ダイバーシティ(多様性)という言葉は現在ではかなり市民権を得ている言葉になってきていますが、ここであらためてダイバーシティの意義を確認しておくと同時に、ダイバーシティと共に語られることが増えているインクルージョン(受容・包括)という言葉に関しても解説します。
具体的には、「ダイバーシティ&インクルージョン」とはどのような考え方なのか、ダイバーシティとインクルージョンの比較、「ダイバーシティ&インクルージョン」の具体的な導入事例、「ダイバーシティ&インクルージョン」を推進するために必要な施策とは、などについて以下に説明します。
1.「ダイバーシティ&インクルージョン」とは
前述したように、ダイバーシティには多様性、インクルージョンには受容・包括、という意味がありますが、「ダイバーシティ&インクルージョン」と言葉を並べた場合にはどのような意味を持つことになるのでしょうか。
(1)「ダイバーシティ&インクルージョン」の概要
「ダイバーシティ&インクルージョン」とは、多様な人間性があること(=様々な人材)を認容したうえで受け入れて活用すること。ということになります。「ダイバーシティ&インクルージョン」とは、国籍、性別、年齢、といった様々な属性を保有している人たちを平等に認めたうえで、各自の個性や特性などに相応しい適材適所で活躍することが可能な場を用意しましょう、という考え方です。また、「ダイバーシティ&インクルージョン」は「D & I」と省略されることがあります。
具体的には、
- 女性の活躍を推進する活動
- 外国人を雇用することの促進
- 豊富な経験とスキルを有しているベテラン層の活用
- 障害者が活躍できる環境の整備と推進
- LGBTに対する理解の促進
など「ダイバーシティ&インクルージョン」に関連した活動の例として挙げることができます。
また、上記のような属性のみならず働き方についても「ダイバーシティ&インクルージョン」に関する以下のような取組事例が推進されています。
- 時短勤務やテレワーク(在宅勤務)といった様々な働き方及び関連制度の整備
- 妊娠、出産、育児、などを十分に考慮した職場環境や制度の策定・運用
- 介護と仕事を両立させることが可能な制度の策定・導入
(2)「ダイバーシティ&インクルージョン」が重要視・推進されてきた背景
「ダイバーシティ&インクルージョン」が重要視されるようになり、推進されるようになってきたのには以下のような背景があると考えられます。
- 労働力人口の減少と人材不足
- 人々の価値観多様化と日本的な従来のコーポレート文化との乖離
- グローバル展開しているビジネス
①労働力人口の減少と人材不足
我が国においては劇的に少子高齢化が進んでおり、その結果として労働力人口が大きく減少することとなり、企業にとっては人材を確保することが難しくなっています。そのためこれまでのような男性を中心とした終身雇用制度を中核としていた旧来の雇用に対する基本方針を変更・転換することで、より多くの人材に対して門戸を開放する必要が生じてきたわけです。
門戸開放の結果として、女性の雇用機会や女性が活躍できる場の拡大、あるいは、定年年齢の引き上げや定年対象者に対する再雇用機会の拡大、などにより高齢者の豊富な経験やスキルを活用したり、これまでは雇用に消極的だった外国人を積極的に雇用する方針に転換したり、という取組が企業に広まることになったのです。
②人々の価値観多様化と日本的な旧来のコーポレート文化との乖離
旧来の日本企業においては、一度入社した会社には定年になるまで継続して勤務して、プライベート(私)の部分よりも会社の仕事(公)にプライオリティを置くことが優先されるのが当たり前、と考える従業員が一般的でした。しかし、最近ではそのような考え方は否定されることが多くなっており、これまでの価値観は崩れています。
若年層にとっては企業に対するロイヤルティ(忠誠心)は希薄になっていて、他の会社に転職することにも抵抗はなくなっています。その結果として比較的早いタイミング(若い年齢)で離職する人も増加しています。一方で、仕事と同じくプライベートも重要視して、自分のワークライフバランスを大切にしようと考える傾向も強くなっています。
こうした人々の価値観が大きく変化することにより、企業も旧来の日本のコーポレート文化を見直す必要に迫られてきており、様々な人材をいろいろな働き方で受け入れるように方針転換するようになった、と言えます。
③グローバル展開しているビジネス
1990年代以降に我が国が不況に突入すると、多くの企業はグローバル化を積極的に推進してきました。新たなマーケットやコストの安い労働力を得るために海外進出を実施したり、海外資本と業務提携をしたり、形式は様々ではありますが、ICTテクノロジーの著しい進歩により、こうした傾向はさらに加速していると言えます。
