フレームワーク(Framework)は「枠組み」や「構造」を意味する言葉ですが、ビジネスの世界では「戦略を立案したり、改善点を抽出したり、考え方を整理したり、する場合に役立つツール」とされています。現在では様々なフレームワークが利用されておりますが、各フレームワークを正しく理解して正しく活用することが極めて重要になります。
フレームワークはコンサルティング業に関与している人にとって必要なツールで一般企業には関係がないようなもの、と考えている方がいるかもしれませんが、フレームワークの考え方は中小企業の経営者や経営戦略部門の方々にとっても有用なものであると言うことができます。本稿においては、フレームワークの概要、フレームワークの具体的な事例と特徴、中小企業におけるフレームワークの活用方法、などについて詳しく解説します。
1.フレームワークの概要
フレームワークとは、ビジネスに関するアイデア(発想)、ビジネスの分析、タスクの抽出、などに役立つことができる便利な考え方をまとめたツールのことです。順番に則って考えて描き出すことによって発想を効率的にまとめたり分析したりすることが可能になります。
(1)使用するビジネスフレームワークは目的に応じて変わります
「商談している相手先に対して納得性の高いプレゼンを実施したい」、「自社の組織における課題の全体像を把握して最適な解決策を発見したい」、「新たなサービスの導入を検討するので社外の環境を整理しておきたい」、などの様々な課題に対してビジネスフレームワークを活用することにより、これまではあちこちに散在していた情報を整理することが可能になり、目的を達成するための経路を見つけることが容易になります。
ただし、目的によっては使用すべきビジネスフレームワークが異なりますので注意する必要があります。もし誤った利用方法をしてしまうと上手く情報を整理することができなくなってしまい、本来達成すべき目的を果たすことができなくなってしまう可能性もあります。したがって、目的に相応しいフレームワークの選択や活用が極めて重要になるのです。
(2)「覚えること」ではなく「使いこなす」ことが重要
世の中にはたくさんのフレームワークが存在しており、その多くのフレームワークを日常会話の中に登場させると、あの人は難しいビジネス用語をたくさん知っていると尊敬の眼差しで見られるかもしれませんが、重要なことはそれらのフレームワークを実際のビジネスの現場で使いこなすことができるかどうか、という点にあります。
日頃から疑問に思っていることや困ったことがある場合に、どういったフレームワークを使えば分かりやすく整理することができるのだろうか、どのフレームワークを利用すれば分析しやすくなるのだろうか、といったプラクティスを自発的に行っておくと、いざ本番となった際にも自身を持って最適なフレームワークを選択して当て嵌めることができるでしょう。
2.フレームワークの具体的な事例と特徴
様々なフレームワークについて具体的な事例と考え方の特徴について解説します。
(1)基本的なフレームワーク
- PDCA
- 5W1H
- 2軸図
- MECE(ミーシー)
PDCAとは、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Action)、のそれぞれの頭文字を繋げたもので、計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Action)、のサイクルを何度も繰り返し実行することで継続的な業務改善を促すフレームワークのことです。
PDCAは多くの企業(トヨタ自動車、ソフトバンク、など)に導入されて成果をあげているフレームワークですが、一部には古い考え方である、との批判もあります。PDCAが上手く回っていないケースには理由があります。例えば、改善に時間がかかってしまう、前例主義に陥ってしまう(特に「計画」の立案ステップ)、PDCAそのものが目的化してしまっている、などです。
PDCAを上手に回すためには、費用対効果を十分に考慮すること、「計画」は極力具体的かつ定量的に設定すること、社内外の環境変化を素早く把握・意識してPDCAを回すこと(必要に応じて各ステップのタスクを見直す)、などが必要になります。
5W1Hとは伝達すべき情報を整理するためのフレームワークで、いつ(When、どこで(Where)、誰が(Who)、何を(What)、なぜ(Why)、どのように(How)、という明確な6つのファクターに分けて考える方法のことです。情報を伝達する際に5W1Hを意識しておくと誤解や過不足の発生を防止することができるでしょう。また、マーケティングの場合には見込み顧客などが購買する動機を探る場合などに利用されるケースが多いといわれています。
