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コロナ禍における企業の決算・監査対応 通常時と異なる点を解説

コロナ禍における企業の決算・監査対応 業務改善

新型コロナ感染症の拡大は抑制されるどころか、足元においても広がっており今後とも深刻な影響が懸念されています。そうした環境下であっても、年度末を到来しますし、企業における決算・監査や開示という業務を実施することを避けることは難しいでしょう。

既に2020年3月決算の際には新型コロナの影響は生じており、いくつかの施策が実施されましたが、大きな混乱はなかったように思われます。もちろん、その当時とは状況が大きく異なっているので新たな施策が追加される可能性は十分に考えられますが、2020年3月決算の際の決算・監査対応を振り返って参考にすることは重要だと考えます。

2020年3月の決算・監査対応について、通常時と異なるどのような対応が行われたのか、以下に詳しく説明します。

1.新型コロナ感染症に関連した企業決算や監査などの対応について

2020年3月末の決算や監査について発表・実施された内容に関して以下に詳しく解説します。

(1)企業決算・監査及び株主総会の対応に関する梶山経済産業大臣(当時)の談話

①新型コロナウイルス感染症による厳しい状況が今後も続くと見込まれる中で、決算発表を延期する企業も出てくるなど3月期決算企業の決算・監査に関する業務に大きな遅延が生じる可能性が高まっている。

②もっとも、企業の決算や株主総会運営の業務に携わる方々の健康や安全にも十分にご配慮を頂く必要がある。今こそ中長期的な成長を念頭に置いた経営判断が求められるところ、ここで焦ることが、かえって企業全体のオペレーションに悪影響を与えることは避けなければならない。

③企業においては、6月末に開催されることが予定されている株主総会につき、その延期や継続会(*会社法317条)の開催も含め、例年とは異なるスケジュールや方法とすることをご検討頂きたい。

*継続会(会社法317条)とは
株主総会の議事には入ったが、そこで審議が終了せずに、後日において続行(継続)した場合の、その継続審議を行う「場」のこと

④株主・投資家においては、決算作業の適切な遂行や従業員の安全確保に努める結果として、株主総会の運営につき、例年とは異なるスケジュールや方法とすることに十分にご理解頂きたい。

⑤経済産業省としても、上記の円滑な実施のために、最大限のサポートをしてまいりたい。

<出典:https://www.meti.go.jp/speeches/danwa/2020/20200424.html

上記のように、令和2年4月24日時点で3月期決算企業における決算や監査の業務が大きく遅れてしまう可能性があることを懸念しているが、焦らないで会社全体の業務に悪影響を与えないようにして欲しい、また、株主総会の延期や開催日時の変更も検討して欲しい、というメッセージを経済産業大臣から発しています。

2021年3月決算やその後の株主総会についても、現在の新型コロナ感染症の影響を考慮すると、経済産業大臣などの関係省庁の大臣などから何らかの談話が発表される可能性はあり得る、と考えられます。

(2)新型コロナウイルス感染症の影響による株主総会対応について

株主名簿管理人の信託銀行が加盟している一般社団法人信託協会から、株式の発行会社や機関投資家などに対して、株主総会実施日の延期・変更などにおいて注意すべき事項に関しての公表が実施されました。(令和2年5月14日)

主な内容は、

  • 株主総会の実施日を延期するような場合には、極力早いタイミングでその情報をアナウンス(開示)すること
  • いつも通りの日程で株主総会を開く場合であっても、招集通知を発送する前にHPなどを利用してWeb開示すること
  • 株主総会運営に係るQ&A」を踏まえて、株主に対してパソコンやスマートフォンなどによるインターネットを利用した権利行使行使を勧めること
  • 招集通知発送が遅れてしまうことにより、議決権を行使する期間が短い期間に集中してしまうことが考えられるので、適正・早期に議決権の行使指図を実施すること

(3)定時株主総会の開催について(法務省、令和2年5月15日更新)

定時株主総会の開催は事業年度が終了してから3ヶ月以内に開くケースが多いようですが、会社法の第296条第1項では、「事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないもの」と定められているものであり、必ず決算後3ヶ月以内に開かなければならないとはしていません。

