少子高齢化が急速に進んでいる中において、空き家の増加は大きな社会問題になっています。都市部においては、今後は、新型コロナ感染症の影響も相まって、空き家の問題以上にオフィスが埋まらないという問題が生じてくる可能性が懸念されていますが、過疎地においては空き家問題が深刻化しています。
過疎地における空き家物件の現状と課題を確認したうえで、空き家物件を再生するビジネスの仕組みとメリット・デメリット、空き家物件再生ビジネスの具体的な成功事例、を説明して、中小企業が空き家物件再生ビジネスに取り組む場合のビジネスモデルについても解説します。
1.空き家物件の現状と課題
国土交通省によると、空き家とは1年以上人が住んでいない、あるいは使われていない家屋、のことを「空き家」と定義しています。その判断基準としては、電気、ガス、水道、などの公共施設の利用状況(実際に使われているかどうか)、建物などの登記状態、(所有者の)住民票の登録内容、建物などを適切に管理しているかどうか、所有者が利用している実績、などを挙げることができます。
平成30年の「住宅・土地統計調査(総務省が発表)」によると、全国における空き家の件数は過去10年間で89万戸増加して、総件数として846万戸にものぼっています。また、空き家の割合も13.6%となっており、これまでで最高の水準に達しています(「平成 30 年住宅・土地統計調査住宅数概数集計結果の概要」)
このままでは、2033年には国内の空き家数は1,955万戸となり、空き家率も現在の2倍となる27.5%に達すると、野村総合研究所では予想しています(【第266回NRIメディアフォーラム】「2030年の住宅市場と課題」)。
つまり4件に1件は空き家になるという予測であり、周囲の住宅街が空き家だらけになってしまう、という未来が予測されている、ということなのです。
(1)空き家が増えることによる問題
空き家が増えるということは、防犯上、治安上大きな問題が生じる可能性が考えられます。近所の目の届かない空き家において犯罪の準備や犯行が実施されたり、不審な人物の出入りに対しても誰も気に掛けなくなってしまったり、犯罪の温床として空き家を利用されてしまう、という問題があります。
失火や放火といった可能性もありますし、空き家の近隣住宅の人にとっては切実なリスクがそこにある、と言っても過言ではないでしょう。また、雑草が生い繁ったり害虫や害獣が発生してしまったり、景観的にも衛生的にも空き家の存在は周囲に悪影響を与えてしまう可能性が十分に考えられます。
<空き家がもたらす主な問題>
- 雑草・悪臭など衛生環境の悪化
- 景観の悪化
- 不法侵入などによる治安の悪化
- 生命・身体への被害の危険性
- 土地(住宅地)利用の非効率化
(2)過疎地における空き家問題とは
前述したように日本全国で空き家は大きな問題となっていますが、そうは言っても都市部と過疎地では問題の根深さが異なっています。3大都市圏(東京、名古屋、大阪)の場合は、地方からの流入人口も基本的には増加し続けており、需要の観点から考えれば、もし空き家となってもすぐに借り手が見つかるか、取り壊して新たな住宅・マンションなどを建設することになるものと予想されます。
一方で、過疎地域における空き家問題は、後継者が不在のため、誰も管理する人がいなくなってしまい、廃屋のような状態で空き家になっている家屋が多いと言われています。行政としても、様々な問題が発生する可能性があることから、対応を進めてはいますが、空き家増加のスピードに行政の対応が追い付いていないのが現状でしょう。
過疎地にあるが故に、そのまま放っておかれ朽ちていく家屋が増加しており、前述した<空き家がもたらす主な問題>が地方の過疎地においても大きな社会問題となっており、早急な対策が必要になっているのですが、その中で「空き家物件再生ビジネス」というものが話題になっています。そもそも「空き家物件再生ビジネス」とはどのような事業なのでしょうか。
2.「空き家物件再生ビジネス」とは
