人事部門は社員の採用だけでなく、人事査定や業績評価にも関わってくるので多くの従業員からは、秘密が多くて何をしているのか詳しい業務内容はよく知られていない部門の代表といえるかもしれません。多くの企業では人事部門を任されている責任者は役員であることが多いので、会社にとって重要な部署であることは何となくわかってはいても、具体的にどうやって経営に貢献しているのか、までは知られていないかもしれません。
これはこれまでは人事部門が縁の下の力持ち的な存在であえて社内で目立つことを避けていたという面も(これは他の社員を評価しているという立場上)否めないとは思われますが、労働力の不足や採用難といった労働市場の劇的な変化が生じている環境下では、人事部門は積極的に経営に対して貢献していくことが必要不可欠になっていくものと思われます。
本稿においては、経営への貢献度が高い人事部門とは(戦略人事とは)、人事部門と他部門との協力体制の構築、人事部門を進化させるために必要なこととは、などについて説明します。
1.経営への貢献度が高い人事部門とは ~戦略人事とは~
(1)人事部門の変化
国内マーケットのの縮小や成熟化、ますます激しくなる国際競争、働き手(労働力人口)の少子高齢化による劇的な減少、様々な働き方の登場、さらに新型コロナ感染症の流行による労働に対する国民の意識の大きな変化、など経営環境が激変している状況下においては人事部門に期待される役割はこれまで以上に幅広くそして深化しているので、人事部門の業務内容はより戦略的なものへと変化していくものと考えられます。ITテクノロジーの迅速な革新スピードとも相俟って、こうした流れはますます顕著になっています。
例えば、採用活動においては、人口減と少子高齢化によって労働力の不足が深刻な経営課題になっている反面、グローバル化が進んだことによる企業間の国際的な競争が激しくなっていることやビジネスのライフサイクルが短くなっていることなどにより、採用する人材には高度化や多様化に対応できることが要求されるようになっており、大手企業であってもそうした人材の獲得には苦しんでいるのが実状です。いろいろな原因が考えられますが、これまでの採用方法では優秀な人材を確保することが困難になっており、リファーラル採用や自律的に考えて実行するダイレクトリクルーティングなどの様々な手段を駆使して自社の採用における課題に対して最も適した手法を導入すればよいのかどうか、自社の問題にマッチした採用戦略を立案することに課題を感じている企業が増えています。
体系を確立・導入することに加えて、ますます雇用流動化が促進されるとどのようにして自社に優秀な人材を引き留めておくことができるのか、といった点も極めて大切な検討項目になります。各従業員のスキルや能力、そして個々人の適性も人事部門で把握しておくことで、様々な人材が積極的にモチベーション高く仕事に臨めるような企業風土や仕組みなどの整備が可能になると考えられます。
経営に大きな影響を与える外部的な要因に加えて、外部的要因に対応するために必要なスキルやナレッジが複雑化・高度化しています。こうした内部的な要因も念頭に置いた統合的な人材戦略を策定して、自社の人材育成、業績評価、人事・労務に関する制度、なども含めて、様々なチョイスを根本的に見直すさなければならない状況下では、これまでの年功序列主義のような旧いタイプの慣習に囚われていては、最重要の経営資源である人材リソースを十分に、そして有効に活用することが不可能になってしまいます。したがって、劇的な環境変化が生じても、タイミングを逃すことなくフレキシブルかつ自主的に対応することができる適応性を備えておくことが競争上優位に立つための鉄則と言えます。
こうした理由から、これまでは疑いを持つこともなかた制度やシステム(従来型の日本的な人事に対する考え方)から脱却して、経営成果を十分に考えたうえで人事部門から強力な企業を作り上げることが可能な「戦略人事」という考え方に注目が集まっているのです。
(2)「戦略人事」という考え方
経営に貢献するために人事部門が革新を目指すのであれば、戦略人事へシフトすることは急務の課題でしょう。戦略人事とは、1990年代に企業の国際的な経営環境や優秀な人材の獲得競争が激しくなっている環境下において、人事部門の研究に関する世界的な権威であるデイビッド・ウルリッチ氏などが提唱した「事業戦略を実現することを支援する戦略的ま人事へとシフトすべきである」という概念です。
この概念は、これまでの管理やオペレーション業務が中心だった人事部門から経営戦略と人材管理を連携・連動させることによって、自社の競争優位を確立する、という新しく人事部門が果たす役割や機能を表しています。
従来の人事部門は、雇用契約や勤怠といった労務管理、人事制度の運用や改善、社員の採用、異動、昇格、昇給、などの調整、などの決まり切った定型的な業務が中であり、経営戦略に対してダイレクトに携わり貢献するような面は少なかったのが実態です。また、経営・現場から独立しているような人事部門も多かったとも言えます。
