事業経営では、一人親方的会社は別として通常は従業員を抱えます。従業員の生活と家族を給料で支えています。役員は経営に関する意思決定に直接係わる立場ですから、人の集合体として利益追求型営利法人は人材育成と利益追求が一致しなければ、経営役員の仕事として相応しくないと評価されます。内部の問題としては、役員報酬が高額といえるかどうかです。高額なる役員報酬は、仕事実績を裏付けされた正当な報酬であり、組織的立場が上位になれば優遇され報酬も上がり、リーダーシップを握れると考えられがちです。果たして、すべてにおいてそうだと言えるでしょうか、検討してみましょう。
役員報酬額は企業経営・会計の落としどころ
多額な役員報酬は、組織的立場もあり権限も上位になると同時に高額になる現状があります。社会的上位と責任は報酬が上がることで評価され、上位を目指して頑張ってきた立身出世主義型社会を生み出しました。
激動する経済社会のなかで、果たして高額な役員報酬は実態に即しているかどうか、会社組織として適正なる利益分配が行われているかどうかが問題を解くカギになります。社会的立場と地位の上昇について、賃金に反映され役員クラスになると当然責任は重くなり報酬は多額になるという考え方です。結果として、企業が倒伏する原因は給与と人事査定に集約され、最終的にリストラまで行ってしまいます。そこが人材流出にもなり、経営の難しいところです。
会社は営利法人ですから、利益を生み出さなければ納税もできず、資金繰り上の借入れも難しくなります。財務諸表の中味をよく吟味するとき、法外な役員報酬が目につくときがあり、従業員の人件費と同様に再考したくなります。高額なる役員報酬は、少しでも財務上の資金繰りにおいて、足かせ手かせとならないようにしたいものです。
権限の強さと責任の重さ・給与など報酬の高水準は一致すべきと考えられてきた時代は、残念ながら過ぎ去りました。所得格差社会を生み出した原因は、企業経済社会にもあります。従業員に会社のため(利益向上のため)に忠誠心を尽くすように士気を高めたくても、高額なる役員報酬が士気を低めてしまうことは十分考えられます。
合理的に役員報酬を削減することを考える余地があると同時に、外部から非常勤役員を採用することで役員報酬額を少なくすることは可能です。中小企業の規模にもよりますが、役員人数を多くし過ぎると頭が重たい組織になりますから、丁度良いピラミッド型体制が望ましいです。
1. 「過大なる役員報酬の損金不算入」は合理的かどうかを検討する
中小企業でよくあるパターンですが、創業家は家族から始まり身内・家族主義で役員を構成しています。身内主義と家族主義は案外、経営規模に応じて有効に働かない場合があります。名前だけ役員・監査役などに連ねるだけではなく、役員報酬として毎月会社会計から支出されている実態はよくある事実です。
役員として名はあるけれども、「仕事として何もやってない」「会社に顔を出したこともない」などあり、報酬だけは毎月支出されてしまっている状態があります。しかも税務申告では「過大なる」役員報酬は損金不算入ですから、経費として僅少なる役員報酬を支出し経費に落とすことで、税法上は「過大」ではありませんから、合法的に損金算入が認められます。
それでは従業員たちは誰も納得できないでしょう。従業員の人件費削減と役員報酬の減額は、経費として車の両輪ですから、経営判断として合理的決定をしなければ偏りがちな経費削減を作ってしまいます。合理性は追求されるべきですが、合法性と合理的は乖離している場合はよくありますから、合理的な役員報酬を設定しましょう。
2. 「過大なる役員報酬の損金不算入」の法的解釈はどうか
「過大なる役員報酬」の「過大なる」は意外と論議があります。法人税基本通達を読んでみますと、明確な線引きがされていないです。金額明示で割り切ると「過大」か「過少」か判断できず、判定基準としてそぐわない言葉で羅列されています。