急増する空き家物件に対して、政府は手をこまねいていたいたわけではなく、「空き家対策特別措置法」を2015年に施行しています。建物が建っている場合、土地は、課税標準を最大で1/6に圧縮できる特例の適用を受けることが可能となっています。
この特例は建物がなくなってしまう(解体してしまう)と適用されなくなるので、固定資産税の負担額は最大6倍にまで膨らんでしまいます。したがって、利用していない空き家であっても壊したりなくしたり(解体)せずに、そのまま残している人が多く、問題となっていたのです。
そこで、「空き家対策特別措置法」においては、空き家に関して、各自治体が特定の状態に該当する判断した空き家(この空き家を「特定空き家」と言います)は、建物が建っていても固定資産税軽減の特例を受けることが可能になったのです。
しかし、この取り組みも十分な成果が出ているとは言えず、民間の取り組みによる「空き家物件再生ビジネス」に大きな期待が寄せられているのが現状と言ってもよいでしょう。
(1)「空き家物件再生ビジネス」の概要
「空き家物件再生ビジネス」とは、簡単に言えば、空き家を購入して(借りて)、物件をリフォームして、賃貸物件として貸し出して、その賃料で利益を得る事業のことです。購入の場合は、初期投資として購入資金の準備が必要になりますが、毎月の家賃(賃料)を支払う必要はありません。一方で空き家を借りて賃貸した(転貸した)場合には、支払う家賃(賃料)と受け取る家賃(賃料)との差額が収入となります。
空き家物件再生ビジネスの主なビジネス・フローは以下のようになります。
<空き家物件再生ビジネスの主な流れ>
- 空き家を探す
- 空き家の持ち主(オーナー)と交渉を行う
- 対象の空き家のリフォームを実施する
- 物件への入居希望者を募集
- 入居者から家賃を受領する(転貸物件の場合は、オーナーに対して家賃を支払う)
①空き家を探す
自分の足で探す方法もありますが、近所の人に聞いてみたり、自治体の空き家情報(空き家バンク、など)を利用する方法もあります。
②空き家の持ち主(オーナー)と交渉を行う
目ぼしい空き家が見つかったら、その持ち主と交渉することになります。近所に住んでいる人であればすぐに持ち主も判明するかもしれませんが、そうでない場合には、登記簿謄本などで持ち主を確認する必要があります。
登記簿謄本には所有者の氏名や住所も記載されているので、記載されている住所へ訪問してみてはいかがでしょうか。空き家であっても固定資産税は支払わなければならないので、空き家の所有者は処分に困っている可能性もあります。賃料を支払って現状の空き家を活用したい、ということに対しては前向きに検討してくれる可能性が考えられます。
なお、空き家の購入を考えている場合であれば、不動産会社に仲介に入ってもらった方がよいでしょう。空き家物件の瑕疵に対する取扱に関する助言など、プロならではの視点が役立つことが十分に考えられるからです。いくら過疎地域の空き家であっても、安くはない買い物になる可能性もあるので、仲介手数料が発生するとしても、不動産会社の仲介は必要である、と考えます。
③対象の空き家のリフォームを実施する
空き家を借りることが決定したらリフォームに取り掛かります。リフォームには範囲も金額も限度がありませんので、最初は最低限のリフォームに留めておくことが重要です。大規模なリフォームは金額的な負担も重くなりますし、今後必要に応じてリフォームを行う方が実際の居住者目線でのリフォームが可能になる、と考えられるからです。
④物件への入居希望者を募集
リフォームが完成したら入居者の募集をします。不動産会社に借主募集の業務をお願いしても良いのですが、近所にチラシを配ったりするのは自分自身でもできる方法でしょう。付近の家賃相場よりも安めの家賃を設定すれば早めに入居者が決まるかもしれませんが、世間相場からかけ離れてあまりにも安い家賃を設定すると、事故物件ではないか?、というあらぬ噂が立ってしまう可能性があるので、注意しましょう。
