無限責任とは、言葉の通り、無限に責任を負わされることですが、経営あるいは株主の観点からは、会社の債務に対して上限を設けることなく支払を行う責務があることを言います。この「無限責任」という言葉の意味と「無限責任」のメリットやデメリットについて解説します。
1.無限責任とは
無限責任とは、出資者(株主)が出資した金額を超過していても、会社の債務を無制限に支払う責任があることを言います。有限責任の場合は、「出資した金額以上の会社の債務には責任がない」となっており、責任の範囲の違いがあることが大きな差異です。
しかし、中小企業のオーナー(社長兼株主)などの場合は、有限責任ではありつつも、個人の財産(家屋や土地など)を金融機関からの借入の担保に提供していたり、個人で連帯保証を差し入れたりしていることが多く、実態としては無限責任を負っていると考えられます。
つまり、中小企業の場合には、会社が破産すると、連鎖的にその経営者も破産してしまう場合が多いとされています。
会社の債務に対する責任、という観点では、最初は無限責任ありきで会社の形態はスタートしました。しかし、産業革命以降、鉄道の建設や貿易港の整備などに多額の資金が必要になり、多くの出資者からお金を集めるようになりました。もしその事業が失敗した際に、出資者が無限に責任を負わされるのでは出資者がいなくなってしまいます。
そこで、出資した金額までしか責任は負わない、とする有限責任の考え方が生まれたのです。なお、無限責任を負っている人は、直接、債権者に対して債務を弁済する責任があります。このように直接的な責任を有することを直接責任と言います。
無限責任を負う者(「無限責任社員」と呼びます)を認めている会社形態としては、合名会社と合資会社の2つがあります。合名会社は直接無限責任社員だけで構成されている会社で、合資会社とは直接無限責任社員と直接有限責任社員とが並存している会社のことです。また、民法上の組合や個人事業主も無限責任を負う形態となります。
無限責任社員の場合には、会社に出資する際に金銭的な出資だけでなく労務出資(金銭の代わりに労働することを出資すること)や信用出資(金銭の代わりにその人が保有している信用を出資する=利用させること)も認められています。
有限責任について詳しくは、「会社設立前に必ず押さえるべき!「有限責任」の定義を詳細解説」の記事でも解説しています。
2.無限責任社員を有する合名・合資会社のメリットとデメリット
(1)合名・合資会社のメリット
前述したように、合名会社とは社員(出資者のことを「社員」と呼びます)が会社の債権者に対し直接的に連帯して責任を負う無限責任社員だけで構成される会社形態のことです。
一方、合資会社は、無限責任社員と直接有限責任社員とで構成される会社形態です。直接有限責任社員は、出資金についてはその金額の範囲内で限定的に責任を負う、ということになっていますが、会社債権者に対しては、直接的に責任を負うこと、となっています。
ちなみに、会社法施行に伴い、間接有限責任社員のみで構成されている合同会社が誕生しました。この場合、個人的に連帯保証人や担保提供者などになっていない限りは、出資金額以上の責任を負うことはありませんので、経営陣が直接的にリスクを負わなければならない合名会社や合資会社を設立する人は減ってきているようです。
合名・合資会社のメリットは以下の通りです。
合名・合資会社のメリット |
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(1) | 会社の設立手続きに必要な費用がさほどかからないため、少ない投資額で会社を設立することができます(会社設立コストを抑制可能)。 |
(2) | 資本金の制度がないので、出資は信用出資・労務出資や現物出資のみでも問題はありません(現金による出資は義務とはされていません)。 |
(3) | 会社を設立する時の事務手続きも、株式会社や合同会社に比べると簡単です。 |
(4) | 合名・合資会社は持分会社となるので、定款自治の範囲が広範囲で、会社法に違反しなければ自由に定款に規定することができます(具体的には、会社の内部組織などは定款で自由に設計することが可能)。 |
(5) | 個人事業主と異なり、社会保険(厚生年金)に加入することができます。 |
(6) | 合名会社の場合は、会社法施行により、無限責任社員1名のみで設立することが可能です(なお、合資会社は2名以上の社員が必要となります)。 |
(7) | 現時点では、決算公告の義務がないので、株式会社のように毎年決算時に会社の決算書を公表する必要がありません(決算を公表したくない会社には向いていますが、現在は経過観察措置となっており、将来的には決算公告の義務が生じる可能性あり)。 |
一方、合名・合資会社のデメリットは以下の通りです。
合名・合資会社のデメリット |
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(1) | 合名会社の代表者は無限責任社員で構成されます。つまり、もし訴訟や事業が失敗した場合の責任は、無限に責任を有する社員(無限責任社員)である出資者の保有する全財産に及ぶことになります。 |
(2) | 合資会社は社員2名以上でないと設立することができません(無限責任社員1名、有限責任社員1名)。もし1名になってしまったら、合名会社や合同会社などに組織を変更する必要があります(なお、合名会社は1名でも可能)。 |
合名・合資会社のデメリットは、上記の通り、社員(出資者)が会社債権者に対して直接責任を負うことに尽きます。このデメリットが最大のネックとなっていると言っても良いでしょう。
3.無限責任社員の会社債務についての債務控除の適用
無限責任社員については、会社の債務に対して上限なく支払う義務があるものとされていますが、この債務は控除されることがないのでしょうか。債務超過に陥っている合名会社および合資会社の無限責任社員が亡くなった場合の、相続時におけるこのような債務の取り扱いについては、国税庁のホームページにも掲載されています。(出典:国税庁ホームページ「合名会社等の無限責任社員の会社債務についての債務控除の適用」https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/sozoku/05/03.htm)
相続税法第13条第1項に基づいて、相続を開始した際に被相続人の債務が存在していれば、相続の対象となる財産価額から控除することが可能です。また、無限責任社員が保有している会社の債務に対して、本項が適用できるか否かについては、国税庁のホームページでは適用可と結論付けられています。
したがって、債務超過に陥った合名会社などにおいて、会社の債務を返済する義務を負う無限責任社員が亡くなった場合には、その財産の相続時には債務控除をすることが可能となっています。なお、債務控除することが可能な金額は、あくまでも亡くなった無限責任社員が負担すべき相当分に限られます。
(2)債務控除による相続税の節税効果を期待可能
無限責任社員によって構成される合名会社と、有限責任社員により運営されている株式会社をそれぞれ例に挙げて、債務控除による相続税の節税メリットの有無を比べてみましょう。
比較対象となる合名会社と株式会社が、それぞれ2億円の債務超過となっていて、亡くなった社員の所有財産が3億円であるとします。合名会社の無限責任社員(応分=自己責任分は50%)が死亡した場合には、相続税の算定に際しては債務控除が適用されるので、以下のとおり節税メリットが生じます。
債務控除後の相続財産総額:3億円-(債務超過額2億円×応分50%)=2億円
合名会社の場合の相続税の節税メリット:(債務超過額2億円×応分50%)×相続税率40%=4,000万円
一方、会社形態が株式会社の場合には、社員は有限責任なので、出資額以上の支払責任はありません。よって、株式会社が保有している債務超過の金額と無関係で、相続対象となる遺産総額は3億円のままです。このように、会社形態によって、相続税の税額は大きく異なります。
まとめ
無限責任と有限責任の大きな違いは、会社の債務に対してどの範囲まで責任を負うのか、という違いです。出資金額の範囲内までしか責任を負うことがない、株式会社などの有限責任社員を抱える企業の方が主流になっているのは、この責任範囲が大きな理由となっていると考えられます。