その結果として、国籍、キャリア、など関係なく多様性のある人材や様々な価値観を受け入れる必要が生じることになったのです。こうした社会的な背景があったことで、「ダイバーシティ&インクルージョン」はこれからの日本企業が成長するうえでの極めて重要な経営上の戦略として注目されるようになってきたのです。
(3)「ダイバーシティ」と「インクルージョン」との関係
「ダイバーシティ&インクルージョン」は、元々は「ダイバーシティ」と「インクルージョン」という別個の独立したコンセプト(考え方)から構成されています。しかし、その一方で、この2つの言葉はお互いに密接に関係していて2つの概念に基づいて実践されることが理想ではあります。この2つの言葉がどのような相関関係なのか、その関係性に関して考察してみます。
①ダイバーシティとは
前述したようにダイバーシティの言葉の意味は多様性であり、ビジネスの場では「組織内に多様な人材が集合している状態」のことを指しています。元来は米国で誕生したコンセプトで、様々な、人種、ジェンダー、年齢、といった材を平等・積極的に雇用して活用するという目的があったのです。ダイバーシティは以下のような分類をすることが可能です。
<不変的 or 可変的?>
不変的(選択付加な属性) | 可変的(選択可能な属性) |
など |
など |
<表層的(可視的) or 深層的(不可視的)?>
表層的(可視的) | 深層的(不可視的) |
など |
など |
上表のようにダイバーシティにはいろいろな属性を想定することが可能です。多様性を受け入れる場合には、女性に男性と同様の職責や権限を付与する、外国人の雇用数を増やす、などの目に見えて誰にとってもわかりやすいような経営施策に注目しがちではありますが、他にももっと多くの様々な特性や違いにも気を配って、差別や区別をすることなく認めたうえで受け入れることが必要なのです。
②インクルージョンとは
包括・受容という意味を持っているインクルージョンという言葉は、元来は教育の分野で使用され始めたコンセプトで、障がいを持っている子供が学校・社会などに参画することをインクルーシブ教育と言います。
また、障がいがある子供は支援学級に通うこが当然という考え方ではなく、一般クラスに所属させて、障がいがあるかないか、ということに関係なく各自の能力を伸長させるような教育を目指しましょう、という考え方のことです。
ビジネスの場におけるインクルージョンも、各自が異なる面や部分を保有している人々を組織として受け入れて能力や個性を伸長させて活用する、ということを指していると言えます。
ダイバーシティとインクルージョンはとても類似しているコンセプトではありますが、能力や個性を活用するという概念はインクルージョンに特有のポイントだと言えます。ダイバーシティは、多様な人材がそこにいる(存在している)という状態、なのに対して、インクルージョンは、組織が多様な人材を受け入れて各自の能力を伸ばして活躍ができるようになること、を目指しています。
③ダイバーシティとインクルージョンの両立に意味がある
それでは、ダイバーシティとインクルージョンにはどのような関係性が存在しているのでしょうか?上記の両者については先にダイバーシティの方が提唱されていたコンセプト(考え方)ではありました。しかしながら、現実に多様な人材を受け入れはしてみたものの、受け入れるということだけではいろいろと問題が発生することが分かってきたのです。
具体的には、
- せっかく雇った人材が少数派(マイノリティ)として別の社員から排斥・差別を受けてしまう
- 女性や障がい者などに対して、能力がないのにXX人雇用するという目標があるから雇われている、と他の社員から思われてしまう
- 雇用はしたものの、社内には活躍するような場がなくて、結局は退職してしまうという事例が起きたのです。
そこで適用されることになったのがインクルージョンというコンセプトです。インクルージョンがダイバーシティと異なるのは、
- 組織内の一員あるいは仲間として人材を受け入れること
- 社員各自が能力を伸長させて思う存分に活躍可能な仕事の「場」を付与すること
という点にあります。
上記の2点が実現することで、ようやくダイバーシティも意味を持つことになるのです。したがって、最近上記の2点を分けることのできない不可分のものとして、「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」と併合して呼ぶ企業が増加しているのです。
2.「ダイバーシティ&インクルージョン」の導入事例
「ダイバーシティ&インクルージョン」を具体的に導入・実行する際にはどのような施策を考えることができるのでしょうか。これまでにも具体例を挙げましたが、より詳細に説明しましょう。
(1)女性が活躍できる環境整備と活動推進
「ダイバーシティ&インクルージョン」として一番分かりやすい取り組みが、女性がこれまで以上に企業で活躍することが可能なように様々な制度策定したり職場の環境整備をしたりすることになります。この点に関しては政府もアグレッシブに政策を推進しており、既に女性活躍推進法が2016年には施行されています。この法律では、企業に社内での女性の活躍を推進することを義務付けています。