こうした実状にに対して、自社が設定した経営目標を達成するためのフレームワークである経営戦略を十分に理解したうえで、人事部門が人事部門としての経営戦略や経営ビジョンを設定して、人材育成や人材の適正配置、プロジェクト・マネジメント、様々な人事労務に関するルールへの対応、コーポレートカルチャーの醸成、従業員の労働意欲や働くモチベーションに関する問題への対応、といった個別の人事施策へと具体的に落とし込んで実行していくことが「戦略人事」となります。
前述したように、「日本的な人事部門」においてはオペレーション業務が中心となる労務や法務を担当する部門は大変優秀ではありますが、今必要とされているのはそうしたものだけではないのです。これまでの人事部門の強みをベースにしながらも、専門的なナレッジを活用して経営に貢献するような目標設定と長期的な観点での目標の実現を担当する戦略的なパートナーとして位置付けられる人事部門が必要とされているのです。
このような人事部門の側面は、従来から言われてきたことではありますが、最近のビジネスにおける劇的な環境変化を考えると、あらためて重要視されるようになっています。戦略人事は、米国のGE(ゼネラル・エレクトリック社)のような危機意識が高い外資系企業のみならず、現在では日系企業においても拡大の様相を見せているようです。例えば、「日本の人事部 人事白書2017」においては、4,061社に対する調査で、94.3%もの企業が、戦略人事は重要である、としています。
(3)「戦略人事」の壁
しかしながら、そうは言いつつも、これまで長い間慣れ親しんできた従来の日本型の人事部門の制度やシステムを根本的に変えることは簡単ではありません。「戦略人事」の導入・運営を阻むための要因としては、以下のような点を挙げることができます
<「戦略人事」の導入・運営を阻むための要因>
- 設計図(グランドデザイン)を描けていない
- 人事部門における業務、現場、経営戦略、がリンクしていない
- 最高人事責任者(CHRO=Chief Human Resource Officer)の不在
①設計図(グランドデザイン)を描けていない
現実問題として、戦略人事に関する設計図(グランドデザイン)をきちんんと描くことがけている企業は少ないのが現状です。前述した「日本の人事部 人事白書2017」においても、戦略人事として実際に人事部門が活動している企業はほんの32.2%しかない、という結果になっているという状況にあります。
戦略人事の実現化に向けた具体的に裏付けとなる制度や施策が乏しいので、戦略人事自体の構想があったとしても、イメージや抽象的な段階に留まっている、という状況の企業が多く、戦略人事の実現性に関しては懐疑的な声も少なくはにようです。一方で、マネジメント側が戦略的なパートナーとして人事部門を評価していない、認めていない、という点も戦略人事の推進や浸透を阻害する要因と考えられます。
②人事部門における業務、現場、経営戦略、がリンクしていない
戦略人事を成功させるためには、人事部門における業務、現場、経営戦略、の3つがリンクしていることが必要になります。企業の経営戦略の方向性と合致した人事部門の業務設計が行われており、実際に現場でそうした人事部の業務が実施されている、というシームレスな業務サイクルが実践されていることが極めて重要になるのです。
前述した3つの要素が、それぞれ無関係に独立しているような状態で人事部門に関するタスクが実行されているとすれば、各現場が勝手に設定した目標や戦略のみに目を奪われてしまい、全社的な効率性や人的リソースを無視した人事制度の運用が実施されることになってしまうでしょう。
③最高人事責任者(CHRO=Chief Human Resource Officer)の不在
そして②人事部門における業務、現場、経営戦略、がリンクしていない状況を改善するためには、CEO(最高経営責任者)と一体的に連動して、戦略人事の設計図を描いて、自社の人・組織に関してマネジメント層(経営者や各部門の責任者)をサポートする、CHRO(最高人事責任者、Chief Human Resource Officer)を設置することが必要になります。
多くの企業ではCHROの設置は道半ばの状態にあると推察されますが、経営課題として認識されていることや実際に現場で発生している様々な問題を人事部門に具体的に落とし込むための重要なキーパーソンとして位置付けられることになるのがCHROの存在なのです。
(4)CHROの責務
