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中小企業が抱えている経理の悩みとその対応

業務改善

中小企業に限らず、我が国の多くの企業は少子高齢化の影響を受けて慢性的な労働力不足に悩んでいます。しかし、大企業と比較すると、中小企業の場合は製造や営業に人員が割り当てられることが多いので、間接部門である経理部門には十分な人的リソースが割けていないことが多いのではないでしょうか。こうした状況下にある中小企業の経理部門が保有している様々な課題を抽出して、その対応について解説します。

1.中小企業が抱えている主な経理の悩み

(1)銀行などの金融機関との関係構築・維持や資金繰りが難しい

資金の問題は会社を経営している以上、避けて通ることはできない問題のひとつです。収益を獲得することを検討しているのに、そのための準備資金すら用意できない状態では会社や事業を動かすことすらできません。したがって、どこからどのようにして資金を調達するのか、が重要な課題になるのです。

最初に思い付く方法は金融機関から融資を受けて資金調達することです。しかし、金融機関も信用力がない、あるいは乏しい中小企業に簡単には融資は実行してくれません。そこで重要になるのが、金融機関との関係を構築して信用力をアップさせることです。信用力は短期間で向上させられるものではありません。

そこで最初は普通預金口座の開設から始めて、事業資金決済の活用、余裕資金の貯蓄、など徐々にその金融機関の活用度合いを上げていきます。例えば資金決済に普通預金口座を利用すれば振込手数料などの手数料が金融機関には入りますし、預金額が増えれば金融機関の資産も増えるので、メリットがあるのです。もちろん、これだけで融資してもらえることはありません。もっと重要なことは本業での業績と将来の事業計画の中身です。しっかりと本業のビジネスを運営していて将来性もあるし成長力もある、と判断してもらえれば、それまでの取引状況なども踏まえて融資審査がスムーズに進む可能性は大いに高まるでしょう。

また、金融機関への提出書類は経理部門のメンバーが関与することが大部分だと思われます。普段から経営者が会社の経営に関する要点や将来の事業像などを経理部門のメンバーとも共有しておくことで、事業計画書の作成などにも大いに役に立つものと考えられます。

(2)必要な予算や削減できる経費がわからない

必要な予算や削減できる経費がわからない、ということは本来は経理としてはあってはならないことではありますが、実際には多くの中小企業でこうした状態が発生しているものと思われます。なぜならば予算は事業計画に基づいて策定されるものなので、そもそも事業計画の内容をきちんと理解していなければ、ビジネスを運営していくためにいくらのお金が必要なのか、ということは明確にはわからないでしょう。そういう意味でも事業計画の策定には経理部門は関与すべきなのです。

かつては金融機関を接待して親密な関係を構築して融資にも影響を与えるようなことが可能だったかもしれませんが、もうそんな時代は既に過去の遺物です。もちろん金融機関と良好な関係を築いて維持することは重要なことではありますが、誠実かつ真摯な態度で金融機関の担当者に接することでこちらの誠意は十分に汲んでくれるはずです。

一方、経費削減も経理部門の重要な業務のひとつです。「経費を削減することなんて簡単だ」と考えていると痛い目に合ってしまうかもしれません。経理部門の大きな失敗として、削減してはいけない経費を削減してしまって現場が回らなくなってしまった、という事例を挙げることができます。

例えば、派遣労働者を中心に仕事を進めていた現場のコストを削減するために多くの派遣社員をクビにしてしまうようなケースです。確かに派遣労働者に支払うコストはセーブできるかもしれませんが、実際に現場を動かすための人手が不足してしまい予定通りに仕事が進まない、ということが発生してしまう恐れがあり得ます。

つまり、このケースでは削減してはいけない経費を削減してしまった、ということになるわけです。経費の削減を検討する場合には金額的な削減効果も、当然ながら、考える必要はありますが、それ以上に、その経費を削減したらどのような影響があるのか、といったことも十分に考慮して削減の可否を決めることが重要なのです。

