家族信託とは、「家族を信じて託す」という言葉通り、信託の仕組みを活用して、家族に対して自分の財産を管理することの委託や遺産を承継することを意味しています。家族信託は2007年からスタートしたばかりの新しい制度であり、多くの注目を集めている制度でもあります。
本稿では、家族信託の概要、メリットとデメリット、などについて詳しく解説します。
1.家族信託とはどのような制度か
(1)家族信託の概要
信託は、一般的には、信託銀行が実施している年金信託や投資信託といったイメージを持っている方が多いかもしれません。年金信託や投資信託などの場合では、信託銀行が受託者になります。なお、信託事業を行うためには信託業法の免許・登録を受けることが必要で、信託銀行や信託会社にしか信託事業を行うことができません。
信託銀行や信託会社の受託とは、原則として、目的は資産運用であり、信託銀行(受託者)には信託報酬を支払わなければなりません。したがって、委託者自身や家族の要請に応じられない場合もあり得ます。
一方で、家族信託は同居している家族や親戚といった信頼できる人が受託者になり財産の管理を委ねる(委託する)、という方法が基本的な仕組みになるので家族が受託者になります。基本的なスキームは下図のようになります。
▶委託者
委託者とは、財産の保有者(オーナー)のことであり、加えて家族に財産の管理を依頼する人のことです。委託者は、信託財産の管理方法、処分方法、などのいろいろな項目に関して事前に決定しておくことが可能です。また、受託者を選ぶ権利、解任する権利、といった受託者に対する様々な権利を持っています。
▶受託者
受託者とは、委託者から保有財産の管理・処分を依頼される人のことです。受託者は、委託者から依頼された財産に関して多くの権利を保有することになります。具体的には、信託財産が賃貸不動産だった場合であれば、受託者は当該不動産に関する全権利を継承することとなり、賃貸契約、家賃回収、敷金返還業務、などを実施することが可能です。
また、登記簿上では受託者が所有者となるので、固定資産税の支払請求(納付書)は受託者に対して届けられることとなります。また、受託者には以下のような義務が課されています。
受託者は、委託された趣旨に則って、善良な管理者の注意をもって委任された事務を執り行う義務を負うことになります。
受託者は、委託者のために、忠実に責務を果たす義務があります。
受託者には、委託者から委託された財産と受託者自身の財産を分別して管理する義務があります。
▶受益者
受益者とは、信託財産から発生する利益を享受して、受益権を保有している人を言います。受益者として指定可能な者の範囲は幅広く設定することが可能で、委託者を受益者に指定しても問題はありません(これを「自益信託」と言います)。また、複数人を受益者に設定することもできます。
なお、受益者が死亡した場合、次の世代に受益権を引き継ぐ「遺贈承継タイプの受益者連続信託」という信託制度を設定することも可能です。
(2)家族信託が注目されている背景
家族信託が注目されている理由としては以下のような理由を挙げることができます。
①認知症などの病気リスクに対する備え
わが国においては医療や薬の進歩によりますます長寿化が進展する一方で、認知症などの病気にかかるリスクに対して備えておく必要性も高まっていると言えます。「認知症施策の総合的な推進について(2019年、厚生労働省発表)」によると、2025年には認知症の患者が約700万人に達して、65歳以上の約20%(約5人に1人)が認知症の世の中になっている、と予測されています。
いかに関係が近くて深い家族だったとしても、本人にことわりなく、勝手に預金を下ろしたり、保有財産を管理したり、売却したりすることは心情的に難しいでしょう。したがって、認知症などの病気で本人の判断する能力が低下してしまった場合には、しっかりと資産を管理・処分できるような人が不在になってしまい、相続対策に手を着けづらくなるというリスクが顕在化してしまうかもしれません。
②任意後見制度の利用における限界
認知症対策として、任意後見制度を利用することも考えられます。任意後見制度とは、資産を保有している人が元気な状態の時に、自分自身の判断能力が低下、あるいは失った場合に、自分の財産を管理する後見人を事前に選んでおく(任意後見契約を締結)、という制度であり、成年後見制度の一つでもあります。しかしながら、実際にこの制度が機能するのは判断能力が低下、あるいは失ってからのことになるのです。
一方で、任意後見人による財産管理は、裁判所が監督している状況下で財産の保全をすることが必要になるので、実際は本人が考えていたように(理想通りに)活用することは難しい、という側面もあるようです。そう考えると、家族信託と比べた場合には限界を感じてしまうかもしれません。
