社会保険料率表とは、言葉の通り、社会保険に料率を表にしたものですが、多くの社会保険においては社会保険料額を表にしているケースが多く見受けられます。主な社会保険料率表について説明をすると共に、混同しやすい、社会保険の保険金額、保険料額(表)、保険料率(表)、についても詳しく説明します。
1.社会保険料率表とは
広義の社会保険には、健康保険、厚生年金保険、介護保険、雇用保険、労災保険、がありますが、この内、狭義の社会保険としては、健康保険、厚生年金保険、介護保険、を指します。また、雇用保険と労災保険は労働保険と呼ばれています。
上記の社会保険の中で社会保険料率表が定められているものはどれになるのでしょうか。各保険における保険料率の状況について確認してみましょう。
(1)健康保険
健康保険の保険料率は、運営主体によって決定されているので、加入している健康保険組合によってそれぞれ異なっています。日本最大の健康保険組合である全国健康保険協会(略称:協会けんぽ)では、都道府県ごとに料率が決定されています。
例えば、協会けんぽ(東京都)における健康保険の料率は、「平成31年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」(URL:https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/h31/ippan/h31313tokyo.pdf)によると、介護保険第2号被保険者に該当しない場合は9.90%とされています。
健康保険の保険料は標準報酬月額に保険料率を乗じて算出され、労使折半で保険料を負担することになっているので、標準報酬月額の等級に応じて上記URLのような健康保険の料額表が存在しますが、料率については改定されるまでは一定となっているので、料額表のような形式での料率表はありません。
もっとも上記URLの「平成31年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表」内に社会保険料の料率が記載されている箇所はあるので、この表を健康保険の料率表と言えなくもないですが、料額表のように等級別に料率が定まっているわけではないので、やはり一般的に想定される料率表とは異なっていると考えられるでしょう。
(2)厚生年金保険
厚生年金保険の被保険者には2種類の区分がありますが、それは「一般の被保険者」と「坑内員、船員の被保険者」です。厚生年金保険も健康保険と同様に、標準報酬月額の等級に応じて保険料額が決まることになっており、標準報酬月額に対応した厚生年金保険の保険料額表が存在しています。
厚生年金保険の保険料率は全国一律です。日本年金機構の「平成29年9⽉分(10⽉納付分)からの厚⽣年⾦保険料額表」(URL:https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/ryogaku/ryogakuhyo/20200825.files/1.pdf)によると、厚⽣年⾦保険料率(平成29年9⽉1⽇〜 適⽤)は⼀般・坑内員・船員の被保険者等 の場合は18.300%(なお、厚⽣年⾦基⾦加⼊員は13.300%~15.900%)となっています。
なお、⼦ども・⼦育て拠出⾦率(平成31年4⽉1⽇〜 適⽤)は0.34%です。⼦ども・⼦育て拠出⾦については、事業主が全額負担となっています。ちなみに、平成29年9⽉分(10⽉納付分)から、⼀般の被保険者と坑内員・船員の被保険者の厚⽣年⾦保険料率は同率となっています。
健康保険の場合と同様に、「平成29年9⽉分(10⽉納付分)からの厚⽣年⾦保険料額表」内に厚生年金保険の料率が記載されている箇所はありますが、厚生年金保険の料額表のように等級別に料率が定まっているわけではなく、やはり一般的に想定される料率表とは異なっています。
ただし、厚生年金保険の保険料率の推移をまとめた資料はいくつか存在しています。(参考:
厚生労働省ホームページより、「平成16年度以後の国民年金保険料・厚生年金保険料率の推移」、URL:https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12502000-Nenkinkyoku-Nenkinka/kounenn.pdf)
(3)介護保険
介護保険については全国一律で料率が定まっており、介護保険第2号被保険者(40歳から64歳までの人)の場合は、平成31年3月分以降、介護保険料率は1.73%(労使折半で負担)となっています。介護保険料は健康保険と合算して徴収されることになっています。
したがって、健康保険組合によっては、介護保険料の料率を健康保険料の料額表に掲載しているケースもあります。(例:服装健康保険組合の標準報酬月額保険料額表、URL:http://www.fukusou-kenpo.or.jp/member/outline/fee.pdf)