定款で定めた時期に定時株主総会を開くべき、とされている企業では、自然災害などの理由で定められた時期に定時株主総会を開くことが不可能なケースにおいては、その開催不可能な状況がなくなった後に、合理的な期間内において、定時株主総会を開けば問題ない、とされています。

もしも定款で定めた定時株主総会における議決権の行使基準日から3ヶ月以内に定時株主総会を開くことができない状況になってしまった場合には、あらためて議決権の行使基準日を決める必要があります。また、その議決権の行使基準日の2週間前までに、基準日と基準日株主が行使可能な権利内容を公告しなければなりません。

(4)新型コロナウイルス感染症拡大下における、株主総会運営に係るQ&A

新型コロナ感染症が拡大する環境下で、より安全に会社が株主総会を開催・運営するために、経済産業省と法務省は株主総会の運営において考えられる事態・事項に関して、「株主総会運営に係るQ&A」として考え方を公表(令和2年4月2日)しました。

例えば、発熱・咳といった症状がある株主に、入場拒否や退場命令をすることは可能か(回答例:可能、問題ない)、新型コロナ感染症の拡大防止に対して必要な対応を実施するために株主総会の時間短縮は可能か(回答例:可能、合理的な措置の実施は問題ない)、といったQ&Aが掲載されています。

(5)オンラインなどによる株主総会の開催

令和 2 年2 月26日に経済産業省は「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」の策定を行っております。
株主総会を開催する実際(リアル)の「場」を設定しておいて、オンラインなどによる参加を認めた株主総会を開催することは、現行法において問題はありません(可能です)。

*ハイブリッド型バーチャル株主総会
役員や株主などが同一の会場(物理的な場所)において株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場所には実際にいない株主がインターネットなどを利用して、リモートで(遠隔地から)出席することが可能な株主総会をハイブリッド型バーチャル株主総会と言います。

ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」における論点としては、例えば、議決権行使に関しては、参加型の場合は開催日当日にインターネット等の手段を用いて参加する株主は当日の決議に参加することはできない、としています。

したがって、議決権行使の意思のある株主は、書面や電磁的方法による事前の議決権行使や、委任状等で代理権を授与する代理人による議決権行使を行うことが必要であり、その旨を事前に招集通知等であらかじめ株主に周知することが望ましい、としています。

(6)企業決算・監査などの対応

令和2年4月14日に新型コロナ感染症拡大の影響をうけた緊急事態宣言が発出されて、金融庁は有価証券報告書など(ほかにも、四半期報告書、半期報告書、親会社等状況報告書、を含む)を提出する期限に関して、内閣府令を改正し、個別に申請をしなくても、一律で令和2年9月末まで延長する、と公表しました。

これは、「新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を踏まえた有価証券報告書等の提出期限の延長について」という名前で、令和2年4月14日に金融庁が公表したもので、当時の状況を踏まえると、その後の令和2年3月決算の企業をはじめとする非常に多くの会社で、決算や監査の業務を通常年のように進めることが難しくなるであろうことを予測して、十分な作業時間を確保することを目的に期提出限の延長が図られた、と考えられます。

また、新型コロナ感染症の影響拡大により、そもそも決算・監査作業を実施することができない企業については、そのような状況が解消された後でできるだけ速やかに提出することで、提出期限に遅れることなく提出したものとして扱われるようにもしました。

そして、新型コロナ感染症の影響がある中での企業決算の作業や監査などに関して、関係者の間で現状認識や対応方法などを共有するために、「連絡協議会」を設けることにしました(令和2年4月3日、金融庁)。

連絡協議会には、JICPA(日本公認会計士協会)、ASBJ(企業会計基準委員会)、SAAJ(日本証券アナリスト協会)などが名を連ねており、オブザーバーには、全銀協(全国銀行協会)や関係省庁(法務省、経済産業省)が参加しており、事務局は金融庁が務めることになっています。

(7)確定申告期限の柔軟な取扱いについて

令和 2 年 4 月 6 日に国税庁は「確定申告期限の柔軟な取扱いについて」という資料を発表(令和2年4月6日)しています(「令和2年分確定申告における感染症対策について」という新たな情報も令和2年12月に発表されていますが、本件に関しては後述します)。