縦軸と横軸を描いて同じジャンルの要素に関してマッピングするフレームワークのことです。縦軸と横軸には何を設定してもよいので、様々な場面で応用することが可能です。
例えば、上手のように縦軸に「High Price(高価格)とLow Price(低価格)」を、横軸に「フォーマルとカジュアル 」を設定することにより、商品におけるお客様のニーズや嗜好をマッピングすることが可能になります。
MECEとは、互いに(Mutually)、重複がなく(Exclusive)、全体的に(Collectively)、漏れなく(Exhaustive)の各英単語の頭文字を繋げた言葉で、ミーシーと読ばれているフレームワークのことです。情報を整理づる場合に、重複、漏れ、などを防止するための考え方で、何かをリストアップする際の確認方法として用いられています。
また、MECEは論理的思考(ロジカルシンキング)における基本的な概念でもあります。論理的思考(ロジカルシンキング)とは、ピラミッドのように物事を順序立てて考えるとともに矛盾が生じないように組み立てていく考え方のことをいいます。論理的思考(ロジカルシンキング)でそれぞれの要素を分解して組み立てていく場合にMECEにおける「漏れなく重複なく」という概念が重要かつ必要になるのです。
具体的に、「売上をアップさせるために必要なことは?」というテーマで、できるだけ多くの施策を挙げたいような場合に、みんなが何も考えないで勝手にばらばらと列挙するだけでは漏れや抜け落ちや重複が生じてしまう可能性は高いでしょう。そのようなことにならないためにもMECEのフレームワークが重要になるのです。
(2)アイデアの発想に役立つフレームワーク
次いで、アイデアの発想に役立つと言われているフレームワークに関して解説します。
- マインドマップ
- マンダラート
- 形態分析法
- 連想マトリクス
マインドマップとは、テーマとして掲げたひとつのキーワードに関係するワードを次々に書き込んでいくことで自分の思考を紙面などに表現して、アイデアや発想が出やすくなるようにする方法のことです。テーマとなるキーワードを紙面の真ん中に記載して、そこから分岐して関係するワードを書き込んで広げていくような方法が一般的となっています。
現在ではマインドマップ専用のアプリケーションなども存在しており、テーマに沿ったコンテンツの制作シーンなどでよく利用されています。具体例としては、新たなメニューを考える必要があるようなケースでは、「メニューの開発」だけでなく、「お客様の傾向」や「現在提供されているメニュー」なども見直さばければならないでしょう。
また、社内での調整をするために「人的資源」や「他部門との連携」なども必要となるでしょう。他にも「販売開始のタイミング」をいつに設定するのか、「販売開始のタイミング」によってメニューの方向性に変化は生じるのか、など、必要となる要素をグルーピングして枝を拡大していくのです。
マンダラートとは、縦3マス×横3マスのマス目を9セット利用するフレームワークのことで(下図)、新しいアイデアや発想を考える場合や目標の達成がしやすくなるようにタスクを整理する場合などに使用されています。仏教における「マンダラ(曼荼羅)」の模様に似ていることがマンダラートという言葉の由来になっています。
最初にテーマとなるキーワードを中央のマスに記載して、周囲の8マスに関係するワードを記載していきます。そして、周囲のマスに記載した8個のワードを、別の9マスの中央にそれぞれ記入します。次に、記載した8個の各ワードに関係するワードを、さらに新しく8個ずつ記載します。最後に、全ての9×9マスの中から新しい発想やアイデアに利用できそうなワードを選出します。
A1-1 A1-2 A1-3 A1-4 A1 A1-5 A1-6 A1-7 A1-8 |
A2-1 A2-2 A2-3 A2-4 A2 A2-5 A2-6 A2-7 A2-8 |
A3-1 A3-2 A3-3 A3-4 A3 A3-5 A3-6 A3-7 A3-8 |
A4-1 A4-2 A4-3 A4-4 A4 A4-5 A4-6 A4-7 A4-8 |
A1 A2 A3 A4 A A5 A6 A7 A8 |
A5-1 A5-2 A5-3 A5-4 A5 A5-5 A5-6 A5-7 A5-8 |
A6-1 A6-2 A6-3 A6-4 A6 A6-5 A6-6 A6-7 A6-8 |