(3)期待しているほど税理士の能力が高くない

かなり多くの中小企業の経理部門の方々から「ウチの税理士は仕事ができないんだよね…」という声を聞くことがあります。たしかに税理士の中にはクライアントの期待に応えていない人もいるかもしれませんが、よく話を聞いてみるとそんな単純な話ではないようなケースが大部分です。

税理士は、記帳代行・税金対策のみならず、会社の資金繰り・コスト削減・業績悪化の対応策など、クライアントが抱えるさまざまな課題に回答して方針を提示してくれる、中小企業にとっては頼りになる存在です。しかし、税理士も慈善事業をやっているわけではないので、きちんとした報酬を受け取らなければいけません。税理士に不満を持っている企業の多くが、適正な報酬を払っていない、あるいは提供されるサービスを限定している、といった状況にあるようです。

上述した「削減してはいけない費用」にもつながる話ですが、士業によるプロフェッショナルサービスを受けるためにはお金がかかります。特に日本ではプロフェショナルサービスに対する理解が低く、サービス相応のコストというものがよくわかっていない人が多いように感じます。

こうした不満を解消するためには、税理士を変更するだけでは同じことを繰り返してしまう可能性が高いと思われるので、税理士との顧問契約の締結や見直しの際に、やって欲しいことを詳細かつ明確に決めてそれらの項目にふさわしい報酬額を決定することが必要になると思われます。

特に経営相談は、会社の状況にもよりますが、報酬額が高くなる可能性があります。しかし報酬額が高くてもその報酬額に見合った経営の方向性などに対する適切なアドバイスをもらえるのであれば決して高いとは感じないでしょう。とは言え、前述したようにやって欲しいことをやってくれないタイプの税理士も確かにいます。そのような場合には、やって欲しいことを明確にしたうえで、複数の税理士に見積もりを打診してみましょう。当然ながら実際に会って信頼できそうな人かどうか確かめることは必要です。また、報酬額だけではなく、その税理士の評判なども確認したうえで契約の可否を決定するようにしましょう。

(4)領収書の管理が大変

経理部門の業務に携わったことがある人であれば分かるとは思いますが、領収書は一枚一枚をきちんと確認・精査したうえで経理システムに入力します。さらに入力が終わった領収書も、基本的には、管理・保管しておく必要があります(保管期間は、法人税法では7年間、個人事業主では白色申告:5年間、青色申告:7年間)。とても煩雑な作業が必要になります。

加えて、全ての従業員が領収書の提出期限を守ってくれるわけではないので、場合によっては締め後に領収書処理が必要になることもあり得ます。特に中小企業の場合には領収書の処理・管理フローが明確に定まっていないようなケースも見受けられるので、実は領収書に関する経理部門の負担は結構重いということは多いのです。

領収書の管理方法は、以下のような方法が考えられますが、どの方法が自社に適しているのかを検討したうえで導入することが重要です。

➀用紙に貼付してファイリングする
貼付する場合にはテープではなく糊を利用して貼ることをおすすめします。用紙に貼り付けてないと領収書を紛失してしまう可能性がありますし、テープでは経年劣化で剥がれてしまうおそれがあるからです。
②日付順に保管する
日付順に保管する理由は、税務署などから問い合わせがあった場合に探しやすくするためです。また、他部署から問い合わせがくることも考えられるので(例えば、部内予算を適切に使っている費用なのか、を確認する目的、など)
③領収書を電子化して保管する
紙ベースでは嵩張るしスペースも必要になるので、電子化(電子ファイル化)して保管しておくと便利です。ただし、領収書を電子化して保存するためには電子帳簿保存法の定めにしたがう必要があります。

領収書については、正確かつスケジュールに則って処理することと同様にきちんと整理・保管することも重要な業務内容なので、経理部門の担当者にとっては手間と時間がかかる煩雑で面倒な仕事のひとつとなっています。領収書の処理・管理は、地味ではあるものの非常に大切な仕事です。後になってトラブルを発生させないためにも、正しく処理・保管することが重要かつ必要です。現在では電子データによる保存も認められるようになっているため、そうした方法も積極的に利用することをおすすめします。

