繰越欠損金は使い方次第で税金対策にもなります。また特に中小企業にとってはメリットがある黒字との相殺方法もあります。欠損繰越金を上手に利用して会社にとって有益な効果を享受しましょう。
1.繰越欠損金とは
法人税を計算するために所得計算をする場合において、所得が赤字であるときのその金額のことを欠損金といいます。
法人税法では、青色申告をする場合には、一定の期間はその欠損金を将来に繰り越しをして、将来の一定期間に生じた黒字分の所得と相殺することを認めています。
この法人税法の規定に基づいて繰越を行っている過去の欠損金のことを繰越欠損金と呼びます。
繰越欠損金は、繰越した期間における課税所得から繰り越された欠損金を控除することにより、それに対応する税額が減少することから、一時差異に準じる効果があるものとして取り扱れています。
ただし、繰越欠損金に税金を減額する効果があるのは、繰越欠損金の繰越期間に課税所得(黒字)が発生することが前提となっていることには留意すべきです。
したがって、繰越欠損金による繰延税金資産の計上については回収可能性をしっかりと判断することが重要です。
2.繰越欠損金を利用するメリット
繰越欠損金がある場合には将来の黒字と相殺することができるので本来納めるべき税金額を少なくすることができるというメリットがあります。
このメリットは中小企業に対しては「中小企業の欠損金の繰越控除制度、繰戻還付制度」としてまとめられています。
制度の概要については以下の通りです。
(出典:https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/faq50/zeisei09.htm)
欠損金の繰越控除制度、繰戻還付制度
事業年度に生じた欠損金について、翌年度以降10年間にわたり所得金額から繰越控除することができます。
また、資本金1億円以下の中小企業は、欠損金の1年間の繰戻還付を受けることができます。
(1)欠損金の繰越控除
- 対象となる方:青色申告書を提出する中小企業
- 措置の内容:事業年度に欠損金が生じた場合、翌年度から10年間は、所得金額からその欠損金を損金に算入する形で順次繰り越して控除することができます。7年間の繰越控除は平成13年4月1日以降に開始した事業年度に生じた欠損金について適用されます。
- 手続きの流れ:確定申告書別表七に過去の繰越欠損金の額を記載し、最寄りの税務署に申告します。(欠損の生じた事業年度において青色申告書を提出し、かつ、その後において連続して確定申告書を提出することが必要です。)
(2)欠損金の繰戻還付
- 対象となる方:青色申告書を提出する資本金1億円以下の中小企業
- 措置の内容:事業年度に欠損金が生じた場合、当事業年度の欠損金額を前事業年度の所得金額で除した値に、前事業年度の法人税額を乗じて得た金額の還付を受けることができます。
- 手続きの流れ:還付を受けようとする法人税の額、その計算の基礎その他の必要事項を記載した還付請求書を最寄りの税務署に提出します。
- 適用期間:平成21年2月1日以後に終了する各事業年度
3.繰越欠損金を利用するための要件
繰越欠損金の控除を利用するには一定の要件が必要ですが、利用できる法人の要件としては以下の3点を満たす必要があります。
- 欠損金が発生した事業年度であっても(青色申告書で)決算日以降二ヶ月以内に確定申告書を提出している法人であること
- その後の各事業年度においても継続して確定申告書(青色申告書であることが必要)を提出していること
- 帳簿書類などを保存していること
次に、欠損金の繰越期間ですが、決算の申告書を提出する法人の各事業年度が開始する日の前の9年以内に開始した事業年度に対して青色申告書を提出した事業年度に発生した欠損金額は、その各事業年度における所得金額の損金に算入されることになります。
また、平成28年度の税制改正をうけて、平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金額の繰越期間は10年とされました。
また、
- 平成13年4月1日前に開始した各事業年度において発生した欠損金額については5年
- 平成13年4月1日以後に開始した事業年度から平成20年4月1日前に終了した事業年度において発生した欠損金額については7年
- 平成20年4月1日以後に終了した事業年度から平成30年4月1日前に開始する事業年度において発生した欠損金額については9年
- 平成30年4月1日以後に開始する各事業年度において発生した欠損金額については10年
となっています。
次に欠損金繰越控除限度額ですが、会社の資本金額や事業年度によって限度額が設定されています。
H27/3/31まで | H29/3/31まで | H29/4/1から | |
---|---|---|---|
資本金1億円超の大企業の控除限度 | 80% | 65% | 50% |
資本金1億円以下の中小企業の控除限度 | 100% | 100% | 100% |
上記の通り、毎年大企業が繰り越すことがせる欠損金の控除限度額は減っている一方で、中小企業においては全額控除が可能となっています。
つまり、大企業に比べると中小企業は相対的に優遇されていることが理解できます。
大企業は今後とも繰越控除の限度額が縮小されていく可能性があります。
4. その他の繰越欠損金の利用方法について
① 保険を解約した益金と相殺する
保険を中途解約すると中途解約戻り金として益金が生じます。
この益金は会社にとっては雑益になりますので課税対象となります。
しかし、ここで繰越欠損金があればこの益金と相殺することができます。
この場合にはどのタイミングで解約するといつ益金が生じるのかという点も大切です。
② 含み益がある資産の売却益と相殺する
不動産などの含み益がある資産を売却すると売却益が発生しますのが、この売却益は課税対象となってしまいます。
ここで繰越欠損金との相殺をして節税をすることが可能なのです。
常日頃自社が保有している固定資産などの価値を把握しておいて、適切なタイミングで含み益を実現させて繰越欠損金を活用することができるようにしておくことも重要な施策だと考えられます。
③ 債務免除をする
中小企業では、会社に対して社長や役員が個人的に貸付をしているケースは多いものと考えられます。
しかしこの貸付に関してはもう返済が難しいと考えている場合もあるかと思われます。
もしこの貸付を、もう返済しなくても良い、と債務免除をするとどうなるでしょうか。
社長や役員にとってはこの貸付は全額損金になってしまいますが、返済されていなかったことから実質的な経済的打撃はそんなにないかもしれません(債権者の事情により異なりますが)。
一方会社にとっては債務免除益(債務免除されことにより債権者に返済すべき元本や利息が益金とされること)が発生します。
この債務免除益と繰越欠損金を相殺することで会社の繰越欠損金を消すことができます。
ただし、この方法もやり方を間違えると税務当局に相殺を否認されてしまう可能性があります。
繰越欠損金まとめ
このように繰越欠損金は、会社にとっては必ずしも良い性質の勘定科目ではないものの、使い方によっては会社の税金対策として十分に活用することができるものでもあります。
繰越欠損金は将来的に黒字に転換できることを前提に活用するものなので、本来の業務で黒字化できるようにすることが最優先です。
そのうえで、課税対象となる益金との相殺をして課税額を少なくしたり、する方法を上手に利用することが大切です。
繰り返しになりますが、このように税金対策を目的に繰越l欠損金を利用する場合には税金のプロフェッショナルである税理士と相談をしたうえで実行するようにしてください。