A7-1 A7-2 A7-3 A7-4 A7 A7-5 A7-6 A7-7 A7-8 |
A8-1 A8-2 A8-3 A8-4 A8 A8-5 A8-6 A8-7 A8-8 |
形態分析法とは、対象となっている課題やテーマに関して、最初に対象を構成している特徴や変数に分解して、その特徴や変数ごとに選択肢となり得る要素を抽出して、その選択肢の組み合わせなどをチョイスしてアイデアとして設定する手法のことを言います。
具体的には、「図書館」というテーマを「機能」「雰囲気」「場所」という3つの変数に分解して、各変数を3つの要素として抽出すると以下のようになります。
機能 | 雰囲気 | 場所 |
イベント | オープン | 駅前 |
スペース | カフェ | 僻地 |
貸し出し | 古本屋 | 商店街 |
駅前のカフェでイベントを開催する、というのは極めて当たり前の発想ですが、僻地の古本屋で貸し出しビジネスを実施する、となるとあまり出てこない発想のような気がします。このように、様々な要素の組み合わせを考えてみることで従来は思いつかなかった新たなアイデアが生まれるかもしれません。
連想マトリクスとは、2つの変数を利用して新たな発想を生み出す方法のことをいいます。各変数から要素を抽出したうえで、その組み合わせによってアイデアを得ようとするものです。
連想マトリクスを利用した有名な事例はアップルの創業者であるスティーブ・ジョブスが活用したものです。スティーブ・ジョブスは、「製品」という変数の要素に「デスクトップ」「ポータブル」を設定して、「ユーザー」という変数の要素には「一般消費者」「プロ」を設定しました。こうした連想マトリクスを利用して、iMac、iBook、Power Mac、Power Book、といった新たな製品群を打ち出すことに成功しました。
(3)論理の構成や整理のためのフレームワーク
- 親和図法
- ロジックツリー
- ピラミッドストラクチャ―
- オズボーンのチェックリスト
親和図法とは、発想やアイデアなどを言語データとしての相互の親和性によってグルーピングする方法のことをいいます。ブレスト(ブレインストーミング)などによって無作為に抽出された考え方や意見を複数の項目に区分・分類するようなケースが多いと思われます。複数の人数が集まる打合せやミーティングなどにおいては、ホワイトボードに付箋などを貼付して実施することが一般的でしょう。
順番としては、1)ブレストなどでテーマに関連したアイデアを付箋やカードに記入する、2)似たような内容の付箋やカードを集めてグルーピングして親和カードを作成する、3)アイデアをまとめる、というフローになります。
ロジックツリーとは、1つのテーマを小さなテーマへと分けていって、小さな課題ごとに解決する方策を発見するフレームワークのことをいいます。前述したように、ロジックツリーを利用する場合にはMECEの観点を忘れないようにすることが重要となります。解決が難しい課題に対しては、現実的かつ小さな課題から解決していくようなアプローチに利用されることが多いと考えられます。
具体的には、「増益」というテーマに対して、「売上高の増加」や「費用の削減」などに分割していって、さらに個別の分割した課題の解決に必要なファクターへと細分化することになります。
ピラミッドストラクチャーとは、ピラミッド構造に要素を配置することによってロジックを整理する手法のことです。ある意見をサポートする根拠を考慮するために利用されることが一般的です。上述したロジックツリーは思考を分解・分析するために用いられるフレームワークですが、このピラミッドストラクチャ―は意見に説得力を付与するために用いられる、という点に違いがあります。プレゼン資料の作成などの説得力が必要となる場面で利用されることが多いと考えられます。
オズボーンのチェックリストとは、ブレスト(ブレーンストリーミング)の考案者として有名なA・F・オズボーンが開発した発想の法則のことです。9つに大別された大枠のチェックリストに回答することで新しい着想を生み出す契機になります。
チェックリスト | 解説 |
1)転用 | 他に使用方法はないか |
2)応用 | 類似した既存のものはないか、その発想は利用できないか |
3)変更 | 改善や変更はできないか |
4)拡大 | 大きく、強く、高く、長く、厚く、重く、することはできないか |
5)縮小 | 小さく、低く、短く、薄く、軽く、することはできないか |
6)代用 | 他のものでは代わりに利用できないか、素材などは変更できないか |
