カーボンニュートラル(carbon neutral)という言葉は環境に関するもので、元来は、植物や植物から由来している燃料を燃焼させて二酸化炭素(CO2)が発生したとしても、それらの植物は成長するプロセスにおいて二酸化炭素を吸収しているので、植物のライフサイクルにおける始めから終わりまで(全体)で見た場合には大気中の二酸化炭素を増やすことはなく、実質的な二酸化炭素の排出量はニュートラル(ゼロ)になる、という考え方のことです。
最近ではこうした考え方が概念化されるようになってきており、二酸化炭素の排出量増減に影響を与えないような特質や二酸化炭素の排出量と吸収量との均衡(バランス)が優れているような状態を放言するような場合にもカーボンニュートラルと表現されるようになっています。例えば、二酸化炭素の排出量を削減するために植林したり再生可能エネルギーを導入したりすることなどの、われわれ人間の活動において二酸化炭素の排出量を相殺するような行為そのもののこともカーボンニュートラルと呼ばれているのです。
日本政府もカーボンニュートラルの重要性は認識しており、環境省はカーボンニュートラルを『市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの責任と定めることが一般に合理的と認められる範囲の温室効果ガス排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部を埋め合わせた状態をいう。』(出典: 「カーボン・オフセットフォーラム」カーボンニュートラルとは?より)と定義しています。
本稿では、カーボンニュートラル(脱炭素社会)とはどのような考え方なのか、中小企業はカーボンニュートラルにどのように関わっているのか、誰がカーボンニュートラルを推進しようとしているのか、カーボンニュートラルの問題点と対応について、カーボンニュートラル債とはどのようなものか、などについて詳しく解説します。
1.カーボンニュートラル(脱炭素社会)とはどのような考え方なのか
前述したように、カーボンニュートラルとはライフサイクル全体を見た場合に二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量とがプラスマイナスゼロの状態(ニュートラル)になることを言います。世界中で激甚的な自然災害が多発している状況下において、地球温暖化を原因とするこれまでには全く見られなかった大きな気候変動に対する危機感はますます強まっていると言えます。地球温暖化の主な要因は温室効果ガス(二酸化炭素)だとされています。
気候変動に関する政府間パネル(気候変動に関する国際機関IPCC)が2018年には、世界の平均気温の上昇を産業革命以前と比べて1.5℃を大きく超えないようにするためには、世界全体の人為起源の二酸化炭素の正味排出量を、2030年までに2010年の水準から約45%減少させて、2050年前後に正味ゼロにしなければならない、という報告書を発表しています。
こうした動きを受けて、日本の菅総理大臣は2020年10月に所信表明の中で「我が国は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と述べました。(出典:「第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説」)
ここ述べている「全体としてゼロにする」という意味は、温室効果ガスに関しては排出量から吸収量と除去量を差し引いた量をゼロにする、ということです。つまり、排出量を完全にゼロにすることは現実的には困難なので、排出せざるを得なかった量については同じだけの量を吸収、あるいは除去することによって差し引きゼロとなることを目指します、という趣旨です。
ここで言う吸収とは、植林を進めて光合成に利用される大気中の二酸化炭素の吸収量を増加させるなどを指しており、一方、除去とは、二酸化炭素を他の気体から分離したうえで集めて地中の奥深くに貯留・圧入するといった方法を指しています。
日本政府からは2021年4月には2030年度の新たな温室効果ガス削減目標に関して、2030 年度には2013 年度から温室効果ガスを46%削減することを目指して、その後さらに50%の高みに向けて挑戦を継続する、ということが提示されています。この目標は2015年のパリ協定に基づいてわが国が公表した、2030年度までに2013年度に比べて26.0%を削減する、という水準を大きく上回るレベルの目標です。
2.中小企業はカーボンニュートラルにどのように関わっているのか
こうしたカーボンニュートラルに向けた活動は二酸化炭素の排出量が多いと思われる大企業にとっての問題であって多くの中小企業にとってはあまり関係がないと考えている経営者の方々も多いかもしれません。
