我々が期待している先端的なテクノロジーと企業が提供しているサービスとの間にはギャップが生じているケースがあります。このようなギャップのことを「テック・クラッシュ(Tech-clash)」と呼んでいます。
このようなギャップが拡大するとテクノロジーに対する人々の信頼は低下することとなり、先端技術と人間が寄り添って協働できるような社会の実現は遠退いてしまうかもしれません。
本稿では、テック・クラッシュの概要とその影響、テッククラッシュの前提となる2030年代の社会とは、中小企業におけるテック・クラッシュの影響とその対策、などについて詳しく説明します。
1.「テッククラッシュ」とは
我々がかつてなかったほど様々なデジタルテクノロジーを生活の中に組み込んでいる昨今の状況下において、そのデジタルテクノロジーを提供している企業や組織が我々の期待に十分応えているのか、というと必ずしもそうではない部分もあると考えられます。
現在のビジネスを取り巻く環境そのものを「テッククラッシュ(デジタル・テクノロジーへの反発)」と呼ぶこともありますが、本質的には、我々の期待やニーズと企業が提供しているテクノロジーの活用との間に差(齟齬、ギャップ)があることを「テッククラッシュ」と呼んでいます。
「テッククラッシュ」について初めて取り上げたのは、世界的にも有名なコンサルティング企業であるアクセンチュアです。アクセンチュアは2020年2月に発表した「アクセンチュアテクノロジービジョン2020」という年次調査レポートにおいて、新型コロナ感染症の影響により「テッククラッシュ」が一層深刻な問題へとなり得る、としている。
この「アクセンチュアテクノロジービジョン2020」では、人の期待やニーズと、それらを充足・適合しない企業のビジネスモデルやデジタル技術とのアンマッチ(不一致)を「テッククラッシュ」という言葉で表しています。
企業がこれまでの既知のビジネスモデルを追求し続けることにより、その先の未来に登場するであろう企業による革新(イノベーション)や成長の期待や可能性を阻害・制限してしまう可能性が危ぶまれるのです。
これまで以上に我々の社会の中で先端技術(デジタルテクノロジー)による影響力が強まる状況において、「次の10年間」で企業が勝ち残るためには、企業が、クライアント(取引先)顧客、従業員、などと協調して将来像を描くことが可能な新しいビジネスモデルを築き上げることが必要不可欠です。
そこで、アクセンチュアは「アクセンチュアテクノロジービジョン2020」で、ポストコロナ時代の技術的な傾向(テクノロジー・トレンド)を以下のように定義しました。
- 体験の中の「私」:The I in Experience
- AIと私:AI and Me
- スマート・シングスのジレンマ:The Dilemma of Smart Things
- 解き放たれるロボット:Robots in the Wild
- イノベーションのDNA:Innovation DNA
1.イノベーションのDNA:Innovation DNA
企業は、個人レベルにおける選択肢が増える・広がるように、その人に適合した経験・体験やプラットホームを構築・設計することが求められるようになります。「自力で統制(コントロール)することが不可能であり、疎外感を感じている」という気持ちにさせてしまうような非インタラクティブな経験を、インタラクティブ(双方向性)な経験へと変換することができれば、人にアグレッシブな気持ちをもたらせうことがが可能になるでしょう。
2.AIと私:AI and Me
企業は、AI(人工知能)を作業や業務の自動化や簡素化のための手段のみならず、人が行う業務に新たな付加価値を与えるものである、と意識して利用することが必要不可欠となります。AI(人工知能が)日々刻刻と進化している状況下において、企業は顧客や取引先などからの高い信頼と透明性のある情報開示などを確保しつつ、業務にAI(人工知能)を導入するために業務そのものの設計をあらためて検討することが求められます。
3.スマート・シングスのジレンマ:The Dilemma of Smart Things
既に現在は、常に製品はβ(ベータ)版(正式版を公開(リリース)する前の段階で利用者に試しに利用してもらう目的で作られた見本版としてのソフトウェアのこと)である、という時代になっており、物理的に「製品持っている」ということの概念に揺らぎが見え始めています。企業がデジタル技術をベースにした新しい製品やサービスの提供を検討している中において、前述したような新しく到来する時代の準備を整えることは不可欠でしょう。
4.解き放たれるロボット:Robots in the Wild
もはや倉庫や工場だけがロボット(ロボティクス)の活躍する場ではありません。新しい無線技術である5Gの登場と利用の拡大によって、ロボットを活用することがますます加速していくものと考えられます。そしてこのような環境下を踏まえて、あらゆる企業が自社の将来を検討し直す必要に迫られるものと考えられます。