7)置換 | 要素、レイアウト、順序、まどを入れ替えることはできるか |
8)逆転 | 上下左右前後など、発想を逆転することは可能か |
9)統合 | 別のものと混ぜたり組み合わせたりすることは可能か |
(4)事業分析に利用できるフレームワーク
- PEST分析(ペスト分析)
- SWOT分析(スウォット分析)
- CVCA(顧客価値連鎖分析)
- AIDMA(アイドマ)
- AISAS(アイサス)
- バリューチェーン
PEST分析とは、マクロ環境の分析を実施するためのフレームワークのことです。PEST分析のPESTとは、政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)、の4つ言葉の頭文字を繋げたものになります。私たちのビジネスは日常的に世間全体の変化、すなわちマクロ環境に大きな影響を受けています。マーケティング環境を把握する場合には、中長期的な観点から自社が属している業界を取り巻いているマクロ環境を認識、把握、考察、をすることからスタートするようにします。
PEST分析におけるポイントは、中長期的な未来、だいたい3年~5年後の世間のマクロ的な傾向に関して仮説を考えることです。将来の予測は不確実なので難しいですが、能動的に仮説を立てて自社内で共有し、3年~5年後の世界に対して今現在取り組むべき事業戦略を構築してみましょう。仮説に基づいてシミュレーションを実施することで、自社が業界に及ぼす影響や環境に与える変化などを考察する視点を得ることができるでしょう。また、PEST分析の4つの個々の項目の分析だけでなく、政治、経済、社会、技術、の各項目の関連性を分析することでマクロ環境の全体構造を理解し易くなると考えられます。
SWOT分析とは、強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)(機会)、脅威(Threat)、の4つの観点から事業を分析する場合のフレームワークで、各観点の英語の頭文字を繋げたものです。SWOT分析には分析の順番があります。
最初は、外部環境である機会(Opportunity)と脅威(Threat)から検討していきます。例えば、景気の動向関連法令の改正など、自社の力だけではどうしようもないものを挙げていきます。次いで内部環境である自社製品の品質、価格構成、人的リソースなどを競合他社と比べながら自社の強み(Strength)や弱み(Weakness)を考えるようにします。
SWOT分析では、現状把握とその分析結果に基づいて方針や指針や施策を決めていくので、自社が現状抱えている課題、現状を改善するための方法、将来に発生する可能性がある問題点、などのまだ明確になっていないような漠然とした問題をこのフレームワークを利用して整理することが可能になる点に特長があります。
CVCAとは、Customer Value Chain Analysis(顧客価値連鎖分析)の頭文字を繋げたもので、事業のステークホルダーを抽出して、そのステークホルダーの間に生じる価値(金銭、製商品、情報、など)のフローを可視化してビジネスモデルの構築や分析などを実施するものです。CVCAはスタンフォード大学のKrista Donaldsonや石井浩介氏らが開発したビジネスモデルをデザインするフレームワークです。
最初に主なステークホルダーを書き出してから、各ステークホルダーを矢印で結んで何が流れていくのか、をさらに書き込みます。一般的には、上述したように、金銭、製商品、サービス、情報、などが挙げられます。また、事業内容によっては項目が変わることになるでしょう。例えば、ステークホルダーの数や種類が多い、従来とは異なるビジネスモデルを構築する、といったケースであれば制約をなくして自由にアイデアを記載できるCVCAは発想が大きく広がりやすいと思われます。
AIDMA(アイドマ)とは、注意(Attention)、関心(Interest)、欲求(Desire)、記憶(Memory)行動(Action)、の頭文字を繋げた言葉で、顧客が商品やサービスの購入を決定するまでのフレームワーク・プロセスを意味しています。AIDMAは主に店舗などで利用されており、上記の5つに分類された購入決定プロセスに基づいて、顧客のモチベーションを測定して事業分析やマーケティング戦略などに反映させることが重要な目的になります。AIDMAは短期的な消費者の購買行動を説明できるモデルだと言えます。
