法人事業概況説明書は会社の業況や状況を確認するために毎年税務署に提出する確定申告書に添付する書類です。この法人事業概況説明書とはどのような書類なのでしょうか。また、実際の記入方法や記入の留意点などについて詳しく説明します。
(1)法人事業概況説明書とは
法人事業概況説明書は平成18年度の税制改正以前には提出義務がなかった書類ですが、税制改正の際に法人税法施行規則35条の5号に「確定申告書の添付書類」として定められました。現在では財務諸表や勘定科目内訳明細書などの書類とともに確定申告書に添付する書類として、義務付けられているものです。
ただし、この提出義務はあくまで「努力義務」となっているので、仮に税務署へ提出を拒否しても罰則はありません。また、平成22年の税制改正によって、出資関係図(グループ法人税制の対象となるような関係会社が存在している場合)の添付も追加されています。
法人事業概況説明書は全ての法人に提出義務があるわけではありません。大まかにではありますが、売上が年間3,000万円に満たない小規模な会社、赤字の会社、設立から2年以下の会社、などは調査を受ける確率は低いと考えられます。
もちろん絶対に調査を受けることはない、とは言い切れませんので、会社の状況によっては調査を受ける可能性はあります。法人事業概況調査書は、実態としては、税務調査の実施対象となる会社を選定する材料となるものです。
そのような観点では、「いい加減」(適当)に法人事業概況説明書の作成をしても問題はないと考える人もいるかもしれませんが、税務当局に自社の状況を説明する重要な資料ではあるので、極力しっかりと記載することが重要であると考えます。
(2)法人事業概況説明書の内容と 書き方・留意点
法人事業概況説明書の主な内容は、会社の事業内容、支店・海外取引状況、期末従業員等の状況、コンピューターの利用状況、主要な勘定科目を記載する欄、などとなっています。実際の法人事業概況説明書の様式は国税庁が以下の通り発表しています。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/180401_01.pdf
法人事業概況説明書の内容と書き方・留意点については下表の通りです。
内容 | 書き方・留意点 |
事業内容 | 自社で営んでいる事業の内容を具体的に記入します。詳細は裏面の「事業形態」に記載します。 |
支店海外取引状況 | (1)記入欄に沿って、支店数や子会社について記載します。
(2)子会社については、海外子会社が複数ある場合には出資比率が最も高いものを記載します。 (3)取引種類については、輸入と輸出の両方の取引がある場合には両方に○印を付けます。 |
期末従業員等の状況 | 常勤役員以外の空欄には、「工員」や「事務員」などの職種を記載します。また、計のうち代表者家族数については、同居・別居を問いません。 |
電子計算機の利用状況 | ここでの電子計算機とは、パソコン、タブレット、ワークステーションなどを指します。 |
経理の状況 | (1)管理者については、現金出納・小切手振出それぞれの業務の担当者名などを記載します。(4)消費税の当期課税売上高については単位に注意しましょう。 |
株主又は株式所有異動の有無 | 有無に関して、どちらかを選択します。 |
主要科目 | この記述項目は、ほとんどが確定決算書における貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)から引用されます。記載の際には単位に注意しましょう。 |
インターネットバンキング等の利用の有無 | インターネットバンキングとはインターネットを利用した金融機関の取引サービスのことで、ファームバンキングとは1対1の専用通信回線を利用した金融機関の取引サービスのことを言います。有無のどちらかを選択します。 |
役員又は役員報酬額の異動の有無 | 有無のどちらかを選択します。 |
代表者に対する報酬等の金額 | 該当部分を必要に応じて記載します。記載の際には単位に注意しましょう。 |
事業形態 | (2)事業内容の特異性、とは、同業種の法人と比較した場合の事業内容の相違点のことを言います。 |
主な設備等の状況 | 事業用に利用されている機械装置、倉庫、客室などの設備に関して、名称・用途・型・大きさ・台数・面積・部屋数などを記載します。ただし、申告書の内訳明細書などに記載があるものについては記載を省略することが可能です。 |
決済日等の状況 | 該当部分を必要に応じて記載します。 |
帳簿類の備付状況 | 作成している帳簿類について記載します。 |
税理士の関与状況 | 複数の税理士が関与している場合には、主な税理士1名について記載します。 |
加入組合等の状況 | 該当部分を必要に応じて記載します。 |
月別の売上高等の状況 | 複数の収入があるような場合には、主な収入2つについて記載します。「源泉徴収税額」欄の右側にある空欄には掲載されている勘定科目以外の主要な科目の状況を記載します。記載の際には源泉徴収税額の単位に注意しましょう。また、従業員数は、当該月に給与や賞与を支給した従業員の人数を記載します。 |
当期の営業成績の概要 | 経営状況や経営方針の変化によって特に影響が生じた事項を記載します。ただし、同様の内容を別書類で提出する場合には省略が可能となっています。 |
(3)出資関係図とは
法人事業概況説明書は平成18年度の税制改正で提出が義務付けられた書類ですが、平成22年度の税制改正では確定申告書及び法人事業概況説明書に添付して提出する出資関係図という書類が新設されました。
出資関係図とは、内国法人が完全支配関係がある他の法人を保有しているような場合に、その法人との関係を系統的に示した図のことを言います。具体的には、下記のURL(国税庁HPより)
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/101006/pdf/01.pdf
を参照してください。
出資関係図とは、全ての法人に提出義務があるわけではなく、その法人が内国法人であり、かつ完全支配関係を持つ他の法人がある場合にのみ提出義務があります。なお、完全支配関係とは、国税庁によると、
(1)一の者が法人の発行済株式等の全部を直接又は間接に保有する関係として政令で定める関係(当事者間の完全支配の関係)
(2)一の者との間に当事者間の完全支配の関係がある法人相互の関係
のどちらかの関係がある場合には完全支配関係にあるとされます。
出資関係図の作成については、以下の点に注する必要があります。
(1)記載内容は決算期末時点の状況を基本にして作成します。
- 出資関係図は完全支配関係における最上位の者(法人または個人)を頂点として、系統的に作成します。
(2)グループ内の全ての会社の決算期が同時期の場合、それぞれの法人は同じ出資関係図を提出する必要があります。
- グループ内のそれぞれの会社の所轄税務署、法人名、納税地、代表者氏名、事業種目、資本金等の額、決算期を記載します。
グループ内の法人が多数の場合には、全ての記載項目を記入することは困難な場合も考えられますので、系統図とは別の様式で作成しても支障はありません。
まとめ
法人事業概況説明書も出資関係図も、確定申告の際に提出する書類ですが、具体的な記載内容や書き方などについては国税庁のホームページに説明資料がアップされています。また、システムを活用してそんなに手間をかけずに法人事業概況説明書を作成することも可能になっています。
期末などに作成・提出する書類が膨大になっており、経理部門や経営企画部門などでは期末の労働負担が重くなっているのは事実です。少しでも負担を減らすためには、既に作成した資料(例えば、財務諸表など)を活用して、他の提出物にも利用できるように提出物の共同利用項目などをあらかじめ決めておくことも必要かもしれません。
また、自動的に他の資料の数値などを転載できるようなシステムなどもありますので、上手にITを活用することも重要です。