しかし中小企業がカーボンニュートラルに取り組むことには大きなメリットがあると考えられます。
<中小企業がカーボンニュートラルに取り組むメリット>
- 他社優位性の構築が可能
- コストの削減
- 自社の知名度向上
- 社員のやる気アップや人材獲得の競争力強化
- 新規ビジネス機会の創出に向けた資金調達において有利
(1)他社優位性の構築が可能
環境に対する意識が高い企業を中心にして、サプライヤーに排出量の削減を要求するような傾向が強まりつつある環境下で、カーボンニュートラル経営を実践することは、こうしら要求をしてくる取引先企業に対する大きなアピールになるものと考えられます。具体例としては、Appleはサプライヤー企業に対して再エネ電力の利用を要求していて、実際にApple 向けの生産をしている国内の企業においては再利用エネルギーの調達が進められています(参考URL)。
自社のビジネス活動に伴って排出される二酸化炭素のみならず、原材料や部品の調達や製品を利用する段階も含めた排出量の削減も目標、維持することを求める企業は増加しています。したがって、カーボンニュートラル経営は、自社の製品やサービスにおける競争力の確保や強化に、今後はますます繋がっていくものと考えられるのです。
(2)コストの削減
カーボンニュートラル経営に向けて、多くのエネルギーを消費しているような非効率な工程や設備の改善や更新を進めていく必要があるので、それらに伴って水道光熱費や燃料費などの低減もメリットとなるでしょう。また、一般的にはコストが高くなると考えられている再利用エネルギー電力の調達に関しても、大きな追加負担をすることなく実施できているようなケースもあります。
(3)自社の知名度向上
省エネに取り組んで大幅な温室効果ガスの排出量削減を果たした企業や再利用エネルギーの導入を他社に先駆けて進めた企業などは、メディアからの取材対象になったり国や自治体から表彰の対象となったりすることを通して、自社の知名度や認知度を向上させることに成功しています。また、大幅な省エネ対策を実施することにより大きく光熱費をカットすることが可能になったので、利益を出しにくい多品種少量生産のような製品だったものでも積極的に生産・販売することができるようになり、その二次的な効果としてお客様に対する浸透が期待されるようなケースも生まれています。
(4)社員のやる気アップや人材獲得の競争力強化
カーボンニュートラルの要求に対応することによって社員のモチベーションの向上や人材を獲得する能力を強化できるというメリットも考えられます。気候の大きな変動という社会的な課題の解決に企業として取り組むという姿勢を明確に示すことで、社員からの共感や信頼を獲得することができるのと同時に、社員のモチベーション・アップにも繋がるでしょう。また、カーボンニュートラルに向けた取組は、気候変動問題に関心が高い人材から共を得たり評価されたりすることで、「こういう会社で働いてみたい」という意欲を持っている人材を集めることが可能になるという効果を期待することができます。カーボンニュートラル経営は金銭的なメリットのみならず、従業員のモチベーション・アップや意欲的な人材の獲得などを通じることによって企業活動の持続可能性の向上をもたらすことが期待できるのです。
(5)新規ビジネス機会の創出に向けた資金調達において有利
カーボンニュートラル経営は、新しい機会創出における資金の調達に関して有利な影響を与える可能性が期待できます。金融機関からもカーボンニュートラルに向けたプレッシャーが高まりつつある現状では、融資対象先を選定する基準にカーボンニュートラルへの取組状況を勘案して、カーボンニュートラル経営を進めている企業の融資条件を優遇するような取組が実際に行われています。具体的な事例としては、滋賀県に本店を構える地方銀行の滋賀銀行では、温室効果ガスの排出量削減や再生可能エネルギーの生産量や使用量などにおける目標達成の状況によって貸出金利を変動させる「サステナビリティ・リンク・ローン」というローン商品を開発しています。
3.誰がカーボンニュートラルを推進しようとしているのか
現状ではどのような国や地域がカーボンニュートラルを目指しているのでしょうか?2021年1月20日の時点においては、わが国を含む124ヵ国と1地域が2050年までのカーボンニュートラルの実現を表明しています。世界全体の二酸化炭素の排出量に占めるこうした国々の排出量の割合(2017年実績)は37.7%となっています。2060年までのカーボンニュートラル実現を表明した中国を含めた場合には、全世界の約2/3の排出量を占めることになり、非常に多く国々がカーボンニュートラルを実現させようと考えていることがわかります。
国・地域 | カーボンニュートラル目標 | 成長戦略など |
日本 | 2050年 カーボンニュートラル (菅総理所信演説、2020年10月) |