③家族信託における財産の承継に対する強い安心感
家族信託では、信託契約を締結するタイミングで、受託者が定めた目的に則った資産の管理・運用がスタートします。なので、保有資産の管理・運用の状況を委託者自身が見届けることが可能である、という大きな利点があります。つまり、自分自身が元気な状態のうちに保有資産を承継することが可能である、という安心感に繋がるのです。
任意後見契約と家族信託のどちらの制度を利用したらよいのか、という判断に迷っているような場合には、自分自身だけ決定することは困難な点もあるかもしれませんので、相続問題ばどに詳しい専門家やプロフェッショナルサービスを提供している事務所、あるいは地方公共団体などが運営している無料相談サービスなどを利用することをおすすめします。
④親が居住用不動産を保有している場合の対策
親が居住用の不動産(自宅など)を所有してはいるものの、預貯金は十分には持っていないようなケースで、将来は施設に入ることを検討しているような場合には家族信託を活用することで、療養費などのコストに関する問題を解決することができるかもしれません。
具体的には、子どもと離れて生活を営んでいて、奨励的にも親が所有している不動産(自宅)に住む予定がないようなケースであれば、子どもを受託者にして親が所有している不動産(自宅)を売却して、療養費に充当したいと考えた場合には家族信託を利用することが解決策になるかもしれません。
⑤障がいを持つ子がいるような場合の対策
障がいがある子どもの現在および将来の生活を守って、最終的には保有している財産を親族に託したい、と考えているような場合には家族信託の利用が適しているかもしれません。家族信託と成年後見制度とを併用することにより、確りとした保有財産の継承計画を策定・実行することが可能になるでしょう。
2.家族信託を活用する際のポイント
家族信託を利用する際には以下のようなポイントを整理しておくことが重要になります。
(1)信託財産
所有している資産のなかでどれを信託財産として委託するのか、については、極めて慎重に決定しておくことが必要です。
(2)信託する相手(受託者)は
専門的なナレッジや経験を保有しているかどうかだけではなく、信頼できる相手かどうか、委託者の考えや目的などをきちんと理解してくれるかどうか、といっ点も重要なので、これらの要素も加味して決定することが望ましいでしょう。
(3)家族信託(信託契約)を結ぶ目的とは
誰に対して、具体的どういった利益を得たいのか、期待しているのか、といったことを決めておく必要があります。
(4)信託監督人の設置など
家族信託とは身内との間で結ぶ契約となるので、受託者が実施する資産の管理や運用に関する実態が外部からはわかりにくい、という課題があります。そこで、信託の事務がスムーズに遂行されているのかどうかを、受益者のために、そして受益者に代行して、監督をする信託監督人を設けておくことも重要なのです。
また、受託者を複数(2名)設けておけば、受託人同士がお互いに相談をしながら、財産の管理・運用をすることが可能になるので、相互牽制機能などを期待することもできます。
3.家族信託のメリットとデメリット
家族信託のメリットとデメリットについて以下に詳しく説明します。
<家族信託のメリットとデメリット>
(1)メリット | (2)デメリット |
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(1)家族信託のメリット
①家族信託で本人の状況に左右されずに財産を管理・処分することが可能
本人が元気なうちに保有財産の管理を託せることが可能であり、託した後になって本人の判断能力が低下したり失ったりしても、本人の意思を確認する手続きを本人に行うことができないので、実質的にその資産が凍結されるようなことはなく、財産管理の担い手である受託者が主導して、財産の管理・処分を円滑に進めることが可能です。
例えば、事前に家族信託を締結しておくことで、親が病院に入院したり、ホームに入所したりして、空き家になってしまった親の自宅を適時適切に適正価格で受託者が売却することが可能、といったメリットを挙げることができます。
②成年後見制度の代わりに財産管理が実行可能
成年後見制度には、以下のような負担・制約が存在しています。
- 家庭裁判所(あるいは、後見監督人)に対する定期的な報告義務の負担が軽くはない。
- 後見監督人が選ばれた際の報酬支払の負担(1~2万円/月くらい)が長期間継続する。
- 成年後見人が実行可能なことは、本人にとって(家族ではない)利点があることのみ。