主な発表内容は、令和元年分の、申告所得税、贈与税、個人事業者の消費税、に関する申告・納付期限は、新型コロナ感染症を拡大防止するという目的から、令和2年4月16 日(木)まで延長する、というものです。

また、期限内に申告を行うことが難しい場合には、期限を設けずに、4 月 17 日(金)以降でも確定申告書を受け付けるという柔軟な対応をすることにする、ともしています。申告書作成、あるいは税務署に来ることができるようになったタイミングで税務署に連絡してもらえれば、申告期限を延長する、という取扱をする、ともしています。

(8)「新型コロナウイルスの影響により株主総会の延期等を行う場合の役員給与の損金算入について」

経済産業省は、新型コロナ感染症の影響を受けて決算や監査における業務に大きな遅れが発生して、株主総会の延期などを実施せざるを得ない企業の役員給与に関する法人税法における損金算入の手続などの考え方を「新型コロナウイルスの影響により株主総会の延期等を行う場合の役員給与の損金算入について」で公表(令和2年6月12日)しました。

①定期同額給与

定期同額給与とは、企業が役員に支給する給与に関して、支給時期が1か月以下の決まった期間毎になっている給与で、当該事業年度のそれぞれの支給時期の支給額、あるいは支給額から源泉税額を除いた金額が同じであるもの、を指します。

定期同額給与を改定するためには、会計期間が開始する日から3月*を経過する日までに実施することが必要な条件になっています。

*「法人税法の第75条の2第1項各号」の規定を適用されているようなケースでは、その指定された月数に2を加えた月数となります。

新型コロナ感染症の影響で決算や監査に関する作業が大きく遅れてしまい、定時株主総会も延期せざるを得なくなってしまったことで、定時株主総会にタイミングを合わせて、継続して例年決まった時期に行われる通常の役員給与の改定が3月経過した後で実施されるような場合であれば、自己都合ではない、法人税法施行令第 69 条第1項第1号イに定められている「特別の事情があると認められる場合」に該当するものと考えられるので、定期同額給与に関する通常改定時期の要件を充足することになる、と考えられます。

②事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、会社の役員に決まった時期に決まった金額を支払う、という内容を決めてて、あらかじめ税務署に届出を行って支払う給与、のことです。

新型コロ感染症の影響で、決算や監査に関する業務が大きく遅れてしまい、定時株主総会も延期せざるを得なくなってしまったことで、事前確定届出給与に関するルールに関する株主総会決議が通常年の株主総会決議のタイミングよりも遅くなってしまったために、届出期限(法人税法施行令第 69 条第4項第1号、4月経過日など)までに事前確定給与に関して届け出ることができないような場合には、届出期限の延長(国税通則法第 11 条)が認められることになります。

③業績連動給与

業績連動給与とは、企業あるいはその企業と支配関係にある企業の業績と役員給与の金額を連動させる制度のことを言います。

新型コロ感染症の影響で、決算や監査に関する業務が大きく遅れてしまい、定時株主総会も延期せざるを得なくなってしまったことで、適正な手続きを経由した業績連動給与の決定が3月経過日等後になってしまった場合には、適正手続き終了時期の要件(法人税法第 34 条第 1 項第 3号イ)を充足しないことになります。

しかし、以下のような場合には、その決定は3月経過日等までに実施されたものと見做されますので、「適正な手続を終えた時期」の要件を充足したものとされます

  • 継続会(前述を参考)を開催する場合には、3月経過日等までに開かれる当初の株主総会において役員選任決議と同じタイミングでの決議で業績連動給与を決めて、その後に決算報告を継続会で実施するような場合
  • 3月経過日までに開かれる報酬委員会や報酬諮問委員会への諮問を経由した取締役会で業績連動給与を決めて、延期された株主総会で業績連動給与に関する金額などの承認や役員選任の決議を実施するような場合

(9)新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の早期開示のお願い

東京証券取引所は令和2年3月18日に「新型コロナウイルス感染症に関するリスク情報の早期開示のお願い」を発表しています。主な内容は以下の通りです。

新型コロナ感染症の拡大により、多数の上場会社における企業活動やや経営業績に多大な影響が生じており、多くの投資家にとっても将来の企業価値評価が難しくなっている状態であることは間違いありません