AIDMAと同様に、AISAS(アイサス)も顧客の購買行動のプロセスを説明する代表的なフレームワークであり、注意(Attention)、関心(Interest)、検索(Search)、購買(Action)、情報共有(Share)の頭文字を繋げた言葉です。これまで主流だったAIDMAに代わるフレームワークであり、AIDMAの欲求(Desire)と記憶(Memory)に代わって、インターネットビジネス(Eコマースなど)で特徴的なプロセスとなる検索(Search)や情報共有(Share)が含まれています。また、AIDMAでは5つのプロセスのウェイトはほぼ同じですが、AISASの場合は検索(Search)以降の後半のプロセスの比重が重くなるという特徴があります。
バリューチェーンとは、ビジネス活動を機能別に分類して、どの機能が付加価値が生み出しているのか、競合他社と比べてどの機能に強みや弱みがあるかを分析したうえで、ビジネス戦略の有効性を見極めたり改善方法を探索することをいいます。著名な経済学者のマイケル・ポーターは、モノの流れに注目して企業活動をメインの活動(主活動)とサポート活動(支援活動)とに分類して、それぞれの活動に利益(マージン)を加味して事業活動全体の付加価値を表現しています。メインの活動には、原材料や部品などの購入、製造、出荷(物流)、販売、マーケティング、アフターサービス、などがあります。またサポート活動には、メイン活動を支援する人事労務、財務経理、技術開発、などのコーポレート部門(間接部門)が相当します。
バリューチェーンの分類において重要なことは分類の厳密性にあるのではなく、様々な企業活動に注目して、そうした各活動の役割、必要となるコスト、各活動の事業全体への貢献度、などを明確にすることです。バリューチェーンを利用してビジネスの分析をすることにより、業界別や市場別に他社との競争を有利に進めるてまのポイントが異なっていることが認識・把握できるようになります。
(5)経営戦略や事業計画のフレームワーク
- STP分析
- VRIO分析(ブリオ分析)
- ビジネスモデルキャンパス
- AARRRモデル(アーモデル)
STP分析とは、マーケティング理論で著名なフィリップ・コトラーが提唱したフレームワークで、セグメンテーション(Segmentation、市場細分化)、ターゲティング(Targeting、狙う市場の決定)、ポジショニング(Positioning、自社の立ち位置の明確化)の3つの英単語の頭文字を繋げて名付けられた分析方法で、業種や商材などを限ることなく利用可能な方法といわれています。
新たに事業展開する場合に、自社自体や販売する商品やサービスなどのポジショニングを明確にしておくことは非常に重要かつ必要なことです。事業を取り巻く環境を把握・理解したうえでどういったポジショニングを取るのかによって、今後の戦略は当然ながら、大きな利益を獲得できるかどうかといた点にまで影響を及ぼすことになるからです。STP分析では、マーケット全体の姿をセグメンテーションで把握して、その中からターゲティングで狙うべきマージェットを決めて、ライバル企業との位置関係をポジショニングで決定することになります。
セグメンテーションを実施するための指標は、企業によってはオリジナルな指標を設定している場合もあるようですが、一般的には、人口統計的変数、地理的変数、心理的変数、行動変数、の4つの指標を用いることが多いようです。人口統計的変数とは、デモグラフィックとも呼ばれており、年齢、性別、学歴、職歴、家族構成、などの人間として変化が少ない基本的な情報に基づいたセグメント指標を言います。地理的変数とはジオグラフィックとも呼ばれており、国、市区町村、天候、宗教、など、地理的な要因に関係した情報に基づいたたセグメント指標のことです。心理的変数はサイコグラフィックとも呼ばれており、価値観、性格、生活様式、購入動機、などの個人心理に基づいた情報を利用したセグメント指標を言います。行動変数とはビヘイビアルとも呼ばれており、購買の頻度、購買タイミング、利用目的、などの個人的な行動にフォーカスした情報を利用したセグメント指標のことです。
この他にもセグメンテーションに使われる有名な指標に6Rというものがあります。
VRIO分析(ブリオ分析)とは、経済的価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣可能性(Imitability)、組織(Organization)、の4つの項目に対する質問にYESかNOで回答し、その結果に応じて自社の競争優位性を企図するフレームワークのことです。
希少性(Rarity):その経営リソースは業界内部で希少性が高いのか?
