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働き方改革は中小企業にも影響有り! 意義とリスクについて解説

中小企業にも影響する働き方改革をイメージする画像 起業家の基礎知識

日本企業の多くは働き過ぎ(オーバーワーク)で効率が悪く、国際競争力も低下しており、一部の会社ではブラック企業などと呼ばれるような状態も生じている。労働法規を遵守するのみならず、真の意味で「働き方」を改革する時期を迎えていることは間違いないと思われます。

しかしながら、政府が掲げている「働き方改革」は大企業だけが対象になっているのではないか、多くの中小企業では人材不足などに悩んでおり「働き方改革」なんて関係ない、と思っている人も多いのではないでしょうか。

日本経済を支えている多くの中小企業において「働き方改革」が推進されることで、日本全体の「働き方改革」が実現することになるはずです。本稿では、「働き方改革」とはどのようなものか、「働き方改革」と中小企業との関係はどうなっているのか、「働き方改革」のリスクにはどのようなものが考えられるのか、などについて説明します。

1.「働き方改革」とは

201941日から、「働き方改革法案」の一部が施行されて、現在では大企業のみならず中小企業も含めて、働き方改革を推進しよう、という機運が盛り上がっています。この「働き方改革」は、今や多くの企業にとって重要な経営課題のひとつになっていると言っても過言ではないでしょう。

「働き方改革」とは、一億総活躍社会*の実現に向けた最大のチャレンジとして、従来は当然だと思われていた日本企業における労働環境を大胆に見直すような取組のことを言います。具体的には、長時間労働の日常化や残業の恒常的な発生、そしてそれを原因とする過労死などは大きな社会問題となっています。

一億総活躍社会*一億総活躍社会とは、少子高齢化が進む日本において、「50年後も総人口1億人を維持して、職場・家庭・地域で誰しもが活躍できる社会」のこと。

首相官邸からの出ている「働き方改革の実現」(出典:http://www.kantei.go.jp/jp/headline/ichiokusoukatsuyaku/hatarakikata.html)によると、「働き方改革は、一億総活躍社会実現に向けた最大のチャレンジ。多様な働き方を可能とするとともに、中間層の厚みを増しつつ、格差の固定化を回避し、成長と分配の好循環を実現するため、働く人の立場・視点で取り組んでいきます。」とされています。

また、非正規労働者に対する不合理な差別的な待遇差なども発生しており、働き方の問題から生じている弊害は多くの企業で顕在化しているため、早急な対策の実施が必要になっています。しかし、これまで当然とされていた、習慣化した従来の方法を急激に変更することは決して容易なことではないでしょう。

場合によっては、取り組みに対する煩雑さにばかりフォーカスが当たってしまい、法令の基準を充足するためだけに形ばかりの取り組みに終わってしまう可能性も十分に考えられます。働き方改革は、正しく目的を理解し、適切な取組を実施することで、企業の労働環境の改善や労務問題の解決に活用できる有用な手段なのです。

時間やコストをかけて働き方改革に取り組むのには、働き方改革の必要性を正確に把握して、真の働き方改革の実現を目指すことが重要です。

(1)働き方改革の目的

「働き方改革」を行う目的とは、各人の意思・能力、あるいは個人個人の事情に相応しい、柔軟な様々な働き方を選択することが可能な社会を追求することで、「労働者にとっての働きやすい社会」を実現していくことです。

個人にとって働きやすい環境を構築・整備して、その人のライフステージに合致した仕事のやり方が選びやすくなることで、以下のような目標の達成にも近付くものと考えられます。

  • 国にとっては、労働者の増加による税収の増加
  • 企業にとっては、労働力の確保と生産性の向上

また、勤労意欲のある人が無理することなく働けるようになれば、社会全体にとっても好影響が期待できる、ということになります。

(2)働き方改革法の「適用時期」について

ここで、働き方改革法による法改正事項と各法改正事項の適用開始時期について、下表にまとめます。なお、働き方改革法でいう「大企業」とは、以下の中小企業の範囲*に「当てはまらない」企業が大企業であると定義されています。