このような状況を踏まえて、東京小尾権取引所は、新型コロナ感染症の拡大を要因とするリスク情報は積極的に開示をするように検討して欲しい、と要請しました。なお、企業の事業活動などにおける影響の開示に関しては、決算短信などの添付資料のみに限らず、適宜適切な方法(具体的には、業績予想修正、決算発表日程変更、といった開示をイメージしておいて)で実施することを検討してほしい、とも要請しています。

また、決算発表日までにリスク情報の開示することに関して社内検討が完了せず、決算発表日の開示が難しいようなケースでは、そういった情報を決算発表の際に明確に表明・表示したうえで、後日に追加で情報開示を実施する、という方法も考えられる点も含めて検討するように要請していました。

2.実際の2020年3月決算に対する影響は

これまで説明してきたように、様々な新型コロナ感染症の影響に対する施策が実施されてきましたが、2020年3月決算・開示などに具体的にどのような影響が生じたのか、を振り返ってみます。

(1)新型コロナ感染症に関する情報開示について

2020年7月15日までに新型コロナ感染症による影響・対応といった情報をディスクローズ(開示)した上場企業は3,518社にものぼっています。この企業数は全ての上場企業3,789社の92.8%も占めている数字となります。それだけ多くの企業が新型コロナ感染症に関するリスク情報を開示しなければならない状況であった、ということが窺える件数でもあります。

開示されたリスク情報の内、企業業績を下方修正する、というものが980社もありました。この件数は上場企業の1/4(25.8%)に達しており、この内278社が赤字になっています。下方修正された金額のマイナス分の合計は、売上高が6兆9,169、利益が4兆1,818億円、までそれぞれのぼっています。

2020年3月期の決算企業2,403社の中で、2,394社(99.6%)が決算短信を発表しており、未発表企業は9社のみとなりました。2020年3月期の決算においては、約60%の企業が減益となっており、新型コロナ感染症による利益の押下げ圧力が強烈であったことを示しています。

また、2,403社の中で、増収企業(1,206社)と減収企業(1,188社)は両方とも約50%ずつと拮抗してはいますが、利益に関しては減少した企業(1,407社)が増加した企業(987社)を大きく上回っています。これは、人件費といった費用増加(コストアップ)のみならず、新型コロナ感染症の影響による減損処理の発生や繰延税金資産の取崩などの損金計上がが利益が下方に触れた原因になっています。

2021年3月期の業績予想については、2,394社の中で、実に約6割にあたる1,434社(全体の59.9%)もの企業が、2020年3月決算の発表時点では「未定」としており、開示をしていない、という状況でした。多くの企業では、新型コロナ感染症の影響で経営環境が大きく激変しており、業績を予想する目途が立っておらず、算定することが極めて困難である、としています。一方で、翌期の業績予想をディスクローズした960社の中で、最も多かったのは「減収減益」を予測している404社でしたが、この数字は全体の約4割を占めており、経営環境の厳しい状況が続くことを予想している、と言えそうです。

(2)新型コロナ感染症の拡大に対応した資金調達について

新型コロナ感染症の影響に対する施策としてとして、会社の運転資金の確保や流動性を手厚くする(手元資金を増やす)動きが広がりました。2020年7月15日までに資金調達を実施したことを発表した企業(確認ベース)は226社で、調達した総額は10兆2,234億円となりました。

トヨタ自動車の1兆2,500億円の資金調達をはじめとして、1,000億円以上となる巨額の調達は実施したのは27社となっておりで、この中で6社が自動車製造業となりました。調達金額の水準については、10億円以上100億円未満の資金調達を実施した企業が112社(全体の49.5%)となっています。

また、業種別に見ると、資金調達が最も多かった業種は製造業で最多の68社(全体の30.0%)、次に多かった業種がサービス業の59社(26.1%)、そして小売業52社(23.0%)と続いています。飲食関連産業、アパレル販売、旅行業、といった新型コロナ感染症の影響をダイレクトに受けてしまった消費に関連した業種が上位を占めることとなりました。上位の3業種で179社(全体の79.2%、約8割)を占めることとなりました。