成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力、もはや温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長に繋がるという発想の転換が必要です。 |
アメリカ | 2050年 カーボンニュートラル (バイデン氏の公約、2020年7月) |
高収入の雇用と公平なクリーンエネルギーの未来を創造し、近代的で持続可能なインフラを構築し、連邦政府全体で科学的完全性と証拠に基づく政策立案を回復しながら、国内外の気候変動対策に取り組む。機構への配慮を外交政策と国家安全保障の不可欠な要素に位置付け。 |
EU | 2050年 カーボンニュートラル (長期戦略提出、2020年3月) |
欧州グリーンディールは、公正で繫栄した社会に変えることを目的とした新たな成長戦略であり、2050年に温室効果ガスのネット排出がなく、経済成長が資源の使用から切り離された、近代的で資源効率の高い競争力のある経済。 |
英国 | 2050年 カーボンニュートラル (長期戦略提出、2020年12月) |
2世紀前英国は世界初の産業革命を主導した。英国はクリーン・テクノロジー(風力、炭素回収、水素、など)に投資することにより世界を新しいグリーン産業革命に導く。 |
中国 | 2060年 カーボンニュートラル (国連総会一般討論、2020年9月) |
エネルギー革命を推進しデジタル化の発展を加速。経済社会全体の全面的グリーンモデルチェンジ、グリーン低炭素の発展の推進を加速。 |
韓国 | 2050年 カーボンニュートラル (長期戦略提出、2020年12月) |
カーボンニュートラル戦略を将来の成長の推進力として利用。将来世代の生存と持続可能な未来のために温室効果ガス(GHG)の排出量を削減するという課題は守らなければならない国際公約であり、この課題は将来の成長の機会とみなされるべき。 |
カーボンニュートラルに向けた取り組みは国レベルのみならず、各国の企業レベルにおいても推進に向けて活発に動いていると言えます。カーボンニュートラルを宣言した世界中の企業の中には日本の企業の名前も数多くあります。2050年のカーボンニュートラルを宣言した日本の取り組みはどのようになっているのでしょうか。
(1)カーボンニュートラルを実現するための対策
率直に言って、2050年までにカーボンニュートラルを達成する、という目標は非常に難易度が高い課題です。目標達成のためには、具体的にどのような対策が必要なのでしょうか。温室効果ガスに関する対策の方向性について説明します。
二酸化炭素の排出量を考える場合の指標としては、エネルギー消費量と二酸化炭素排出原単位の2つがあります。エネルギー消費量とは、その名の通り、どれだけエネルギーを使うのか、という指標ですが、エネルギー使用には電力として消費するものもあれば、非電力(熱や燃料として利用するもの)のエネルギーとして消費するものもあります。一方で、二酸化炭素排出原単位とは、燃料を燃焼したり電気や熱を使ったりするといった、一定量のエネルギーを使う場合にどのくらいの二酸化炭素が排出されるかを示す指標のことです。燃料を燃やしたり電気や熱を使ったりすることで排出される二酸化炭素の量は、
エネルギー消費量:エネルギーを使った量
という式で表すことができます。
二酸化炭素の排出を低減するためには、まずエネルギー消費量を減らすこと(省エネ)が重要になります。すぐに節電などが思いつくでしょうが、従来使用していた製品などをエネルギー効率が高い製品に変更することによってもエネルギーの消費量を抑えることが可能です。しかし、そうした対応だけではエネルギーの使用量をニュートラル(ゼロ)にすることは困難であり、こうした対策だけではカーボンニュートラルを達成することは不可能でしょう。
省エネの実施と共に、一定量のエネルギーを作る際の二酸化炭素の排出量を減らすことも必要になります。電力部門においては、再生可能エネルギーや原子力発電の利用などの電源の非化石化を推進すること、二酸化炭素を回収・貯留して再利用すること、カーボンリサイクルを併用した火力発電を利用すること、などの電源の脱炭素化を推し進める必要があると言えます。カーボンニュートラルの目標を達成するためには、電力部門における二酸化炭素排出原単位をニュートラル(ゼロ)にする、つまり、電源の脱炭素化が前提になるものと考えられます。
一方、非電力部門においては、エネルギーを自動車のエンジンなどの動力のための燃料として使ったり、工場や家庭で熱として利用したり、することでも二酸化炭素は排出されてしまうので、利用する燃料をより低炭素なものへと転換したり、クリーンエネルギーと呼ばれている水素や、イオマス、合成燃料、などへ変更することにより、二酸化炭素排出原単位を低減することが可能になります。二酸化炭素排出原単位を引き下げれば、二酸化炭素の総排出量を削減することへと繋がります。
