給与明細を見ると、社会保険料として毎月結構な額が引き落とされていることがわかると思います。社会保険料はなぜ必要なのでしょうか。社会保険料の種類別に制度の内容について詳しく説明します。
1.社会保険料の必要性について
社会保険とは、広義の定義として、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険、の5種類があります。この内、狭義の社会保険としては、健康保険、厚生年金保険、介護保険、があり、雇用保険と労災保険は労働保険と呼ばれています。
働いている人はなぜこれらの社会保険の保険料(社会保険料)を支払わなければならないのでしょうか。それぞれの社会保険の内容から確認してみましょう。
(1)健康保険料
健康保険とは、病気や怪我などの治療を行う際に、医療費を一部を肩代わりするための保険のことで、公的な医療保険制度です。健康保険の対象者は、雇用期間の定めのない正社員や下記の条件を満たすパートタイマーなどです。
- 2ヵ月超の雇用が見込まれる人
- 週所定労働時間が正社員の3/4以上の人
- 1ヵ月の所定労働日数が正社員の3/4以上の人
労働時間については、週30時間以上の場合であれば、原則として対象になります。雇用期間については、日雇いの場合には1カ月超、季節的事業に就いている労働者の場合には4カ月超、それぞれ継続して使用されるのであれば加入対象です。
なお、従業員が501人以上いる事業所の場合には、下記のようなパートタイマー労働者(除く、学生)も対象です。
- 1年以上の雇用が見込まれる人
- 1週間の所定労働時間が20時間以上の人
- 月収が88,000円以上の人
また、法人の役員に関しては、代表者も含めて対象となります。加入者の家族も対象となりますが、自営業者の個人事業主自身は対象外です。75歳以上の人は後期高齢者医療保険への加入となるので、75歳未満が対象となります。
このように従業員が怪我や病気になってしまった場合にも、医療費をあまり心配することなく安心して治療に専念できるように設けられているのが健康保険制度であり、そのために支払うものが社会保険としての健康保険料である、と言うことができます。
(2)厚生年金保険料
老後、若しくは、障害・死亡の際に給付される、老齢・障害・遺族厚生年金の財源とするための保険料です。70歳未満の人が加入対象となっており、その他の対象要件は健康保険と同様です。厚生年金保険料は、高齢などの理由で働けなくなった場合のセーフティーネットとして設けられている公的保険制度です。
つまり、労働収入が途絶えた場合でも生活することができるように制度設計されている社会保険が厚生年金保険である、と言うことができます。
(3)介護保険料
介護保険とは、介護施設や自宅などで介護サービスを受ける場合の費用を、一部肩代わりするための公的保険です。そのための保険料を、介護保険料、と言います。会社に勤めているのであれば、40歳~64歳の従業員が対象となります。その他の対象要件は、健康保険と同様です。
また、介護保険は、要介護者が年々増加する中で、厚生年金保険のように相互扶助方式(働いて収入を得ている人などが収入の少ない、あるいは働けない人に対して、保険料を支払い、もし自分が同様の状態になったら助けてもらう、という「助け合い」の精神に基づく考え方)で運営されている公的保険です。
*狭義の社会保険(健康保険、厚生年金保険、介護保険)の保険料について
狭義の社会保険料の計算については、保険料額を会社が計算するのではなく、保険者(日本年金機構など)が計算を実施して従業員に納付額を通知します。ただし、計算の根拠に関しては手続きが必要となっており、「算定基礎届」と呼ばれる資料を毎年保険者に提出します。
この算定基礎届には、4月から6月の給与額(正確には、報酬月額)を記載して、7月10日までに提出します。この届けに基づいて、従業員ごとに「等級」(4月から6月までの3カ月の平均報酬月額により、厚生年金では31等級、健康保険と介護保険では50等級)が決定されて、等級ごとに「標準報酬月額」が定められています。
その年における9月分から翌年8月分までの保険料は、標準報酬月額に保険料率を乗じて計算されます。