5.イノベーションのDNA:Innovation DNA
企業は、ブロックチェーン(分散型台帳)、AI(人工知能)、VR(拡張現実)などを代表例とした、これまでには考えられなかったような多様かつ衝撃的な先端技術(デジタルテクノロジー)を利用可能な環境の中に存在しています。このような先端技術の全てを企業が管理して、マーケット(市場)が要求している速度で進化するには、自社オリジナルの革新的な企業理念やDNAを築き上げることが必要になるでしょう。
2.新型コロナ感染症の拡大とテッククラッシュの深刻化
前回発表された「テクノロジービジョン2019」においては、従来からの技術理念(テクノロジービジョン)をベースに継続された主要テーマとなる、デジタルテクノロジーが日常的なものになるという「来るべきポスト・デジタル時代」に関して言及していました。ところが、「テクノロジービジョン2020」においては「ポスト・デジタル時代を生きる企業が『テック・クラッシュ』を乗り切るには」をテーマとしました。
例えば新型コロナ感染症と関係が深い医療分野においては、遠隔診療(オンライン診療、バーチャル診療)が一般に普及し始めると同様に、提供される医療サービスの高いクオリティ)品質)の確保が認められており、多数の患者が医療(ヘルスケア)アプリを利用することをスタートさせていて提供されているサービス内容にも不満を感じている人は少ないようです。
しかしながら、他方で新しい医療サービスを実現させることを阻害しているファクターも多く存在していることも間違いはありません。例えば、閉鎖的な医療システムのモデル、患者中心ではなく医療業務を中心とするビジネスモデル、企業が中心にいる医療データを保有するようなモデル、といった、従来のモデルを今後も持続することは大きなリスクを内包している、と言わざるを得ません。
上記のように、デジタルテクノロジーを当然のものとして使い始めようとする一般の利用者に対して、企業が自社のみ視点においてサービスや顧客の囲い込みや選択をして、デジタルテクノロジーをこれまでの業務の効率化を図る手段としてだけ認識して、回収された膨大なデータは特定の企業だけのものとして利用するような独善的なスタンスのままであれば、その企業は多くの国民からの信頼を失うことになりかねません。
3.テッククラッシュの前提となる2030年代に予想される社会とは
仮想空間と現実空間とがハイレベルで密接している「Society 5.0(超スマート社会)」を実現していこうとする国を挙げた政策とも絡んで、これからはますますデジタル技術の進展が世間に大きな変化を持ちこむものと考えられています。
その場合には2030年までには以下のような環境変化が想定されます。
環境 | 予想される主な変化 |
政治(Politics) |
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経済(Economy) |
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社会(Society) |
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技術(Technology) |
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上記のような変化の速度は日増しに加速しており、現時点で既に、先端的なデジタル技術が我々の日常的な生活に入り込んできていて、各個人における顧客体験を形成する「ポスト・デジタル時代」と呼ばれている時代を迎えていると言われています。
新たな時代を迎えた2030年代にはどのような社会が開かれていると予想することができるのでしょうか。
2030年代のイメージ
カテゴリー | 主なサービス | 解説 |
インクルーシブ :年齢や性別、そして国籍などに関係なく、誰であっても個々人の様々な価値観・ライフスタイルを重視して、自身が望む人生を生きていける「包摂(インクルーシブ)」な社会 |
職場スイッチ | 1つ以上のいくつかの仕事に就労して、時間を切り売りすることで自身の能力を最大限に活用。自宅のみならず喫茶店などでも、切替スイッチをオンにすることでバーチャルな空間を効率的に利用。仕事は複業、稼働場所は会社や組織による制限を受けることなく、個人の多様なな才能を発揮。 |
健康100年ボディ | 行楽行事(ハイキングなど)に集合した人は80歳以上の高齢者ばかりだが、皆一様に元気一杯。ただし、身体の一部機能をサポートするためにフレキシブル・アーム(補助アーム)や拡張現実眼鏡(ARグラス)といったものを装備。人生100年時代を迎えて、衰えた頭脳や身体は最先端技術でカバー・補助することで高齢者が活力ある日々を過ごせる。 | |