一方で、家族信託を利用した場合には、本人が元気な状態のうちに、本人の希望や方針に沿った家族に付与すべき権限をしっかりと信託契約書の中に記すことになるので、その希望や方針に反しない限りは、受託者は、本人の希望に則った財産管理や資産の有効的な活用などを実行することが可能です。
つまり、成年後見の制度下においては実行不可能な、保有資産の組み換え(例えば、遊休土地の開発、老朽化したアパートの建て替え、借入によるマンション建設、など)による相続税対策を実施することも、本人の状態に関係なく、相続が発生する直前まで継続できるというメリットもあるのです。
③遺言書に類似した効力
家族信託には、遺言書の代わりとして使える効力があります。遺言書の場合には、民法で定められている遺言書の方式や作成方法に従う必要があり、非常に厳格な手続きを経ることが求められます。
一方、家族信託の場合は、委託者と受託者(例えば、信頼している家族)との間での契約になるので、遺言書を作成するような厳格な方式は不要です。自分が亡くなった後に生じる相続に関して財産を引き継ぐ人をあらかじめ指定することが可能なのです。
④財産の承継順位付けが可能
家族信託には、遺産相続の際に相続順位を指定することが可能、いうメリットもあります。生前贈与や遺言書の作成(遺贈)などは、一般的な相続対策として考えられますが、生前贈与や遺贈をした財産に関しては、次に相続が始まった場合には相続人を指定することは不可です。
一方で、家族信託を活用する場合には、当初指定した受益者が仮に死亡してしまったようなケースにおいても、その次の受益者を誰にするか、を指定することが可能です。
また、家族信託は事業承継の場合にも活用することが可能で、自社株式の評価額がほぼゼロに近いようなタイミングで、委託者と受託者を現経営者(本人)、受益者を相続人、するという自己信託を実施する(一種の家族信託)ことで、贈与税を発生させることなく自社株式を子どもなどに承継させて、かつ経営者自身も今まで通り議決権を行使することで、経営に参画することができます。事業承継を検討する際には、自己信託(家族信託)も検討する価値があると考えられます。
⑤倒産隔離機能
家族信託には、この先委託者や受託者が信託している財産には全く関係がない多額の債務を負担してしまったようなケースであっても、信託財産を差し押さえられることはない、という倒産隔離機能(Bankruptcy Remoteness Function)があるので、もしも何かが起きてしまった場合であっても「万が一の備え」になるのです。
ただし、信託財産は受益者の「信託受益権」へとその形を変えているので、受益者が強制執行を受けた場合などでは差押えが可能になる、という点には注意が必要です。
⑥配偶者の認知症対策
被相続人が遺言書を書くタイミングで既に配偶者の判断能力が喪失されていた、ようなケースでは、自分が死んだ後の配偶者が生活していくための費用をどう賄うのか、などが心配になるに違いありません。
例えば、老人ホームなどに入居していれば、毎月の費用は発生するものの、配偶者に対して財産を相続させることは可能であっても、既に判断能力が失われているので、賃貸借契約の締結や更新といった手続をすることができない、という問題が発生する可能性が考えられます。
そこで、家族信託制度を利用して、自分が死亡した場合は受益者は配偶者(妻)に変更する、と定めておけば、受益者を変更する際に遺言書や遺産分割協議書などは不要になるので、今後の妻の生活のために自分が残した財産を使うことができるようになるのです。
⑦二次相続の指定が可能
家族信託は、二次相続をも考慮した相続対策としても、とても有効な選択肢となります。遺言書でも相続割合の指定などは可能ですが、遺言書において指定可能なのは「遺言者である被相続人が死亡した場合の一次相続の方法だけ」となっています。
具体医的には、「一次相続の被相続人でさる甲は乙に所有している財産を相続させたいと考えてはいるものの、乙の相続人となる丙には相続をさせたくはない」と考えているようなケースでは、遺言書という手段ではAの希望通りに相続関係を実現させることは難しいと考えられます。乙が死亡した際の相続に関しては、乙による遺言書が必要となるからです。
一方で、家族信託を活用した場合には、甲は乙を所有財産の受益者として、乙が亡くなった後は丙ではなく、受益者を丁とする仕組みとすることができるのです。この仕組みのことを「受益者連続信託」と言います。これまで説明してきたように、家族信託は、遺言書よりも高い自由度があり、被相続人や相続人の個人個人の目的や意向に沿った相続の仕組みを作ることが可能である、ことが大きなメリットであるといえます。
(2)家族信託のデメリット