CHROは、企業経営における重要な幹部の一員として人事部門を統括するポジションとなります。経営戦略と整合性のある、また、一体となった人事戦略を推進する責任者という立場から、マネジメントと従業員の両方を支える役割を担うことになります。わが国においては、CHROという名称・肩書を付されることは少なく、取締役人事部長や執行役員人事部長などの名称・肩書が使用されることが多いようです。ただし、従来型の人事部門の責任者である人事部長とは、取締役(あるいは執行役員)として経営に参加することが求められている点で、権限の範囲には大きな違いがあると言えます。
CHROが担っている役割は、企業によって様々ではありますが、自社の経営戦略を立案することに積極的に参加することが強く求められるポジションにあり、競合他社も含めた自社が属しているビジネスのマーケット状況を正確に理解して経営目標を達成するために必要な組織体制の構築に深く関与します。コーポレート機能を中心とした、経営陣が定めた人事施策を担当して企業価値を増大させるというこれまでのタイプの人事部長と大きく異なるのは、自社の業績向上へと繋がるような行動を予測して分析・指示を実施して、積極的に人材戦略やマネジメントを企画・立案して、実践する、という点になります。
CHROの職務は、社員の仕事に対する満足度や熱意、福利厚生、給与、ダイバーシティ、といった一般的な人事業務の管理・監督のみならず、具体例としては、CEOやCFOなどが策定する中期経営計画と年度予算に対する経営目標の適切さの評価や見極めなどから、自社におけり組織実績が目標値に到達していない理由の分析、競合他社の人事変化(インセンティブ制度、離職率、新規採用分野)による影響の予測、適材適所の人員配置の実現レベルと実際に配置された人材に対する目線からのの評価などまで及ぬことになります。人事労務のフィールドに関するナレッジをベースにして、CEOやCFOなどとも力を合わせながら自社の業績に極めて密接に関係している財務指標設定や施策実施の妥当さを検討・分析することがCHROの責務なのです。
マネジメントと人材・組織を統合的に把握して、企業目標を達成するためのコア(核)となる人と組織との関係における機能が不全している箇所を抽出していくことはCHROにとって重要なタスクです。また、CHROは自社の将来に対して大局的な展望を持って、経営戦略と長期的な視点を併せ持って経営にも現場にも介入して、人事部門と各部門の業務を橋渡しする存在でもあるので、戦略人事を実現するうえでは非常に大きな存在になるのです。
2.人事部門と他部門との協力体制の構築 (戦略人事の実現に必要な、人事部門、他部門の現場、経営、を繋ぐデータ活用)
最近は、ヒューマンリソース(Human Resource、HR)の業務フィールド内においても様々なITテクノロジーが誕生しており、*データドリブン経営や**ビッグデータなどのキーワードに対して注目が集まっています。戦略人事を実現するためにはCHROの設置と同様に重要なのがデータの存在になります。
データドリブン経営とは、データを集めて、分析して、理解したうえで判断する。という一連の流れを指意味しています。こうした判断に至るプロセスは感覚や直感に頼った判断と比較して語られることが多いのではないでしょうか。俗に言われる、勘、経験、度胸、などと比べてみれば客観的な判断手法と評価されることは当然でしょう。
ビッグデータとは、いろいろな形式で、いろいろな性格を保有している、いろいろな種類のデータのことを意味しています。ビッグデータは、Volume(データ量)、Variety(データ種類)、Velocity(データの発生頻度や更新頻度)、というの3つのVから構成されており、どれも重要な要素となっています。
現在のような不確実性が増している時代における経営は事実(データ)に基づく客観的な判断基準をベースにしてPDCAサイクルを循環させて企業としての判断における精度向上を目指していくこと、不確実なファクターを極力排除して、勘に頼ることのない経営の意思決定が必要になります。
そのため、定量的な根拠もなしに特定の部門が経営や他部門の現場に介入することは困難なアクションとなってしまうと考えられます。これは、人事部門も例外にはあらず、経営のレイヤー(階層)で一定以上の発言権を得て維持するためには、各部門の業務プロセスの進捗状況を定量的に測って、それらのデータの活用によって仕事のパフォーマンスを改善できる、という科学的なアプローチを導入・実践する、といった業務推進方法の抜本的な変革が必要です。
実際に戦略人事を企業が実現するために実施しようと考えている各種の施策が経営陣からは対して高くは評価されないという声も少なくはないのですが、これは、経営戦略に対して、そうした各種の施策がどのように繋がっているのかという関係性について人事部門から経営陣に対して明確に説明が実施されていないということも要因のひとつだと考えられます。