*中小企業の範囲(以下の①または②)
①資本金の金額または出資金の総額
 ・小売業・サービス業 5,000万円以下
 ・卸売業 1億円以下
 ・それ以外 3億円以下
②常時使用する労働者数
 ・小売業 50人以下
 ・サービス業・卸売業 100人以下
 ・それ以外 300人以下

働き方改革法による法改正事項

法改正事項の適用開始時期

①残業時間の「罰則付き上限規制」

大企業 :20194月~

中小企業 :20204月~

②5日間の「有給休暇取得」の義務化

全企業 :20194月~

③「勤務間インターバル制度」の努力義務

全企業 :20194月~

④「割増賃金率」の中小企業猶予措置廃止

大企業 :適用済み

中小企業 :20234月~

⑤「産業医」の機能を強化

(事業主の労働時間把握義務含む)

全企業 :20194月~

⑥「同一労働・同一賃金の原則」の適用

大企業 :20204月~

中小企業 :20214月~

⑦「高度プロフェッショナル制度」の創設

全企業 :20194月~

⑧「3ヶ月のフレックスタイム制」が可能に

全企業 :20194月~

適用開始時期を見て分かるとおり、すでに各項目法改正が行われています。
ご自身の会社できちんと対応しているか?改めてチェックしてみましょう。
それでは上記の各項目について概説します。

①残業時間の「罰則付き上限規制」

大きな社会問題となっている労働者の過労死などを防止するため、原則として、残業時間を月45時間かつ年360時間以内とし、繁忙期だとしても月100時間未満、年720時間以内にするなどの上限を設けました。この上限を超過した場合には刑事罰の適用もあり得ます。

②5日間の「有給休暇取得」の義務化

年に10日以上の有給休暇が発生している労働者については、会社には必ず5日の有給休暇を取得させる義務が生じます。

③「勤務間インターバル制度」の努力義務

心身の疲労蓄積を防止するために、勤務が終わってから次の勤務までには、少なくとも10時間、あるいは11時間といった、休養できる時間を設けることが望ましいとされました。ただし、この項目は努力義務となっている点には注意してください。

④「割増賃金率」の中小企業猶予措置廃止

これまでは中小企業には適用が猶予されていた、「月の残業時間が60時間を超えた場合、割増賃金の割増率を50%以上にしなければならない」という制度が、規模に関わらず全ての企業に適用されるようになります。

⑤「産業医」の機能を強化(事業主の労働時間把握義務含む)

従業員の健康管理に必要な情報の提供が企業に義務付けられることになり、その一環として事業主には客観的な方法で労働時間把握の義務が課されます。

⑥「同一労働・同一賃金の原則」の適用

これまでも判例においては認められてきた「同一労働・同一賃金の原則」が、正規・非正規の不合理な格差をなくすために法文化されます。

⑦「高度プロフェッショナル制度」の創設

一定の専門知識を保有していることが必要とされる職種で、年収が1,075万円以上の労働者を対象に、本人の同意などが条件ではありますが、労働時間規制や割増賃金支払の対象外となる制度がスタートします。

⑧「3ヶ月のフレックスタイム制」が可能に

これまでは最大で1ヶ月単位でしか適用することができなかったフレックスタイム制が、2ヶ月単位や3ヶ月単位という長期間の単位でも適用することが可能になります。

(3)「働き方改革」の3本の柱

上記のように8つの法改正事項が挙げられていますが、その中でも「働き方改革」にとっては3つの主要な柱があります。それは、①労働時間の長時間化の是正、②正規・非正規の不合理格差の解消、③柔軟な働き方の実現、です。

①労働時間の長時間化の是正

働き方改革の大きな目的である「労働者にとって働きやすい社会の実現」には、「労働時間の適正化」が必要不可欠です。現代は、滅私奉公のように身を粉にしてまで働くことは美徳とは言えないのです。

これまでの受忍限度を超えるような働き方そのものが、従業員の肉体面・メンタル面での不調や過労死を引き起こしてきたのです。今回の労働基準法の改正により、従来は「グレーゾーン」とされてきた「時間外労働」に対して法的なメスが入ることになりました。

