的には、以下の3つのポイントが重要になります。

①職業情報の可視化(見える化)

職業情報の可視化(見える化)によって、労働者個人に対して「気付き」の機会を付与することが重要になります。現状では、労働者個人が自分自身でキャリアを開発しようとしても、社会の中にどのような仕事があって、その仕事にはどのような経験値や能力・スキルが必要であって、その仕事の待遇や将来性はどうなのか、といったことを知るのは簡単ではありません。

米国においては、1998年から職種の統合データベースである「O*NET」というものがウェブサイト上で提供されています(参考URL:https://www.onetonline.org/)。約1,000種もの職種の情報が提供されており、個人の適性診断も可能となっています。わが国においても「日本版O-NET」の運用が予定されていますが、関心を持っている人々が共通言語を用いてコミニュケーションできるように、民間の会社や人にとっても簡単に使うことが可能なシステムにすることが大切です。

②能力・スキルに基づく評価・報酬制度

米国では、クリエイティブな仕事内容の比重が高まるほど年収が増えていく、という傾向があるのに対して、日本では両者の関係が不明瞭となっています。このような状態では、能力やスキルを身に着けて、定型型の職種から創造的な職種へと、能動的に行動して、新しいステージで活躍するようなインセンティブは高まりにくい、と考えられます。

生涯を通して現役でいられるような社会の実現は早期になすべきですが、スキルや能力に応じた評価・報酬制度が一般的に導入されるよりも前に、企業対して一律に定年引き上げを要請するようなことがあれば、労働者の再学習の意識が向上しないままで、企業は雇用し続けることになってしまうので、日本企業の生産性が徐々に低下することになりかねません。

③転職が不利にならない労働慣行・制度

「人生100年時代」と言われている現在では、定年まで一社でのみ働いて、その後は退職金の取り崩しや年金で生活する、というような「単線型」のキャリア形成は極めて困難であり現実的ではありません。再学習して新しい職種に挑戦するような「複線型」のキャリア形成が前提となるでしょう。そのためには、転職が不利にならないような雇用慣行や労働の移動に対して中立的な(少なくともネガティブではない)退職金・年金制度の実現が必要となります。

2019年本年41日から「働き方改革関連法」が順次施行され始めましたが、「働き方改革」はゴールではなくスタートです。目指すべき目標は、将来の経済社会・技術のトレンドを見据えて、わが国の労働市場や労働慣行を進化させることにより、様々な人材が労働市場に参加して、再学習すればいつでも新しいチャレンジが可能になり、みんながより良い将来の展望を持つことができるようになること、ではないでしょうか。

 

(2)AIに代替される人間の仕事とは

前述(オズボーン准教授による分析)したように、人間の仕事の約47%は自動化される、というデータがある一方で、OECD(2016Wee, D.; Breunig, M.; Kelly, R.; Mathis, R. 2016. Industry 4.0 after the initial hype–Where manufacturers are finding value and how they can best capture it (London, McKinsey & Company)は、人間が担っている仕事の大半は代替される可能性が低い、とする報告を出しています。

両者の違いは分析手法にあります。オズボーン准教授は職業の代替可能性を分析したのに対して、OECD1人の仕事を置き換えが可能な部分(タスク)とそうでない部分(タスク)とに分けて分析をしたのです。

つまり、オズボーン准教授が職業をひとつの「かたまり」としているのに対して、OECDはタスクの束としているのです。そして、タスクの7割が置き換えられた場合にタスクの束としての職業が代替される、としたのです。この枠組みによると、大半の職業はタスクの5割くらいしか代替されないことになってしまうので、将来的な代替の可能性は低い、とされたのです。

ホワイトカラーの管理職を例にしてみます。職務記述書の内容には、判断、意思決定、チームビルディング、などのタスクが記載されていると考えられます。タスクを分解すると、電話をかける、電話を受ける、資料を作成する、資料を読む、部門内会議を開催する、他部門と連携する、というような具体的な仕事になります。

それらの仕事には、人間同士の会話や意思疎通というインフォーマルな時間が多く含まれています。人間同士だからこそ、性格や健康状態、経験の有無、などの様々な要素が関係してきます。

仕事をする相手が人間でなければ別ですが、人間同士が仕事をして、その結果として生活をする、ということが継続するのであれば、そこには代替することが不可能な部分が必ず残ります。それがAIに置き換えることが不可能なタスクである、と言うことができます。そして、このことは、代替が効かないタスクの多くが人間同士を繋げている部分にこそあると示しているのです。

AIはむやみやたらに導入されるようなものではありません。ビジネスプロセスと労働者の職務分析が必要になります。その結果として、コスト削減と利益を生み出すような新しいビジネスモデルが創出された時にAIが導入されることになるのです。

つまり、何でもかんでも誰かの仕事がAIに代替されるいうことはないのです。手順としては、誰の目にもわかるような形で進んでいくことが望ましいでしょう。さらに、他社に任せるということは、他社と自社を繋ぎ合わせるいう、人間が担当する必要がある新しい仕事が生み出される、ということも示していると言えるのです。

 

3.中小企業のAIへの取組

AIがいくら進化・発達しようとも、その影響は大企業にとっては大きいものの、中小企業の経営者の方々の中には、当社にはあまり影響はないだろう、と考えている人もいるかもしれませんが、果たしてそうなのでしょうか。

確かに大企業ではAIに大規模な投資を行って、生産プロセスの業務を効率化したり、原材料のタイミングをより適切化したり、といったことが可能になり、会社の生産性を向上させることが可能になると考えられます。

しかし、中小企業の場合は、上場企業のように大規模な投資をすることが困難な場合も考えられるので、これまで通り、人間の手による仕事が残ったままとなることが十分に予想されます。つまり、従来からの仕事のやり方が変わるわけではないので、仕事がAIに代替されてしまうことも考えにくいのです。