 

(5)他部署(特に現場)から文句を言われることが多い

きちんと経理の仕事をしているだけなのに他部署から文句を言われることが多い、と嘆いている経理部門の方は少なくないでしょう。特に現場の人々からは「融通が利かない」「指示が細かい」「経理の専門家なのに間違ったことを教えられた」など経理部門に対する文句には枚挙に暇がない、といっても過言ではないでしょう。

経理部門からすれば、様々な法令やルールに則って業務を進めているだけなのに、そんなことを我々に言われても困る、と思うことも多いかもしれません。それはひとえに経理部門の仕事の特徴に起因しているものと考えられます。例えば、同じ間接部門である環境部門を例に挙げてみましょう。安全な環境を維持・整備するためには様々な法律が制定されており、企業によっては独自のルールを定めています。環境の維持・整備は従業員自身や周辺の住民などに直接影響を与えることが多いので、そのためのルールを遵守することは当然だと考える人が多いため、あまり環境部門に対して文句を言う人はいないのではないでしょうか。

しかし、経理部門が誰のために仕事をしているのか、ということを会社全体が正しく理解していないようなケースもあり得るのではないでしょうか。例えば、自分たちの仕事を楽にしたいから期限遵守をしつこく何度も言ってくるに違いない、などと思われてしまい、それが文句につながっているようなケースも考えられます。経理の業務は細部に渡りますし専門性も高いので他部門の人に理解してもらうことを最初から諦めてしまっているような会社も少なくないでしょう。

しかし、経理部門が機能していなければ売上代金の入金すら対応することができません。エビデンスに基づいて請求書を作成して取引先に送付して、経理システムには売掛金を計上して、銀行口座への入金を確認したら売掛金を消し込んで売上を確定させます。また、未入金の場合は支払督促の連絡を取引先にしたり、未回収債権としてエイジング管理をしたり、入金が不可能だと判明すれば特別損失などの損失計上を実施する、など様々な業務を一連の流れの中で実行する必要があるのです。

こうした詳しい業務の流れを他部署ではわからないので、文句が出ることもあるのでしょう。当然ながら経理部門には製造部門の詳しい業務内容はわからないことが多いのですが、現場に対して経理部門が文句を言うことは少ないように思います。これは、製造に関しては全くの門外漢であり、例えば、もっと品質の高い製品を作りなさい、と言ったところで経理部門にはそんなことを言う権利も義務もないので意味がないからです。

しかし経理部門の仕事は、請求書の提出を例に挙げると、期日までに出したほうがいいことくらいは分かっていても、請求書の処理に付随した処理・業務がどれほどあるのかを他部署の従業員にはイメージすることが難しいと思われます。したがって、もっと優先してやらなければならない仕事が詰まっているような場合には、経理部門から依頼された仕事を後回しにしたり期限を守らなかったりするようなことが発生するのでしょう。

また、経理部門からの依頼方法に問題がある場合もあります。上から目線で命令するような指示を出したりすれば、相手は面白くはないでしょう。故意に依頼された仕事を無視してやらなかったり、期限を遅らせて提出したりするようなことも起きる可能性は十分に考えられます。もちろん必要以上にへり下る必要はありませんが、あくまでも対等の立場として普段から接することが必要です。

(6)人手が不足していて一人当たりの業務量が過大

上述したように、少子高齢化の影響を受けて労働力人口が劇的に減少していることから多くの企業では労働力不足に悩まされています。その中でも営業部門や製造部門には必要な人的リソースを割り当てる企業は少なくないと思われます。なぜならば、営利企業は収益を上げることが目的であり、営業や製造は収益を獲得するためには企業にとって欠かせない機能だからです。