3.2021年3月期決算に対する影響予測

これまでの新型コロナ感染症の影響に対する、株主総会、決算、開示、などに関する施策や実際の2020年3月決算に関して生じた状況について説明してきましたが、次回の2021年3月決算や開示などに関する影響にはどのようなものがあるのか、が次の大きな関心になっている人は多いのではないでしょうか。

2021年3月期の決算や開示に関して政府や関連機関などから公表されているルールというものはまだ明確にはなっていませんが、2021年3月期第1四半期決算(対象期間:2021年4月~6月)における留意事項はいくつかの監査法人から公表されているので、それらを参考にしながら予測したいと考えます。

先ず、現時点(2020年12月下旬)では、2021年3月期第1四半期決算で新しく適用されるような会計基準はない、とされています。しかし他方で、既に公表されている会計基準などを2020年3月期決算で早期に適用しているようなケース、あるいは、この四半期から早期に適用そ実施するようなケース、ではその適用に伴い新たに注記の必要が生じる場合があります。

対象となる20201年3月期第1四半期決算においては、これまで説明してきた、以下のような公表資料等に十分に注意することが必要となります。

上記に加えて、2020年3月期以降に「経理の状況」の除いた箇所について適用されることになった改正ポイントに併せて、四半期報告書に記載する内容に関しても改正が実施されています。

(1)早期適用について

既に公表されている会計基準などを早期に適用している場合は以下のようになるので注意しましょう。

①会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準

この①の基準は、2021年3月31日以降の終了年度の年度末から適用されることになりますが、2020年3月31日以降の終了年度の年度末から適用が可能となっています。もし早期に適用している場合であっても、この四半期における新しい影響は特に生じません。

②収益認識に関する会計基準(開示の部分に関連した改正)

この②の基準は、2020年4月1日以降の開始年度の期初から適用可能とされています。この四半期から早期に適用するような場合には、流動資産に所属する資産として「受取手形、売掛金及び契約資産」を区分して掲載しなければなりません(四半期連結財務諸表規則第35条第1項第2号)。

また、売上高に関しては、それぞれの企業の実態に則して、売上高、売上収益、営業収益、といた適切な名称を付けることが必要になります。この他には、「収益認識に関する注記」として、*「収益の分解情報」の注記も必要になります(四半期連結財務諸表規則第27条の3、四半期財務諸表等規則第22条の4)

*収益の分解情報
収益の分解情報とは、当該収益や当該契約から発生するキャッシュ・フローの性質、金額、タイミング、不確実性に影響を与えるような主因に基づいた区分毎に当該収益を分解した情報のことです。この情報は投資家や他の四半期財務諸表などの利用者に理解に役立つものです。

③時価算定に関する会計基準

この③の基準は、2020年4月1日以降の開始年度の期初から適用することができる、とされており、加えて、2020年3月31日以降の終了年度の年度末より適用可能とされています。早期に適用を実施しているようなケースで、以下の条件を充足する満たす場合には、この四半期決算における注記をしなければなりません。

例えば、金融商品が企業グループの事業運営にとって極めて重要なもので、かつ、時価水準毎の合計価額が前年度末時点の価額と比べると著しく変動しているような場合であれば、四半期末時点の時価の注記が必要になります。しかい、一般の事業会社では金融商品が事業運営においては重要なものではないよ判断される場合が多い考えられますので、結果としては、多くの企業においては大きな影響がない、ことが想定されます。

④会計上の見積りの開示に関する会計基準

この④の基準については、2021年3月31日以降に終了する年度の年度末から適用されることになりますが、2020年3月31日以降の終了年度の年度末から適用することができる、とされています。早期に適用しているようなケースであっても、この四半期決算においては新しく影響が生じることは特にないと思われます。

(2)コロナウイルス感染症に関連する会計処理対応

「四半期財務諸表に関する会計基準」では、原則として年度の財務諸表の作成において採用する会計方針に準拠して、四半期の財務諸表を作成しなければならない(但し、四半期特有の会計処理を除く)、としています。

(A) 「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(ASBJ(企業会計基準委員会、令和2年4月10日)