パノラマ教室 | 教室の壁や天井などが表示装置(ディスプレイ)となることでプログラミングを利用して作られたアプリヶーションのデモ表示をすることが可能。仮想現実(VR)においては様々な場所や時代を体験して学習することができるように。基本的な「読み」「書き」に加えて「デジタル」についても世界中の人材と互角に競い合うための武器を子供の頃から身に付けさせる。 | |
お節介ロボット | 起床、歯を磨く、服を着替える、朝食の用意、といった多忙な朝の支度をストレスなく準備できるような「お節介なお手伝いロボット」。ロボットもファミリーの一メンバーであり、ロボットと人間が、会話や生活支援などを通して共同生活する。 | |
あらゆる翻訳 | 目や耳に障がいを持っていたり、外国語が苦手だったりしても、自ら選択したメニューを利用してミーティング内容などを翻訳し相手に伝えることができるシステム。自分でチョイスしたメニューで打ち合わせの内容などを翻訳して柔軟に双方向のコミュニケーションが可能。 | |
コネクティッド(連結) :地域に偏在しているリソース(資源)を集約して活用する圧縮化(コンパクト化)やリモート操作が可能になる網状組織化(ネットワーク化)で、人口が減少している環境下であっても各メンバーが連携している組織(コミュニティ)を維持するとともに、新しい絆を創設する「連結(コネクティッド)」な社会 |
どこでも手続 | 24時間いつでも受付可能なネット窓口が当然の社会となり、例えば、モニター画面をタッチすると画面に登場する、まるで現実にそこに存在しているかのように思える有能な執事のようなロボットが、旧来の「不親切・時間がかかる・杓子定規」といった悪いお役所の印象を大きく変化させる。 |
あちこち電力 | 非常に巨大な規模の災害が発生したとしても、非接触電力伝送(ワイヤレス給電)など、「あちこち」の場所で電力を確保。決して中断されることのないネットワーク通信を介して、安全に避難誘導をしたり安否を確認したりすることに威力を発揮。 | |
いつでもドクター | 自宅でも繁華街の中であっても、生体内に埋め込んだ端末(インプラント端末)やセンサーによって患者の健康管理を支援。もし異変が生じた場合にはAI(人工知能)を活用して簡易的に早急な診断を実施し、その後に専門分野の医師が速やかに身体に対する侵襲度(身体に害を及ぼす可能性があるおせっかいとその程度)が低いような医療機器を使用する治療(超低侵襲治療)。医療体制としては24時間のモニタリング、病気に対しては予防と早期の発見を軸にすると同時に治療も著しく進化。 | |
時空メガネ | 歴史を有している観光地など、拡張現実(AR)で自分が好きな時代におけるその場所の景色を今に再現。景色のみならず、音・匂いも再現するこにより、一層感動的な体験を得ることが可能に。 | |
クルマヒコーキ | 自動運転による空陸両用のタクシーが日常的な近中距離の移動・輸送手段へと成長。労働力人口の大幅な減少に悩む過疎地や高齢者などの足となることで、事故などの問題も大きく解消。 | |
トランスフォーム(変容) :そもそも設計を変更することを前提に、柔軟かつ即応可能なアプローチを採用して、イノベーション(技術革新)やマーケット環境の激変に適応して発展できる変容(トランスフォーム」な社会 |
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らくらくマネー | 買い物の支払は完全にキャッシュレスな支払へ。これまでの購買の履歴を作成したり、信用データを形成したりすることも自動で行うことが可能。一方で、家計の管理やローン申込、そして各種の申告においても簡単に活用することができる。 | |
全自動農村 | 農地や畑などにおける仕事は、IoT、ドローン技術、ロボット(ロボトニクス)、などが担当して、農業における労働力不足や高齢者に対する負担を軽減・解消。さらに、農業生産性も向上し、田園風景や景観の維持も可能。 | |
選べる配達 | 空からはドローンが、玄関前にはライドシェアの車が、そしてまるごとスーパーが自宅の近所に。様々な無人配達手段をインターネットを利用してチョイスすることが可能となり、交通手段が限られていた「買い物難民」が解消されます。 | |
三ツ星マシン | 各地方の有名な素材や材料を使用しつつ、食べる人の健康状態も考慮しながら、例えば、有名なレストランの味を人工知能(AI)が正確かつ迅速に再現。 | |
手元にマイ工場 | 普段利用している日用品、雑貨などのデータを購入して自分でプリント(形成)。これまでに学習したプログラミング技術を利用して、世界にたった一つだけの意匠(デザイン)に加工。 |
4.中小企業におけるテック・クラッシュの影響とその対応
前述したように、2030年代のイメージはデジタル技術がますます進化することにより、多くの人の生活が便利になると同時に、そのような進化に取り残されてしまうことにより、テッククラッシュがさらに深刻化してしまう可能性も考えられます。