平成29年9⽉1⽇以降(⼀般・坑内員・船員の被保険者等の場合)に適用されている厚生年金保険料率は18.300%となっています。平成28年9月分~平成29年8月分は18.182%、平成29年9月分以降は18.3%に固定されましたが、平成29年9月までは毎年9月に料率が引き上げられてきたという経緯があります。
健康保険料率と介護保険料率は保険者ごとに、保険者が全国健康保険協会(略称:協会けんぽ)の場合はそれぞれの都道府県でも異なっています。例えば、平成31年度の協会けんぽ(東京)における健康保険料の料率は9.90%です。
また、協会けんぽの介護保険料率は、平成31年3月分(5月7日納付期限分)から1.73%となっています。上記の社会保険料(狭義)は、事業主分と労働者分の合計保険料率なので、実際には労使で折半して負担することになります。
(4)雇用保険料
雇用保険料とは、失業者や育児・介護休業をとった労働者、60歳以上で会社に勤めている一部の労働者に保険給付するための財源となっているものです。下記のような場合(労働基準法上において労働者にはあたらない者)は、原則として雇用保険の対象外となります。
- 個人事業主
- 法人役員(取締役や監査役など)
- 家族従業員(個人事業主や法人の代表者と同居している親族)
また、学生も対象外ですす。失業に対する補償を実施するのにふさわしくないと考えられているからです。上記以外の労働者の場合は、労働時間が週20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあること、という条件を充足する人が、雇用保険の対象者です。季節的労働従事者は、労働時間が週30時間以上で、4カ月超の雇用見込みがあること、という条件を充足する人が対象です。
つまり、雇用保険料は、失業などで働くことができなくなってしまった場合の安心を与えることができる社会保険である、と言うことができます。
(5)労災保険料
労災保険料とは、従業員が業務上、もしくは通勤途中に事故に遭ってしまった場合に、会社が従業員に補償すべきお金を肩代わりするため保険に対するの保険料のことです。労働基準法上の労働者は、労働時間や雇用期間に関係なく、全て労災保険の補償対象者となります。
また、原則として、補償対象外である経営者なども、特別加入の形で対象となることが可能です。
**労働保険(雇用保険と労災保険)の保険料に付いて
労災保険料は、保険料を全額企業が負担するため、給与からの天引きはありません。雇用保険料は給与の額面額に雇用保険料率を乗じて算出されます。企業負担を含めた保険料計算は、実務的には、会社の設立年度に概算保険料を支払った後は、毎年7月10日までに前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を計算して、申告・納付する方式となっています。
保険料額は、上記のように、給与額に料率を乗ずる方式が原則となっていますが、建設業の場では請負金額に基づいて計算する方式もあります。また、労災保険の特別加入の場合は、保険料の計算方式が異なります。
労災保険料の料率は業種ごとに異なります。(参考:厚生労働省ホームページより「労災保険率表」、URL:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000198405.pdf)
また、平成31年4月1日から平成32年3月31日までの雇用保険料率は以下の通りです。
- 失業等給付の保険料率は、労働者負担・事業主負担ともに引き続き3/1,000です。(農林水産・清酒製造の事業及び建設の事業は4/1,000です。)
- 雇用保険二事業の保険料率(事業主のみ負担)も、引き続き3/1,000です。(建設の事業は4/1,000です。 )
(参考:厚生労働省ホームページより「平成31年度の雇用保険料率について」、URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000484772.pdf)
<まとめ>
社会保険とは私たちが日々安心して生活を営むことができるように整備されている公的保険制度であると言うことができます。自助努力だけでは、いざという時には将来的な生活のことどころか、足元の生活でさえ不安になってしまうこともあるかもしれません。
そういった不安に対して、少しでも公的なサポートを実施できるように制度化されているものが社会保険である、と認識しておくことが重要であり、そのために支払うものが社会保険料なのです。