⑤入居者から家賃を受領する(転貸物件の場合は、オーナーに対して家賃を支払う)
入居から家賃を受け取って、賃貸物件(転貸)の場合はその内の何割かを大家さん(オーナー)に支払います。一方、空き家物件を購入した場合には、初期投資は必要なものの、家賃の全額が収入になります。
ビジネスの観点からは、入居者が決まった(実際に入居をスタートさせた)時点で、入居者から受け取った家賃の一部をオーナーに渡すという、利鞘を抜いてマージンを受け取るという、基本的にはリスクゼロの商売となります。
前述したように、空き家のままでは一切の収益を生まない、場合によっては税金などのコストしか発生しない資産を、オーナーは賃貸することで収益を得ることが可能になるので、不稼働資産の収益化にも繋がるものと言えます。
(2)「空き家物件再生ビジネス」のメリットとデメリット
「空き家物件再生ビジネス」の概要と流れについては、既に説明した通りですが、「空き家物件再生ビジネス」のメリットとデメリットとはどのような点にあるのでしょうか。
【「空き家物件再生ビジネス」のメリット・デメリット】
「空き家物件再生ビジネス」のメリット | 「空き家物件再生ビジネス」のデメリット |
|
|
「空き家物件再生ビジネス」のメリット
①初期投資額が少なくて済む
空き家物件再生ビジネスにおいては、初期投資を抑えることが可能です。概ね、投資利回りのことを考慮すると、購入の場合でも、初期投資金額は1,000万円以下の物件に狙いを定めるケースが多いのではないでしょうか。
追加投資もリフォーム費用くらいになりますので、初期投資が少額で済むことは空き家への投資における大きな利点になるものと考えられます。
②新たなビジネス(競合相手が少ない)
空き家物件再生ビジネスは、まだ比較的新しいビジネスと位置付けられています。大手の不動産(投資)企業では都市部のレジに対する投資は既にメインのビジネスとして推進しているところは多いものの、地方(過疎地)の空き家に対する投資に対しては積極的に取り組んでいる企業は少ないものと考えられます。
理由としては、地方(過疎地)の空き家の情報をタイムリーに入手することが困難であること、初期投資額が少ないと言うことは(利回りが高いとしても)収入の金額はそれほど高額にはならないこと、などが考えられます。
今後、「空き家物件再生ビジネス」の規模が大きくなって収入金額も巨額になるようなことがあれば大手企業もこのマーケットに参入する可能性もありますが、現段階では競合相手の少ない「ブルー・オーシャン(競争相手のいない、あるいは少ない未開拓の市場、のこと)」のような市場状態にある、と言えます。
③不動産投資の中では高利回り
「空き家物件再生ビジネス」では投資規模が大きくないことから8%以上という高利回りを狙うことも可能になっています。例えば、800万円で購入した空き家物件を200万円でリフォームを実施して、毎月8万円の家賃収入を受け取るケースの場合は、
利回り : 96万円/年 ÷ 1,000万円 =9.6%
となります。
また、賃貸のケースでリフォームに200万円かけて、毎月8万円の家賃収入を得る場合には、大家さん(オーナー)と折半すれば、毎月4万円(年間、48万円)の収入になりますので、
になります。
「空き家物件再生ビジネス」のデメリット
①物件の見極めが難しい
「空き家物件再生ビジネス」においては、その空き家に入居者が入ってくれるかどうかを見極めなければならない点が難しいポイントになります。他の物件に比べるて、入居者がいるかどうか可能性を判断する基準が定まっておらず、実際の経験を重ねることくらいしか目利きとしての訓練をする方法はない、と思われます。
②リフォーム費用が高額になる場合がある
空き家の状況によっては、リフォーム費用が高額になってしまう可能性があり、そうなると投資利回りが低くなってしまうことに繋がってしまいます。したがって、購入であれ賃貸であれ、空き家をリフォームするのにどのくらいの費用が必要になるのかを見積もったうえでビジネスに取り組むことが大切になります。