また上記のほとんどの新たなサービスは大企業を中心に提供される可能性が高い、と考えてしまう人も多いのではないでしょうか。確かに新たなサービスの基幹技術の開発は大きな資本を有している大企業が有利な点は否めないかもしれません。
確かに前述したような社会を実現するための先端技術やデジタルテクノロジーの開発やそれらを活用した製品やサービスのマーケティングは、大企業にとっては有利なフィールドであると考えられるので、中小企業にとっては「2030年代に予想される社会」を実現するための関与は考えにくい、と思われてしまうのかもしれません。
しかしながら、基幹技術の開発そのものは大企業の方が有利なのかもしれませんが、一般生活者の視点に近く、より身近な存在として商品やサービスの活用や改善を実施することは、中小企業の方が得意な分野もあるかもしれません。
(1)テッククラッシュが中小企業に与える影響
一般生活者と同様に、中小企業そのものも大企業が推進しているデジタルテクノロジーに対して不安を感じているケースが多いと考えられます。アナログな技術に基づいて製品やサービスを提供していた中小企業のビジネスモデルは、最先端のテクノロジーを活用した効率的な生産性を有する大企業との戦いにおいては不利になる点は否めません。
しかし、中小企業には機動性や柔軟性といった武器があることを忘れてはいけません。多くの国民が(主に大企業が提供している)デジタルテクノロジーの利用に関して不安に感じていることを解消するための施策を実施することが可能なのではないでしょうか。
例えば、「2030年代のイメージ」で取り上げた「いつでもドクター」を例に挙げると、生体内に埋め込むセンサーの開発のような個別要件に特化した開発業務であれば、これまでセンシング技術に関わっていた中小企業は積極的に参入可能ではないかと考えられます。
また、同様に、簡易的かつ迅速な診断を可能にする人工知能(AI)の開発となれば大企業が有利なのかもしれませんが、24時間モニタリング体制が実現されれば、その膨大なモニタリング結果のデータを集約・整理するためのソフトウェアが必要になるので、ヘルステックに関与しているベンチャー企業にとってはビジネスチャンスになるものと考えられます。
それでは、中小企業はテッククラッシュを生じさせるような社会の変化に対してどのように向きあえばよいのでしょうか。
(2)中小企業がテッククラッシュに巻き込まれないための対策
①デジタル技術が社会にもたらす変化を前向きに補足
一般家庭で使用されている、鍋、釜、などまでがデジタル化されるような時代においては、大手企業のみならず中小企業も含む全ての企業にとって大きなビジネスチャンスが生じていると言えます。2005年末には、一般家庭で利用されている製品の内、最低でも30品目以上の製品がデジタル化される可能性が高い、と言われていましたが、実際にはもっと多くの日常生活用品がデジタル化されているのが現状です。
したがって、メーカーであれ流通サービス業であれ、中小企業にとってもデジタル化の推進・普及は何らかのビジネスチャンスが生じるものと前向きに捉えるべきでしょう。そのビジネスチャンスがいったい何なのか?、というポイントについては、常に高く広くアンテナを張り巡らして情報収集をするべき、と考えられます。
②スモールメリット(経済的恩恵)の時代への変化を明確に認識
モノづくりを中心とした、いわゆる工業化された社会においては、ヒト、モノ、カネ、そして情報を保有している大企業が経済競争に必ず勝利するのが一般的な常識でした。しかし、社会がデジタル化されていくと、効率性、迅速性、発想力、創造性、などが勝負の決め手となると考えられます。
そういった意味において、これまでの成功パターンに囚われているような大企業ではなく、まだ誰も挑戦したことのない新たなビジネスのフィールドに身軽かつ柔軟にチャレンジできるような中小企業にとっても大きなビジネスチャンスに巡り合うことが可能な時代になっていると言えます。このような時代の変化を明確にと認識することが極めて重要と考えられます。
③スピードは最高の経営資源
デジタル化社会における速度というものは、まるで1ヶ月の期間がたった1日ぐらいの感覚で感じられてしまうような非常にスピーディな時代である、と言えます。したがって、もっと簡単に言い換えると、従来は5人で担っていたような仕事は、たった1人であっても十分こなせるように業務を進める工夫が求められる、ということになります。
つまり、業務を効率化しないとデジタル化された社会においては取り残されてしまうでしょう。その芦有は、先端的なデジタル技術を十分に活用して、迅速に効率活用することができないような企業や組織はあっという間に世間から見捨てられてしまう可能性が高いかたです。厳しい企業間競争に耐えられるような経営のスピード感覚や迅速性のある経営を実現するためには、中小企業であってもデジタル技術に精通するように努力することが大切です。