(4)雇用保険
雇用保険料の料率は業種によって異なっています。平成31年4月1日から平成32年3月31日までの雇用保険料率は、以下の通りです。
- 失業等給付の保険料率は、労働者負担・事業主負担ともに引き続き3/1,000となっています(農林水産・清酒製造の事業及び建設の事業は4/1,000)。
- 雇用保険二事業の保険料率(事業主のみ負担)も、引き続き3/1,000となっています。(建設の事業は4/1,000 )。
平成31年度の雇用保険料率表は以下の通りです。
負担者
事業の種類 |
①労働者負担
(失業等給付の保険料率のみ) |
②事業主負担 | ①+②
事業主負担 失業等給付の雇用保険料率 |
||
失業等給付の保険料率 | 雇用保険
二事業の保険料率 |
||||
一般の事業 | 3/1,000 | 6/1,000 | 3/1,000 | 3/1,000 | 9/1,000 |
(H30年度) | 3/1,000 | 6/1,000 | 3/1,000 | 3/1,000 | 9/1,000 |
農林水産・清酒製造の事業* | 4/1,000 | 7/1,000 | 4/1,000 | 3/1,000 | 11/1,000 |
(H30年度) | 4/1,000 | 7/1,000 | 4/1,000 | 3/1,000 | 11/1,000 |
建設の事業 | 4/1,000 | 8/1,000 | 4/1,000 | 4/1,000 | 12/1,000 |
(H30年度) | 4/1,000 | 8/1,000 | 4/1,000 | 4/1,000 | 12/1,000 |
*園芸サービス、牛馬の育成、酪農、養鶏、養豚、内水面養殖および特定の船員を雇用する
事業については一般の事業の率が適用されます。
(参考:「平成31年度の雇用保険料率について」厚生労働省ホームページより、URL:https://www.mhlw.go.jp/content/000484772.pdf)
(5)労災保険
労災保険の保険料率表は事業の種類によって細かく決まっています(参考:「労災保険率表」URL、https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000198405.pdf)
労災保険は従業員による負担はなく、全額事業者が負担します。なお、労災保険の給付金については以下のような種類があります。
・療養補償給付 :けがや病気の治療を行ったときに支払われる
・休業補償給付 :けがや病気の療養のために休業したときに支払われる
・傷病補償年金 :療養により治癒しない場合に給付される
・障害補償給付 :障害が残った場合に給付される
・介護補償給付 :介護が必要になった場合に給付される
・遺族補償給付、遺族補償年金、葬祭料 :死亡した場合に給付される
・二次健康診断等給付 :脳や心臓に異常が生じた場合に給付される
2.社会保険の保険金額、保険料額(表)、保険料率(表)、の違い
(1)社会保険の保険金額
保険金額とは、保険の対象となる事象が発生した場合に被保険者に支払われる金額のことを言います。例えば、健康保険を利用して病院で診察を受けた場合には、その診察代や薬代の一部を健康保険によって補償しています。
つまり、社会保険によって補償された(支払われた)金額を社会保険の保険金額と言うのです。健康保険を例にすると、一部負担金の割合は、小学校入学前は2割、小学校入学以後70歳未満は3割、70歳以上は2割(現役並み所得者*は3割)となっています。
なお、*「現役並み所得者」とは、70歳以上の高齢受給者で、標準報酬月額が28万円以上の被保険者とその被扶養者、のことを言います(被保険者が70歳未満の場合には、その被扶養者である高齢受給者であっても、現役並み所得者ではありません)。
(2)社会保険の保険料額(表)
社会保険の保険料額表(表)とは、社会保険加入者が支払うべき保険料(の表)のことを指します。狭義の社会保険(健康保険、厚生年金保険、介護保険)では、標準報酬月額の等級に応じて保険料額が決まっています。
(3)保険料率(表)
社会保険の種類によって保険料率が決まっています。前述したように、全国一律の料率、都道府県別で料率が異なる場合、業種による料率の差異がある場合、など、社会保険の種類によって料率が異なっているケースがある点には留意が必要です。
<まとめ>
社会保険の種類による料率の違いには十分注意をして、支払うべき保険料を算出することはとても重要です。また、社会保険に関しては、同じような言葉が使われていますが、それぞれの語句の意味や定義を確りと把握して、使い分けるようにしましょう。