非電力分野においては、高熱での利用や燃料での利用といった脱炭素化が技術的に困難であったり、高コストになってしまったりするケースもあるので、電力部門と比べると、二酸化炭素排出原単位を低減させることが一般的には難しいとされています。したがって、排出原単位がより小さい電力をエネルギー源として使用することによって二酸化炭素排出量を小さくします。電化を推進すると同時に電源の脱炭素化を実施することで、二酸化炭素排出量を小さくすることが可能になります。
二酸化炭素排出原単位の低減、省エネ、電化の取組、などを実施しても、どうしてもカーボンニュートラルができない部門や二酸化炭素削減に膨大な費用が必要になってしまう部分も残ってしまいます。また、非エネルギー起源による温室効果ガスの排出も実際にあります。こうした部分に関しては、植林を推進して光合成に使用される大気中の二酸化炭素の吸収量を増加させたり、BECCSやDACCSなどのネガティブエミッション(技術)を利用することにより大気中の二酸化炭素を減らすことが可能になります。
*BECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage)
BECCSとは、バイオマス燃料を使用した際に排出された二酸化炭素を回収して地中に貯めておく技術のことです。
DACCSとは、DAC(直接空気回収:Direct Air Capture)とCCS(二酸化炭素回収・貯留:Carbon dioxide Capture and Storage)とを組み合わせた造語で、大気中に既に存在している二酸化炭素を直接回収して貯留する技術のことです。
カーボンニュートラルを目指すためには、上述した①~④を組み合わせて、全体としてカーボンニュートラルの目標達成を目指すことが重要となります。
(2)どのような技術が開発・実施されているのか
それでは各分野においてカーボンニュートラルに向けてどのような技術的な取組が開発・実施されているのか、について紹介します。まず電力部門においては、再利用エネルギー導入の拡大、水素発電やアンモニア発電に関する技術開発が推進されています。
次いで、非電力部門においては工場などの産業分野で機械器具を動かすエネルギー源を電力へと転換する電化の促進やバイオマス発電の利用などのテクノロジーの開発に取り組んでいます。また、製造工程においても新たなテクノロジー導入が進められています。例えば、鉄鋼業などにおける製造工程に投入される原料として化石燃料を使っているような産業の場合は電化による非化石化を実施することが困難です。したがって、原料である石炭の代わりに水素を使用することによって低炭素化を図るテクノロジーの研究・開発が推進されています。
そして、化学産業においては、光触媒を利用することで太陽光により水から水素を分離して、その水素と工場から排出される二酸化炭素を組み合わせることで、プラスチック原料を製造することができる「人工光合成技術」などの研究・開発が進行しています。また、セメント産業においては、二酸化炭素を廃コンクリートなどに利用して炭酸塩として固定化して、原料などに使用するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略/で分離・貯留した二酸化炭素を利用しようというもの)の取組などが進められていて、コンクリート製品でも二酸化炭素を利用した「二酸化炭素吸収コンクリート」の開発が行われています。
次に運輸の分野においては、多くの方々が知っているEV(電動自動車)やFCV(燃料電池自動車)などの導入・拡大が進められています。また、我々の家庭レベルにおいても給湯器やコンロなどの導入といった電化促進や水素燃料電池の導入・利用の拡大なども進んでいます。
4.カーボンニュートラルの問題点と対応について
これまでの説明でカーボンニュートラルを推進することの意義や目的は理解してもらえたと思いますが、実際にカーボンニュートラルを推進する際にはいくつかの問題があります。それらの問題点と問題への対応についても説明します。
(1)カーボンニュートラルの燃料を利用した場合であっても、製造や輸送のプロセスで少量でも化石燃料を使用してしまえば二酸化炭素の排出量が上回ってしまう
植物を栽培、伐採、製造・輸送、する全てのプロセスを製品のライフサイクルと呼びますが、ライフサイクルの全体で二酸化炭素の排出量や吸収量を考慮して、そこで排出量と吸収量が同じ量になることで初めてカーボンニュートラルと言えることになります。化石燃料は燃焼時に排出されてしまう二酸化炭素を地中へと戻す手段に乏しく多くの時間が必要になるのでカーボンニュートラルとはみなすことはできず、化石燃料の燃焼で排出された二酸化炭素の大部分は大気中に残ってしまうと考えられます。したがって、少量でも化石燃料を使用すれば、地球を温暖化させる能力がある二酸化炭素を大気中に長期間留まらせることになってしまうのです。つまり、ライフサイクル全体の評価を通じてカーボンニュートラルを達成するためには、再生可能エネルギーの導入など、多面的な対策が必要不可欠になると考えられるのです。
