●はじめに
いま、あなたの会社では借入を行っていますか?この質問にNOと答える人はほとんどいないでしょう。そのくらい、企業にとって借入は必要不可欠な存在ですね。しかし、多少売上が落ち込んだとしても借入は返済し続けなければなりません。最悪の場合、返済によって経営が圧迫される可能性もあります。また、新しく借入をしたい場合に自社があといくら借りられるのかは気になりますよね。
そこで今回は、企業の借入はいくらまでが適正なのか、その計算方法を解説します。世間一般では、借入可能額は月商の3ヵ月分までとも言われます。しかし、その基準は新規事業のための設備融資などには当てはまりません。実際、どのような考え方で借入可能額が求められるかは、企業が成長する上で欠かせない知識になるはずです。また、借入可能額の計算結果をどのように経営へ活かしたら良いかも解説していきます。あまり難しい説明はしないようにしていますので、ぜひこの記事で覚えていってくださいね。
●借入可能額を求める指標
「企業がいくら借入できるか」は、言い換えると「企業へ銀行はいくらまで貸してくれるのか」ということになります。そこで、銀行が借入可能額を求める計算方法を説明していきます。実は、銀行が企業にお金を貸す場合の明確な基準というものはありません。ただし、目安となる指標がいくつか存在するので、今回は代表的な2つを紹介します。
① 借入依存度
「総資本の金額に対し、借入金がどのくらいの割合を占めているか」を借入依存度と呼びます。貸借対照表上の負債と資本の合計額を、先にも利用した長期借入金・短期借入金・割引手形の合計で割って求めます。ご想像の通り、この割合が低いほど安定した経営を行っていると言えます。概ね3割以下だと健全な経営をしていると判断されています。しかし、借入依存度が3割以下という中小企業は少数です。現実的には、5割以下が適正値と考えると良いでしょう。借入金は経営を上向きにする原動力になってくれます。そのため、借入依存度は借入限度額を知るための目安の1つとして利用するのが賢明です。
② 借入金月商倍率
この指標は、銀行が融資を行う際の判断材料として実際に利用されています。そして、この指標こそ「月商の3ヵ月分」の根拠となった指標です。なんだか難しそうな名前の指標ですが、実は算出方法はとても簡単です。
科目名に「借入金」と名の付くものに加え、実質借入金と同一視される割引手形を合算し、それを月商で割ります。そうすることで、借入金が月商の何倍あるのか求めるのです。例えば、左のカッコ内の合計値が3,000万円、月商は1,200万円というA社という企業があったとします。その場合の借入金月商倍率は2.5カ月と求められます。この指標は、業種毎に適正値を設けている銀行も多く、製造業であれば1.5~3.0ヵ月分、卸売業なら0.8~1.5ヵ月分が安全圏と言われています。製造業や不動産業は設備投資額が大きくなりやすいため、他の業種よりも適正値を高く見積もられます。この指標を使ってA社の借入限度額を求める場合、製造業であればあと0.5ヵ月分、つまり600万円は借入可能と見込めるのです。
様々な業種を平均すると、およそ3ヵ月分までは銀行から無担保で借りられます。そのため「月商の3ヵ月分」という言い方が浸透しているのでしょう。しかし、この指標を基準にすると、赤字で利益が全く出せない企業でも借入可能という判断ができてしまいます。そのため、借入可能額の基準にはなっていないのですが、それは何故なのか詳しく説明していきましょう。
●「売上が順調に伸びれば借入可能額も増加する」という誤解
借入金月商倍率には落とし穴があります。それは、「売上が増加すれば借入可能額も増額する」と認識してしまうことです。確かに月商が大きくなれば借入金月商倍率が小さくなるので、適正値との差が開きます。しかし、売上の増加は借入可能額の増額には直接結びつきません。なぜなら、「売上」は借入金の返済原資ではないからです。
売上が発生するためには、仕入原価や経費がかかります。売上が増加したということは、仕入原価や経費も当然増額していきますね。その仕入原価や経費を差し引いた「利益」こそ、借入金の返済原資です。そのため、仕入原価や経費がかさんで利益が増えなかった場合、当然返済はできないことになります。借入金月商倍率の計算では、この利益の概念が欠けているので、厳密な借入可能額を知りたい場合には不適切となってしまうのです。
●おわりに
借入可能額は、指標を利用して目安を求めることは可能です。しかし、実際に借入を起こす場合には、企業の技術力や業界の動向も大きな影響を及ぼします。実際、借入金月商倍率が5ヵ月分でも借入ができる企業や、赤字続きでも借入審査に通る企業も存在しています。その時の経営状況と周りの環境によって借入可能な額も変動してしまうので、正確に計算する方法がないんですね。
今回ご紹介したことは、借入の返済が経営不安を起こすことの防止に活かしていただければと思います。実際に借入を行う際は十分に準備をし、時間と気持ちに余裕を持って臨みましょう。