(3)「空き家物件再生ビジネス」の具体的な事例
「空き家物件再生ビジネス」の具体的な事例として、①賃貸物件、②シェアハウス、③公共施設、④事業用物件、⑤地方自治体、などの空き家再生プロジェクト、の各事例を紹介します。
①賃貸物件の事例
賃貸物件の場合は、前述したように、リフォーム費用が多くなってしまうと投資利回りが下がってしまうので、中には入居者負担による自由なリフォーム(DIY)をOKにしている物件もあるようです。さらに退去時の原状回復義務もなし、にすればDIYを趣味にしているような入居者が見つかるかもしれません。
また、特定の目的に特化した賃貸住宅として入居者を呼び込むケースも見受けられます。例えばペットを飼っている人にとっては嬉しい、各戸の玄関脇に洗い場を設置している賃貸物件などは、ペットを可愛がっている人を呼び込むことができる賃貸住宅になると考えられます。
②シェアハウスの事例
過疎地にシェアハウス、というと違和感を感じる人もいるかもしれませんが、シェアハウスは若者だけにとって必要な住居ではありません。歳を重ねても一人暮らしをしている人にとっては、共通の趣味を持つ友人とシェアハウスで生活をすることが安心に繋がる、というケースも増えてくるでしょう。
空き家をシェアハウスにリフォームする費用は必要ですが、ビジネスの観点から、同じタイミングで入居者全員が退去するようなことはあまり考えられないので、入居者ゼロになってしまう空室のリスクを回避することが可能になります。
③公共施設の事例
公共の入居施設として空き家を活用する場合には、公共スペースの開放により、住民同士のコミュニケーションが活発になり、生活に潤いが生まれると共に地域貢献もできる、というメリットが考えられます。
また、地域の子供たちの学習スペースや奥様を対象とした習い事のスペースなどとして、有料で開放することも考えられます。居住用のみならず、様々な利用方法を検討することができます。
④事業用物件の事例
空き家を修繕すれば居住用だけではなく事業用としても利用することが可能です。例えば、空き家を古民家カフェに改装して使う方法などが考えられます。また、新型コロナ感染症拡大の影響により、テレワークを導入する企業が増えており、仕事をする場所を都心のオフィスなどの一定の場所に構える必要性が薄くなっています。
そうなると、過疎地に日常的に仕事をする拠点を置き、必要に応じて都心に出てくる、という働き方が増えてくるかもしれません。そうなれば、過疎地の空き家をテレワークに対応できる仕事場として提供するというビジネスも推進される可能性も高まります。
また、空き家を宿泊施設に改造して民泊施設として運用することもできます。新型コロナ感染症の影響により、オリンピックの延期、民泊への期待低下、といったマイナスの効果は生じているものの、上記のテレワーク拠点の開設など、コロナ禍により、空き家物件を再生して活用するビジネスの機会も生じていると考えられるのです。
⑤地方自治体の事例
地方自治体が地域再生の取り組みとして空き家物件の再生に取り組んでいるケースもあります。単に空き家物件をリノベーションするだけでなく、周囲の景観や公園設備、生活環境の整備、などを自治体が主導して一体的に実施するような場合です。
例えば、地域の空洞化や高齢化が急激に進んでいる尾道市では、NPO法人が自治体とも協力して、空き家の有効活用や地域活性化に取り組んでいます。この空き家再生プロジェクトは、建築、環境、コミュニティ、観光、アート、といった5本の柱を軸にして推進しています。
この尾道市のプロジェクトでは、空き家が存在している街並みをまるで博物館のように見せたり、空き家に放置されたままの家財をリユースしたりして、地域全体で街作り実施している点に特徴があります。個人では行うことが難しい再生ビジネスであっても、行政との協力体制を組めれば実現の可能性が広がります。
関連記事:スマート農業とは? 概要と具体的な導入事例について解説します。