具体的には、正しい現状把握が難しい、提案における客観的な根拠が不足している、施策の進捗状況が見える化できておらす成功再現の可能性が低い、失敗した原因が検証されておらず改善策の妥当性を確認することが困難、など人事部門による説得力の乏しさに起因していることばかりです。
人材採用や経営管理に勘や経験を利用することは、必ずしも、全面的に否定されるようなことではありません。しかし、ビジネスの各プロセス運営と評価指標の設定・運用を通して、人事部門の機能を適切に経営意思に組み込んで人事部門自身がビジネスに対する貢献度と存在意義を実際に証明することが重要になります。これまでのオペレーションを中心とした人事業務をより一層効率化してより効率性の高い人事戦略を組み立てて遂行するためには基本的なルーティンワークなどを効率化することが最重要です。
3.人事部門を進化させるために必要なこととは
これまで説明してきたように新たな人事部門のあり方とは、経営の一翼を担うという重要な存在感と経営に貢献する機能を併せ持つ存在になることだと述べてきました。それでは人事部門をさらに深化させるためには何が必要なのでしょうか。
(1)人事部門に必要な役割
- 略的なパートナー
- チェンジ・エージェント
- 従業員の代表者
- 管理業務におけるエキスパート
①戦略的なパートナー
人事部門は経営戦略に沿って人事制度や組織の構築に臨む戦略的なパートナーとなります。企業の変革を推進して機動性や柔軟性を高めて、自社が所属する業界において高く評価されるような人材教育プログラムを開発・実施することにより、自社従業員の生産性を高める、など自社のビジネスにダイレクトに貢献することが可能な部門であると言えます。
②チェンジ・エージェント
人事部門は、自社内の人的リソースを利用して事業変革を支援するという役割もあります。社員のスキルや能力の開発に取り組むと同時にビジネスの成長や拡大と歩調を合わせるように必要となる人材や組織へと成長・変容させるために主導的な立場となる必要もあります。時間と費用の両面でも最も効率性の高い方法を自社内に導入しつつ組織縮小、あるいは組織拡大、をサポートする重要な役割を果たす必要があるのです。
③従業員の代表者
いったい従業員が何を欲しているのか(必要なのか)を正しく認識・把握することは簡単なことではありません。人事部門は、従業員の代表者、という立場から、資源の面、従業員の直観・インスピレーションや労働環境の面、などにおいて自社に不足しているものを従業員の立場からの目線で観察・察知することで、不足しているものの付与を打診したり、準備したりするポジションにいるのです。
例えば、現在のウィズ・コロナのような大きな変革の時期においては、多くの社員の不安や心配を払拭することで自社で働く安心感を感じてもらうことが極めて重要になるでしょう。これまでも、リーマンショック、東日本大震災、などの直後には危機的な時期を迎えたことがありましたが、その後に景況感が回復した後になっても多くの従業員たちは自分の会社が従業員に対して何をしてくれたのか、何をしてくれなかったのか、ということを鮮明に記憶していました。この次に自社が厳しい立場に陥った時には、それらの過去の記憶が、自社に残って戦力となるのか、自社には期待できないので他社に転職してしまうのか、を移るのかを分ける判断基準になってしまうでしょう。
④管理業務におけるエキスパート
人事部門は、管理業務におけるエキスパートとして、給与、雇用契約、人材採用、といった人事部門が担っている日常的な業務をコストを抑制して高いクオリティを発揮できるサービスで実践することが重要な役割のひとつであると言えます。
(2)これからの人事部門に必要なスキル
これからの人事部門の役割は前述した通りですが、そうした役割を果たすためにはどのような能力が必要になるのでしょうか。本稿では人事部門がリーダーシップを発揮するために必要なな5つのスキルを解説します。
<人事部門がリーダーシップを発揮するために必要なな5つのスキル>
- 洞察する力
- 関係を構築する力
- 共感する力
- 説得する力
- 解決する力
①洞察する力
経営方針に沿った各種の人事制作をビジネスに結合させるためには組織における経営課題を統合的・包括的に把握することが極めて重要になります。最初のステップでは、課題をしっかりと見極めて、次いでどのソリューションを実践することが最適なのか判断することになります。会社のマネジメント層の議論に積極的に参画して自社の戦略的な経営の意思決定に貢献することが求められます。
②関係を構築する力
人事部門は会社と社員の間に位置している仲介役でもあります。マネジメント層のみならず、現場のリーダークラスから若手の従業員に至るまで、あらゆるレイヤー(階層)の社員とも相互に信頼関係を築き上げることが必要になります。それぞれの従業員ととても良い関係を構築することができているのであれば、それは各部門間の協力体制の構築も容易になると考えられるので、部門間の障壁を気にすることのない迅速でシームレスな対応をすることも可能になるでしょう。