②正規・非正規の不合理格差の解消

多くの企業で深刻化している人手不足や採用難を背景に、今後は正社員に限らずに多様な雇用形態に目を向けて、これまで以上に幅広く人材を活用できるような取り組みを、企業は実現することが必要不可欠です。

しかし、同じような仕事をしているのに、ただ単に雇用形態(雇用契約の種類)の差だけで待遇・処遇に違いが生じている場合が多く見受けられます。この格差が、非正規という働き方に対する世間のマイナスイメージや労働者の勤労意欲の低下を招いているのです。

この格差を埋めるために、今回の法改正の基本的な考え方となったものが「同一労働同一賃金」です。働き方改革を通して、雇用形態の違いにかかわらず、フェアな処遇や待遇が確保されることにより、労働意欲の高い人が主体的に自分に合った働き方を選択することが可能になります。

③柔軟な働き方の実現

労働者が自分らしく、前を向いて働き続けることができるためには、柔軟な働き方を実現することが不可欠です。働きやすさが確保されており、より多様な人材が活躍できるような労働環境になれば、大きな社会問題となっている企業の人手不足の解消にも繋がる可能性は高いと思われます。

柔軟な働き方を実現するためのポイントとしては、出産・育児・介護などのライフステージに相応しい働き方(例えば、テレワークや時短勤務など)、労働者のキャリア開発や現場における労働力の供給に寄与するような副業・兼業の許可、今後さらに労働力として期待されるシニア層の活用、などが挙げられます。

(4)働き方改革の課題について

人材は企業にとって極めて重要な礎です。現在非常に深刻化している労働者(働き手)の減少に対応するためには、現在雇用されている労働者の定着化・安定化を図るとともに、求職者に選択してもらえるような会社になる努力をして、アピールすることが重要です。

現状維持を是として何の対策も講じなければ、あっという間に時代に取り残されてしまい、企業は衰退することになるでしょう。本稿では、働き方改革に対する取り組みを企業の成長へと繋げるための施策・課題や考え方について説明します。

働き方改革の課題

業務内容と社員について理解を深めておく

働き方改革の最初の一歩は、「現状を正確に把握・認識すること」です。現状の働き方に問題を抱えている労働者の有無を把握して、そのような労働者がいるとした場合に誰に対してどのような対応が必要になるのか、かを検討します。

労働者の働き方を見直すと同時に、個人個人が担当している業務内容についても再度の検討・整理をします。そのうえで、無理や無駄がないか、といった業務の効率化を図ることが可能か否か、を十分に検討して、多くの働き方改革に関する取り組み施策の中から必要な方法を導入するようにしましょう。

心理的な安全性の確保

労働者が最大限に能力を発揮できることが、働き方改革を実現するうえで重要なポイントになります。そのためには、それぞれの労働者が他の人の顔色を伺うようなことがなく、自然体のままでいられる心理的な安全性が確保された組織・体制作りを行うことが必要です。

心理的な安全性を担保することで、労働者間での信頼感が高まると同時に職場の風通しも良くなります。つまり、心理的な安全性の確保は、仕事の成果及び生産性の向上に寄与することになるのです。

他社事例からの学習

働き方改革に関する具体的な取り組み事例は、他社の事例から学ぶことが可能です。

自社と同じような問題を抱えている企業がどのような方法で状況を改善し、どのような成果を達成することができたのか、を把握することにより、自社における取り組み結果を事前に予測することができ、働き方改革を効率良く進めることが可能になります。

「働き方改革」についての知識を習得

働き方改革の必要性は理解したとしても、幅広く多岐に渡っている労働関係法令の改正に対応する具体的な施策の立案・実行には悩んでいる経営者の方は多いと思われます。

一般的なレベルでの情報収集はインターネットなどでも可能ですが、膨大な情報の中から自社にとって必要なものを正確に抽出して、実際の取り組みに活用することは簡単なことではありません。

外部専門家の活用とともに、自社においても人事部門などを中心に「働き方改革」に関する勉強会を開催するなど、知識の習得も極めて大切です。

積極的なIT活用

現状は何とか対応できている企業であっても、将来的な人手不足時代はすぐそこまで近付いているかもしれません。そのためには、人力に頼らない業務体制の確立が喫緊の課題であると言えます。