模倣可能性(Imitability):その経営リソースは競合他社が獲得・開発するためにはコスト上の不利が存在しているか?
組織(Organization):その経営リソースの活用に関する組織としての方針や手続きが整備されているのか、属人的な状態になっていないか?
一般的には、上記の質問に対するYES/NOの回答結果によって、以下のような競争状態にあるとされています。
経済的価値 (Value) |
希少性 (Rarity) |
模倣可能性 (Imitability) |
組織 (Organization) |
競争優位の状 |
No | 競争劣位 | |||
Yes | No | 競争均衡 | ||
Yes | Yes | No | 一般的な競争優位 | |
Yes | Yes | Yes | No | 持続的な競争優位 |
Yes | Yes | Yes | Yes | 持続的な競争優位(経営リソースの最大活用) |
ビジネスモデルの重要な要素を1枚のペーパー上にまとめて、現状の確認や認識の共有をしやすくするためのフレームワークのことをビジネスモデルキャンパス(BMC)といいます。ビジネスモデルキャンパスはアレックス・オスターワルダーとイヴ・ピニュールによって開発されたフレームワークで、新たな事業を考える場合には要素を組み換えることによって事業構想を検証することも可能です。
①顧客セグメント(Customer Segments)
②価値提案(Value Propositions)
③チャネル(Channels)
④顧客との関係(Customer Relationships)
⑤収益の流れ(Revenue Streams)
⑥リソース(Key Resources)
⑦主要活動(Key Activities)
⑧パートナー(Key Partners)
⑨コスト構造(Cost Structure)
の9つの要素から構成されています。
AARRRモデル(アーモデル)とは、獲得(Acquisition)、活性化(Activation)、継続(Retention)、紹介(Referral)、収益(Revenue)、という5つの成長ステップを設定して事業における現在の立ち位置の確認や課題を抽出するために利用されるフレームワークのことです。重要なポイントは各ステップの状況と効果の定量化になります。確実なデータに基づいて分析を実施することがAARRRには極めて重要なのです。
まとめ
上述してきたように現在では様々なビジネスのフレームワークが存在しており、目的に応じて活用することで事業やマーケットなどの分析に役立てることができるでしょう。しかし、どんなフレームワークであっても完璧な答えを導き出すことは不可能である、と認識しておくことは重要かもしれません。
分析結果を踏まえて最終的な方針や施策を決定することは経営者としての責務であり、最後の意思決定には経営者としての自らの意思が反映されてしまうことは否定できない事実でしょう。これまで説明してきた様々なフレームワークは、あくまで経営者が最終的な意思決定を行うための支援材料を揃えるための考え方である、といってもよいかもしれません。
そのためにも、経営者はそのフレームワークを利用することで何がわかって何をしてはいけないのか、ということを把握・理解したうえで、自社のビジネス展開に資するような意思決定をすることが重要となるのです。フレームワークはひとつの考え方なので、利用の仕方さえ間違えなければ大いに役立つ経営ツールになるものと考えます。
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