上記(A)の考え方の公表により、新型コロナ感染症の影響のように先行きの見通しが困難な事象であっても、仮説を設定して(一定の仮定を置いて)最善となる予測を実施する必要があること、新型コロナ感染症の拡大や収束のタイミングなどもも含めて、企業自身が自分で仮説設定をする(一定の仮定を置く)必要があること、このような仮説の設定はそれぞれの企業で異なることになるので、特に重要性が高いようなケースではその内容に関して追加情報等として開示する必要があると思われる、ということが公表されました。

そして、令和2年5月11日には、重要性の判断は、当該年度における財務諸表の金額に対する影響の重要性だけではなく、翌年度の財務諸表に対しても与えるであろう影響も踏まえて判断をすることが必要であり、重要性が高いような場合であれば、仮説・仮定に関しての追加情報などの開示を強く望む、としています。

また、令和2年6月26日には、四半期決算に対する考え方を明確にしてほしいとの要望を受けて、第436回企業会計基準委員会議事概要(前述)で次の3点を公表しています。

  • 前年度の財務諸表に関して追加情報を開示しているようなケースでは、四半期決算で今後の新型コロナ感染症の拡大や収束のタイミングなどに言及した仮説・仮定に極めて重要な変更を実施したような場合には、他の注記箇所などに記載しているような場合を除いて、四半期財務諸表に関する追加情報として、その変更内容を記載しなければならない、と考えらます。
  • 前年度の財務諸表では仮説や仮定をディスクローズ(開示)していなかったが、四半期決算の際に重要性が増加して新しく仮説・仮定をディスクローズするべ開示すべき状況にあると考えられるような際には、他の注記部分に記載しているようなケースを除いて、四半期財務諸表に関する追加情報として、その仮説や仮定を記載しなければならないと考えます。
  • 前年度の財務諸表で追加情報を開示しているような場合で、四半期決算でこれからの新型コロナ感染症の拡大や収束のタイミングなどを含む仮説・仮定に関して、重大な変更は実施していないような場合であっても、重大な変更は実施していない、ということが財務諸表を利用する投資家などにとっては有用な情報である、と判断した場合には、四半期財務諸表に関する追加情報として、重大な変更を実施していない、ということを記載する必要があると考えます。
  • さらにに、「四半期報告書における新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」(金融庁、令和2年7月1日、前述)が発表されています。

主な内容は、

  • 四半期報告書の提出期限(4月20日から9月29日までの期間が提出期限となっている四半期報告書に関しては、個別に申請しなくても、一律に9月末まで提出期限を延長する
  • 企業会計基準委員会における議事概要(前述)を踏まえて、四半期報告書では、投資家に対して適時適切に追加情報等の形式で情報を提供することを強く期待する
  • 四半期報告書の財務情報(追加情報)と非財務情報に関する情報開示は、有価証券報告書のレビューの一環として、必要に応じて確認する。

となっています。

(3)継続企業の前提

四半期決算の会計期間の最後の日(末日)に、継続企業としての前提に重要な疑義を発生させるような事象、あるいは状況が現実的に存在しているようなケースであり、そのような事象や状況を解消・改善のための施策を実施しても、継続企業の前提について重大な不確実性や疑義が認められるような場合には、その状況や内容などを注記しなければなりません(四半期財務諸表に関する会計基準、第19項)。

新型コロナウ感染症の影響で、継続企業としての前提に関して重要なリスク(不確実性)が認められるのかどうか、という慎重な判断が求められることになります。

まとめ

新型コロナ感染症の影響を受けて、多くの業種・企業において業績不振に陥っているような状況ではありますが、2020年度3月決算(2021年3月決算)の時期はこのままでは確実に到来してしまいます。

2019年度3月決算(2020年3月決算)における株主総会や決算・開示、税務対応、などにおいて新型コロナ感染症の拡大を理由とする様々な対策が実施されてきましたが、現状ではいまだ新型コロナ感染症は収束しておらず、昨年度の対応を参考にした施策が再び実施される可能性が高いものと考えられます。

したがって、官庁や業界団体などの発表やアナウンスなどには日常的に留意しておくことが重要となりますし、自らのアンテナを高く張って情報収集に努めることも必要である、と考えます。

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