具体的には、国や地方公共団体、大企業(301人以上)、の場合は、
- 自社の女性従業員の活躍について状況を把握して課題を分析すること
- その課題を解決するために必要な具体的な定量的な数値目標と取組方法を組み込んだアクションプラン(行動計画)を策定、届出、周知、公表、すること
- 自社の女性従業員の活躍に関する情報を公表すること
を実行する必要があります(中小企業(300人以下)のケースでは努力義務)。
上記のような取り組みを実施している企業は、申請上、優良であると認められれば、厚生労働大臣から優良企業認定となる「えるぼし」という称号を得ることが可能になります。
各企業における取り組み事例としては、
- 女性社員に向けたトレーニング(研修)を実施する
- 自社内で活躍することができる女性のロールモデル(お手本)を策定・提示する
- 女性のリーダー職に向けた教育制度を設定して育成し、女性の管理職を増加させる
- 結婚や出産後であっても継続して仕事ができるように産前産後、育児休暇や時短勤務、テレワーク(在宅勤務)といった新たな勤務制度を整備する
といった例を挙げることができます。
女性が人生における様々な転機やライフステージが大きく変化する局面に対しても、育児と家庭を両立させながら仕事も継続させて、自分自身のキャリアアップも目指せるように、職場の労働環境を整備して、全ての社員の意識改革をすることが極めて重要になります。
(2)ベテラン層(シニア層)の活用
これまでの日本企業においては、一般的には60歳定年制が一般的でした。定年した後のベテラン層は、本人がいくら希望していても、雇用の継続をしてもらえるとは限りませんでした。例えば、自身のキャリアと大きく乖離したような職種で非正規雇用(パートタイムやアルバイトなど)で働いたり、仕事をすることができずに臨んでいないリタイア生活をせざるを得なかったりしたような人もいました。
しかし、現在では60歳ではまだ十分に元気よく働くことが可能なうえに、これまで長い間経験を積んできた仕豊富な事のスキル有している貴重な人材とも言えるのです。そこで、貴重な戦力としてベテラン層を活用しようという取り組みが、国・企業でスタートすることになったのです。
具体的には、改正高齢者雇用安定法(2013年施行)で、定年後にも継続して雇用促進を実施するために、
- 事業主が継続雇用制度の対象者を限定することが可能な仕組みの廃止
- 継続雇用制度の対象となる人の雇用企業の範囲を広げる
- 高年齢者の雇用確保措置義務に違反したような企業名を公表するような定めの導入
- 高年齢者の雇用確保措置の実施・運用についての方針策定
が定められました。
各企業も、現在では、
- 定年後の再雇用制度を整備し直しており65歳まで勤務可能にする
- 再雇用を念頭に置いて定年の前から、定年後に向けたトレーニング(研修)を実施したり、長期間働くことが可能な部署に異して経験を重ねるような制度を設ける
といったベテラン層の活用施策を実施しています。
また今後は、もっと長く働くことを望んでいる人は70歳まで働けるような社会を目指し、さらなる法改正の論議が行われる予定です。もし、これが実現することになれば、企業に対しては、努力義務として、
- 70歳まで定年を延長する
- 定年後に他の企業へ再就職の支援を行う
- 起業のサポート
といったものが課されることになるのでベテラン層が活躍できるフィールドも多様化することが期待できます。
(3)障がい者の雇用を促進
本来のインクルーシブ教育の理念と同じく、ビジネスの場においても障がい者のインクルージョンは重要視されることが必要な課題になっています。この点に関しても障害者雇用促進法という法律が定められており、以下のようなことが事業主には定められています。
<障がい者雇用率に相当する人数の障害者雇用の義務付け>
業態 | 障がい者雇用率に相当する人数 |
民間企業 | 2.2%(平成33年4月より前に2.3%) |
国、地方公共団体、特殊法人、など | 2.5%(平成33年4月より前に2.6%) |
教育委員会(都道府県などの) | 2.4%(平成33年4月より前に、2.5%) |
<障害者雇用に伴う経済的な負担の調整>
障がい者雇用率の達成状況 | 納付金及び調整金制度の概要 |
障害者雇用率が未達成の場合は「障害者雇用納付金」を徴収 |
|
障害者雇用率を達成した場合は「障害者雇用調整金」を支給 |
|
また、障害者を雇用するために必要となる施設の設置や介助者の配備などに助成金を支給するとなっています。このような定めに則って現実的に多くの企業においては一定数の障害者の雇用を実施しているのです。
加えて、
- 自社における障がい者の雇用率を随時に公表する