法律の曖昧さと基準は、「社会通念上」という一語ですべてを網羅しようとする逃げ道を持っています。「社会通念上、過大な役員報酬」とは一体、誰が正しく判定できるでしょうか。
「過大なる役員報酬は損金不算入」ですから、「過大」と認定すれば役員報酬は課税対象計算に算入されます。中小企業における内部留保資金は、大企業ほどではないでしょう。経済の基本である利益分配を行う場合、役員報酬削減は従業員の賃金支給継続に回せますが、人材を育て会社内部の判断力で会社事業を継続するかどうかの瀬戸際は必ずやってきます。
(中小企業庁/上手に使おう中小企業税制 48問48答)
「過大なる役員報酬」の「過大」という判定力は、会社で決めればいいことですが、中小企業でよくある事例に、使用人兼務役員があります。使用人であって役員を兼務している場合です。一生懸命会社のために苦労しているから、高額でも良いと考えられがちですが、そこに落とし穴があります。「過大なる役員報酬」は基準が曖昧で、税務調査によるところが多く、訴訟にまで発展するケースは少なくないです。
では、どうすればよいでしょうか。基準が曖昧ならば、会社独自で決められるから税務当局側の鉄槌には無理があるというものです。特に中小企業的体質は独裁型になりやすいですから、取締役会で報酬決定をして、総会の承認を得る手続きをしますが、簡単に承認されやすいです。
曖昧な法解釈は必ず訴訟と判例が積み上げられ、「社会通念」を形成しますが、会社事情によって異なるため一律に裁くことができない実情です。
(国税庁ホームページ/第6款 過大な役員給与の額)
3. 財務的資金繰りは役員人事で乗り切ろう
会社の資金繰りは、経営陣および会計担当者が常に頭を悩ませるおカネの問題です。役員報酬は、税務面で「過大なる役員報酬の損金不算入」になっています。「過大」と「定期給与」の解釈論は法的に決定的な線引きがされていません。だからこそ、会社側の論理が強いと思われがちですが、税務署の法人調査担当はそこを突いてきます。
「社会通念上」一般的に妥当と思われる通念など曖昧ですから、権力側が税収確保のために必死に食い込んだら厳しい調査決定を出します。最悪なるパターンは、中小零細企業は弱者ですから、弱いところから先に楽して獲れ、は現場ではよくある事実です。
一方、会社側は役員人事で乗り切ります。役員報酬を減額する大義名分は、外部から非常勤役員を設定できます。ある程度、年齢が高くても経験則は熟達していますから、報酬は安くても引き受けてくれるかもしれません。
中小企業は人材育成することで、会社の将来を託そうとします。年金受給者前後の高齢者であっても、まだ役に立ってくれますから、価値がある経験則があれば役員を引き受けてくれるかもしれません。少なからずの可能性を見つけることは、経営陣としてとても重要です。
役員報酬 まとめ
役員報酬は高額にしたほうが会社の強さになるかどうかを考えましょう。会社全体の会計における人件費として足を引っ張る高額役員報酬は、従業員を下から上にあげ上昇志向にさせる狙いはあります。ところが、上にあがれば、責任力もあり報酬も多くなるという考え方は正しいと言える時代でもなくなりました。
税務認識における法的解釈の曖昧さはグレーゾーンですが、「過大なる役員報酬の損金不算入」における「過大」は、「一般社会通念に照らして」という判断が難しい言葉が羅列しています。報酬金額と社会通念は、時代と共に変わり、会社の事情によって違ってきます。役員報酬における道筋は二者択一式です。ダイナミックに削減するか、高額にするならば従業員育成など重きを置かず事業に邁進するかです。
少なくても、会社登記簿で設定されている法人役員の名が、仕事として見合った報酬を獲得しているかどうかをよく精査する同時に、仕事量と実績をよく吟味して役員報酬を増減したり、役員人事で困難な財務状態を乗り切りましょう。
役員報酬の会計処理や仕訳を知りたい方は、「役員報酬は損金算入できる?会計処理や仕訳での注意点を一挙公開」の記事も参照してみてください。