しかし、経理部門は直接収益を稼ぐことはないしいつも同じような仕事ばかりやっているのだから(この考え方はそもそも間違っていますが)、これまでの人的リソースをやりくりして対応してほしい、ということになりがちです。しかし、経理部門がしっかり機能していれば現場の無駄を指摘してコストを削減することも可能だし、会計基準や税法などは常に新しいものに更新されているので最新のナレッジを身に付けたメンバーに助けて欲しい、と考えることは当然でしょう。

つまり、経理部門に要員が足りないということは、会社全体の最適な人的リソース配分の失敗を経理部門に押し付けているだけということです。結果的に経理部門では従業員一人当たりの業務量が増加することになり、場合によっては健康被害が発生したり、退職者が増えたりすることにもなりかねません。

経理部門の業務量が過大だという声があがっているような場合には、経営者は会社全体を見渡して人事部門などとも協議して早急に人員配置の適正化を図るように検討することが必要です。ここで重要なことは「適正な」という状態の位置付けです。頑張れば何とかやれます、という状態を長続きさせることは無理です。繁忙期などを想定して普段は少し余裕があるくらいが「適正な」状態としておいたほうがいざという場合に対処しやすいでしょう。

 

(7)税制の変更など、最新情報をフォローするのが大変

経理部門の仕事は度重なる会計基準や税制の変更・追加などに対応するために常にナレッジのアップデートが必要になります。契約している税理士や監査法人などから常に最新の情報を提供してもらうことは重要ではありますが、自分でも最新の情報を入手できるように努めることが必要です。具体的には、最新情報を掲載・解説している書籍の購入や監査法人や税理士事務所が開催する説明会への参加などが大いに役に立つでしょう。

2022年度以降の制度改正についてご紹介します。

➀企業会計編

時期 施行・適用 改正の動き
2022年3月 「LIBOR を参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」の最終化(予定)注1
2022年3月31日以後に終了する事業年度 監査基準委員会報告書 720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」注2
2022年4月1日以後に開始する事業年度 ・「時価の算定に関する会計基準の適用指針」適用開始<投資信託などの時価の取扱い>(注3
・「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」適用開始(注4
2022年7月 サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の設立(注5
~継続 ・金融商品取引法上の「電子記録移転権利」または資金決済法上の「暗号資産」に該当する ICO トークンの発行・保有等に係る会計上の取扱いについて検討(それぞれ公開草案、論点の公表時期は未定)(注6
・「リースに関する会計基準」<すべてのリースについてオンバランス>の開発に向けた審議(開発目標時期は未定)
・「金融商品に関する会計基準」<予想損失モデルに基づく金融資産の減損>の開発に向けた審議(開発目標時期は未定)
・税効果会計に関する指針(開発目標時期は未定)
・連結財務諸表におけるのれんの追加的な償却処理について検討(開発目標時期は未定)(注7

注1:LIBOR を参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い

ロンドン銀行間取引金利(London Interbank Offered Rate。以下「LIBOR」)の公表が 2021 年 12 月末に恒久的に停止されました(一部の米ドル建 LIBOR(2023 年 6 月末停止予定)を除く)。これに向けて、2020 年 9 月に企業会計基準委員会(ASBJ)は実務対応報告第 40 号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い」を公表。実務対応報告第 40 号は、LIBORの公表停止に起因する LIBOR の置換に直接関係のある部分に限定した上で、2023 年 3 月 31 日以前に終了する事業年度まで、ヘッジ会計の要件を満たさない場合でも、一定のケースではヘッジ会計の適用を特例的に認めるものとしました。

2021 年 12 月には、実務対応報告第 40 号の改正案である実務対応報告公開草案第 62 号「LIBORを参照する金融商品に関するヘッジ会計の取扱い(案)」が公表されました。2021 年 3 月に米ドル建LIBOR の翌日物、1ヵ月物、3ヵ月物、6ヵ月物及び 12ヵ月物については、2021 年 12 月末ではなく、2023 年 6 月末に公表停止するとされました。これを踏まえ、実務対応報告公開草案第 62 号では、上記の特例についてどの通貨建についても一律に適用期間を 1 年延長し、2024 年 3 月 31日以前に終了する事業年度までとしています。ASBJ はこの案について意見募集を行った上で、2022 年 3 月に最終化することを目標としています。また、金利指標置換後の取扱いについて将来さらなる対応が必要な場合には、再度確認を行うことが考えられています。