- 障がい者が存分に自分の能力やスキルを発揮することが可能な職種を整備したり、活躍することが可能なグループ内企業を発足させたりする
- 障がい者のスキルアップが可能なようにトレーニング制度を設定したり資格取得を奨励したりする
- 障がいがある社員に向けて社内に相談窓口や相談員を設置する
- 仕事がやりやすいように就労を支援する機器などを障がい者に提供する
などの取り組みを実施している企業も実際にあります。
(4)外国人労働者の活用
グローバル化するビジネスに対応するためには積極的な外国人の雇用も必要かつ重要になっています。外国人の雇用に関しては、法定の義務はないのですが、厚生労働省が外国人労働者に対して企業が実施すべき措置を定めた「外国人指針」があるので参考にしてください。
具体的な企業の取り組み事例としては、
- 国外(外国)で開催される就職活動のイベントなどに参加して優秀な人材を囲い込む
- 当社には外国人社員が必要であることを社内でアピールすることで外国人労働者を受け入れやすい職場の雰囲気を作る
- コミュニケーションを促進するために日本語を話せる外国人をマネジメント職に昇進させる
- 一般的にはキャリアアップ志向が強いと言われている外国人労働者に向けて、人事評価基準の明確化や昇進制度の改善を実施する
- 英語などの外国語を使えるメンターや相談員を設置する
などの様々な施策が実施されています。
(5)LGBTに対する理解
性的なマイノリティである*LGBTの人にも「ダイバーシティ&インクルージョン」は推進されています。
LGBTとは、レズビアン(Lesbian、女性同性愛者)、ゲイ(Gay、男性同性愛者)、バイセクシャル(Bisexual、両性愛者)、トランスジェンダー(Transgender、性別越境者)の英単語委頭文字を繋げた言葉で性的マイノリティ(性的少数者)を表す総称のひとつです。
日本の経団連が2017年には提言書(ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて)を出して、その中において「LGBTへの企業の取り組みに関するアンケート」の調査結果を発表しています。その調査結果によると、
LGBTに関して、企業による取り組みは必要だと思うか? | 思う:91.4%
思わない:0.4% わからない:8.2% |
LGBTに関して、何らかの取り組みを実施しているか? | すでに実施:42.1%
検討中:34.3% 予定なし:23.2% |
と、それぞれの企業が高い意識を保有していることがわかりました。
具体的な取り組みの事例としては、
-
- LGBTに関するイベントなどに積極的に企業として参加するなどしてサポートを表明
- LGBTに対する差別禁止を社内の規定やポリシーなどに明記したうえでより深い理解のために人事部などが旗を振って研修を実施
- LGBTに関する相談窓口を設置する
- 社内にLGBTの当事者、サポーター、理解者、などのネットワークを整備して相互理解やお互いの交流を深化させる
- 社内の洗面所やトイレなどの一部を「ジェンダーフリー化」して誰でも自由に使用できるようにする
同性のパートナーにも配偶者と同じレベルの福利厚生、待遇、などを受けることができるようにする
といったものを挙げることができます。そして今はまだは実施していない企業であっても、今後に向けて準備、検討をしているケースが増加しているようです。
(6)多様な働き方を推進
「ダイバーシティ&インクルージョン」はこれまでの男性が中心だった日本の企業では活躍できる場が少なかったような人材を活用することを目指す考え方です。この考え方の中には、妊娠、出産、介護、など様々な理由でフルタイムで勤務することが困難になり、退職せざるを得なかったような人たちも包含されています。
そこでこれまでのフルタイムの通勤タイプの勤務スタイルを見直すことにして、多様な働き方が可能なような制度の策定・運用が必要になってきました。例えば、
- 正社員のままでも時短勤務が可能になるような制度を策定する
- 在宅勤務制度テレワーク勤務などの新たな勤務制度を導入する
- 妊娠、出産、育児、などの期間に十分に休暇を取得できるような制度整備したうえで、対象となる従業員に休暇取得を促進する
- 介護に必要かつ十分な休暇が取得可能な制度を整備したうえで、対象となる従業員に休暇取得を促進する
- 育児、介護、などの事情を十分に踏まえて、残業をさせないようにする
などの具体的な施策が実施することが考えられます。
上記のような取り組みを進めることによって、長期間にわたって多様な人材が企業で十分に能力を発揮することが可能になるでしょう。
3.「ダイバーシティ&インクルージョン」を推進するために必要な施策とは
今後「ダイバーシティ&インクルージョン」を推進していくためには、企業として具体的にどのような施策を実施していく必要があるのでしょうか。
(1)研修・セミナーなどで社員に理解を深めてもらう