ITツールを積極的に活用して、可能な限り業務の効率化を図っておくことで、最少の要因で最大の成果を生むことができるような工夫をしておくことが必要なのです。

(5)働き方改革における「大企業」の対応

働き方改革は、前述したように中小企業にも大企業にも対応が求められるものですが、その中でも特に大企業が注意すべきポイントについて解説します。

①時間外労働の削減は急務

最初に、早急に取り組む必要があるのが、時間外労働の削減でしょう。罰則付きの36協定の適用開始は、中小企業は20204月まで猶予されているのですが、大企業の場合は20194月から既に適用開始となっています。

法律で定められている上限を超過するような残業は絶対的に禁止です。そのために、現状で基準を超えるような残業が発生しているような企業は、業務の効率化や偏っている業務負荷の見直しなどを実施して、早急に残業時間の削減に注力する必要があります。

例えば、流通大手のヤマト運輸では、eコマース企業(通販大手)であるアマゾンの当日配送から撤退方針を発表するなど、配送時間帯の変更や配送料金値上げなどにより、配達荷物の総量を減らすような動きがありました。

上記のように、従業員の健康や会社としてのコンプライアンスを遵守するために、たとえ一時的に売上が下がったとしても、仕事量を減らす方向での経営判断が必要な場面も生じる可能性があると思われます。

②労働時間把握義務への対応

労働時間の把握義務に関しても大企業はしっかりと取り組む必要があります。201941日から、産業医との連携や情報提供の強化を背景に、労働安全衛生法の改正により、事業主には労働者の労働時間把握義務が正式な法的義務として課せられました(これまでは、給与計算や法定帳簿の作成義務などに付随する事実上の義務でした)。

201941日から労働時間の把握義務が課せられるというのは、大企業も中小企業も共通ですが、労働時間把握義務への対応は、大企業の場合は中小企業以上に注意が必要です。なぜならば、大企業には中小企業と比べて多くの様々な部門があるので、通常の労働時間管理をされている一般社員以外にも、下記のように勤務形態が多様化しているケースが珍しくないからです。

  • 管理監督者
  • 専門業務型裁量労働制
  • 企画業務型裁量労働制
  • フレックスタイム制

管理監督者や裁量労働制で働く人は、残業代が支払われなかったり、みなし時間に基づいて残業代が支払われるために厳密な労働時間管理を行っていなかったり、といったケースが少なくなかったと思われます。

しかし、今回の法改正で、201941日以降は、管理監督者や裁量労働制で働く人を含めて、残業代計算のためでなく、健康管理や過重労働防止といった観点から、労働時間の管理が義務化されたのです。

各企業に相応しい方法で、管理監督者や裁量労働制で働く従業員を含めた労働時間の管理体制を整備する必要があります。規模が大きく、様々なタイプの対象者がいるような大企業では、早急に対応準備をする必要があります。

③高度プロフェッショナル制度への対応準備

高度プロフェッショナル制度は、201941日から、企業の規模を問わずに、適用がスタートしています。しかしながら、現実的には、年間1,075万円以上の賃金を支払い、専門性の高い業務に従業員を従事させているのは、多くの場合大企業に限定されると思われます。

20181031日に厚生労働省の労働政策審議会で、高度プロフェッショナル制度を適用する5業務が示されました。具体的には、以下の通りです。

  • 金融商品の開発
  • 金融ディーラー
  • アナリスト
  • コンサルタント
  • 研究開発

上記のような業務に従事している従業員がいる企業では、高度プロフェッショナル制度を人事制度の選択肢の1つとして検討する価値があると思われます。

しかし、たとえば「コンサルタント」という肩書さえあれば、無条件に高度プロフェッショナル制度の対象になるというわけではありません。企業の経営戦略に資する提案や助言を業務としているコンサルタントに限定されています。資料作成補助者などは、高度プロフェッショナル制度の対象者にはなりません。