③共感する力
人事部門が取り組むべき施策のひとつに社員の「ウェルビーイング」があります。「ウェルビーイング(well-being)」とは、身体的にも精神的にも社会的にも良好な状態にあることを表す考え方のことです。幸福、と訳されることも多い用語です。
心理的健康(メンタルヘルス)に関する問題、家庭における様々な課題、などのように様々な問題を抱えている従業員が人事部門に所属している「あなた」のところへ相談に訪れます。こような場合には、人間的な思いやりを持って相談者には接して、共感を相手に示すことができばければ安心の感情を引き出すことは難しいでしょう。逆にが不安感を強めてしまうようなことがあれば、そうした社員のウェルビーイング、さらには業務のパフォーマンスに対しても悪い影響を与えてしまうでしょう。
④説得する力
よく、「組織は生きている」と言われているように、絶えず変化は続いています。人事部門の大きな役割は自社の社員を迅速に変化に馴染ませることです。逆に、マネジメント層が人事部門の視点からは好ましくはない変化や変更を考えているようなケースでは、人事労務のプロフェッショナルとしての専門的な観点からしっかりと議論をする必要があると考えます。
⑤解決する力
組織の内部で対立が生じたり人事労務に関する新たな法令などが制定されたりするような場合だけではなく、人事部門の業務は量的にも質的にも日常的にいっぱいいっぱいの状態にあるのではないでしょうか。人事部門自身で解決することが可能な問題ではなくても、どの部署やポジションの人であれば解決することが可能なのかを見極めるような粘り強い資質が必要になります。ウィズコロナのような急激な変化をもたらすような環境下においては、会社組織と社員との双方の利害関係に関するバランスを保ち続けるようなことも、困難な課題のひとつでしょう。
(3)企業の成長フェーズ別の人事部門のあり方
企業の成長フェーズ(社員数、企業規模、など)によって人事部門に要求されるものは異なります。本稿では、以下のように大きく3つのフェーズに区分して、それぞれのフェースにおける人事部門の役割を解説します。
- 創業フェーズ:社員数 0名〜
- 成長フェーズ:社員数 30名以上
- 安定フェーズ:社員数 100名以上
①創業フェーズ:社員数 0名〜
創業フェーズにおいては、社長や役員などの経営陣が何度も試行錯誤をしながらビジネスを推進しているような状態です。人材の採用は社長や役員などのネットワーク(人脈)を活用して実施しているケースが多く、給与の支払事務などは経理担当者が実施しているようなことも多いと考えられるので、しっかりとした人事部門を組織的に組成することがなくても企業としての活動を継続することが可能なフェーズである、と言えます。
②成長フェーズ:社員数 30名以上
成長フェーズでは、ある程度は事業の先行きが見通せるようになってきてビジネスの役割分担を開始するようなタイミングになってくる時期になります。したがって、コーポレート部門(管理部門、経理部、など)のようなファンクション(機能)別に組織を組成して、人事部門にも専任の従業員を数名ほど配属させる必要が生じます。
また、いろいろな専門的なナレッジを保有している従業員が必要になるので、これまでのように社長や役員のネットワーク内だけで人材を採用することが困難になってくる段階でもありますので、人事部門による採用活動も必要不可欠になります。加えて、多様な価値観を有している従業員が増加してくる時期でもあるので、積極的にコーポレートカルチャーのインフラ構築も大切なポイントになります。社長がビジネスや自社にかける想いを明文化するタイミングにある、と言うことも可能です。
③安定フェーズ:社員数 100名以上
従業員が増えてくると、人事労務の管理などのマネジメント業務の範囲が拡大することになります。業務拡大と平仄を合わせるように、人事部門内でも、ビジネスパートナー的な存在(従業員、取引先、など)、人事責任者(組織開発の担当者)、新卒・中途採用担当者、人材開発の担当者、人事労務に関する運用オペレーションの担当者、などのようにそれぞれの役割に対応するメンバーの配置が必要になってきます。また、組織的なマネジメントを実施する場合には自社の社員に求めるスキルや能力も変わってくるので、これまで以上に人材開発が大切になる重要なタイミングでもあります。
まとめ
これからの人事部門は、いかに経営目標と人事施策の整合性を保持して経営目標の達成に貢献できるか、というポイントが極めて重要になります。従来型の「守りの人事部門」から「積極的に攻める人事部門」へと変貌することが、経営パートナーとして重用されるあらたな人事部門の姿であると言えるのです。
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