④企業と個人と家庭の大きな変化の認知
デジタル化した社会が与える影響で最大の特徴となるのが、企業、個人、家庭、それぞれの関係性を大き変化させる可能性がある、という点でしょう。例えば、個人はデジタル化された先端テクノロジーを利用して、現状では新型コロナ感染症の影響も大きいと考えられますが、SOHOのような自宅や外部のオフィス(リモートオフィス)など仕事をするようになっています。
そのような新たな働き方を支えている「働く場所」においては、企業や組織以上に、個々人が重要・大切であるという新たな価値観が誕生して、変化していくものと考えられます、すると、従来のような企業、個人、家庭、のような関係は成立しなくなってくることが明白になってくるでしょう。こうした大きな変化を先ず認知することから始めて、早い段階で対応策を準備することが中小企業がテッククラッシュを乗り切るヒントになると考えられます。
⑤ハイレベルな情報化と自然環境との整合性・バランス
既にスタートしていると考えられる本格的にデジタル化された社会の到来は、溢れかえるような多種多様な情報の量・スピードを内包する新しい価値観に溺れてしまいそうになるような環境下で、デジタルな文化とヒューマニティ(人間性)との整合性をとることが困難でバランスを失いやすい状況に陥ってしまう可能性が考えられます。
したがって、自然と触れ合う時間を重視するような、精神的な癒しやダイレクトな人間関係の温もりが今後は大きなテーマ(題材)となってくると考えられます。このようなテーマをどういう形で実際に顕現化していくのか、という観点は中小企業にとっても大きなビジネスチャンスの到来である、と認識しておくことが重要です。
(3)「中小企業デジタル化応援隊事業」について
中小企業庁は、中小企業におけるテレワーク導入などのデジタル化事業をサポートするために、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)に「中小企業デジタル化応援隊事業」の予算を計上しています。
「中小企業デジタル化応援隊事業」とは、個人の「IT専門家」とデジタル化やITの活用に悩んでいる「全国の中小企業・や規模事業者」の募集・登録をスタートしています。多種多様な経営における課題を解決するための支援策として、 デジタル化やIT活用に関する専門的な支援体制を整備・充実させることを目的に、個人事業中主、兼業や副業をしているような人材を含めた個人などのITのスペシャリストを「中小企業デジタル化応援隊」に選んで、活動をサポートする取組を「中小企業デジタル化応援隊事業」と呼んでいます。
具体的には、中小企業は、一般的な時間単価から「最大で3,500円/時間」を控除した金額でサポートを受けることが可能です。また、中小企業はミニマムで500円/時間の支払をすることが補助の要件になっており、個人などのITスペシャリストは、中小企業との間の個別的な契約で時間単価の報酬を受けることが可能です。
また、この事業は、新型コロナウィルス感染症の拡大防止、中小企業における事業活動の維持・強化、これから数年にわたって大きな社会課題となる各種制度の変更(例えば、働き方改革、雇用者保険の適用範囲の拡大、人件費の高騰(賃上げ)、)などに柔軟かつ適切に対応するため、リモート会議システムの導入、ECサイトの構築、クラウドファンディングによる資金調達、オンラインで実施されるイベント、ロボティクス、などを利用しようと考えている中小企業等に対して、前述したようなデジタルテクノロジー(ツール)に詳しいプロフェッショナルな専門家・実務家(IT専門家)を通じてハンズオンなサポートを提供可能な事業で中小企業などのサステナブル(持続的)などデジタル化に求められるサポート環境を整えることを目的としているのです。
このようにデジタル化の推進そのものを心配している中小企業に対しては、国の視点からサポート体制を構築しようとする試みが既に始まっています。
まとめ
テッククラッシュはデジタルテクノロジーに基づく製品・サービスを提供する企業と、その製品・サービスを利用しようとしている一般的な国民との意識のギャップが拡大してしまうこと(簡単に言えば国民が望んでいない先端技術を押し付けられてしまう懸念)を指しています。
確かに企業が提供する最先端のテクノロジーを活用した製品・サービスは、人によってはToo Muchであり、宝の持ち腐れになってしまう懸念はあり得るでしょう。そこでより一般生活者の目線に近い、中小企業における新たなデジタルテクノロジーの理解と、そのテクノロジーを用いた製品やサービスの開発・普及がテッククラッシュを乗り越える要因になる可能性が考えられます。
つまり、テッククラッシュによる企業と国民とのギャップを埋めるためには、国民目線をきちんと確保した、最先端の技術を活用した製品・サービスの提供が必要不可欠である、と考えられます。