注2:その他の記載内容に関連する監査人の責任
近年、わが国では企業内容等に関する情報の開示について、財務諸表以外の情報の開示(非財務情報など)の充実が進んでいます。企業会計審議会も 2020年11月公表の「監査基準の改訂4 / 7に関する意見書」で、「今後、財務諸表以外の情報の開示のさらなる充実が期待される中、当該情報に対する監査人の役割の明確化、及び監査報告書における情報提供の充実を図ることの必要性が高まっている」としています。そこで、「監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容」(以下、「その他の記載内容」)について、監査人の手続きを明確にするとともに、監査報告書に必要な記載を求めることとし、監査基準委員会報告書 720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」が改正されました。主な変更点として、監査人に対して新たに以下の対応が求められます。
  1. その他の記載内容と監査人が監査の過程で得た知識の間に重要な相違があるかどうかを検討する
  2. 財務諸表又は監査人が監査の過程で得た知識に関連しないその他の記載内容について、重要な誤りがあると思われる兆候に注意を払う
  3. 監査報告書に、「その他の記載内容」といった見出しを付した独立した区分を常に設け、報告を行う。その他の記載内容に関する経営者、監査役等及び監査人の責任や、監査人の作業の結果等を記載する
原則として、2022 年 3 月 31 日以後開始する事業年度に係る監査から適用されます(早期適用も可能)
注3:時価の算定に関する会計基準の適用指針
2021年6 月に、投資信託などの時価の算定に関する取扱いを定めた「時価の算定に関する会計基準の適用指針」が公表されました。主な内容は、以下の通りです。
  • 投資信託について、市場における取引価格が存在する場合は、その市場取引価格が時価と考えられる。
  • 市場取引価格が存在せず、かつ、解約または買戻請求(以下合わせて「解約等」という)に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合、その基準価額を時価とする。
  • 市場取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合は所定の調整が必要になる。ただし、投資信託財産が金融商品である場合で、次のいずれかに該当するときは、市場取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限があったとしても、基準価額を時価とみなす取扱いを適用することができます。
  1. 当該投資信託の財務諸表が国際財務報告基準(以下、IFRS)又は米国会計基準に従い作成されている場合
  2. 当該投資信託の財務諸表が IFRS および米国会計基準以外の会計基準に従い作成され、当該会計基準における時価の算定に関する定めが IFRS 第 13 号「公正価値測定」又は米国財務会計基準審議会による会計基準のコード化体系の Topic 820「公正価値測定」と概ね同等であると判断される場合
  3. 当該投資信託の投資信託財産について、一般社団法人投資信託協会が定める「投資信託財産の評価及び計理等に関する規則」に従い評価が行われている場合
投資信託財産が不動産である投資信託(REIT)の場合は、市場取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限があるときは、投資信託の財務諸表が IFRS や米国会計基準など時価の算定に関する会計基準と整合する評価基準が用いられている等の要件は設けず、基準価額を時価とみなす取扱いを適用することができます。
なお、基準価額を時価とするか、時価とみなすかで注記の内容が異なります。前者では、時価のレベルごとの内訳等に関する事項を注記する必要がありますが、後者ではその必要はありません。ただし、後者の取扱いを適用する場合は、調整表などの注記が求められています。本適用指針は、原則として、2022 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます(早期適用も可能)。
注4:グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い