上記のように、高度プロフェッショナル制度を導入する場合には、どの部門の、どのグレードの従業員までを対象とするのか、というような個別具体的な検討も必要となるのです。

今後は、上記以外の業務でも適用される業種が拡大される可能性があり得ます。また、実際に導入するかどうかは別としても、人事部門や経営企画部門などには、経営者や人事担当役員から「当社で高度プロフェッショナル制度を導入できる可能性があるか検討してほしい」、「高度プロフェッショナル制度の概要について経営会議で説明する資料を作成してほしい」、といった指示が下されるかもしれません。

2.働き方改革と中小企業

「働き方改革」への対応が求められているのは、これまで説明してきたように、大企業だけではなく中小企業も対象に含まれています。本稿では中小企業に向けた具体的な対策について説明します。中小企業における労務管理の実態などを十分に踏まえたうえで、大企業とは異なるプライオリティを考慮した進め方などが必要不可欠です。

中小企業が働き方改革において優先的に対応しなければならないポイントは、(1)有給休暇を5日以上取得可能な体制整備と(2)労働時間把握義務への対応、の2点でしょう。

(1)有給休暇を5日以上取得可能な体制整備

働き方改革法で最も世間から注目されている36協定の罰則付き上限規制は、中小企業への適用を20204月からとしており、大企業と比べた場合、多少なりとも猶予があると言えます。中小企業にとって、それ以上に大きなインパクトがあると考えられるのは、有給休暇10日以上の保有者に対し、5日以上の付与が義務化されることえではないでしょうか。

実際に多くの中小企業では年に5日以上の有給休暇が取得できていないケースが多いようです。厚生労働省「平成 29 年就労条件総合調査の概況」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/17/dl/gaikyou.pdf)を見ると、有給休暇の労働者1人平均取得日数は9.0日となっています。

また、企業規模別の労働者1人平均取得日数によると、100299人で8.2日、3099人で7.5日となっています。つまり、単純分析の結果ですが、中小企業においては、大企業と比較して12日ほど有給休暇の取得日数が少ないという状況です。

加えて、業界平均で労働者1人当たりの平均取得日数が7日未満である建設業、卸売業、小売業、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業、などは、特に有給休暇の取得推進に注力する必要があると考えられます。

上記調査の対象先は、労働者30名以上の企業、となっており、それよりも規模の小さな企業や個人事業主などは対象外となっています。これらの会社などでは、実態として誰かが休んでしまうと仕事が回らない、などの状況であることも考えられるので、有給休暇の取得がより困難になっていることも珍しくはないでしょう。

つまり、労働者30名未満の小規模な企業においては、上記調査の中小企業より以上に有給休暇の取得ができていない状況にある可能性が高いと考えられるのです。上記のような現状の中において、中小企業は有給休暇取得5日以上の実現に向けてどのような対策が取り組む必要があるのでしょうか。以下に対策をまとめます。

有給休暇5日取得のための対策

解説

業務効率化

当然ながら最も重要な対策は業務効率化になります。従来の業務フローや属人化されているような業務を根本的に見直すことが必要です。

具体的には、手書きの業務日誌や顧客管理簿などをITシステム化する、あまり意味の無い情報を記載している業務日報を廃止する、など思い切った効率化を目標にすべきでしょう。

計画的な有給休暇の付与や半休制度活用

次いで、計画的な有給休暇の付与や半休制度の活用などを挙げることができます。有給休暇は従業員本人からの申請が原則ではありますが、労使協定を締結すれば、会社が指定した日に計画的に有給休暇を取得させることが可能になります。

会社側で自主的かつ能動的に仕事量などを調整して、休める日には休んでもらう、という統制を行うことも取得促進には効果があると思われます。

また、1日を前日休むことは困難であっても、半日ずつであれば何とか可能である場合には、半休を重ねることで年5日の有給休暇付与を実現することができるかもしれません。

就業規則の見直し

3つめは、就業規則の見直し、を挙げることができます。ただし、就業規則の不利益変更となりますので、最終手段として認識する必要があり、労働者側と充分に協議をしたうえで慎重に対応することが必要です。

