会社を設立する場合には現金による出資以外にも現物を出資するという方法があります。
この方法を現物出資と呼びますが、現物出資の流れや現物出資をする場合の要件を説明したうえで、現物出資におけるポイントについて詳しく解説します。
1.現物出資とは
会社を設立する場合には現金を資本金として差し出すことが一般的ですが、資金が不足しているような場合にはパソコン、不動産、車、債券や有価証券など現金以外の物による出資を行うことができます。
現物出資は発起人(会社の設立を企画して定款を作成し、必要な事項を記載して署名または記名・押印し、事実上その発起行為にあたる者(会社法26条1項))のみが行うことができますが、会社設立の時点で出資するだけではなく、設立後に増資を行う場合にも現物出資をすることも可能です。
2.現物出資の方法
現物出資をする場合には、会社の定款に「出資者の名前、その財産、その価額、出資者に対して割り当てる設立時発行株式の数」を記載する必要があります。
また、裁判所が選任した検査役の調査が出資する現物の客観的かつ公正な評価のために必要になります。
そのため通常の場合は費用と日数がかかりますが、以下のいずれかに該当する場合には検査役の調査が不要となります(実際には検査役の調査が不要な範囲で、現物出資するケースが多いと考えられています)。
- 現物出資する財物が市場価格のある有価証券であり、定款に記載された価額(定款の認証の日における最終市場価格)を超えない場合
- 定款に記載の価額が相当であると弁護士、税理士等の証明(不動産の場合は不動産鑑定士の鑑定評価が必要)を受けた場合(専門家への報酬が別途必要)。
- 現物出資する動産の総額が500万円以下の場合。
ただし、3.の場合は設立時の取締役等が「現物出資の価額が相当であるとしている調査報告書」が必要となります。
また、「相当の価額」とはその時点における「市場価格」や「時価」などで評価することを意味しています。
加えて、不動産の場合は所有権移転登記が、証券や車などの場合は名義変更手続がそれぞれ出資には必要な手続きとなります。
3.現物出資の流れ
現物出資をする場合には以下のような手続きの流れになります。
手続き内容 |
備考 |
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1 |
取締役が出資する現物の時価を調査 |
現物出資の対象物は、譲渡可能で貸借対照表上に資産として計上可能な現金以外の物です。 具体的には、不動産、自動車、パソコン、債権、有価証券(国債・社債・株券など)、特許権などの知的財産権などで、労務や信用などは認められていません。 |
2 |
定款に必要な事項を記載 |
現物出資をする場合には、 ・現物出資をする者の氏名又は名称 ・現物出資の目的たる財産 ・その価額 ・出資者に対して与える設立時発行株式の数、 を定款に記載する必要があります。 |
3 |
出資する現物の価格が相当であると証明する「調査報告書」を取締役が作成 |
現物出資の対象物を引渡す時には、会社設立時の取締役が現物の価額が相当かどうかを調査する必要があります。 調査結果が妥当である場合には、その調査報告書が株式会社設立登記申請書の添付書類となります。 なお、監査役設置会社の場合は、設立時の取締役及び設立時の監査役が現物の価額の妥当性を調査して調査報告書を作成します。 |
4 |
出資者からの財産の「財産引継書」を作成 |
現物出資の対象となっている物が引渡された場合には、財産引継書を作成します。 設立時の取締役(監査役設置会社の場合は設立時の取締役及び設立時の監査役)の「調査報告書の附属書類」として、設立登記申請書に添付して法務局に提出する必要があります。 複数の現物出資者がいる場合のは、出資者ごとにそれぞれ財産引継書を作成する必要があります。 |
4.現物出資の要件
会社設立時に現物出資が認められる要件については以下のように定められています。
(1)現物出資が認められる人
前述した通り(「1.現物出資とは」参照)、発起人のみが現物出資を認められています。
(2)定款への記載(「3.現物出資の流れ」参照)
会社の設立に際して現物出資が認められるには、相対的記載事項(法律の規定により定款の定めがなければその効力を生じない事項のこと)として以下のような内容を定款に記載することが必要です。
・金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称
・出資する現物財産とその価額
・現物出資する者に対して割り当てられる設立時発行株式の数
(3)検査役による財産価値の評価
裁判所が選任した検査役と呼ばれる専門家によって、出資した財産の価値が適切であることの証明を受ける必要があります。
検査役は、実際の資本金額と現物出資財産の評価額が妥当なものであるかを調査しますが、検査役による調査は数ヶ月の時間がかかり、多額の費用がかかる点には注意が必要です。
ただし、一定の条件((「2.現物出資の方法」参照)を満たす場合には検査役の調査は不要です。
(4)現物出資の場合の不足額担保責任
会社設立にあたり現物出資財産などの価額が定款に記載された価額より著しく不足する場合には、会社法第52条において、発起人及び設立時取締役が不足額を支払う義務を負うとしています。
また、この出資した現物の価額評価を証明した弁護士や会計士なども、上記の発起人や設立時取締役と同様に、不足額を支払う義務を負うことになります。
ただし、検査役の調査がきちんと実施されたような場合や、発起人または設立時取締役がその職務を注意してしっかりと行っていたことが証明できるような場合は、現物出資者を除いて、不足額支払いの義務を負いません。
また、現物の価額を評価をした者がしっかりと注意してその評価を実施していることが証明できた場合も、上記と同様に不足額支払いの義務を負うことはありません。
5.現物出資と課税のポイント
現物出資の場合には税金がかかる場合があります。
(1)不動産の現物出資
設立する会社に不動産を現物出資した場合も資産の譲渡になり、所得税の課税対象とされます。
この場合の譲渡収入金額は、出資した不動産の時価ではなくて、現物出資により取得した株式や出資持分の時価となる点に注意してください。
ただし、取得した株式などの価額が出資した不動産の時価の2分の1未満の場合には、出資した不動産の時価を収入金額とみなすことになります。
また、不動産の場合は所有権移転登記が必要になりますので、登録免許税が課されることになります。
そのうえで不動産を取得した会社には不動産取得税や固定資産税が課されることにります。
(2)自動車の現物出資
自動車を現物出資した場合には、車種や年式によっては自動車税や自動車取得税が法人に課されることになります。
自動車の現物出資を行った個人に対しては、譲渡所得税が課される場合があります。
譲渡所得への課税となるので、購入した時点での値段よりも出資した時点での値段(時価)が高い場合には税金がかかる場合がありえるのです。
また、通勤用の自動車は「生活用動産」として取り扱われるので、所得税が課されることはありません。
(3)その他
その他に譲渡所得の対象となる資産には、土地、建物、機械設備、会員権、特許権、著作権、などがあります。
現物出資まとめ
会社設立時における現物出資はさまざまな財産を用いて行うことが可能になっています。
検査役の調査が不要な範囲で現物出資を行うことが効率的ではありますが、不足額の支払いを回避するためには現物に対する過大な評価をせずに厳しく財産評価を行うことが重要です。