(2)カーボンニュートラルには再生性が必要になります
カーボンニュートラルの再生性とは、植物由来の製品を燃焼・分解することで発生する二酸化炭素を、迅速に確実に地中に埋め戻すことができる性質、のことを指しています。例えば、植物由来の製品の原材料である森林や農場などを適切にマネジメント(管理)することで植物の栽培や育成を保持し続けることが可能になります。反対に、こうした管理を実施できなければ植物由来の燃料は化石燃料と同様に、長い期間にわたって地球を温暖化させることが可能な能力を持つ二酸化炭素を長く大気中に留まらせることになってしまいます。
(3)土地に関する問題
カーボンニュートラルを拡げていって、化石燃料や原材料を植物由来の燃料や原材料へと転換することになると、植物を育成して保全するための広い土地が必要になります。国家レベルでカーボンニュートラルに必要となる土地面積は*カーボンフットプリントで表すことが可能です。
カーボンフットプリント(CFP)とは、Carbon Footprint of Products の略称で、商品・サービスの原材料の調達から廃棄・リサイクルまでの全てのライフサイクル通じて排出される温室効果ガスの排出量を二酸化炭素へと換算して、商品・サービスなどに分かりやすく表示する仕組み、のことです。
具体的には、日本の場合は国土面積の約7倍に相当する269.7万haもの土地が更に必要になる(植物由来の燃料・原材料のエネルギー効率が化石燃料・原材料と同様の場合)、とされていて、世界全体では現状の耕作地や牧草地などの合計面積の1.2倍に相当する1.06ghaが更に必要になる(植物由来の燃料・原材料のエネルギー効率が化石燃料・原材料と同様の場合)されており、全てを賄うことは困難です。この問題を改善するためには、二酸化炭素の吸収能力や生長サイクルが速い植物を育成したり、燃料・原材料の利用効率を向上させて生物の生産力を高めたりすることが必要になります。
5.「カーボンニュートラル債」とはどのようなものか
カーボンニュートラルに関して説明してきましたが、最近では「カーボンニュートラル債」という債券が登場して話題を集めていました。ここでは「カーボンニュートラル債」に関して解説します。
カーボンニュートラル債とは、いわゆるグリーンプロジェクト(環境問題を解決することに貢献するようなビジネス)」に必要となる資金を調達することを目的に発行される債券のことで、「グリーンボンド」のひとつの形態であると言えます。カーボンニュートラル債の発行で調達した資金の用途は、二酸化炭素の排出削減効果があるグリーンプロジェクトだけに限定されます。また、二酸化炭素の削減などの環境効果に関する情報を公表して、実際にその削減効果が、計算可能、調査可能、検証可能、であることが必要になります。
2021年2月には、中国南方電網、中国長江三峡集団、華能国際電力、国家電力投資集団、雅礱江流域水電開発、という電力大手の5社と空港運営会社の四川省機場集団との合計6社が、中国で初めてとなるカーボンニュートラル債を発行しており、調達した金額は総額で64億元(約1,045億円)にも達しました。
その後も、2021年4月には中国の物流最大手である順豊控股(SFホールディング)が総額5億元(約83億円)のカーボンニュートラル債の発行完了を明かしました。このカーボンニュートラル債の略称は「21順豊G1」であり、償還期限は3年、表面利率は3.79%、となっています。中国でのカーボンニュートラル債の発行で民営企業が発行者となったのはこのケースが初めてです。
これまで説明してきたようにカーボンニュートラルを推進するためには新たなテクノロジーの研修・開発や広大な土地が必要になることなどから新たな資金を調達する必要が十分考えられます。そうした意味においては、世界各国においてカーボンニュートラル債の発行は増加するものとは考えられますが、金融商品としての流動性やデフォルトに対する保証などの問題が解消されることが先決かもしれません。
まとめ
世界的な潮流としてカーボンニュートラルに対しては各国とも積極的に取り組む姿勢を見せていますが、SGDsに環境保全の目標が含まれていることもあり、企業レベルでの取組も進められているようです。カーボンニュートラルに取り組むことは中小企業であっても大きなメリットを期待することができますし、中小企業ならではの緻密で小回りが利くような活動ができるのではないかと期待されています。
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