家族信託のデメリットというものはあまり考えられないのですが、強いて言えば以下のようなデメリットを挙げることが可能です。
①損益通算ができないリスク
収益不動産などを信託財産として組み入れたような場合には、この信託財産の中の不動産から生じる年間収支における赤字は、ないものとして取り扱われることになります(税法上の根拠は「租税特別措置法41の4の2」による)。
つまり、信託した不動産のロス(損失)は、信託財産以外から生じる所得と損益通算することで課税対象額となる所得金額を減少させることはできないのです。また、その損失金額を翌年に繰り越すことも不可なので、税務上、不利益が発生しないかどうか、十分かつ慎重に検討することが必要のなります。
また、信託契約をいくつかに分割したような場合であっても、各信託契約を跨ぐ損益通算をすることも不可なので、家族信託を利用する際には、損益通算の観点にも詳しい公認会計士や税理士などのプロフェッショナルに相談して決めるべきでしょう。
②家族信託の限界(できないこと)
家族信託では対応するこが不可能で、遺言でしか対応できないこともある点には注意が必要です。例えばて、遺留分減殺対象財産の順序を指定すること、を挙げることができます。また、相続が発生する場合に全ての遺産を生前の信託契約において網羅することは不可能なので、信託財産から漏れてしまう財産に関しては遺産分割協議から排除するためには、家族信託の契約とは別途に遺言書を作って、主要な遺産を除く全ての財産の承継者を決定・指定しておかなければなりません。
もう一つの家族信託の限界のサンプルとしては、成年後見制度と比べた場合の、身上監護の問題を挙げることができます。身上監護、とは、適切に被後見人が暮らせるように、「身の上の(介護保険、病院など)」手続きを行うことを言います。
家族信託の受託者には、当然ながら身上監護権を有しているわけではないので、受託者として本人の入院・入所の手続きすることはできません。もし身上監護権が必要なのであれば、成年後見制度を利用して、身上監護権を「後見人として」行使する必要があるのです。
当たり前ですが、通常のケースでは子どもや家族という立場であるだけで、入院や入所の手続きを実施することが可能なので、実際は子どもや家族である受託者が身上監護面においても対応可能なケースは多いと考えられます。
③税務申告が煩雑
保有資産の一部、あるい全部、を家族信託の信託財産に組み入れたようなケースにおいては、その信託財産から年間で3万円以上の収入が生じるような場合には、税務署に信託計算書と信託計算書合計表を提出する必要があります(税法上は、前年分を毎年1/31までに提出する必要がある、としています)。
また、毎年の確定申告時点で、信託財産から不動産所得が発生している人は、不動産所得用明細書だけでなく、信託財産に関する明細書も別途作成が義務付けられています。このように種々の手間は煩雑になりますが、毎年の確定申告を税理士に依頼しているような場合には、実質的な負担は変わらない、とも言えます。
④実務に詳しいプロが不足している
家族信託は、医療の世界の用語でいえば、まさに「最先端治療」に該当しますので、医者であれば誰であっても最先端治療が可能である、とは限らないのと同じく、法律の専門家(弁護士、司法書士、税理士、など)であれば、誰でも対応可能というものではないでしょう。
もし家族信託における知見や経験に乏しい専門家に相談してしまうと、医療過誤による被害と同様に依頼者にも大きな被害が発生してしまう危険性が高いものと考えられます。最先端の資産管理・財産承継の方法である「家族信託」に関して確りとした知識と実務上の経験が豊富なプロに相談することが重要かつ必要だと考えます。
誰にも相談することなく、自分で本屋やネットなどの情報を調べただけで家族信託を実行することは、言わば自分で自分の身体を手術するようなものであり、大きな危険を伴うことになるので、絶対に回避すべきでしょう。
⑤家族信託に対する正しい理解(「目的」ではなく「手段」である)
最近では、「家族信託を利用した節税方法」などと銘打ってセミナーや勉強会などを催す士業などの専門家も増加しています。クライアントの中には相続税への対策方法として、家族信託を組成した後で、不動産を売却・買替を実施したり、賃貸住宅(マンション・アパート)を建てたりすることで所有している資産の組み替えを行うケースは確かにあります。
しかしながら、もともと家族信託は節税とイコールであるという単純な話ではありません。家族信託を節税対策の方法として考える場合には、節税のためのプラン(青写真画)を持ち合わせていることが必要なのであって、家族信託を組成するだけであればほとんど節税効果を見込むことはできないでしょう。