2021 年 8 月に「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」が公表されました。2020年3月に成立した「所得税法等の一部を改正する法律」により、従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行することに伴い、グループ通算制度を適用する場合における法人税及び地方法人税並びに税効果会計の会計処理及び開示の取扱いを定めるものです。グループ通算制度では、通算グループ間の損益通算を行った上で、通算会社がそれぞれで申告納付を行い、加えて、通算グループ内で損益通算による税額の減少額(以下、「通算税効果額」)に相当する金銭の授受を行います。しかし、その通算税効果額は各通算会社にとっては法人税に相当する金額とされているため、個別財務諸表における損益計算書において、当事業年度の所得に対する法人税及び地方法人税に準ずるものとして取り扱うこととしています。また、グループ通算制度の「納税申告書の作成主体」は各通算会社であるが、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは連結納税制度と同じであることから、グループ通算制度を適用する通算グループ全体が「課税される単位」となると考えられます。従って、本実務対応報告では、連結財務諸表においては、「通算グループ内のすべての納税申告書の作成主体を 1 つに束ねた単位」に対して、税効果会計を適用することとしています。
本実務対応報告は、原則、2022 年 4 月 1 日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます(早期適用も可能)。
注5:サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の設立
2021年11月、国際会計基準(IFRS)の開発に関わる IFRS 財団は新たに国際的かつ統一的なサステナビリティ情報の開示基準を開発するために、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立を公表しました。IFRS 財団の基準設定における実績、専門知識、世界各国の政府等との関係を活かして、財務報告と整合性のあるサステナビリティ情報開示の基準が開発されていくものと考えられます。こうした動向を受け、わが国の財務会計基準機構(FASF)がサステナビリティ基準委員会(SSBJ)を 2022 年 7 月に設立することを 2021 年 12 月に公表しました。2022年1月には、それに備えて SSBJ設立準備委員会も設置されている。今後、こうした委員会のもとで、国内のサステナビリティ開示基準の開発や、国際的なサステナビリティ開示基準の開発への貢献が行われることが想定されています。
注6:「電子記録移転権利」「暗号資産」に該当する ICO トークンの会計上の取扱い
2019年12月から、基準諮問会議の提言を踏まえ、金融商品取引法上の「電子記録移転権利」または資金決済法上の「暗号資産」に該当する ICO トークンの発行・保有等に係る会計上の取扱いについての検討が開始されています。前者の電子記録移転権利とは、ブロックチェーン上で発行される電子的なトークンのうち、みなし有価証券に該当するもののことを指しています。後者の暗号資産とは、物品の購入等のために不特定の者を相手方として利用でき、かつ不特定の者を相手方として購入・売却のできる電子的な記録で、電子記録移転権利に該当しないもののことを指しています。電子記録移転権利については、今後新たな取引が行われることが想定され、優先して早期に論点整理を公表することが目標とされていました。しかし、2021年の下半期には規模の大きい発行事例も見られ、取引が活発化している様子もうかがわれました。これを受け、論点整理の公表ではなく、電子記録移転権利について、発生や消滅の認識などに関する公開草案を公表することが予定されています。暗号資産に該当する ICO トークンについては、国際的に ICO による資金調達が減っており、国内においても発行は 2019 年以降行われていないことから、会計基準の開発を進めることの必要性を確認する意味も含め、論点整理を公表することが予定されています。
注7:その他
上記の他、昨年から継続して議論が行われているテーマとして、「リースに関する会計基準」や「金融商品に関する会計基準」に関する審議が挙げられる。前者については、すべてのリース取引をオンバランスする基準の開発に向けた審議が行われています。IFRS、米国基準での取扱いを比較しつつ、各論点について検討が進められている。後者については、予想信用損失モデルに基づく金融資産の減損についての会計基準の開発に向けて、検討が行われています。これらのテーマについては昨年から継続しているテーマであり、各論の検討が進められているものの、公開草案の公表などにはまだ至っていないので今後の動向を注視しましょう。
(出典:「2022 年以降の制度改正予定(企業会計編)」

まとめ

中小企業の経理には様々な課題があります。しかし、大企業の真似をしてもうまくいくとは限りません。自社の規模や業務内容にマッチした手法を取り入れることと継続的な改善を実施することが重要だと考えます。

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