会社が債務超過になってしまうと倒産したかのように捉えられてしまうことがありますが、それは早とちりというものです。債務超過の原因を分析して、しっかりと対応することで会社として復活することは可能です。債務超過の解消方法について説明します。
1.債務超過とは
債務超過とは会社の貸借対照表の純資産(資産から負債を差し引いたもの)がマイナスになっている状態を言います。
赤字が続くと純資産が減っていきます。
この赤字の状態が続いて純資産がマイナスに転じた状態が債務超過です。
別の言い方をすると、会社の負債が会社の全資産を上回ってしまっている状態を債務超過と言いますが、これは会社の全資産を売り払っても借金が返せない状態を意味しています。
2.債務超過に陥った場合のリスク
債務超過に陥った瞬間に会社が倒産するわけではありません。
しかし、債務超過の状態は決して良い状態であるとは言えません。
会社が債務超過になった場合に、具体的にどのようなリスクが発生するのかについて説明します。
(1)金融機関からの融資が受けられなくなる
債務超過の会社には金融機関からの融資が実行されることは原則としてありません。
債務超過とは返済減資の確保が難しいという状況を示していることになりますし、ビジネス面でも赤字が発生し続けているということでもありますので、金融機関にとっては融資先として適切ではないと判断される可能性が非常に高いと考えられます。
ただし、この債務超過の状態が一時的なものであり、将来的に債務超過の解消が見込めて業績が回復するという予測が立つのであれば融資が実行される可能性は有り得ます。
(2)倒産の可能性がある
赤字の状態が続くと会社の資金は減り続けますし、金融機関からは融資が行われないので資金調達もできず、会社が倒産するリスクが生じます。
会社の資金が底をついてしまった時点で倒産リスクは一気に高まるでしょう。
(3)上場廃止になる
上場企業が債務超過になった場合には上場廃止になる可能性があります。
東京証券取引所や大阪取引所が属している日本取引所(JPX)グループの一部・二部の上場廃止基準には、「債務超過の状態となった場合において、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったとき(原則として連結貸借対照表による)」という項目があります。
3.債務超過から脱け出すためには
それでは債務超過の状態から脱け出すためにはどのような方法が考えられるのでしょうか。
(1)増資
増資をすることで資本金が増加することになりますので債務超過の解消には大きな効果があります。
増資には、実質的増資と形式的増資の2種類があります。
実質的増資とは新株発行などを通じて純資産を増加させる方法です。
増資は資本金を増やすためには素早い対応方法の一つではあるものの、利益余剰金のマイナスという出血を止めない限り、増資をし続けることが必要になります。
一時的な債務超過を解消する目的であれば増資で対応することができますが、継続的に赤字が続いているような状況であれば、増資は単なる対症療法的な手法にしかならないでしょう。
形式的増資とは資本準備金の資本組み入れなどで純資産が増加しない方法です。
株式会社は株主総会の決議により、資本準備金を資本金に振り替えることが可能です。資本準備金は純資産の項目(貸方項目)なので、減少する場合は借方に記入することになります。
例えば、株主総会の決議により、資本準備金¥100,000を資本金とすることが決定した場合の仕訳は以下の通りです。
借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
---|---|---|---|
資本準備金 | 100,000 | 資本金 | 100,000 |
資本金と資本準備金は共に純資産の項目ですので、純資産の内訳が変化するだけで純資産の金額自体は増加しません。
ですので、純資産額の増加を伴わない形式的増資ということになります。
この場合は、赤字が発生している原因を特定して、その改善を図ることが最優先となるでしょう。
債務超過の場合は、融資と同じように出資にも躊躇する出資者がいることが考えられます。
その場合に形式増資であっても貸借対照表の見栄えを多少なりとも良くしておくことには大きな意味があると考えられます。
増資の際に意識するべき自己資本比率に関しては、「理想的な自己資本比率の目安は何%?適正水準を知って健全な会社経営を」の記事で詳細に解説しています。
(2)債務免除(条件変更、リスケ)
金融機関などからの借入負担を軽減するために借入金の条件を変更してもらうことで赤字幅の減少につなげることが可能です。