家族信託の組成のみはダイレクトな税務上のメリットは発生しないこと、例えば、相続が発生した際には財産評価額における減額の効果がないこと、など事前にしっかりと理解しておくべきでしょう。
親や家族にとってはどのようなことを実現したいのか、という家族信託の明確な目的を設定しなければ、目的実現のための家族信託の設計は難しいでしょう。例えば、重点となるのが相続税の対策なのか、それとも成年後見制度に代替できるような負担が少ないフレキジブルな資産管理を実現することなのか、あるいは遺産争いが将来発生しないようにする予防が目的なのか、といった点をはっきりさせておくことが大切です。
家族信託を相談する人方々や家族信託に関わるプロフェッショナルな専門職が、目的である「何を実現したいか」という部分を疎かにしている場合がよく見受けられますので、家族の中で統一された意思を持つことが重要である、というポイントを認識することも極めて重要です。
家族信託は、具体的には、認知症による保有資産が凍結されてしまわないようにする対策、資産凍結が回避された将来に考えられる相続税や空き家などの対策、若しくは事業をスムーズに承継するために必要な対策、共有不動産が塩漬けされないようにするための回避策、親(あるいは配偶者)が亡くなってしまった後の問題に対する備え、といった様々な要請に対応可能な手段である、と正しく理解することで、先ず本人と家族の「想い(考えていること)」を全員でで共有して、その「想い」の実現手段の選択肢の一方法して家族信託を検討することが必要です。
⑥専門家への報酬
これまで説明してきたように、家族信託とは最先端の金融手法なので、どんな人の相談であっても対応可能なわけではありません。家族信託に関する相談の費用や受任に関わるコンサルティングの報酬などは、一般的な遺言書の作成や成年後見といった業務における費用よりも高額になると思ってよいでしょう。
一方で、家族信託に精通したプロフェッショナルな専門家に全く相談することなく家族信託を実行してしまう、ということは非常にリスクが高いと考えられますので、極力避けるべきでしょう。
家族信託の費用が他業務に比して高額になっているのは、様々な分野のリーガル・ナレッジ(法的な知識)が必要になること、親族・家族会議に幾度も参加・同席しなければならないこと、を踏まえて設定されているからだと言えますし、家族信託の契約を結んだらそれで終了、というわけではなく、その後も家族信託の契約が続いている限りは引き続き支援することが前提、だからでもあるのです。
老後の親の資産管理、将来の長期間にわたる財産の管理・資産の継承、などの方向性を確りと作成することができる点を考慮すれば、家族信託を実行する際にそれなりのコストが発生したとしても、実行した後はほとんど費用は生じないので、長い目で見た場合には必ずしも高額な出費とは言えないかもしれません。
費用対効果を現実的に考えてみた場合に、この程度の先行投資をすることで将来的にスムーズに円満な資産の産管理と資産の継承が可能になるのであればお手頃なコストである、と考えるクライアントも多いようです。
⑦長期間当事者を拘束する
信託が保有している機能の1つである、資産承継を指定すること(これを遺言代用と言います)、専門的な用語では「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」と言いますが、これを実施することで、1次相続のみならず2次相続より後の財産を承継する人まで自分一人だけで決めることが可能、というエポックメイキングな機能を信託は持っています。
前述したような方法で、相複雑な続関係が存在しているような家庭(例えば、前妻との間にも後妻との間にも子供がいるような場合)における資産や事業の継承などでは、このような機能が有効に働く可能性が高いと考えられます。
その一方で、数世代の間に横たわる、長期間にわたって保有資産を処分することを困難にしかねない問題になってまう可能性を排除することはできません。つまり、家族信託の利用が逆に相続争い(争族)や想定外の事態などを発生させかねない可能性も否定はできないのです。これからの数十年先を考慮した家族信託を設計するためには、関係者の熟慮及び「想い」の共有と納得が必要であることは間違いがないでしょう。
まとめ
家族信託は新しい金融手法であり、最先端の信託と言われています。前述したようにメリットも多く、多くの方々にとって役に立つことが期待されています。その一方で、家族信託の設定にあたっては、関係者全員が「想い」を共有して、納得して、設定することが極めて重要であることを忘れないようにしましょう。
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