「ダイバーシティ&インクルージョン」の推進を妨げる要因としては、既存社員間における理解の不足を挙げることができます。したがって、最初に実施すべき施策とは、既存社員全員が「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方を十分に理解したうえで、この考え方の実効性や有用性を十分に納得できるようすることになります。
そのためには研修やセミナーなどを開催して、「多様な人材」を職場に受け入れる環境整備をすることが大切です。研修で必要となるプロセスは、
- 「ダイバーシティ&インクルージョン」とはいったいどのようなものなのか、を理解すること
- 「ダイバーシティ&インクルージョン」のメリットを理解、認識する
- 無意識のうちに自分自身が持ってしまっているバイアスや偏見などを自覚する
- バイアスや偏見などがもたらすデメリットを理解、認識する
- バイアスや偏見などを自分の意識から除去してインクルージョンのベースを構築する
- 実際に推進のプランを具体的に立案している
といったものになります。最初はマネジメント職が参加してもよいかもしれません。
(2)人材ごとに離職率や採用数などの定量的な目標数値を設定する
「ダイバーシティ&インクルージョン」を単なる掛け声倒れにしないようにするためには定量的な数値目標を設定して推進の進捗度を「見える化」することが重要です。例えば、
- 女性、ベテラン層(シニア層)、障がい者、外国人、といった人材ごとに採用人数の目標値を設定して定期的にその数値を報告、周知する
- 人材ごとに離職率に関しても目標値を設定して、その数値が減るような施策を検討する
- 人材ごとに管理職に占める人数の比率に関しても目標値を設定して、人材の育成に取り組むようにする
などの方法で推進することが考えられます。
(3)人材別に育成プログラム、研修、などを実施
既存社員に対しては「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方を理解してもらうような研修を実施するだけでなく、新しく受け入れることになる人材に向けては育成プログラムを準備しておく必要があるでしょう。例えば、
- 女性のリーダー職を育成するための研修の実施
- 外国人向け、女性向け、などの人材ごとののキャリアデザインに関する研修の実施
- 外国人向けに各種検定試験(日本語能力試験など)の受験料補助
- 各種資格を取得するための支援の実施
といった施策が有用だと思われます。
(4)働き方(時短勤務、在宅勤務、ダブルワーク、など)の多様化を整備
ライフステージに、結婚、出産、育児、介護、定年、などの変化が生じても働き続けることができるように企業は多様な働き方を整備しておく必要があります。例えば、
-
- フレックスタイム制度(flextime system)
- 時短対象となる正社員制度
- 在宅勤務やテレワークなどの勤務制度
- サテライトオフィスを設置
- 産休、育休、などの休暇制度と休暇取得の促進
- 育児サービス(保育園など)への補助
- 介護休暇制度と休暇取得の促進
- 配偶者の転勤といった個別事情に応じた希望地域の転勤制度
- ダブルワーク(本業からの給与を補填するために他の仕事からも収入を得る、という考え方)を推進
などが整備されれば、長期間にわたって多様な人材が企業に定着するでしょう。
(5)スキル、能力、経験、が正当に認められる評価制度の策定
多様な人材にとっては、個々のスキルや能力などの適性が活用できる職種で働くことができるように調整するためには、マネジメント職や人事部門の担当者が各社員に関して適切に評価を実施していることが所与の条件になります。
特に、外国人社員のような人々にとっては、旧来の日本企業における従業員の能力評価そのものはトランスペアレンシー(透明度)が低く納得度も低い、と不満を感じているケースも多いようです。したがって、先ずはフェア(公正)でスキル、能力、経験、などを正当に認めてもらえるような評価制度を策定することが求められます。
企業の中には全社員の能力評価を「見える化」して明確に表示する、という思い切りの良い施策を実施したところもあります。結果的に各社員の間に良い意味でのライバル意識が誕生して職場のモチベーションが高まった、というケースもあるようです。
まとめ
ダイバーシティと言う言葉はだいぶ市民権を得てきましたが、企業においては既にダイバーシティのみならず「ダイバーシティ&インクルージョン」の実践という段階にまで進んでいるのが現状です。
多くの企業においては、貴重な戦力である従業員を大切にすると同時に競合他社に負けないように、そしてグローバルなビジネス社会で生き残るために、「ダイバーシティ&インクルージョン」の導入と実践が必要になっているということができるのです。
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