例えば返済回数を増やして1回あたりの返済元本を減らしたり、金利を減免してもらって返済利息を少なくしたりすることです。
ただし、この方法は金融機関の協力が必要不可欠ですし、将来的に業績が復活すると確信できる場合にのみ適用される方法ですので、ハードルはけして低くはありません。
また、一度でも債務免除の方法を使ってしまうと、それ以降の金融機関との取引には厳しい条件が課されてしまう可能性があります。
一方で、金融機関ではなく、社長などの経営者が会社に個人的に資金を融通している場合があります。
例えば、社長にこの借入金の返済を諦めてもらえれば、会社にとっては債務超過を解消することが可能になります。
この場合には、税務上の問題はあるものの、社長からの提供資金は会社の利益として利用されることになりますので、債務超過の問題はなくなります。
(3)DESの活用
DESとはDebt Equity Swap(債務と株式の交換)のことです。
銀行などの金融機関が、経営不振になってしまった取引先を支援する目的で利用されるケースが増えています。
銀行などの金融機関は貸出金の一部を失ってしまうものの、取引先企業の株式を取得できるので、株主として企業経営に影響を与えることができる、将来配当や株式の売却益を得られる可能性がある、というメリットを受けることができます。
それではDESによってなぜ債務超過が解消するのかを説明しましょう。
その理由は、DES前までは負債項目の借入金として貸借対照表に計上されていたものが、DES後には純資産項目の株式として計上されるからです。
DESをした場合には、会社は金融機関などの債権者にメリットを与えたうえで債務超過を解消することができるものの、そもそも経営を再建できる可能性がなければ、問題を先送りしているだけに過ぎません。
したがって、そもそもこのようなDES処理をすることに意味があるのかどうかを検討することが極めて重要であると考えられます。
(4)民事再生・会社更生法の適用
経営が困難になっている会社を救済する方法としては、民事再生や会社更生による方法があります。
民事再生でも会社更生でも自社の債務を減らすことができますので、双方とも債務超過の解消に効果のある手続きであると言うことができます。
それぞれの手続きの特徴についてまとめます。
民事再生とは民事再生法に基づいて行われる裁判手続きです。
民事再生の特徴は以下の通りです。
- 対象 :中小企業、個人
- 経営陣 :そのまま
- 再建業務 :経営陣が関与可能
- 財産の処分 :経営陣が関与可能
- 株主の権利 :そのまま
- 担保権の行使 :可
- 手続きに要する期間 :半年~1年
- 弁済期間 :最長10年
民事再生は、経済的に行き詰まってしまった会社に対して、現在の経営者主導の下で、債権者などの利害関係者の多数の賛意にもとづき再生計画を作成・遂行し、利害関係者の利害を調整しながら会社の事業再建を図るものです。
民事再生手続きでは、無担保債権者の権利だけを制約し(担保権者は制約なく権利を行使することが可能)、再生計画で免除可能なものも無担保債権だけとなっています。
つまり、会社更生手続と比べると、手続効力が弱い面はあるものの、低コストで迅速な中小企業向きの手続きということができます。
一方、会社更生は会社更生法に基づいて行われる裁判手続きです。
会社更生の特徴は以下の通りです。
- 対象 :大手企業
- 経営陣 :退陣
- 再建業務 :管財人(裁判所が選任)
- 財産の処分 :管財人
- 株主の権利 :喪失(100%原資)
- 担保権の行使 :不可
- 手続きに要する期間 :1年~
- 弁済期間 :最長15年
経済的に行き詰まった株式会社に対して、裁判所が選任した更生管財人の主導の下で債権者などの利害関係者の多数の賛意にもとづき再生計画を作成・遂行し、利害関係者の利害を調整しつつ会社の事業再建を図るものです。
会社更生手続きは、株式会社だけが利用することができる強力な方法で、無担保債権者だけでなく担保権者や株主の権利をも制限して、更生計画の中でこれらの権利をカットすることが可能になっています。
また、合併や減増資などの会社の組織再編行為も簡易に行うことが可能になっています。
債務超過まとめ
債務超過に陥ってしまった場合でも、その原因を客観的に分析して適切な対応をすることで債務超過の解消は可能です。ただし、債務超過になる前にその兆候は現れている場合が多いと考えられますので、事前に債務超過に陥らないように対策を準備することが極めて重要だと考えられます。
資金繰り悪化に伴う事業再生に関しては、「会社を立て直すための事業再生の種類と特徴とは」の記事をチェックしてみてください。