ほとんど有給休暇の取得ができていないような企業であっても、就業規則には慶弔休暇や誕生日休暇のような特別休暇が設けられていたり、夏季休暇や年末・年始休暇などを付与したり、ということがあるでしょう。

慶弔休暇や誕生日休暇を廃止して、必要な場合には有給休暇を取得して休んでもらうようにするのです。または、夏季休暇や年末・年始休暇を廃止して、労使協定の締結を前提に、有給休暇の計画的付与日とすることも一案です。

上記のような休暇の廃止はあくまでも緊急避難的なものとして捉えておくことが必要です。労使協力体制のもとで会社の業務効率化を実現させて、人繰りにゆとりが生じたらすぐに廃止した休暇制度などは復活させるようにしましょう。

これまで付与されていた休暇制度を廃止することには従業員側の抵抗も想定できますし、働くモチベーションを低下させてしまうような影響も考えられますが、休暇制度を廃止しなければ有給休暇5日付与を達成することが不可能なのであれば、従業員に対して丁寧かつ十分に説明を行うことが重要です。

現状では自社にとっては「やり過ぎ」となっている休暇制度を廃止(意味合いとしては、一時的な運用の停止)して、業務効率化の実現の程度に応じて復活することを労使間で約束する、という方法が現実的な手段だと考えられます。

(2)労働時間把握義務への対応

大企業においても、労働時間把握義務への対応、は優先順位が高い項目ですが、この重要度は中小企業においても同様です。36協定の上限を遵守する、残業代をきちんと支払う、などだけでなく、労働者の心身の健康を守るために長時間労働者が発生していないかどうかの把握に努めることは、企業規模に関係なく、事業主としての責務となっています。

①健康管理のための労働時間の管理(労働安全衛生法)

今回の労働時間把握義務が、労働基準法ではなく労働安全衛生法において定められたことが、立法者サイドが、健康管理のための労働時間把握が重要である、とが考えていることの証左であると考えられます。

サービス残業は当然ながら、過労死のラインを超過するような長時間労働に対しては、労働基準監督署による取り締まりがこれまで以上に厳しくなることが考えられます。企業の規模を問わず、労働時間把握義務への対応は確実に実施すべき事項です。

②クラウドを利用した勤怠管理による効率化

中小企業では、いまだに紙のタイムカードを使用していたり、出勤日に判子を押すだけの出勤簿を使用したり、という会社もまだ多いかもしれません。今回の労働時間把握に対応するタイミングで、クラウド型の勤怠管理ソフトを導入してはいかがでしょうか。

クラウド型の勤怠管理ソフトは、従業員1人あたり1ヶ月200円~300円くらいの安価な費用で利用することが可能です。また、Suicaなどをカードリーダーに読み込ませたり、指紋認証をしたり、といった方法で記録された打刻を利用して、リアルタイムで労働時間や残業時間の状況が把握できるようになります。

したがって、例えば、上司が部下に対して「今月はここまで残業が多いから、今後はなるべく定時で帰宅できるように業務の棚卸をしよう」というような指示が出しやすくなるでしょう。このようにリアルタイムで労働時間の可視化が可能になれば、具体的な改善方法を実施しやすくなるので、労務管理の精度は飛躍的に向上するでしょう。

 

<まとめ>

残業を減らすのは、即日などの直ちに実現できるようなものではありません。あらかじめ十分な検討を行い、相当程度の時間をかけて取り組む必要があります。例えば、同一労働同一賃金についても、自社の課題の把握から、改定方針の検討、就業規則や賃金規程の改定までの流れを踏まえた場合、数ヶ月から、場合によっては、年単位の時間が必要になってしまう可能性もあります。
(4)働き方改革の課題についてに記載した課題をクリアしているのか確認してみましょう。

厚生労働省の働き方改革特設サイトでは働き方改革のポイントや助成金の案内、実際に働き方改革に取り組んだ企業の取り組み事例が公表されています。
ひとまず法改正には対応しているつもりだが働き方改革をしているといえるのか不安だ、今後従業員を増員するとなった場合の対応をどうしたらいいのかわからない、といった相談ができる無料相談窓口もあります。