もちろん、中小企業とはいえども、施術革新の影響は受けますので、仕事の一部はIT化されたり、標準化されたり、ということは生じるでしょうが、仕事そのものが消滅してしまうようなことは考えにくいと思っているかもしれません。

確かに、中小企業にとってはAIの進展による影響は、直接的に仕事に大きな影響を与えることは考えにくいかもしれません。しかし、大企業がAI導入により大きな影響を受けた場合に、大企業の取引先だったり、下請け先だったりする中小企業にほとんんど影響がない、なんてことはあるのでしょうか。

(1)中小企業のAI導入の現状は

リアルインサイト社が20195月に発表した、「日本の中小企業のAI導入状況」調査結果(https://www.atpress.ne.jp/news/178758)によると、中小企業の約6割がAIに対する知識がない、と回答しています。

また、ひと月にかけられる費用に関する回答で、中小企業の約8割が提示した金額は、10万円/月まで、となっています。この回答は、現状では事実上導入は不可である、という回答にほど等しい結果です。

しかし、AI導入の可能性に関しては、AIの導入により会社の生産性が向上すると考えている人が68%にものぼっており、さらに知識がないと答えた93%の人が今後はAIを学びたい、としています。予算的に厳しいが、十分にAIを意識している、ということでしょう。特に中小企業においては、AIに関心があるけれども、現状ではなかなか手が出せる状況にない、いうのが実状のようです。

また、上記調査結果を詳細に分析すると、AI導入に向けた障壁も垣間見えます。導入障壁についての質問については、コストと並んで、導入の方法が分からない(38)、費用対効果がはっきりしない(36)、技術的に疎い(27)、詳しい社員がいない・不足(27)、などが「壁」として上げられています。これらはAI導入に立ちはだかる典型的な障壁ではありますが、逆に、はっきり言ってしまえばAI導入以前の問題である、とも言えます。

AI導入による成果や改善点、といったAIをビジネスに実装した場合のメリットを明確に想定できないことが、導入コストにのみ縛られてしまい、それ以上の展開を創造できない原因なのでしょう。中小企業のAI導入の事例で、自社の職人の技術をAIに引き継いで(移植して)、高い品質を維持したままの状態で大量生産を実現、生産性を大きく高めることで売上を大きく伸ばした実例もあります。

中小企業だから予算がない、必要ない、ということではなく、会社の事業規模を大きくするためにAIを活用する、という視点を持つことが、AIと中小企業をより近付ける方策だと考えられます。

(2)「真」のAIの中小企業への影響とは

上記(1)のように中小企業にとっても、否応なく、AI進展の波は打ち寄せてくることが予想されますが、本当にAIの大きな影響があるのは、中小企業の存在そのものに関わる点です。それは取引先や元請先である大企業においてAI化が進むと、中小企業の仕事そのものがなくなってしまう可能性が考えられることです。

例えば、自社で行うには生産性が低いものの、下請先・取引先に外注することで成立しているような仕事に、AIが導入されることにより自社プロセスに組み込む方が高い生産性と安いコストが成立するようになった場合には、これまでの取引が見直され、打ち切られてしまうようなことも考えられます。

これまで以上にAI化が進むと予想されている中において、いつまでも従来どおりの仕事が残り続けていくことは考えにくく、会社の様々なプロセスにおける無駄や非生産的な部分は改善されていくことになるでしょう。

その中で、取引関係におけるパワーバランス上は弱者になることが多い中小企業は、AIに代替されてしまうような業務だけを行っていると、いつでもAIにとって代わられてしまう可能性があります。それでは、そのようなリスクを回避するためには、中小企業はどうすればよいのでしょうか。

それは、前述した取引関係における弱者から強者へと変身することです。具体的には、業務プロセスにおいて、その会社がなければ業務プロセスが動かなくなってしまう、という存在感を示すようになることです。

日本の中小企業における技術力の高さには素晴らしいものがあり、例えば、下町の工場で精密な加工力が必要なロケットや医療機器の部品などを作っているところはたくさんあります。つまり、大企業に匹敵するような技術力や創造力を発揮できるようになる必要があります。

つまり、中小企業にとっては、どのようなAIが自社の業務を行うために必要なのか、を見極めることと、AI導入に向けた資金面・人材面などの準備に早めに着手したうえで計画的にAI導入を実施すること、が重要であることがまず1点です。

そして第2点は、人材の採用・育成(自体も中小企業にとっては簡単ではないかもしれませんが)や必要に応じて同じ中小企業間で連携して、独自性の高い、他にはない、付加価値のある、高度な技術を会社として身に付ける努力をするべきでしょう。

AIの進展に対して、何もせずに手をこまねいているだけでは、多くの中小企業は路頭に迷ってしまうかもしれません。これは決して大げさに言っているわけではなく、中小企業こそがAI導入の大きな影響を受ける可能性が高いと考えられるので、経営者はなるべく早めに対応方針を決めておく必要があると言えます。

 

<まとめ>

AIの進展に伴い、人間の生活は楽になることが予想されており、とても便利な世の中になるようなことが言われていますが、確かにそういった部分はあるものの、AIは人間の仕事(労働)を奪ってしまうのではないか、という危険性があることも最近では言われ始めています。

しかし、このAI導入の流れはもはや避けられることのできない流れになっている、と言っても過言ではないでしょう。AI導入におけるメリットとデメリットを十分に踏まえたうえで、われわれがAI導入に対してどう向き合うべきなのか、そして新しい時代における「労働(働く)」ということを真剣に考え直すタイミングなのかもしれません。

AIの導入の前にできる業務効率化に関して、外注先とは?選び方や分類と下請け先との違いを徹底解説の記事もご覧ください。